ママ活
1.クランハウス-居間
サトゥ氏はシステムに愛されているがレベル制限の壁は厚かったらしく、ひと段落するなりアジテーターをクビになって無職になった。今は就職活動をしているそうな。調子に乗ってクラスチェンジなんてするから。今頃はメシウマの気配を察知したゴミどもに現在の心境を尋ねられていることだろう。いやぁ愉快、愉快。
そんな面白エピソードはともかく、俺は日課の経験値稼ぎに精を出す。継続は力なりってね。やっぱり一足飛びに楽しようとするとバチが当たるんだ。よく言うだろ、努力の天才ってさ。俺はそういうタイプなのかもしれない。そんで、いつかは努力が実を結んで、「やはり天才だったか」みたいなこと言われちゃうんだよ。参ったね。そんなつもりじゃなかったんだけどなァ〜。
心の中で謙遜する俺の向かい側のソファではポチョとスズキがキャッキャしている。
「えー? そんなんじゃないって〜」
「でも、ほら。これ……」
スズキが可視化したメニューをポチョに見せる。二人は顔を見合わせて「きゃー!」と黄色い悲鳴を上げた。抱き合ってころころとソファの上を転がる。
何の話をしてるのかは知らんが、楽しそうで何より。仲睦まじい様子に俺の頬もゆるむ。にこにこ。
しかし俺の楽しい気分は家の外から飛んできた黒い波にさらわれて一瞬で剥がれ落ちた。ゴミのようなアビリティが俺と干渉してバチバチと黒い稲妻を上げる。ベロンと剥げた笑顔の皮を俺が指でペリペリと剥がし取っていると、知らないゴミが玄関のドアを開けて閉めた。居間にポチョとスズキの姿を認めて帰ったようだ。
……何故かゴミどもはウチの子たちにあまり絡もうとしない。気持ち悪いことにウチの子たちの幸せを願い、陰ながら支援しているようですらあった。
それは……ゴミどもが言うには、先生の下に集ったメンバーの将来が楽しみだから、という理屈らしい。そしてその理屈はどういう訳かこの俺には適用されない。どういうことなんだよ。俺の将来にも期待しろや。なんならクソみたいなイベントで一番活躍してるのは俺だろうがよ。
まぁいずれにせよウチの子たちがゴミ除けになるのは俺にとって悪いことじゃない。俺は笑顔の皮を丁寧に伸ばして顔面に貼り直した。スマホの液晶フィルムと同じ要領で空気が入らないよう慎重かつ大胆に攻めるのがコツだ。にこにこ。
キャッキャしてる凸凹金髪ロリコンビが俺の平穏を守ってくれる存在なのだと思うと、ますます愛おしくなってくる。
だが、二人のゴミ除け効果をネームドゴミは平気で貫通してくる。
「ペタ氏〜!」
「リチェットがひどいんだよ〜!」
ネカマ六人衆であった。ドカドカと居間に上がり込んできて俺に泣きついてくる。俺は笑顔の皮をビッと剥がした。しわしわになった皮を見て舌打ちする。ちっ、もう使い物になんねーな……。
「えっ、何それ……」
「人間ってそんな感じだっけ……?」
リチェットがどうした? あいつは割りかしお前らに懐いてる印象だったが……。
「そ、そうなんだよ! 聞いてよペタ氏!」
「リチェットがひどいんだよ!」
「俺らもティナンのためにがんばろうって思ったのに〜!」
凸凹コンビの凸と凹が気を遣って六人衆に席を譲った。俺が事情を聞いてるうちに人数分のお茶と茶菓子を用意して凸の部屋に引っ込んでしまう。ゴミ除けの結界は脆くも崩れ去り、二人と入れ違いに知らないゴミが混ざってきた。
俺のお茶をガブガブと飲んで喉を潤した知らないゴミは六人衆に同情した。
「そりゃひでーな」
いや、どうかな……。
俺は六人衆の言うことを話半分に聞いている。
事の起こりはこうだ。
現在、リチェット率いる【敗残兵】はスマイルくんの補佐にあたっている。
人型レイド級の情報収集は順調に進んでいるようだが、課題は多い。どうやらレイド級にも派閥らしきものがあるようなので、他のレイド級に異変がないか調査したりだ。この前、スマイルくん一行がマールマール鉱山に足を運んだのもその一環だったらしい。マールマールがあっち側に付くと厄介だからな。運営陣に激しい憎悪を抱いていることもさることながら、あの巨大モグラの固有スキルは種族人間がもっとも得意とするゾンビアタックを正面から叩き潰してくる。また使徒ではなく神獣という点……。神獣は競争権を持ち、運営の命令に逆らうことができる。もしもマールマールを敵に回したなら、山岳都市は捨てるしかない。いくらニャンダム様でも人型とマールマール、二体のレイド級を相手取って勝利を収めるのは難しいだろう。
というように、スマイルくんは移住計画も視野に入れているようだ。
ティナンは種族人間と違って死んで空腹ゲージをリセットするなんて荒業は使えない。移り住むにしてもどこへ向かうのか。食料はどうする。海外サーバーの動向。ョ%レ氏はマップ開放に関して今はまだその段階ではないと言ったが、その真意は? プレイヤーはレベルが上がったところで劇的に強くなることはない。既存マップで俺たちは何か大きな見落としをしている可能性がある。などなど……挙げていったらキリがない。猫の手も借りたいという状況だ。
そんな中、リチェットは非常に便利な女であった。プレイヤーの全体指揮をとった経験があり、普段男キャラを見下している女キャラもリチェットの言うことには従う。アイドル集団【目抜き梟】との仲も良好だ。さらにメガロッパ、ハチといった大駒を配下に持つ。スマイルくんにしても「なんて都合のいい女なんだ……」くらいのことは思っただろう。同じくらい便利なハズの黒コートは夏を終え、寿命が尽きやしないかと少し心配だが、それはともかく……。
便利な女には仕事が集まる。多忙なリチェット。ネカマ六人衆も彼女を手伝おうと声を上げたらしい。
しかしリチェットの返事はNOであった。猫の手は借りたいが、それはあくまでも比喩表現であり、自分のエサくらい自分で取って来い、というようなことを言われた……というのが六人衆の主張だ。
いやぁ、どうかなぁ。あのリチェットがだよ? イッちゃ〜んとか言って、目ぇキラキラさせてさ、忠犬よろしく六人衆に駆け寄るような、あの女が。言わんだろ、そんなこと。誇張してるか、何かの誤解があった……そんなところじゃないか?
とはいえ、こればっかりは本人に聞いてみないと分からん。仕事に追われて、余裕がなくなってイライラしてたってことも考えられる。
六人衆は顔面を両手で覆って嘆いている。
「ハートが……! ハートが傷付いた……!」
「反抗期……! 圧倒的反抗期……!」
「俺らだってチーム【敗残兵】の一員なのに……!」
「お腹すいたので何か食べさせてください……!」
泣きじゃくる六人衆を知らないゴミがあやしている間に、俺は整形チケットを使って女キャラに化けるとチャッチャとエサを作ってやった。
おら、メシだ。食え。
なお女キャラに化けたのは最低限の礼儀である。野郎の手作りなんぞ食ってもウマくなかろう。
ガツガツと炒めメシを頬張る六人衆をじっと見つめて、俺はさてどうしたものかと首をひねった。
ささやきでリチェットにチクるのは簡単だが、それで余計にこじれても困る。リチェットはバカじゃない。コイツらが家出したことは把握しているだろう。待っていれば何らかのアクションを起こすハズ……。
俺は妥当な判断を下した。ひょいと手のひらを上に向けて、
「まぁほとぼりが冷めるまでウチに泊まってけよ」
コイツらはただのお笑い担当ではない。
整形チケットや家電製品といった課金アイテムを支給している時点で、コイツらは幹部の仕事をキッチリこなしているとも言える。
それでも文句を言う輩が居るなら、じゃあ代わりにお前が金を払えという話になる。特に整形チケットだな。消耗品で、かつ他者の目を欺けるという実用性の高さ。娯楽にもなる。キャラクターの外見はいじり出したら止まらない。前髪を2mm短くするために整形チケットを使ったなんて話もよく聞く。金さえあれば湯水のように消費されるのが整形チケットだ。そいつを、クランメンバー全員分と俺の分。ザッと計算しただけでもかなりバカにならない出費だ。
六人衆がガッと俺の手を握って頭を下げる。
「しばらくお世話になります……!」
その手には整形チケットの束が握られていた。
……ただ、ちょっとあざといんだよなぁ。
俺は整形チケットの束をポケットにねじ込みながら、俺たちの友情が不変である旨を告げた。
よせよ。ダチだろ。貰えねーよ。金が欲しくてお前らを助ける訳じゃない。
すでに貰っているのだが、どうせ押し問答の末に俺の懐に収まることになるので俺は無駄を省いた。
「気持ちなんで……!」
「断るのも失礼だと思う……!」
「修学旅行みたいでわくわくしてきた……!」
「ベッド派ですけど布団でも我慢します……!」
恒例の遣り取りなので六人衆も無駄を省いた。ついでに厚かましい。
知らないゴミがちょいちょいと指で俺に寄るようジェスチャーした。頭を傾けた俺にボソボソと耳打ちしてくる。
「少し探ってみる」
俺は目線で頷いた。
六人衆の態度にはどこか余裕が見え隠れしている。それが長年培ってきた信頼関係によるものなのか判断が付かない。が、知らないゴミは六人衆が虚偽の報告をしている可能性を感じたようだ。
部外者が立ち入る問題じゃないような気もするが……。
見てくれだけは美少女の六人衆がめそめそしているのを見て、俺は苦笑した。
ま、乗りかかった船だ。金づるは大切にしてやらねぇとナ……。
これは、とあるVRMMOの物語
目が$になってる。消して消して。
GunS Guilds Online




