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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
55/977

タンクよ、永遠なれ

 1.居酒屋-火の車


 タンクのヴォルフさんと待ち合わせして一緒にメシを食べている。

 ト号案件については、もはや俺にやれることは何もない。ハッタリをかましてアホどもを脅しつけ、見せしめに何人か俺に従順な手駒に作り変えてやった。完全に感染していたクランはサトゥ氏と一緒にハウスごと潰したしな。あとは野となれ山となれだ。解決しようにも遣りようがないことにいつまでも拘っても仕方ない。

 という訳で、俺は数少ないまともなフレンドと心休まるひと時を過ごしていた。


「あっ……!」


 ん? おう、誰かと思えばマゴットじゃねえか。久しぶりだな。あけおめ。

 だが俺の妹弟子は懐かない野良猫のように素早く柱に身を隠し、警戒の眼差しで俺を見つめるばかりだ。

 何だよ。


「……やっぱりロリコンなんだ」


 俺はロリコンじゃねえ。


「そーいえばスズ姉もカワイイ系っつーかロリ系だし」


 それ本人には言うなよ? ヘッドショットされるぞ。


「もしかして私のコトも狙ってますか?」


 狙ってねえよ。


「は、犯罪。犯罪だかんねっ」


 法で取り締まれんでもやらんわ! 一喝する俺。だがアホの子は聞いちゃいねえ。何やらもじもじしている。


「私らライバルじゃん? だからー。その、なんつーか、そういうのはー。ちょっと変じゃね?」


 うぜえ。俺は自称ライバルの襟首を掴んでカウンター席に連行した。

 すみません、ヴォルフさん。こいつも一緒にいいですか? 俺の妹分でマゴットって言います。

 ヴォルフさんは人格者だ。まず断られることはないと分かってはいたが、礼儀として尋ねた。


「マゴット? 聞いた名だ。確か……。そうか、ネフィリアの弟子か。もちろん構わないとも。私は気楽な独り身だからね」


 ネフィリアと何かしらの繋がりを持つプレイヤーは人格を疑われる。かくいう俺もネフィリアの右腕だのと言われて謂れなき迫害を受けた身である。そいつらは皆殺しにしたが。

 ともあれ俺は兄弟子としてマゴットを更生してやりたいと思っている。こいつは陽性の人間だ。俺と同じくな。いつかはネフィリアの遣り方に着いていけなくなる。

 その時、助けになってくれるのはヴォルフさんのような信頼できる人柄を持つ実力者だ。

 ヴォルフさんはモツ煮込みにネギを散らしながら自己紹介した。


「私は【野良犬】のヴォルフだ。コタタマくんとは仲良くさせて貰っている。彼は、まぁ世間では色々と言われているが、友人の為に泥を被れる男だよ」


 モツ煮込みにはやっぱりネギだよな。モツのクドさをネギのさっぱりした風味がキリリと引き締めてくれて素晴らしく美味い。ネギは多すぎてもダメだ。

 俺の隣に着席したマゴットが首を傾げた。


「野良犬? 野良犬って? あ、もしかして人間に進化した系? スゲー。忠犬じゃん」


 忠犬だからって進化したりはしねえ。お前、鶴の恩返しとごっちゃになってるだろ。そうじゃねえ。ヴォルフさんはクラン【野良犬】のマスターだ。トップクランって訳じゃないが、中堅クランには時々トップクランから高い評価を受けるクランが現れる。【野良犬】がそうだ。PK行為が祟って【野良犬】を追放されたレイテッドくんですらヴォルフさんを悪く言ってるのは聞いたことがねえ。要は人徳よ。

 レイテッドくんの名前を耳にしたヴォルフさんが懐かしげに目を細めた。


「レイテッドか。あいつは一本気のあるやつだったよ。職人気質というかな。私とは少し考え方が違っただけで、信念があった」


 マゴットが謎の対抗心を燃やした。


「ネフィリアさんだってスゲーよ。意外と可愛いトコあるし」


 いいや、あいつはダメだ。俺は反論した。確かに可愛いトコはあるが、他人を陥れて楽しそうにしてるやつだからな。善良なプレイヤーを巻き添えにするような遣り口を俺は認めねえ。


「あんたさ、やっぱりウチに来る? ネフィリアさん、あんたがコロニー?作ったってスゲー怒ってたけど、嬉しそうにしてたよ。羊さんのトコに居るのは勿体ないって何度も言ってたし。コタタマめが、って。あんなの美味しんぼでしか見たことないよ」


 高次元なツンデレしてるんじゃねえよ。

 不肖の妹弟子よ、お前は騙されてるんだ。ネフィリアが惜しんでるのは俺の手腕だよ。俺とネフィリアが組めば内と外からMPKを仕掛けることができるからな。一人じゃできねえことも二人なら幾らでも遣りようがある。

 例えば、こんなことがあった……。

 俺は過去にクランに潜入してネフィリアが出るまでもなく俺一人でクラン内部の不和を招いて崩壊させた件を面白おかしく語った。

 あの時は笑ったな。潜入したクランはどうなったってネフィリアが聞いてくるからよ。もう崩壊したって言ったらキョトンとしてたよ。あいつは内部工作が苦手だからな。そこに来て俺なんかは見た目がこうだから割と好き勝手に動ける。しかし中には俺を警戒するやつも居てな。そういうやつをいかにして出し抜くかが内部工作の醍醐味よ。

 ま、今の俺じゃ無理だ。面が割れちまったからな。

 あれ、ヴォルフさんがドン引きしてる。


「君は一体どれだけの余罪を抱えているんだ……」


 昔の話です。俺は足を洗いましたからね。今では悪いことをしたなと……思ってはいませんが、先生の下で罪滅ぼしをして行こうと思ってるんですよ。具体的にはこう、カオスフレームを調整する感じで。俺は儚げに微笑んだ。

 マゴットもドン引きしている。何だよ。俺、集中砲火かよ。


「やっぱりあんたはダメだわ。陰険っつーか。ネフィリアさんと全然違う。ネフィリアさんはもっとスカッとしてる」


 はぁ? 何だそりゃ。俺はネフィリアに言われた通りにやっただけだぞ。ただ予想以上に事がうまく運ぶもんだから試しに煽ってみたら勝手に連中が自滅したんだ。躍起になって勢力を伸ばそうとしてるクランは隙だらけだからな。そこを突いた。俺だけが悪いみたいに言われたら堪ったもんじゃねえぜ。

 誤解してるようだから言っとくがな。俺が潰したクランはいわゆる悪行クランだったんだよ。俺は証拠を掴もうと潜入して、ただし大半は証拠が見つからなかった。連中もバカじゃねえからな。証拠なんざとうに隠滅していたんだろう。無実がどうかなんて潰してみなきゃ分からねえ。まぁ十中八九が冤罪だとは知ってたんだが。

 おそらくネフィリアは承知の上で俺を送り込んだんじゃねえかな。大型クランの依頼だと思うぜ。今になって思えば、ネフィリアは遊び相手が欲しかったんだろうな。【敗残兵】の邪魔になるクランを率先して潰そうとしていたふしがある。

 つまり俺は悪くない。悪いのはネフィリアだ。おっぱいめ。

 マゴットは憮然としている。


「ネフィリアさんカッケーし。あの人には、なんつーか、バラ……バラの……」


 華があるって言いたいのか?


「そう、それ。あんたにはないなー。やっぱ見た目なのかな? そのモブ顔やめたら?」


 やめねえよ。芸術的な出来だろ。


「えー? でもさー」


 しかしもかかしもねえ。俺の話はもういい。

 俺はヴォルフさんに話を振った。俺はヴォルフさんをリスペクトしたくて堪らないのだ。一人でもファンを増やしたい。そのためにアホの子を同席させた。

 ネフィリアはですねー。ヴォルフさん。【野良犬】について慎重なクランだって言ってましたよ。野心が見えないって。ああいうクランは土壇場で厄介な仕事をこなすから気を付けろって。

 ヴォルフさんは何とも言えない顔をした。


「光栄、と言うべきなのかな? まぁ不甲斐ない結果に終わったのだが」


 いいや、俺はそうは思っていない。【野良犬】はまだ終わっちゃいない。ヴォルフさんが居る。

 マゴットには、以前に本人が言っていたように人見知りの気があるようだ。それは経験不足から来るものなのだろう。こいつは安全地帯を見つけるのがうまい。ヴォルフさんの人となりを知れば懐くという読みがあった。

 ネフィリアが一目置くクランと知ってマゴットは興味を引かれた様子だった。

 

「【野良犬】かー。解散しちゃったの?」


「いや、解散はしていないんだが。メンバーに見放されてしまってね。残ったのは私一人なんだ」


 俺を挟んでヴォルフさんとマゴットの会話が始まった。良い傾向だ。


「マゴットさん。君はどうしてネフィリアの弟子に? 彼女は……こう言っては何だが、あまり評判が良くない。気分を害してしまったならすまない。だが事実だ」


「んー。ネフィリアさんはねー。私を助けてくれたの。私、あんまりゲームとかやったことなかったからさー。お約束とか全然分からなくて。街の外に出たらいきなりウサギさんが三匹出て来たからスゲーびびった。もうダメだーって思ったらネフィリアさんが助けてくれて。気付いたらウサギさんが一匹になってて。ネフィリアさんが魔法でバーッてやっつけたんだ」


 ネフィリア……。お前、まだそんなことやってたのか。俺、出オチはヤメロって何度も言ったじゃねえか。自作自演じゃねえか……。


「ネフィリアさんは何も言わなかったんだけど。なんか期待してる目で見られてー。あ、可愛い人だなって私思って。その時にね、この人だ!って思ったんだ。この人について行こうって」


 しかも見透かされてるじゃねえか。俺はネフィリアブランドを守るためにネフィリアたんのアホな所業をフォローした。


「……あいつは気紛れだからな」


 ヴォルフさんは多分それがネフィリアの自作自演であることに気が付いていた。ネフィリアについて少しでも見知っていたなら同じ結論に至るであろう。けれどヴォルフさんは微かに笑みを零してこう言ったのだ。


「そうか。ネフィリアは世間で言われているほど悪いやつじゃないのかもな」


 俺はとにかく話を逸らしたかった。ネフィリアブランドの失墜は俺の品位を貶める。これ以上マゴットの口からネフィリアさんの日常を語らせるのは危険だ。


「ネフィリアさんはねー。嫌なことがあるとすぐに不貞寝するんだよ」

「ヴォルフさんはタンクでな」


 俺は強引に割って入った。マゴットが食いついて来た。


「え? タンク? タンクって何?」


 なに? タンクを知らないのか? いや、あまりゲームをやったことないって言ってたな。じゃあそれが普通なのか。にわかゲーマーめ。仕方ねえ。

 俺はタンクについて解説してやった。

 タンクってのは戦車のことだ。要は敵の攻撃を引き付けて味方を守るプレイヤーのことだな。

 おっと、タンクの説明をする前に……。お前、MOBって知ってるか? 知らねえか。

 MOB。ムービングオブジェクトの略だと言われてるが、諸説ある。このゲームで言うところのモンスターだな。ゲームによってモンスターの呼び名は様々だからな。引っくるめてMOBって呼ぶのさ。

 で、MMORPGのゲームバランスはタンクがMOBの攻撃にどこまで対応できるかで決まるって言われてる。タンクの役割を排除したゲームもあるにはあるが、そうなると職ごとの特徴を出すのが難しくなる。

 例えば、魔法使いだ。魔法使いの特徴は火力の強さだろ。そのぶん耐久力は低いよな。タンクが居ないと魔法使いは自力でMOBの攻撃に耐えにゃならん。火力一点張りじゃ生き残れなくなるんだよ。

 だから妙な話になるが、ボス級のMOBの攻撃ってのは育ちきった魔法使いが即死しない程度に抑えられることになる。ダンジョンに潜るたびにいちいち死んでたらつまらねえからな。

 だが、ここにタンクが居たらどうだ? ボスの攻撃をタンクが身体を張って受け止め続けるなら運営側は相当な無茶ができる。何かしらのギミックを仕込むにしても、魔法使いの耐久力に基準を置かなくても済む訳だ。タンクとヒーラーが居ればパーティーを立て直すことはできるからな。

 マゴットは感心したようにヴォルフさんを見た。


「タンク、スゲー!」


 だろ?


「あれ。でも、このゲームだとそれってどうなん? 一発で死ぬじゃん」


 ちっ。小賢しい小娘だな……。

 俺は内心で舌打ちして力強く請け負った。


「タンクは滅びない。何度でも蘇るさ」

「いや死ぬし! 意味ねぇーだろ!」


 意味あるし! タンクを馬鹿にすんな! 俺らはメイン盾さえ来てくれれば勝つる時代を走って来たんだ!

 タンクを! 信じずに! 他に一体何を信じればいいんだよォー!

 席を立って荒ぶる鷹のように両腕を広げた俺をアホの子がぽかぽかと殴ってくる。


「感心して損した! 私の感心を返せ! 返せ! 大神聖ロリコン宣言って何だよ! スク水って何だよ! ガッコでチョー心配されたし!」


 うるせえ! 俺だって好きで宣言した訳じゃねえんだ! スク水だってなぁ! くそがーっ!


 吠える俺らをヴォルフさんがまぁまぁと仲裁する。


「分かった。分かったから。二人とも落ち着け」


 ヴォルフさん!

 俺はヴォルフさんに詰め寄った。

 この小娘にタンクの凄さを知らしめてやってくださいよォー! 


「分かった。やろう」


 えっ。提案した俺が意表を突かれた。

 しかし、あるいは。俺はこうも思う。タンクの誇りを小娘に踏みにじられ、怒りを覚えたのは俺だけではなかったのかもしれない。

 ヴォルフさんはグラスの水をぐっと飲み干して、たんっとカウンターに置いた。


「聞こえなかったかな? やろうと言ったんだ。ちょうど目を付けていた巣穴がある」



 2.スピンドック平原


 という訳で、俺とマゴットはヴォルフさんの先導でスピンドック平原にやって来た。

 お腹が膨れておねむになったマゴットの手を引いて俺は草むらに身を隠す。おら、しゃんとしろ。ヴォルフさんの勇姿をしかと目に焼き付けるんだ。


「もぉいいよぉ〜。あたし眠い……。あの人さっきから何か地面でごそごそしてるだけだしぃ。あたしなら魔法で一発だしぃ〜」


 分かってねえな。俺は肩に寄り掛かってくるアホを押しのけながら説明してやった。

 魔法は確かに強力だ。が、消耗が激しすぎる。となれば、重要になるのはどれだけ敵をまとめて倒すかだ。タンクとダメージディーラーのゴールデンコンビは有史以来決して崩れることのなかった最良の組み合わせだぜ。お前にとってこの経験は絶対に無駄にならねえよ。

 そう言われて単純なアホの子は少し乗り気になったようだ。ひょこっと草むらから顔を出して地面でごそごそやってるヴォルフさんを見つめる。


「ホントにぃ? そもそもさー。タンクなんて職業ないじゃんかー」


 まぁな。伝統的にナイトとかがそれに当たるんだが、このゲームの聖騎士様はアレだしな。魔法使いの耐久力に関しても飛び抜けて低いって訳でもない。種族人間は一律ゴミだ。

 だがタンクをタンク足らしめる要素は耐久力のみにあらず。むしろその本質はタウントスキルにあると言ってもいい。

 おっ、見ろ。始まったぞ。


 スピンは巣穴を掘ってそこを寝ぐらにする習性がある。

 ヴォルフさんが草むらに身を潜めた俺たちを一瞥して小さく頷く。準備は整った。タウントスキルの発動だ。

 地面からもくもくと上がった煙が風に乗ってスピンの巣穴に流れ込んで行く。


「えっ。何あれ。何してんの、あれ? あれってスキルなの? なんか違くない?」


 違くない。タウントスキルは人類の叡智の結晶だ。得体の知れない【スライドリード】なんかよりずっとスキルしてると俺は思う。

 ……おいでなすったな。

 泡を食って巣穴から飛び出してきたスピンがヴォルフさんに襲い掛かる。完璧だ。理想的なヘイトコントロール。

 襲い来るスピンの前足をヴォルフさんが身をひねって躱した。ハンマーでスピンを牽制しながら俺たちをちらっと見る。

 よし、マゴット。準備はいいか? ヴォルフさんがスピンを引き連れてこっちに来る。そしたらお前が魔法を撃て。お前のタイミングでいい。ヴォルフさんは歴戦のタンクだ。お前に合わせることくらい造作もないだろう。

 しかしマゴットは首を横に振った。


「えっ。私? やだ」


 えっ。なんで?

 まるで意味が分からなかった。俺が目を丸くして真意を問うと、マゴットはちらっと俺を見てもじもじし始めた。


「えっ……。だって、魔法使うと変な声出るし……」


 ……え?

 いや、そうね。そうだよね。

 あまりにも当たり前のことだったので俺は失念していた。

 魔法を使うと変な声が出る。それはそうだ。人間の身体は魔法を使えるようには出来ていない。

 それでも魔法使いが魔法を使えるのは相当な無茶をしているからだ。具体的には本来であれば人間に備わっていない力に頼っている。そいつを俺たちは魔力とかマナとか勝手に呼んでいるのだが、正式な名称は分かっていない。

 しかし俺はひょんなことから知ってしまった。

 魔法はレイド級ボスモンスターが持つ力である。普通のモンスターは魔法を使えない。

 それら二つの違いは何だ?

 称号だ。


(称号と職業は本質的には同じものだ)

(【戒律】は祝福であり呪詛でもある)


 魔力の正体は【戒律】だ。

 だから人間が魔法を使う時、呪縛の反動で解放の衝動が来る。


 マゴットはもじもじしている。

 俺はハッとしてヴォルフさんを見る。目が合った。俺は両腕を交差してばってんマークを出した。ヴォルフさんが悲しそうな顔をした。

 俺は草むらを飛び出した。目を使ってスピンの丸い尻尾を凝視する。ふりふりと揺れる尻尾に苛烈な戦意を叩き付ける。誘ってんのか!? ウサ公が!

 舐めるような視線に身の危険を感じたウサ公がハッとしてこちらを振り返る。俺はスピンの前足を掻い潜ってトマホークを叩き付けた。くうっ、なんつー筋肉してんだよ。刃が立たねえ。

 ヴォルフさんは戦士としても一流だ。しかしどんなに腕が立つ戦士だろうとモンスターに一対一で勝つのは困難を極める。例外はアットムくらいか。そのアットムですら一対二では厳しい。それほどまでにモンスターというのは素早く強い。救いがあるとすれば、モンスターにとって人間の脆さや鈍臭さは想定外であるということだろう。どちらかと言えば見た目はティナン寄りだからな。

 弱気になったら負ける。俺とヴォルフさんは猛攻を仕掛けるが、スピンはびくともしない。あまりにも非力すぎてスピンはびっくりしているようですらあった。

 近接戦では俺の目もあまり意味を為さない。見てから動いても遅すぎるのだ。スピンが恐る恐る突き出した前足が俺の腹を突き破った。ぐはっ。だがっ……!

 俺はトマホークを放り捨てて腹から生えたスピンの前足にしがみついた。俺の決死の抵抗などスピンにとっては大した障害にはならないだろう。

 だが俺のトマホークを拾ったヴォルフさんにとっては値千金の勝機になった。トマホークをスピンの急所に叩き付け、ハンマーでブッ叩いた。悲鳴を上げたスピンが俺たちに付き合うのは割に合わないと理解して逃げ去っていく。勝った……。

 力尽きた俺はその場に崩れ落ちた。


「コタタマくん!」

「こ、コタタマ!」


 ヴォルフさんとマゴットが駆け寄ってきて俺の手を取る。

 ああ、二人とも無事だったのか。良かっ、た……。俺は安堵したように微笑み、そっと息を引き取った。

 傷付き倒れた肉体を離れた俺の魂が天に昇っていく。


 ヴォルフさん……。

 俺が心で語り掛けると、ヴォルフさんがハッとして俺を見た。


「コタタマくん! すまないっ、私がっ……!」


 違うんですよ、ヴォルフさん。

 あの日、あなたは俺を許してくれたじゃないですか。

 俺、嬉しかったんです。

 謝れば許してくれるなんて、そんな夢みたいなことが俺にあるのかと思った。

 俺は、あなたと出会って救われたんだ。

 先生が特別なのだとばかり思っていたから。そうじゃないんだと分かって、俺は……。

 初めて、人間を信じてみようという気になった。

 だから……。

 泣くなよ、マゴット。これでいいんだ。これで……。

 強く生きろよ。お前は、俺のようにはなるな。


 俺の魂が白い雲に紛れて消えていく。

 

「コタタマー!」




 これは、とあるVRMMOの物語。

 おお、コタタマよ。死んでしまうとは情けない。



 GunS Guilds Online


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[気になる点] >そのアットムですら一対ニでは厳しい。 誤字 二がカタカナのニになっている
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