コタタマの章、完結
1.クランハウス-居間
俺はクランハウスに緊急搬送された。
最期の瞬間はせめてクランハウスで過ごしたいと俺が希望したためだ。
マレの膝枕で横たわる俺の額にマレが冷んやりとした手のひらを当てている。
マレの見解によれば、俺は一人で勝手に盛り上がってやり過ぎたらしい。
ウサ吉は無事だ。眷属を引き連れた上位個体は現段階のクソ虫ごときにどうにかできる存在ではないらしい。良かった。ウサ吉、達者に暮らせよ……。
ティナンに身をやつした俺の病状を診察していたマレが秀麗な眉をしかめる。
「これは……ひどい。元々人間の身体は脆く、壊れやすい。変異に耐えられる筈がない。その上、妙な薬を摂取した所為で一気に悪化しています」
そりゃそうだよね。
……俺がぶっ倒れたことで女神の加護を巡る戦いは有耶無耶になった。マレの本来の職務はGMであって、キャラクターデータに致命的な損傷を負った俺を放置するのはどう考えても職務怠慢だったから、であるらしい。
思うに、俺が昏倒した主な原因は【NAi】にあるというのが何よりもマズイのだろう。
俺の知り合いと全然知らない人たちが俺の最期を看取るために駆けつけてくれた。全然知らない人たちは俺なんかどうでも良くてマレを一目見るために集まったのではないかと思われる。
「崖っぷち〜! 崖っぷちよ〜!」
俺を一番心配してくれているのがニジゲンであるという事実に、人間関係の深い闇を思わずにはいられない。泣くなよ、JK。泣きたいのは俺だよ。俺、完全に最終決戦のノリだったじゃんね。それを自滅ってお前。
サトゥ氏にも悪いことしちまったな。加護再発動からの復活っていうアツい展開だったのに俺が息をしてなかった所為で空気の読めない子になってしまった……。ゴメンな。
「いや、それはいいんだ。よく確認しないでマレに切りつけた俺も悪かった。……いや、ゴメン。正直言って俺は悪くないと思ってる」
だよな。俺の中でもさ、本当ならお前が切り札になる予定だったから。加護が戻ればマレは超重力で対抗してくるって読みがあったんだよ。まぁその前に俺がぶっ倒れたんだけどね。
「俺も似たようなこと考えてた。だから最後に剣を投げなかったんだよ」
俺とサトゥ氏はもるもる鳴いて互いに慰め合った。
スズキがマレにしがみつく。衰弱しきった俺の様子に何か思うところがあったのだろう。
「じ、GM。コタタマは助かるんだよね?」
いいんだよ、スズキ。俺はマレが余計なことを言い出す前に儚く微笑んだ。経緯はどうあれ俺はチートを使った。その報いは受けなきゃならねえ。
マレがハッとした。お、気付いたか? まぁこの程度の腹芸はこなして貰わにゃ話にならねえからな。
俺は内心でほくそ笑んで続けた。
良くてキャラクターデータの全損。最悪、セーブデータの消去ってトコだろう。覚悟の上さ。
「で、でもすぐに戻ってくるんでしょ?」
どうかな……。スズキ、お前はレ氏と戦ったこと覚えてねえんだろ?
セーブデータが吹っ飛んだら、おそらく俺は……コタタマとして過ごした時のことを全部忘れちまう。これは、そういうゲームなんだ。
マレが信じられないといった眼差しを俺に向けている。俺はごろりと寝返りを打って表情を隠した。くくくっ……。そういうことだよ、マレ。今頃になって気が付いたのか?
チートに走ったやつは記憶が吹っ飛ぶ。このルールはお前からは崩せねえ。お前らがティナンを大事にしてるのは知ってるんだよ。記憶が吹っ飛ぶくらいのペナルティがねえと俺と同じことをするやつは確実に現れる。
俺がやったことはな、再現できるんだ。要は使徒の子供とティナンが揃えばいいんだからな。ティナンにはレイド級が居ないという話だったな。ネタは割れてるんだよ。
さあ。お前はどうするんだ?
「こ、この男は……GMを……超えている……」
え? GMの手でも負えないだって? 俺はさり気なくフォローした。
やはりな……。気にしないでくれ、マレ。幾らGMでもシステムの根幹に関わる部分は変えられねえ。当然のことだ。お前の責任じゃねえさ。
俺はギロリとマレを睨んだ。
「う……」
マレは迷った末に頷いた。
「そう、ですね……。セーブデータの破損……あり得る、かと」
そうだ。それでいい。
これでようやく俺の引退偽装が成る。くくくっ……この時を待ちわびたぜ。
無論……マレとの戦闘を続行して華々しく散るのがベストではあった。人間ってのは思い出を美化しようとするからな。だが、ぶっ倒れちまったもんは仕方ねえ。ならば現状ではこれがベスト……!
俺はコタタマという悪名にまみれた衣を脱ぎ捨ててイチから再出発するんだ……!
スズキが俺にすがりついてきた。
「やだ! そんなのやだよぉ!」
おお、俺との別れを惜しんでくれているのか。俺は感動してうるっと来た。ろくなことはなかったが、こんな俺にも友は居たのだ。
お? ポチョ、お前もか!
すり寄って来たポチョが俺をぎゅっと抱きしめる。俺たちはおいおいと泣いた。
「き、記憶がなくなったって、私たちが絶対に見つけてあげるからっ……」
いやぁ……それは予定が狂うからちょっと困るなぁ。俺は涙が引っ込んだ。俺のプランでは、遅かれ早かれ再会することになるし……。とはいえ、もちろんそんなことは口が裂けても言えない。
……アットム。うまくやってくれよ。俺はパチリとアットムにウィンクした。アットムもパチリとウィンクした。OK。任せたぞ。手筈通りにな。
あ、マズイ! 俺の身体が自壊を始めた!
先生! 先生! 俺の手をぎゅっとして!
「コタタマ……」
あれ!? 先生の目もうるうるしてる。正直、先生を騙すのは無理だと思っていたんだが……。うーむ。胸が痛むぜ。いやっ、ここは心を鬼にするんだ。これは先生の為でもあるんだからな。
俺は心を鬼にして何も言わずに先生のひづめをぎゅっと握った。じゃ、そういうことで。すやぁ……。
「コタタマー!」
これは、とあるVRMMOの物語。
悪魔ですか?
GunS Guilds Online




