男の戦い
1.スピンドック平原-深部
あ、ありのまま今起こったことを話すぜ。
俺は記憶を取り戻したと思ったらパンイチソックスネクタイに目出し帽を被って銃弾が飛び交う戦場に立っていた。
な、何を言ってるのか分からねーと思うが俺も何をされたのか分からなかった。頭がどうにかなりそうだった……。
罰ゲームだとかドッキリだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
突然絶叫を上げた俺を現場に居合わせたメンバーがぽかんとして見上げている。
俺はひとまずその場にしゃがみ込んだ。
サトゥ氏。お前一人で来たのか?
「お、お前、目がヤバいぞ。万華鏡写輪眼(使用後)みたいになってるんだが……」
気にするな。近頃ドライアイがひどくてな。
「ドライアイで通すつもりなの!? いやそれは通らないでしょ!」
うるせえな! さっさと俺の質問に答えるんだよ!
「わ、分かった。もちろん俺一人じゃない。動かせるメンバーは全員動かしている。今は【ギルド】の包囲網を迂回してネフィリアに向かってる。接敵まで五分は掛かる」
そうか。間に合わねえな。
サトゥ氏は俺のドライアイが気になるらしく、ぶつぶつと何か零してる。
「目……? レ氏との戦いを思い出したとか言ってたな……。だが先生は……違う? 先生は忘れてなかったのか……? 何故……。祝福と呪詛……【戒律】……」
ちっ、動画をチェックしていたのか。喋りすぎたな。だが、その程度のことは想定内だ……。
どけ。俺はポチョの肩を押しのけて塹壕からひょっこりと顔を出した。首を傾げて流れ弾を避けて目に力を込める。遠く離れたウサ吉の仲間たちの丸い尻尾を凝視する。這いずり回るような俺の視線に草をむしゃむしゃしていたスピンがびくっとしてこちらを見る。
よし、これでもうウサ吉は大丈夫だ。近寄って来たスピンはウサ吉の麾下に落ちる。標的がバラけたならクソ虫どもなんざウサ吉の敵じゃねえ。
つーか痛え。右目が潰れた。使えるには使えるが耐久力は落ちてんのか? どうやら俺やネフィリアの目は想定外の不具合に当たるらしいな。だから痛覚カットの対象外だしョ%レ氏の裏を掻けたって訳だ。
だが俺はエヴァとシンクロして戦ってるシンジくんが苦しんでるのを見て実際にダメージ入ってる訳じゃねえんだからぎゃあぎゃあ喚くなよとか思ってたクチだからな。その俺がゲームで目が潰れたからって泣き喚くのはダサすぎんだろ。我慢、我慢。つーか俺ならアスカをもっとうまく操縦できた自信がある。と視聴者に思わせたのがエヴァのヒットの要因の一つな訳だね。
さて次だ、次。
俺はえっほえっほと穴を掘っている査問会のメンバーに穴を埋め直すよう命じた。
「えっ……」
いいぞ。鳩が豆鉄砲食らったような顔しやがって。俺の命令は理不尽か? 確かにな。とりあえず掘らせてみたが深い考えあってのことじゃねえんだ。悪いな。だがネフィリアはどう思うかな? 無意味なことをやってると思うかね? だからって完全に無視できるか? 人間ってのはそんなに器用じゃねえよ。おら、ぼさっとしてんな。さっさと埋めろ。
「こ、この人を人とも思わない理不尽さは……室長? 室長なんですね!?」
違いますぅー。人違いですぅー。
……俺は【NAi】の策略によって完全に想定外の復活を遂げちまった。状況が状況だ。俺が目を持ってることもバレたと見ていいだろう。だが、まだだ。まだ誤魔化せる。
参戦したスピンがクソ虫どもを蹴散らしていく。咆哮を上げたウサ吉がこれまでの鬱憤を晴らすようにデカブツを殴り倒した。完成した陣形ほど一度崩れれば脆いもんだ。
ポチョとスズキがぼおっとして俺を見ている。
「こ、コタタマなの……?」
違いますぅー。人違いですぅー。
だが目出し帽を剥ぎ取られたら終わりだ。俺が何を言っても無駄だろう。そうはさせじと俺は回遊魚のように忙しなく立ち回る。
推理に夢中なサトゥ氏の肩にぽんと手を置き、耳元でぼそりと呟いた。
「俺はコタタマです……」
「なっ……!」
ギョッとしたサトゥ氏が絶句した。俺はサトゥ氏の肩に親しげに腕を回して続けた。
「ネフィリアに後れを取ったな。お前らが足踏みしてる間にあいつはクソ虫どもを従えることに成功したらしい……。エッダ水道で俺を勧誘したのはクソ虫どもへの接近を悟られないためか。やられたよ。いい手だ」
俺も少し見習わないとな。
だろ? サトゥ氏。くくくっ……。お前は疑ぐり深いんだよな。俺から正体を明かせばお前は疑心暗鬼に陥って理屈に走る。例えば、俺が記憶を取り戻していることを知っているのが自分だけならそれは何かに利用できるんじゃないか、とかな。
トップクランのマスターはつらいよな。どんな時だって勝利を求められる。だったらお前は俺の味方をするべきなんじゃないか……? 俺が何を求めているのかは知っているよな……?
サトゥ氏は俺を庇うように前に出た。
「待ってくれ、ポチョさんスズキさん。こいつは俺が用意した替え玉だ。コタタマ氏とそっくりに整形しているが本人じゃない」
くくくっ……サトゥ氏。口が回るじゃないか。そこまでやってくれるとは思ってなかったよ。
俺は目出し帽を脱ぎ捨てて自己紹介した。
「ペタタマだ。一時はコタタマ氏じゃないかと疑われていたが、今は捜索に協力している」
こう言っておけば赤カブトも納得するだろう。俺とサトゥ氏の連携プレイが冴え渡る。
だが金髪ロリは聞いちゃいなかった。
「コタタマ……」
やだもう。こいつら感性に生きてる。いや、もしかしたら俺自身すら把握してない俺の癖を知ってるのかもしれない。かくいう俺も自分でもどうかと思うほど先生の仕草に詳しいからな。
じりじりと距離を詰めてくる二人に俺は身構えた。来るか? こうなったらもはや実力行使に出るしかねえ。だが俺の右目は既に潰れていて、死角に回り込もうとするポチョさんの動きが場慣れし過ぎていて怖い。
おっと赤カブトさんが割って入ってくれた。俺の腕にしがみついてきゃんきゃんと吠える。
「ペタさんはペタさんです! ちょっと似てるからって決め付けないでください!」
おお、俺の味方をしてくれるのか。さすがはマイフレンドだぜ。
だが、ポチョさんは止まらなかった。この女はとにかく判断が早い。何も考えてないんじゃないかというほど素早く決断を下して殺しに掛かる。凶器を抜いて赤カブトに迫るポチョをサトゥ氏が押しとどめる。鍔迫り合いだ。
「いきなり殺そうとするな!」
刃越しにポチョが怒鳴る。
「どくにゃん!」
「にゃん!?」
「ポチョ、それ狙いすぎ!」
ポチョさんは迷走している。俺が居ない間に一体何があったんだ……。
何はともあれここは逃げの一手だな。俺は赤カブトの手を引っ掴んでクレーターの斜面に挑む。
「あっ。コタタマが泥棒猫と一緒に逃げる」
「スズキっ、殺すにゃん! 誰かに渡すくらいなら殺すにゃ!」
「えっ。私はこれもアリかなって……」
チーム金髪ロリが早くも空中分解した。
いやアリってどういうことなの? レッサーティナンは俺に何を求めてるの? 怖い。平気で自分の殻を打ち破ろうとする外来種も怖いが、無条件に俺を全肯定する半端ロリも怖い。あの二人と一緒に居たら俺の人生が大変なことになってしまうという確信だけがある。
クレーターから這い出した俺は、ぴょんぴょんと飛び跳ねて手を振るスズキさんにぞっとしながらサトゥ氏に叫んだ。
「俺はネフィリアを追う! ここは任せたぞ!」
「コタタマ、コタタマ、コタタマ。んっ……!」
「待って待って! 何これ! 何なのこれ! ポチョさん強えぇー! アッー!」
おぅ、【スライドリード(速い)】を発動したポチョりんとサトゥ氏がゴミの頂点を決するスーパーボロット大戦に突入した。非常に心惹かれるカードだが、残念ながら観戦している暇はない。赤カブトよ、どうしても気になるなら後でSUMOU動画でも見とけ。大体あんな感じだ。
ウサ吉率いるスピン中隊の奮闘によりクソ虫どもの戦線は崩壊している。ウサ吉が四体目となるデカブツを仕留めた。デカブツが百体束になっても敵わないほどウサ吉は強くなっている。だが今回の件でハッキリした。
敵性NPC【ギルド】はモンスターの天敵だ。やつらの恐ろしさは均一性にある。完璧な統制と一糸乱れぬ連携。それはおそらく人類が目指している究極の軍隊の形だ。
ネフィリアを野放しにはできない。あいつは俺にこう言ってるんだ。自分はやろうと思えば、いつでもウサ吉を殺せると。
俺がウサ吉にしてやれることは少ない。だが、せめて……。
クレーターから這い出してきた俺を見つめ、ネフィリアがニヤリと笑って身を翻した。
俺は……もう先生が待つ【ふれあい牧場】には戻れないかもしれない。
ネフィリア……。決着をつけよう。
俺はネフィリアを追って駆け出した。
2.エッダ水道-【提灯あんこう】秘密基地
「ちーっす」
ログインしてきたマゴットが居間で寛ぐ俺を見てギョッとした。
よう。遅かったな。邪魔してるぜ。
「ふえっ!?」
びっくりして椅子に躓いたアホの子が床にひっくり返った。
「わわわっ! ぎゃっ!」
何なの、それ。リチェットもそうだったけど、パンチラアクション流行ってるの? 隠せ隠せ。ガキンチョのパンツ見ても楽しくも何ともねえ。いや、ちょっと楽しいけど。それはどっちかと言えば森の中でカブト虫を発見した時の喜びに近い。いや、クワガタかな……。
耳まで真っ赤にしてスカートの裾を押さえたマゴットが吠える。
「どっちでもいいし! なんであんたしれっと復活してんの!?」
俺は脚を組み替えてコーヒーを啜った。俺はコーヒー党だからな。甘ったるい缶コーヒーもあれはあれで好きだし、ブラックを舌で転がして違いを探るのも好きだ。舌がバカになりそうで怖いから毎回ブラックってのは避けるけどな。シュガーとシロップの黄金比を探るのもまた楽しいんだよ。
俺は上機嫌でカップのスプーンをくるくると回す。
「無視すんな!」
おっと、すまん。素でお前の存在を忘れてた。
なんで俺がここに居るかだったな。他人の空似だ。気にするな。俺は適当に返事をした。
俺の妹弟子はアホ過ぎていつでも騙せそうなので肩肘を張る必要はない。
うーん。もう少しシュガー行ってみるか? いや、しかしこれギリギリな気がする。俺的には飲み干した後にカップの底にシュガーがへばり付いてるのは下品なんだよな。それだけは避けたい。もっと早く投入すべきだったか……。悩みは尽きない。
俺はうんうんと唸りながら日課のクラフトを始めた。レベル1に戻っちゃったからな。あんっ、マゴットに魔石をブン取られた。妹弟子が俺に意地悪をする。あにすんだよ。
「もうちょっと私に興味持てよ! 私さーっ、あんたのことカワイソウだなーとか思ってたんだけど!」
ええ? マジで? お前に同情されるとかマジで危機感を覚えるわ。
ま、でも戻る当てはあったからね。ただ、ちょいと予定が前倒しになったんだよ。
俺は別の魔石を取り出して経験値稼ぎを再開した。
……そう、遂に俺は服を手に入れた。見るに耐えないからとネフィリアが恵んでくれたのだ。やっぱり持つべきものはお師匠様だね。
ふんふんと鼻歌を口ずさみながら五寸釘をクラフトする俺に、わなわなと震えるマゴットがダッと居間を飛び出して行った。
「ネフィリアさぁーん!」
平和だなぁ。
俺はカップを両手に抱えてホッと一息吐いた。
これは、とあるVRMMOの物語。
魔王は女のヤサを転々とする。まるで、それが生まれながらに背負った業であるかのように。
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