Black-Jack
1.クランハウス-居間
無論、俺はネカマ六人衆の味方だ。
何しろ彼らは俺がリアルでヤバくなった時に俺の駆け込み寺として俺の衣食住スマホを保証してくれる存在なのだからして。
従って当然、俺はリチェットに言われたことをバカ正直に伝えるような真似をしない。
ありゃ〜嫉妬だな。聞いたぜ。キューティーとかいう新キャラを可愛がってるんだって? リチェットはあれでドコ行っても優遇されるトコあるからな。これでメガロッパやハチ辺りが新キャラに構ってばかりとかなら、そこまで気にしなかったんだろうが……まぁお前らは特別ってことだよ。お前らを取られたみたいな気がして危機感を覚えたんじゃないか。
「イヤおかしくない!?」
「キューティーを猫可愛がりしてるのはリチェットじゃん!」
「ベタベタしちゃってさ……! なにさ!」
おぅ。
言われてみれば、確かにそんな感じだったな。……あの女、そこまで使えるヤツなのか?
「使えるって言うかぁ、なんだろ……しっかりしてるんだよね」
「いい子だよ。どんなに忙しくてもおかえりって言ってくれるし」
「そうそう。ウチの子たちってやっぱり効率、効率っていうトコあるから、新鮮だよね」
「ハッとするよね。そういう当たり前のことがさ」
ふうん。先生は何て言ってた?
「大体は今言ったことと同じ」
「あと人型さんのことを気にしてたよ」
「もうしばらく泊めてくれるって言ってた」
ああ、人型さんがお前らの課金アイテムを狙ってくるかもしれないって話か。それ、リチェットとキューティーも気にしてたな。先生の言ったこと一言一句違わず書き起こせるか? できれば動画も欲しい。先生がログアウトしたら現場で検証したいな。
「急にハードル上げてきた」
「ペタ氏っ。宗教はダメっ」
宗教のつもりはないんだけどな……。単に俺の人生でもっとも価値ある仕事が先生の言葉を後世に残すことってだけで。いや実際にそうよ? リチェットんトコで人型さんの能力はコピー能力だって話になったけどフツーに間違ってる可能性あるからね? だってレイド級の人選はレ氏がやってるんだろ? 俺らにコピー能力持たせてどうすんのよ? どうせリソースが足りないとか何とかでモンスターにはモシャスできなくて、そこら辺の石ころに化けるのが関の山なんだろ……。意味ねーよ、コピー能力は。
俺はメタ読みした。何しろ俺たちは他人に化ける能力をもう持っている。そう、整形チケットだ。ョ%レ氏はあの性格だ。課金アイテムを買わずに済むようになるスキルを用意してくれるとは思えない。あのタコ野郎は俺らプレイヤーの財布を軽くしようとする。それが揺るがない事実だ。
人型さんの固有スキルを推し量るとすれば、それがキモになる。一見、コピー能力に見えて、それだけじゃない何か。鍵になるのは、真っ先に俺の前に姿に現したこと。そして、これは誰にも言ってないのだが……ニャンダム様が参戦した時に力が弱まったことだろう。もしもヤツが俺との約束を破るなら……ティナンたちに害なす存在だと分かったなら……結論はとうに述べた……俺がヤツを殺す。ティナンは俺が守る。
リュウリュウの言葉が俺の脳裏をよぎる。
(お前がティナンを守れ)
(Goatは……あれは危うい)
先生。俺は……。いや。
俺はかぶりを振ってにこっと笑った。
ギョッとする六人衆に言う。
「大丈夫だ。何も心配するな。俺が何とかしてやる」
2.メッセンジャーコタタマ
リチェットと六人衆の復縁は困難を極めた。
俺がウチの丸太小屋とクソ廃人の巣窟を行き来して伝言ゲームをしてやるものの、両者一歩も譲ろうとしない。自分は謝らないの一点張りだ。
また俺が情報操作した感も否めない。双方意地になってささやきを送ろうとしないものだから、真実を決める権利は俺に委ねられており、無駄に歩かされた俺が俺自身の地位向上に努めるのは正当な報酬であった。
そして六人衆とリチェットの喧嘩を仲裁するべく奔走などしていると、【敗残兵】のメンバーから声を掛けられることもある。俺はメガロッパやハチの言葉尻を捕まえ、巧みに言質を取って、さもヤツらが俺を強く信頼しており、俺に任せておけば何とかしてくれると考えているかのように印象操作した。
それ自体はまったく難しいことではなかった。何しろ六人衆とリチェットはささやきで連絡を取り合おうとしないのだ。最初は嫌々ながら伝言係をやっていた俺もだんだん乗り気になっていく。面倒臭い女とネカマが所属している【敗残兵】というクランは国内でも一位、二位を争う有名なプレイヤーズギルドであり、俺の自己顕示欲を満たすには打って付けの相手だったのである。
「アイツらは俺が居ねーとダメだな!」
そう俺がイキると、俺をひざ枕しているスズキがメニューを操作しながら俺の頭を撫でて、
「最近会えないな〜って思ったら、りっちゃんとイッちゃんたちの為にがんばってるんだ? コタタマは偉いな〜」
でへへ……。
いつの間にかウチの子たちとリチェットが急接近しているのはいささか不穏な気配を感じたが、俺は深く考えないようにした。見た目ちんちくりんのくせに一級品の太ももを持つスズキに甘やかされて俺ご満悦である。
スズキがスマホ感覚でメニューを操作しながらチラチラと俺を見てくる。
「……二人きりになるの、久しぶりだね」
俺は寝っ転がりながら、やれやれと肩を竦めた。少し間を空けるとコレだよ。仕方ねぇな〜。モテる男はツラいぜ。
俺は腕を伸ばしてスズキの頬をそっと撫でた。
悪かったな。何かと忙しくてよ……。来いよ。
「ん……」
軽く残虐ファイトを交えつつ日々を過ごす。
俺の評価はうなぎ登りだ。
それはスズキに限った話ではなく、忍耐強くウチの丸太小屋とクソ廃人の巣窟を行き来する俺を知らない人たちが応援してくれる。
「コタタマさんって、もしかして凄い人なんですか?」
「【敗残兵】の人たちと仲がいいんですよね?」
「やっぱり【敗残兵】って他とは違うんですか?」
俺は謙遜した。
いや、たまたまだよ。腐れ縁っつーか、ヤツらとは付き合いだけは長いもんでな。俺は別に廃人でもねーしな。他とは違うっつーか……まぁ違うか。廃人ってのは、やっぱスゲーよ。俺なんかとはモノが違う。
別次元の存在である筈のクソ廃人どもに頼られる俺は特別なプレイヤーなのだと喝采を浴びるが、俺はそんなことはない、たまたまだと繰り返した。謙虚さをアピールし、嫌味な部分がないと思って貰うためだ。
その目論見は当たり、街中を歩いていると知らない女に話し掛けられることも増えてきた。彼女たちは偶然を装って俺に近付いてくるが、そんな可愛らしい腹芸は俺には筒抜けで、だからといって紳士の俺はそんな野暮な指摘はしない。
「えー? でも、コタタマさんってカノジョ居るんでしょ?」
俺は否定しなかった。
うん、居るよ。けど、俺は男女で友情が成立しないとは思ってないからね。人間って、そんな単純なモンじゃないよ。友達は多いほうが豊かな人生を送れる。キミもそう思うだろ?
俺は心にもない言葉を並べ立てて女友達を増やしていった。だからといって、もちろん俺はシルシルりんやウチの子たちを蔑ろにしない。彼女たちは俺にとって特別な存在で、ただの「友達」よりも優先順位が高い。その点については明確に線引きする。
大切なのは、俺がモテる男であり、他の女から価値を認められていることだった。そして男という生き物は肉体構造上、浮気をする生き物であり、そのことを世の女性は当然知っている。そこを見誤らないことだ。
俺はウチの丸太小屋とクソ廃人の巣窟を行き来しながら女友達と逢瀬を楽しむ。
女友達と言えば……こんなこともあった。
キューティーの件だ。
3.パピコ砂漠-【敗残兵】前線基地
キューティー。聞いてくれよ。アイツら面倒臭ぇんだ。自分が悪いとちっとも認めねえ。
パピコ砂漠におっ建っているクソ廃人の巣窟で同期に愚痴をこぼしている。
料理中は長い髪をポニテにしているキューティーが振り返りもせずに俺の愚痴を打ち返してくる。
「知るかっ。あんたが何とかしろっ。お得意の口八丁でっ」
キューティーの立場は微妙なものだった。
廃人ではないので【敗残兵】には所属していないが、スマイルくんに命じられてリチェットの補佐に付いている。そしてリチェットの補佐に付くということは他の廃人の面倒を見るということでもあった。
キューティーの職業は薬剤師。血の気が多い性格から何度もロストしているらしいが、薬剤師の中でも専門で調理を担当している。専門でやっているだけあってウマい。
料理人の血が騒ぐらしく、敵対関係にある筈の俺でも腹を空かせてやって来るとメシを作ってくれる。ウマい。
普通に店を開いてもやって行けそうな腕前なので食費くらいは出そうかと思ったのだが、俺たちは同期。β組でもなく、初日組でもないが、暗黒時代を知るプレイヤーだ。俺たちの間には強い結び付きがある。
同期ってのはイイモンだな……。俺はしみじみとそう思った。出汁が利いてる。
廃人どものエサを作り終えたキューティーが俺の向かいの席にドカッと腰掛けて愚痴をこぼしてくる。今度は俺は聞く番だった。
「このゲームのプレイヤーは料理を軽視してる。それがムカつく。どこのクランもそうだが、ここは特にひどい。最悪なのはセブンだ。なんかデカい目玉みたいなのしか食わない。なんだアレ?」
携帯食料だな。種族人間のエサ。見た目と食感は最悪だが腹持ちはいい。地味に売れてるんだぜ。
キューティーはチッと舌打ちした。
「アンパンの野郎か。どうせ新薬の副産物だろ。ああ、ムカつくムカつくムカつく。ムカつくことばっかりだ」
キッチンの外から廃人どもの悲鳴が聞こえた。
「キューティー! バンビがヤられた!」
ガタッと席を立ったキューティーが肩を怒らせてキッチンを出て行く。
「ヒーラーに言えよ! なんで私に言うんだ! 何をどうしろってんだ!」
そうは言いつつも面倒を見に行くようだ。
リチェットをして可愛いと言わしめるのはその辺りなんだろう。「おい! 死ぬな!」とか言いながらバンビちゃんの頬にビンタしている。
……まぁイイ女ってことになるんだろう。
ネカマ六人衆の言葉を思い出す。
当たり前のことを当たり前にできる、か。
俺も見習うべき点があるかもな。
その日の気分とノリで生きている俺には信念と呼べるものがない。だから簡単に自分を変えられる。それは俺が思う、俺の数少ない長所だった。
キューティーは俺が甘くなったと言うが、そんなことは言われるまでもなく分かっていたことだ。俺は実は人一倍心優しい男だ。昔からずっと一貫して主張していることが実証されたに過ぎない。
きっと俺はマレ前プレイヤーの中では異質で、例外的な存在なんだろう……。
そのことを、少し寂しく思った。
4.クランハウス-居間
俺は過去に学び未来に生かせる男。
その積み重ねが今だから、ウハウハな毎日を過ごしている。未来への投資が、ようやく実を結んだのだ。
ところが俺の天下は長続きしなかった。
いつも通りリチェットの主張を六人衆に伝えてやっていた時の出来事である。
最近ではもう俺の伝言とリチェットの言葉が完全に乖離しており、内容を考えるのもひと苦労だ。
つまりだな。俺は言った。リチェットは俺と仲良しのお前らに嫉妬してるらしい。ほら、キューティーが俺の同期だろ。リチェットがキューティーに興味を抱いたのも要はそこで。……正直な? リチェットさ。あいつ、イイ女だろ。あいつには男を選ぶ権利があるんだよ。俺とサトゥ氏の間で揺れてるんじゃないか、なんてな……。俺の思い上がりならいいんだが……。あいつの態度を見てると、どうもな。あながち俺の思い上がりとも思えねえっつーか……。
「ほう。それはそれは……」
おっとリチェットさん。
何故ここに?
俺の素朴な疑問に、リチェット隊長は簡潔に答えた。
「最近ワンパターンになってきたからな。潮時だろうと思って」
六人衆がいつになく機敏な動きでササッとリチェット側に回る。
「ペタ氏、嘘はダメ」
「ワンパターンっていうか、もはやバレてもいいやって思ってたでしょ……」
「俺らが宇宙の成り立ちについて調べてるってどういうことなの?」
……お前ら、裏で仲直りしてたのか。
まぁね。自覚はあったさ。あれだろ、こち亀パターン。ああ、そうとも。自覚はあった。途中で手を引けば良かった。でもさ……。
やめられないんだなぁ。
ぽつりと述懐し、俺はインベントリを開いた。
ギルド堕ちとなり、エーミールにウッディの力を分け与えたことで、ギルドの力の主導権は俺に移りつつある。
そうして初めて分かった。
ギルドの金属片はインベントリに収納されている。どこからともなく出現する、とはそういうことだ。
俺の両腕両足がギルドのそれへと換装される。そのスピードは以前の比ではない。俺の肉を内側から突き破った金属片が、まるで最初からそうだったように俺の手足を機械のそれと入れ替える。
俺はダッと地を蹴って逃げ出した。スプリンターもかくやという理想的なフォームでシュンシュンと両手を振って疾駆する。だが玄関のドアを開け放ったところでメガロッパ、ハチとご対面した。
「……どうも。お前の熱狂的なファンのメガロッパです」
痛烈な皮肉に、俺はバッと振り返って叫んだ。
ポチョー! ポチョー!
「はーい!」
ぴょんぴょんと階段を駆け降りてきたポチョに俺はもるもると泣きつく。
ポチョー! やっぱり最後に頼りになるのはお前だけだぜ〜! 廃人どもが結託して俺をいじめるんだよ〜!
涙ながらに訴える俺を、ポチョがぎゅっと抱きしめてくる。
「やっぱりコタタマは白人の女が好き……」
そう耳元で囁かれてゾッとする。
は、離せ! このご時世に白人だの何だの……! 俺ぁ〜女なら誰でもいいんだよ! 俺の可能性を閉ざすな!
り、リチェット! 俺が悪かった! お、俺は良かれと思って……! そう! 最初は本当に善意からだったんだ!
今の俺の膂力は人間を優に上回る。その筈なのに、ポチョの拘束から抜け出すことができなかった。腕に力が入らない。イヤ違う。俺はポチョに殺されたがってる……?
心と身体がバラバラだ。
い、いつからだ?
いつから、俺はこんな……。
リチェットがポチョにそっと刀を手渡す。つい先ほどまで持っていなかったものだ。
クラフトしたのか……!
ヒーラーの上位職は回復魔法に加えクラフト技能を使うことができる。
その腕前は尋常なものではない。戒律を刻まれた剣が怪しくきらめき、禍々しいオーラを発するかのようだ。
それは、妖刀……!
うおおおおおおおおおっ!
俺は雄叫びを上げた。己を叱咤し、ポチョの腕を力尽くでこじ開けていく。
足りない。そう予感した。もっと力を……!
俺の呼び声に応え、俺の頭の横に黒い人形が浮かび上がる。
アビリティは命。俺そのものを示す記号。名前は自分で決めていい。
アナウンスが走る。
【Black-Jack(Ability!)】
そう名付けた。
俺の固有スキルは奇跡片だと、天使の【奇跡】と似た特性を持つアビリティだと、そう言われる。
【奇跡】は全てのスキルのオリジナル。ゆえにそれと似た俺のアビリティは全てのアビリティと重ね合わせることができる。
結果、生まれたのがこのブラックジャックだ。
これまでに国内サーバーのプレイヤーが歩んできた道のりの集大成であり……!
俺にあとを託して去って行ったプレイヤーたちの意思と願い……!
それらが俺に生きろと告げる……!
屈するなと……!
女に! 殺されるのは! 別に気持ち良くなんか! ねえッ!
黒い人形が吐き出した戒律を俺は掴み取って一気に引き抜いた。間に合え! ポチョの妖刀が閃く。間に合わなかった。俺の胴がとっさにガードした腕ごと両断される。この切れ味……! 意識がハッキリしている。まだ俺は戦える。胴の断面からウッディが這い出してレーザー光線をビビッと放つ。ポチョは床に手をついてその場で側転した。残像が尾を引く。無詠唱のスライドリード。彼女の白い脚に俺は目を惹かれた。俺の足をポチョが刎ね飛ばす。強すぎる。手も足も出ない。そう思った時には俺の首が刎ねられていた。ポチョが跳ぶ。パンチラ殺法。胴を離れ、宙を舞った俺の首が十文字に断たれて四分割される。
オーバーキルに次ぐオーバーキル。
圧巻の死体蹴りに、俺は……。
俺は、この女が俺を一番うまく殺せるのだと思った。
鼓動を止めたハズの心臓が跳ねるのを感じた。
俺の返り血を浴びたポチョは、例えようもなく美しかった。
これは、とあるVRMMOの物語
やっぱりダメみたいですね。
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