最終章、星降る果ての地(最終章ではない)
1.クランハウス-居間
ウチの丸太小屋で同僚のモグラさんぬいぐるみと一緒に経験値稼ぎをしている。
最終決戦の時は近いようだが俺には関係ない。俺は生産職なんだ。ロスト覚悟でレイド級と殴り合うのは絶対に違う。お前もそう思うだろ?
となりに座っている知らないゴミがウンと頷く。
「まぁニジゲンみてーにクラフトを武器にできるヤツも居るが……お前はそういうタイプじゃねーな。すぐに殴り掛かるし」
せめて斧を使えよって話だよな。
「そうそう。なんかもう逆にコブシで殴ってるの見ても違和感ないもんな」
ははははは。
二人でひとしきり笑い合ってると、別の知らないゴミが歩いてやって来て、向かいのソファに腰をおろした。
「ラスダンな。ありゃダルいぜ」
行ってきたのか。
「あぁ。つぅかお前も行けよ。待望の新マップだぞ」
それどころじゃねんだよ。そりゃもちろん興味はあるけどよぉ。山岳都市には俺の身内が居ンだ。新マップだーワァーなんてやってたら空気読めないヤツだろ。
「じゃあお前ココで何してンだよ」
俺は無言で自分のケツを指差した。ゴミどもが俺のケツを見る。そこからはケーブルのようなものが伸びており、玄関へと続いていた。掃除機の邪魔臭い電源ケーブルのように床を這っているそれを目で辿ったゴミどもが納得して頷く。
「お前、本体じゃないのか」
そういうこと。
そういうことだった。
2.山岳都市ニャンダム
一方その頃、俺の本体は山岳都市の復旧作業に従事していた。
クリスピーくんとの戦いでロストしまくった俺は失うものが何もなくなったのでエンフレを出している。
「怪獣さん! 今度はこっちです!」
あいよ。
わらわらと触手を伸ばして摘み上げた瓦礫をパクパクと食っていく。ボリボリと噛み砕いてから、瓦礫に混ざっていた思い出の品っぽいのをスイカの種みたいにプププと吐き出す。すかさずぴょんとジャンプしたティナンがくるくると宙返りしながら思い出の品っぽいのを回収した。
撤去作業を手伝っている知らないゴミが呆れたように言う。
「意外な特技を……」
特技っつぅか……人間やってる時だって魚の小骨が混じってたらなんとなく分かるしな。その拡張版だろ。
俺自身、特に意識してやっている訳ではない。元からできることがエンフレならもっとうまくできるってだけだ。
「順調なようだね」
あっ、おキリン様……! おゾウ様も……!
俺は素早く姿勢を正した。しゃんと背筋を伸ばしてお二人の裁定を待つ。背骨ドコにあるのか分かんないけど。
着ぐるみ部隊の皆様方には各自役割がある。おキリン様とおゾウ様はフィールド探索担当だ。どう考えてもお一人では無理なので普段から二人一組で活動なされている。今は海外サーバーの調査をなさっているのだとか。
今回戻ってきたのはクリスピーくんのアレだ。先生は海外サーバーで活動するにあたって当然まずおキリン様とおゾウ様を頼ったのである。お二人はクリスピーくんと面識があるのだ。
おキリン様がひづめで俺の真ん丸ボディをノックするようにコンコンと叩く。
「うーん、実に興味深い。よくよく珍しいタイプのエンフレだ。ヤギさんから話には聞いていたが……。エロス神の依代か。その影響かもしれない。他にも色々とできそうだな」
お二人は様々な国を見て回っているため大変博識だ。
おゾウ様が長い鼻をぶらんぶらんと振る。
「ギリシャで会ったアガペーの使徒も似ていたなぁ。似ていたと言うか……やっぱり暗号解読のノイズなんじゃないか?」
何を仰っているのかは分からないが……パタパタと揺れる大きな耳がセクシーなおゾウ様。背丈はリュウリュウとあまり変わらない。手足は意外とスリムだ。
暗号解読の……ノイズ?的なことを言われたおキリン様がムッとして長い首を不機嫌そうに傾ける。長いと言っても全身に血を運ぶ心臓の筋力に限界があるため、まさに着ぐるみといった感じだ。ぱっちりしたおめめを縁取る濃いまつ毛がセクシーだった。
「その件は終わった話だろう。何度議論すれば気が済むんだ」
「結論が出ないからと諦めるのかい? だから君はダメなんだ。この際だ。僕は徹底的に議論したいね」
おゾウ様とおキリン様はあまり仲がよろしくない。
おキリン様が長い首をくいっとやって、おゾウ様にこっちに来いとジェスチャーした。お二人が連れ立って物陰に移動する。
パンパンと肉を打ち付けるような音がした。
しばし間を置いてから息を荒げたお二人が戻ってくる。
おゾウ様が長い鼻を肩に巻いて言う。
「とにかく……んっ、ハァハァ……コタタマくん。ヤギくんからも頼まれてて……ハァハァ」
ハァハァしてしんどそうに前屈みになってひざにひづめを置くおゾウ様のお言葉を、同じくハァハァしているおキリン様が継ぐ。
「私らも……何かと。ハァ……あってね。折を見て……できる、うちに、んっ……君を鍛えようと……」
えっ、俺を? 光栄ですけど……なんでですか?
お二人はチョット待ってと言うようにひづめを俺のほうに向けた。がんばって呼吸を整えていると、遠くから知らない女キャラに大声で「おキリン様〜! おゾウ様〜!」と呼ばれる。
ご多忙なお二人は「とにかく……そういう訳だから……」と切れ切れに言ってふらふらと現場指揮に戻っていく。
国から国へと渡り歩くお二人は、海外サーバーの優れた技術を体得している。それは五分やそこら説明しただけで実践できるようなものではない。どんなこともそうだ。人に教えるのが一番難しい。
十人居ても足りないのがおキリン様とおゾウ様だ。いや、それは着ぐるみ部隊の皆様方全員に同じことが言える。種族人間とはどうしてこうも優劣がハッキリしているのだろうか。頭のデキくらい統一して欲しいよな。
俺は瓦礫をボリボリと噛み砕きながら、そんなことを思った。
これは、とあるVRMMOの物語
私のフルコースが揃ったか……。
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