モグラ共和国の野望
1.ちびナイ劇場
恒例の五感ジャックである。
イベントか。この時期に。よりによって。
このゲームのイベントは事前に告知など一切されない。クソ運営にとってユーザーの都合など知ったことではないのだ。王様商売ここに極まれりだな。あとは、まぁ前回のウサギさんカチコミ事件しかりイベントは現場で起こってるんだから告知なんてしようもないというケースもある。
うーむ。しかしマズイぞ。聖騎士感染は拡大の一途を辿っている。イベント中にノルマを無視したアホどもが暴走するのは自明の理。だが収拾の目処が付かない。付けようがない。
しかし運営の手先【ちびNAi】は今日も底抜けに明るい。ぱたぱたと手足を振ってステージの上を右往左往している。
【あ〜忙しい忙しい! 猫の手も借りたいってこのことね!】
もうね、ここまで来たらいっそ感心するわ。一体何がヤツをこうまでさせるのか分からないが、ここまで自分を捨てるプロ意識の高さは認めねばなるまい。演技に関しては俺も大概やれる方だとは思っていたけど、女神様のちびバージョンはもはや別人格としか思えない。別人格というか、もう主人格が影響を受けて人生が楽しくなってしまうレベルに達していると思う。歌のお姉さんですらここまで無茶はしないぞ。何しろ普段はコイツ笑顔で毒を吐く系だからな。
以前に耳にした【NAi】の発言が俺の脳裏を過る。
(私は正体を偽るなどという下賤な真似はしません)
それがこれである。
【でも私の手は二つしかないしな〜。そうだ! こんな時は運営ディレクターのョ%レ氏に相談してみよう! プレイヤーのみんなも協力してくれるよね? せーの!】
ヒーローショーかよ。仕方ねえな。付き合ってやるか。俺は手でメガホンを作って暫定エイリアンの名を呼んだ。レ氏〜。
ちび女神が腰に手を当ててぷんすかと怒る。
【声が小さいゾっ! もう一度ね! せーの! ョ%レ氏〜!】
だが舞台袖から出て来たのはいつものタコもどきではなく見慣れないちびキャラであった。
【何をしているのですか、あなたは】
若葉色の髪に白い肌。まさかの新キャラである。【NAi】はびっくり仰天してステージの上をころころと転がった。
【ややっ!? あ、あなたは一体誰!?】
【驚いたようだね】
言下にスポットライトに照らされたョ%レ氏が舞台袖から出てくる。この運営ディレクターはどうあっても登場キャラクターよりも目立たねば気が済まないらしい。
ちび女神がタコもどきに泣きついた。
【ョ%レ氏〜! 知らない人が私のサンクチュアリに無断で上がり込んで来たよ〜!】
しかしョ%レ氏はちび女神の手を無情にも振り払った。
【ナイ。私は忙しい。マネージャーの櫻井くんがまたぞろ新規特典、新規特典と喧しいことこの上ないのだ。このョ%レ氏の私信を無断で発行して世に発信した櫻井くんがな】
やはり恨みに思っていたのか……。
過日の出来事である。ョ%レ氏は専属マネージャーのSさんにメールの内容を晒された。クリスマス商戦に際して新規特典を用意すると言っておきながら締め切りをブッチぎったことが直接的な要因であった。社会人として正しいのはどちらなのか非常に判断が難しい案件だ。
ョ%レ氏はちび女神の肩をぽんと叩いた。
【よって私はしばしこの場を離れる】
【え〜!? じゃあイベントはどうするの!?】
【その為の彼女だ】
ョ%レ氏の紹介に預かり、新キャラが進み出る。
【GMです】
GMだと? 俺は耳を疑った。
GMとはゲームマスターの略である。プレイヤーと運営を繋ぐ窓口のことだ。プレイヤー同士のゴタゴタを片付けたり、プログラムの不備に対処したりと活動内容は多岐に渡る。その他にもイベントの進行を取り仕切ったりもする。確かにMMORPGにGMは付き物だが……。
【この場を借りて言っておきます。私はナイほど甘くはありませんよ。ビシビシ行くのでそのつもりで。構いませんね、ョ%レ氏?】
早くも仕切り出した新キャラに旧世代のポンコツと化したちび女神があうあう言ってる。ョ%レ氏は頷いた。
【よかろう。では私は行く。君たちは姉妹のようなものだ。仲良くし給えよ。ではな】
【ョ%レ氏〜!】
ョ%レ氏に縋り付くポンコツ女神と違って新キャラはまさしく才媛のようだ。今回のイベントについてテキパキと説明していく。
概要はこうだ。
猫の手も借りたい【NAi】に代わってプレイヤーはタコさんの脚を集めることになる。
タコの脚を集めたからといってどうなるものでもないとは思うが、ネトゲーによくある無茶振りである。敵陣に正面から殴り込んで兵卒から将軍、果ては総大将に至るまで下から上まで順にブン殴って来いと言われるよりはなんぼかマシであろう。どう考えても最重要任務なのに途中で自陣に紛れ込んだスパイの始末を頼まれるとかざらにあるからな。
今回のイベントは個人戦になる。特に敵味方に分かれる必要はないようだ。まぁモンスターにタイマンを挑むのはアホのやることなので結局は集団戦になりそうだが。
2.スピンドック平原-朽ちた砦-地下牢
やれやれと目を覚ました俺は速攻で拉致されて地下牢に押し込まれた。
もうね、なんかポチョさんで慣れちゃったっていうかね。思わずスムーズに誘拐されちまったよ。
で? 一体どういうこった? 地下牢に万歳のポーズで繋がれた俺は、看守のリチェットを問い質した。
「オマエを野放しにはできないとサトゥが命を下した」
何だよ。談合の件をまだ根に持ってるのか? やってもいない罪で幽閉されるとはな……。俺は溜息を吐いた。
あのなぁ、俺は心を入れ替えたんだよ。あの時の俺はどうかしてた。まだバージョンが低かったからな。だが今の俺は一味違うぜ。言うなればコタタマVer-3.02ってトコか。
「あれだけのことを仕出かしてバージョンが低かったなんて言い張る輩を信用しろというのかっ」
ふん、今に分かるさ。それはさて置き、今回のイベントはサトゥ氏が頭を張るのか? 年越しイベントに続いて二回連続じゃねえか。てっきりローテーションしていくのかと思ってたぜ。
するとリチェットは得意げに胸を張った。ふむ。改めて見るとなかなかどうして美乳の持ち主だな。内心で唸る俺をリチェットは挑むように見上げてくる。
「サトゥがやると言えば私たちは従うさ。本来、あいつは上に立つ人間だ。最強の男なんて呼ばれてるのもな、実力を示す機会あってのものなんだ」
まぁそうだろうな。実際、ウチのアットムは既にサトゥ氏を超えてると思う。ただ、サトゥ氏の瞬間的な閃きは侮れない。年越しイベントでマールマールの超重力を見切った理屈もよく分からねえしな。
「それに今回は特別だ。ウサギさんチームの頭を【目抜き梟】が張ることになった」
ウサギさんチーム。やはりそうなったか……。
今回のイベントは個人戦だ。しかし前回のイベントで勢力を二分して争った記憶は未だ鮮明にプレイヤーたちの心に濃い影を落としていた。総力戦の一歩手前まで行ったからな。イベントは終わったので仲良くやって行きましょうとはならない。ましてこのゲームは、俺の目の前に立っている巴御前が軍政を敷いたからな。大半のプレイヤーは一度でも寝返ったらスパイ容疑を掛けられるんじゃないかと考えたんだろう。不憫な。
俺の推測を裏付けるように、リチェットがもぐらっ鼻を装着した。自作したらしい。シンボルはイベント終了と同時に回収されたからな。
もぐらっ鼻が万歳した。
「モグラ共和国に栄光あれ!」
いつの間に共和制に移行したんだよ……。
だがリチェットの思い違いはすぐに正されることになった。
地下牢に駆け込んできた【敗残兵】のメンバーが悲鳴を上げるようにこう報告したのだ。
「し、将軍! サトゥ元帥が【目抜き梟】との、だ、談合を決断しました……!」
「談合だと!?」
リチェットが目を剥いた。
くくくっ……。含み笑いを漏らす俺にリチェットが詰め寄ってくる。
「何がおかしい!」
いや、なに。驚くようなことかね、と思いましてね。
「ど、どういうことだ。何かの、何かの間違いに決まっている! さ、サトゥはこれまで談合なんて一度だって……」
それはリスク回避だろうな。
将軍さんよ。勘違いしているようだから教えてやるが、このゲームでアビューズ行為は特に禁じられていないんだよ。
「だから何だよ! アビューズはゲーム性を著しく損なう行為だ! サトゥが許す筈がないっ」
だが、前回のイベント。お前らは俺一人に勝てなかったじゃねえか。お陰で……よく分かっただろ? 談合は規約違反じゃねえ。だったらサトゥ氏はやるさ。あいつはトップクランの頭だからな。
なあ、リチェットさんよ。トップクランはな、勝たなくちゃならねえんだ。来る日も来る日もレベル上げだ、素材集めだと駆り出されてよ。いざ本番だっつってイベントで負けるんじゃ話にならねえだろ。
くくくっ……。しかし思い切ったな。末端に話が行くくらい大規模に仕掛けるとは思わなかったぜ。何か……考えがあるのか。
俺はリチェットに提案した。
よう、リチェット。俺を味方につけろよ。お前がどうしても談合を認められねえってんなら俺が手を貸してやる。
「ふざけるな! 私がサトゥに話をつける! それで済む話だっ。誰がオマエの手など……!」
それが思い違いだって言ってるんだよ。分からねえのか? 俺の見張りをお前に命じたのはサトゥ氏だろ? あいつはな、お前が談合に納得しねえって分かってたんだよ。だからお前を隔離した。そして俺がヤツと同じ立場なら……。
おら、おいでなすったぞ。
言うが早いか、【敗残兵】のメンバーが地下牢に雪崩れ込んできた。
「リチェット将軍。あなたに謀反の疑いが掛かっています。我々と共に来てくれますね?」
「バカな! わ、私が謀反だと……」
くくくっ……。どうやら決まりだな。
リチェット、こいつは貸しにしておくぜ。
俺は手錠から片腕を引き抜いて指笛を吹いた。たちまちサトゥ氏の手下どもが悲鳴を上げて倒れる。
連中を背後から強襲したのは俺の可愛い部下どもだ。リチェットがハッとしてメイスを構える。
「査問会っ! オマエたちには解散を命じた筈だぞっ」
だから何だよ。査問会は俺の部下だ。俺以外の命令には従わねえよ。従ったふりはするように仕込んであるがな。
さあ、リチェット。早いトコずらかろうぜ。サトゥ氏と話し合うんだろ? だったらまずは同じテーブルに着かねえとな。
お前は軍を興すんだ。お前ならできる。材料もある。悩んでる時間はねえぞ。すぐに追っ手が掛かる。さあ。俺は片手を差し延べた。
「サトゥ……。私は……。くそっ」
リチェットは俺の手を取った。
Chapter1.談合する者、せざる者
砦を脱出したリチェット将軍は、モグラ帝国軍の再建を宣言した。
モグラ共和国と神聖ウサギ王国の談合を大々的に批判し、同志を募る。
これに対し共和国のサトゥ元帥は事実無根であると真っ向から否定。
一方、王国の【目抜き梟】は沈黙し静観の構えを取る。
事実関係はどうあれ、集団でアビューズ行為に走ったならイベントの勝者は決まったようなものである。またリチェット将軍がサトゥ元帥の忠実な右腕であることは広く知られており、その彼女が反旗を翻したことは数多くの憶測を呼ぶに十分だった。
これに先んじて査問会は俺の命を受け、サトゥ元帥がオフ会でマスターであることをいいことにリチェット将軍に酌を強要していたとの流言を流布。
更にリチェット将軍が「酌くらいなら別にしてやってもいいのだが……」とコメントしたことが火に油を注ぐ結果となった。
リア充許すまじ。サトゥ討つべし。民意はモグラ帝国軍にあり。
美しすぎる総統閣下の元に馳せ参じたアホどもは日増しに勢力を増し、これに刺激されたサトゥ元帥は武力による鎮圧を麾下に命じる。
ここにモグラ共和国を二分する決戦の火蓋が切って落とされた。
会戦の最中、軍議の席上にてリチェット総統は査問会を前身とする土竜騎士団の召喚を命じる……。
「危険です! 閣下! あのような荒れくれどもに御身を委ねるなどっ」
「いいや、宰相。こうしている間にも同胞が傷付き倒れているんだ。このまま戦を続けても共倒れになるだけだ。そうなる前に、私はどうしてもサトゥの元に行かなくちゃならない。土竜騎士団ならばそれができる。団長!」
「はっ。ここに」
窓から入ってきた俺に一同がギョッとした。
「な、何故そんなところから」
ちょっと壁の補修をね。
宰相が悲鳴を上げた。
「ほらぁ! コイツは本当に信用ならない! 普段何してるのかさっぱり分からないし壁の中から出て来るの何度も見たもん!」
宰相はリチェット総統に着いてきた【敗残兵】のメンバーである。元伝令が随分と立派になったものだと感心していたのだが、俺の気の所為だったようだな。壁の中から出て来たくらいで動揺するなよ。みっともない。
さて、壁の補修ついでに話は聞かせて貰ったぜ。行くならさっさと行こう。こちらの一秒はあちらの三秒だ。兵は拙速を尊ぶ。
戦略的には褒められたもんじゃないが……。悪いな、宰相。お前もあの場に居たから知ってるだろ。俺はリチェットをサトゥ氏の前まで連れて行かにゃならん。そういう約束だからな。
「もー! じゃあ私も行きます!」
総統閣下と宰相殿が揃って殴り込みかよ。メチャクチャじゃねえか。だが、らしいっちゃらしいな。いいだろう。三十秒で支度しな。
しかし宰相は三十秒で支度できなかったので置いて行くことになった。できないんじゃ仕方ねえ。あばよ。
サトゥ氏の居城は俺が以前に人間牧場を管理していた砦を改装したものだ。隠し通路の一つや二つはある。
というか、サトゥ氏があの砦を居城にしたのはそれを見越してのことだろう。リチェットには言っていないが。これを罠と見るかどうか。俺はサトゥ氏を信じてみることにした。リチェットがうるさいからな。
Chapter2.もぐらっ鼻を寄せ合って
リチェット総統率いる土竜騎士団は、居城への潜入に成功する。
そこに待ち受けていたのは【敗残兵】幹部たちであった。
リチェット総統が説得を試みるも、サトゥ元帥に心酔する彼らの翻意を促すことはできない。
一人目の幹部はリチェット総統を人質に取った俺がさくっと撃破。
リチェット総統に怒られたので二人目は赤の他人を連れて来て人質にしてさくっと撃破。リチェット総統に殺されそうになったので人質作戦は今後なしになった。
三人目は城の外壁をよじ登ってスルー。四人目は城の構造上スルーできなかったので別働隊に城内で騒ぎを起こさせて遠くへ行かせた。
五人目はリチェット総統のお色気作戦で乗り切ろうとするも大根役者すぎて無理だった。普通に開戦。羞恥心も手伝ってか獅子奮迅の働きを見せるリチェット総統が勢い余って六人目もまとめて撃破。
ここでスルーした三人目と四人目に追いつかれたので、そいつらの麾下に紛れ込ませておいた俺の可愛い部下どもにさくっと首を刈らせて撃破。合流した部下より、何かどうしてもイベント会話的なものをしたかったらしいという情報を入手。
だが残念ながら幹部は全滅してしまった。
うーむ。スパロボ大戦でイベントを完全スルーしてしまったような気分である。惜しいことをした。
え? 俺の所為なの? いやいや、トップクランの幹部なんぞとまともに戦ってらんねえよ。おっかねえ。
数々の苦難を乗り越えた我々は、そして遂にサトゥ元帥の元に辿り着いたのである……。
城の広間にサトゥ氏が一人佇んでいる。
「来たか。リチェット……」
リチェットが吠える。
「何故だ! サトゥ! 私は!」
リチェット総統はどうしてもサトゥ氏とサシで決着を付けたいらしい。何があっても手出しするなと俺たちは言われている。
そうまで言われては仕方ないので俺たちは床に寝転がって両者の遣り取りを見守る。
俺の部下の一人がやけにニヤニヤしているので話を聞いてみると、彼女が出来たなどと言い出した。マジかよ。お前、オンゲーで彼女なんて作ってどうするんだよ。こう言っちゃ悪いけどさ、リアルで初めて会って全然好みのタイプじゃなかったらどうするの?
「俺は彼女の性格に惚れたんです。外見は別に……」
いや、それはないでしょ。人間、やっぱ見た目だよ。それは男のサガっつーか、もうどうしようもないと思うぜ。俺、イケメンが滅んだら確実に世界は平和になるっていう確信があるもん。
「室長はゲーム脳だから分からないんですよ! 俺、幸せっす」
か〜! これだから直結厨はよぉ。いやね、俺だって朴念仁じゃないからさ。分からないでもないんだよ? 憧れるよな。でもさぁ、まずゲームで出会いを求めるってこと自体がリスキーなんだよなぁ。根本的にリアル性別が分からねえって時点でキツイよ。それなら普通に出会いサイトに登録したほうが早えんじゃねえか?
「そんなの夢がないですよ! 室長の、そのゲーム脳の癖して異様に現実主義なトコ一体何なんですか!?」
いやいや、普通だって。俺は普通。だが、まぁ……お前もネカマに言い寄られれば俺の気持ちが少しは分かるよ。ホモなんてあるの?っつー悲しみと、本当はリアル女なんじゃねーの?っつー期待で心臓が妙な鼓動を始めるんだぞ。俺の心臓はこんな動きができたのかっつー新鮮な驚きだけが最後に残る。
「室長。実は俺もいいなって思う子が居て……」
マジかよ。お前もかよ。仕方ねえな。ネカマに騙されることに関しては百戦錬磨の俺に詳しく話してみな。俺って何故かネカマとやたら縁があるんだよなぁ。トホホだぜ。
俺が部下どもの恋愛相談に乗っている傍らでは、サトゥ氏とリチェットが一騎討ちを始めている。
「分からないか? リチェット! 俺がお前を逃がしてやったのは談合の正当化をする為だ! どんな悪行も勝利の前では霞む!」
「そんな勝利なんて誰も望んでない! ゲームは楽しむものだってオマエいつも言ってるじゃないか! 戦いもせずに勝って何が楽しいんだよぉ!」
「ならばどうすればいい!? お前が言ってるのは綺麗事だ! 負ければ何も残らない! 俺がやらなければ他の誰かがやるだけだ! 負けてっ、それからあんなのは卑怯だって言って慰め合うのか!? それは負け犬の遠吠えと何が違うッ!」
戦士と司祭の一騎討ちだ。戦士には【スライドリード(速い)】があるが、魔力が少ない。一方、司祭にはクソ強力な蘇生魔法がある。どちらが先に切り札を出すか。それに対してどこまで切り札を温存できるか。魔力の残量が勝敗を分ける大きな鍵になるだろう。
だが、二人の決着は意外な形で齎されることになった。
「がっ!」
サトゥ氏の背中に深々と矢が突き刺さった。
広間に潜伏していた狩人が放ったものだ。暗殺者だ。四人居る。
「サトゥ!」
リチェットの悲鳴。
矢の角度から暗殺者の方向を割り出したサトゥ氏が【スライドリード】を発動した。
「アッー!」
残像を引いて高速で迫る矢群を、サトゥ氏は恐ろしいまでの反射速度で捌いていく。前衛職と後衛職の力関係は距離で決まる。仕留めきれないと判断した暗殺者が一人、二人と脱落して逃走を図るが、それにより火勢を落とした弾幕をサトゥ氏が一息に踏み越える。二振りで三人を斬り伏せ、最初に逃げ出した一人を投擲した剣で串刺しにした。
殲滅を終えたサトゥ氏がどうと倒れ伏した。駆け寄ったリチェットがサトゥ氏の手を取る。
「サトゥ!」
「こ、これでいい。ごふっ」
吐血したサトゥ氏がリチェットの手を強く握り締める。
「リチェット……。ネフィリアを、討て。王国には、話を通してある。共和国を、一つに……」
「もういいっ。喋るな!」
しかしサトゥ氏は最初からそのつもりだったのだ。回復魔法を使おうとするリチェットを押しとどめ、鬼気迫る様子で続けた。
「コタタマ氏なら、ネフィリアを追えるっ。ごほっ、ごほっ。不正をっ、許すなっ。大義のっ、礎になれっ……!」
コクコクと頷くリチェットに、サトゥ氏は安堵したように微笑んだ。しかしすぐに悲しげに瞳を揺らし、リチェットを見つめた。
「それで、いい……。リチェット……ごめんな」
それだけ言い遺して、サトゥ氏は逝った。
「サトゥー!」
これは、とあるVRMMOの物語。
土竜騎士団に仮面の男が入団しました。わーパチパチ。
GunS Guilds Online




