聖戦
1.ポポロンの森-人間の里
聖騎士狩りだ。
「焼き払えー!」
サトゥ氏の号令を受けて【敗残兵】のクランメンバーが木造家屋に着火した。
焼け出されたアホどもをトップクランの猛者たちが次々と捕縛していく。
「本ボシを確認! 正面です! あっ、【心身燃焼】を使いました!」
「よし、手出しするな! 俺がやる」
正面玄関から出てきたアホをサトゥ氏が迎え撃つ。【心身燃焼】を使用したプレイヤーは一定時間が過ぎるまで回復効果が持続する。腕がもげようが数秒で生えてくる凄まじいまでの再生能力だ。
やけくそになってサトゥ氏に襲い掛かったアホが落とし穴に嵌まった。熟練の穴掘り師、サトゥ氏の技が光る。
間髪入れず二階の窓から飛び出してきたアホも穴に落ちた。窓から狩人が援護射撃を始めるが、仲良く穴に落ちたアホ二人を見て撤退を決めたようだ。すぐに顔を引っ込めるが、既にリチェット率いる別働隊が屋内に突入している。趨勢は決した。
焼け落ちていくクランハウスを背に、捕縛されたアホどもが地面に転がされた。尋問が始まるようだ。
野次馬に混ざって捕物を見物していた俺は、頃合い良しと見てひょこっと顔を出した。やあ。
サトゥ氏がびくっとした。
「こ、コタタマ氏。何故ここに」
いやぁ、さすがは【敗残兵】。討ち漏らしは居ないようですなぁ。お見事です。
俺はにこやかに【敗残兵】の手際を褒め称えた。
サトゥ氏。捕虜に関してなのですが、三名ほどお借りしても構いませんかね? お返しはできないと思いますが。二名で事は足りるのですが、なにぶんこう見えて慎重派なものですから。一応、予備にね。
「早くも具体的なビジョンがあるようだがダメだ! お前の遣り方は過激すぎるっ」
過激だなんてそんな。少しお話を伺うだけですよ。少しね。ただ、ほら。嘘をね、吐かれるとこちらとしても困る訳でして。ハイ。俺は歯列を剥き出しにして非道な行いとは無縁な平和主義者であることを強調した。
「ダメだダメだダメだー!」
サトゥ氏は一方的に会話を打ち切って本ボシの胸ぐらを掴んだ。
「正直に言えぇ! この場に居ない感染者は何人だ!?」
「ご、五人。いや六人だ」
本当かな〜? 俺が割って入る。六人って言ったよねぇ。本当に六人? 調べれば分かっちゃうんだよ? 大丈夫かな〜?
「は、八人くらい居るかもしれない!」
ふーん? それは一体どんな根拠があっての八人なのかな〜? 今からお前の手下どもに話を聞くが、大ボラを吹いていたと分かった暁にはどうなるか分かって言ってるんだよね? なあ? おい。
俺はなぁ、お前らが楽しそうに狩りしている間、ずっとお前らを見張ってたんだよ。びっくりするくらいつまんねぇ作業だったよ。お前ら、言ってたよな? 聖騎士うめえだの、準隊士やってるヤツはアホだのとよぉ。
だが、よく分かっただろ? おつむが軽かったのはお前らのほうなんだよ。俺らは多分もうマールマールには勝てねえ。
ト号案件。ジハードだ。
俺は青褪めるアホから目を逸らして赤々と燃えるアホどもの巣窟を眺めた。
結論はこうだ。俺たちは、まんまと運営の罠に嵌まった。もうどうにもならねえ。
2.ジハード対策本部
攻略組を始めとしたそうそうたるメンバーが会議を行っている。それなりに名が売れたクランのマスターには一通り招集を掛けたらしい。俺は先生に同行して会議に参加している。
対策なんて無駄だと思うがね。ほら見ろ。先生は早くも瞑想に入ってらっしゃるぞ。
ト号案件。
聖騎士の転職条件はゆるい。何しろ聖騎士がPKされる現場に居合わせたプレイヤーは全員がクラスチェンジの条件を満たすことになる。転職条件は複数あるんじゃないかと言われているが、それは本題じゃない。
厄介なのは、聖騎士がずば抜けて優秀な前衛職であるということ。単純に性能だけを比べたら、職位は同格である筈の準隊士に劣っている点が一つもないのだ。回復魔法を使える上に魔力の上限が高い。そのぶん【戒律】は厳しいが、聖騎士になるような人間は大抵が自分は他とは違う、ヘマをしないと考える。それはそうかもしれない。普段から気を付けていれば聖騎士のノルマを達成するのは難しくない。だが百人居れば二人か三人はミスをするだろう。ノルマの期限はログアウトしている間にもこく一刻と迫る。
会議は完全に行き詰まった。打つ手などないのだ。
聖騎士は強い。偶然にも条件を満たしたから一度くらいはクラスチェンジしてみようかというプレイヤーは多いだろう。しかし聖騎士の危険性は明らかで、しばしばPKの対象になる。PKする側も条件を満たすことになるが、自分は大丈夫だと考える。しかし目撃者が居ればそこからまた感染ルートが開いていく。
そして、この時もまた。
【警告……】
会議室に緊張が走った。
その中で、一人だけ動じていないプレイヤーが居た。温和な人格で知られる優男然とした戦士である。そう、戦士であると、彼は自己申告していた。だが。
優男がゆっくりと顔を上げる。彼は静かに泣いていた。それでいて笑っているような、統制が崩れた表情をしていた。
「仲間がPKされたんだ……。やったのは聖騎士だった。とどめは私が刺した……」
【強制執行】
【異教徒の粛清】
「モンスターよりも、人間に殺されるほうが悔しい……。奪われた装備は取り返せるとは限らない……。勝てる相手だったんだ。あの時、私が聖騎士だったなら」
それは、強制執行によるものだったのか。それとも彼自身の意思によるものだったのか。優男が同行している仲間の首を刎ねた。抜く手も見せない早業だった。
「ほら、こんなにも私は強いじゃないか」
【勝利条件が追加されました】
【勝利条件:聖騎士の殺害】
【制限時間:39.89…88…87…】
【目標……】
【聖騎士】【サタウ】【Level-15】
サトウシリーズ。しかもかなり音が近い。音が近いということは、おそらくは初日組だ。
サトゥ氏が吠えた。
「サタウッー!」
「アアッー!」
命の炎を纏った優男にサトゥ氏が迫る。同じサトウシリーズとして、せめて自分の手でと。
白刃が交差し、二度目の衝突でサトゥ氏が怪鳥のように飛び上がった。首を切り裂かれた優男が大きく目を見開く。血の海に倒れ伏し、安堵したように笑った。
「サトゥ。君は強いなぁ……」
それだけ言い残して優男は事切れた。
サトゥ氏は振り返らなかった。
瞑想していた先生がぱちっとつぶらな目を開く。
「感染は止まらない。止める手段がない」
先生……。本当にもうどうにもならないんですか?
先生は頷いた。
「プレイヤーのマナーが試される日がやって来た。ずっと先送りにしてきた問題と、ついに我々は直面することになる」
実際にその通りだった。
ト号案件に根本的な解決策などなく、俺たちは爆弾を抱えたまま攻略を進めていくことになる。
俺はサトゥ氏の肩を叩いて会議室の外に連れ出した。そうして二人で夜の街に消えていった。
これは、とあるVRMMOの物語。
鐘の音が聖戦の始まりを告げる。絶望と苦境が怨嗟の産声を上げるだろう。時代の寵児は血河を越えて新たなる秩序を築くか。それとも……。
GunS Guilds Online




