第Ⅺ章、Gun's Guilds Online(別に最終章ではない)
1.ムィムィ宙域
西暦2020年9月8日……
「こら待てー!」
宇宙でも稀な雑魚キャラ種族の警察に追われている。
UFOによるカーチェイスだ。
助手席のベムトロンが文句を言ってくる。
「いつもこうだ。もっとスマートにやれないのか?」
彼女は俺のギルドとしてのお師匠様だ。後ろになびく紫色の長い髪を手で押さえながらサングラス越しに俺を呆れたように見ている。
「クルマの趣味も悪い。なんでオープンカーなんだ」
俺らはゲーマーだからな。派手に行こうぜ。
俺はアクセルをベタ踏みしながらオーディオのスイッチを入れた。大音量で【目抜き梟】の新曲を垂れ流しながら宇宙空間をびゅんびゅんとカッ飛ばす。ハンドルをくるりと回して対向車を回避。
おっと失礼。通り過ぎざまにチュッと投げキス。ひと仕事終えた帰りなので俺はバンシーバージョンだ。宇宙は広いが、どこの星も大抵は女に甘い。男ってのは悲しい生き物だよ。どこの星に行っても好感度がマイナスからスタートする。
音に惹かれたか、セミくんが並走してきた。セミと言ってもセブンじゃない。同僚のギルドのほうだ。
よ〜お、鼓笛隊の。ちょうどいいや。懐かしくなって【目抜き梟】の新曲を買ったんだが、バラード系でね。ちょいと大人しすぎると思ってたトコなんだ。セッションしてくれや。
ジジジと鳴き声を上げたセミくんが黒い金属片でシンバルみたいなのを組み上げた。ジャンジャンと打ち鳴らして、ぐるりと回頭。俺とベムトロンを追ってくる雑魚種族のパトカーにスキル停止の音波を放つ。いいね、最高だ。
ベムトロンは迷惑そうに耳を塞いでいる。
「遊んでないで、さっさと落とせよ!」
あ〜? 今なンか言ったか?
俺は耳が遠くなったふりをした。
ベムトロンが俺の耳を摘んで耳元でがなり立ててくる。
「狙撃しろと言ってるんだ!」
おいおい、ベムさんよ。俺の流儀は知ってるだろ? 俺らは悪いコトしてるんだぜ。連中は悪いコトした俺らを追ってる。捕まりたくないから俺らは逃げる。そりゃ向こうが撃ってきたら応戦するが、俺ぁ〜殺しはやらねえよ。弱いものいじめは俺の流儀じゃねえからな。
……それは俺なりの生存戦略でもある。派手にやり過ぎると変身種族が出てくるからな。俺は自分よりも強い種族には手出ししない。権力者にも手出ししない。ターゲットにしてるのはいつも小金持ちの雑魚キャラだ。
しかしこのゲームにはスキルコピーというワザが用意されていて、雑魚種族だろうとバカげた威力の攻撃スキルを持っていることがある。
セミくんの音波をロールして躱したパトカーがキャノピーを収納した。
「止まりなさーい!」
弱い種族ってのは基本的に可愛い。小柄な婦人警官がパトカーの上に立って銃を構えるように俺を指差してくる。
俺は操縦席のふちにひじを置いて振り返った。嫌だよ〜ん。舌を突き出すと、小馬鹿にするようにピロロロロロと怪音波を放った。
婦人警官が顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。
「このっ……! 崖っぷち! 海賊ヤロー!」
助手席のベムトロンが処置なしとばかりにひたいに手を当てて上を仰いだ。
「すっかり有名人だな」
へっ、悪い気はしないね。崖っぷちってのは少し……イヤかなり気に入らないが、MMOは名を売ってなんぼだろ。
もっとも、それがのちにネックになることもあるし、そういう時は名を売ったことを後悔することになるのだが、俺の中で矛盾はない。いや矛盾があっても別に構わない。その場のノリと気分で俺は生きてる。そのほうが楽しいからだ。
そんなことを繰り返していたら気付けば俺はギルドになっていた。最高指揮官殿のワガママに振り回される毎日だ。あれが気になる、これが気になるだのと妙ちくりんな指令がバンバン飛んでくる。別に無視してもいいのだが、クリアすると経験値が貰えるので仕方なく付き合ってやっている。ウチの最高指揮官殿を盛り立てて行こうという気持ちも多少あり、多分軽く洗脳されている。
その点、ベムトロンは指令に忠実だ。根が真面目っつーか、他に行き場がないんだろうな。
さて、雑魚種族さんの攻撃スキルはどんな感じかな? 拘束するタイプのスキルなら嬉しいね。俺はそういう系統のスキル持ちを探してる。警察機構に所属しているプレイヤーなら期待できるんじゃないかと考えてる訳だ。
婦人警官さんが身をよじって色っぽい声を上げた。
「ふあっ……んうー!」
婦人警官さんの身体がパッと光り、四方八方に光弾が放たれた。【全身強打】の変形か? いや……。ドカンと俺のクルマに衝撃。とっとっとー。路肩に乗り上げたような衝撃にハンドルを取られ、慌てて車体を立て直す。ハンドルが取れた。ほう。そう来たか。
俺とベムトロンは顔を見合わせて、どちらからともなく肩を竦めた。
俺は無神論者だが、こういう時は神を信じるのも悪くないなっていう気分になるよ。
「こういう時って?」
神様をブン殴りたい時さ。
言うが早いか、俺とベムトロンはバッとUFOから飛び降りた。
ベムトロンの教えを受け、俺は以前よりも金属片をうまく扱えるようになった。
要するに発想の転換だ。以前の俺は金属片を「閉じる」方向にしか使わなかった。しかし大切なのは扉を潜って家の中に入るのではなく、家の外に出るという発想。「開く」という方向性なのだ。
そして金属片は使い減りしないのだから、ヒロアカのOFAよろしく常に使っていても別に構わない訳だ。
俺とベムトロンの身体が弾けるように四散し、黒い金属片となって宇宙空間に溶け込んでいく。ギョッとした婦人警官さんに、俺は苦笑して謝罪した。悪いナ。こっちはダミーだ。逃走中に入れ替わった。じゃな。
俺とベムトロンは金属片で構築した滑り台を落ちていく。
俺の隣を滑っているベムトロンが言う。
「ョレ宙域に入る」
ん? そうか。じゃあ久しぶりに寄っていくか。
そう言って俺は顔を上げた。
ナメック星みたいな緑色の惑星が見えた。
……今となっては何もかもが懐かしい。
フリオの兄貴とドンパチやったのが、まるでつい昨日の出来事のようだ。
帰ってきたぜ。
これは、とあるVRMMOの物語
てか出てったの先週じゃん。
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