ギルドパワーレンタル社
1.山岳都市ニャンダム-ティナン姫の屋敷
歩兵ちゃんレンタル業を始めるにあたってマーマレードに話を通しに来ている。
まぁ念のためだな。
ティナンは歩兵ちゃんの豆鉄砲でどうにかなるほどヤワじゃないし、ティナンに害を為そうとするゴミどもは頭が破裂する仕様になっている。
まず問題はないだろう。第一、歩兵ちゃんが山岳都市に足を踏み入れるのは今に始まったことじゃない。歩兵ちゃんをテイムしたテイマーが普通に連れ歩いてるのだ。
とはいえ、ティナンの耐久実験などやったことがないので具体的なことは言えない。
なお、ネフィリアはネカマ八曜と会議中だ。俺は歩兵ちゃんの生態に関してあまり詳しくないので、そっちは分かる連中に任せている。餅は餅屋という訳だ。
まったく、俺っちはなんて気の利くやつなんだ。アットムくんを通してアポもちゃんと取ったし。そうよ、俺は気遣いのできる男。だのに、合法ロリ姉妹の姉のほうにイキナリ文句を言われた。
「勝手に建国などされては困るぞ」
お前はいつになったら俺をママと呼んでくれるんだ?
俺はマーマレードの言葉を無視して認知を迫った。そっちがそう来るならこっちにも考えがある。レンタル業の話は後回しだ。
同席しているアットムくんは腕組みなどしてうんうんと頷いている。
「殿下は意地っ張りだからね。そういうところが可愛いんだよ」
「お前たちは何を言っているんだ……」
急に挟み撃ちにされてマーマレードは戸惑っている。
「アットム。お前、コタタマが絡むと急に変になるぞ」
時効が成立したのか何なのか、現在のアットムくんは本名で活動しているようだ。
まぁなんだ。俺に言わせてみれば、アットムが変なのは元からである。ただしカモフラージュが非常に上手く、性的な目さえなければ実際にやっていることは小さな子供たちのために命懸けで戦うヒーローにしか見えないのだ。俺もカミングアウトを食らうまではちょっと怪しい程度にしか思っていなかった。怪しいというのはアレだ、育った女に対して無関心すぎて、ボーダーラインとなる対象年齢がイヤに具体的に見えたんだよね。
アットムくんの俺たちを見る目がやたらと優しい。
「いいなぁ、これ。すごく尊いよ」
へへっ、尊いのはこれからさ。意地っ張りの義理の娘がこの俺を家族の一員と認めて初めてママと呼ぶイベントが始まるぜ。この姫さんは素直じゃねえからな。出掛ける時にボソッと俺をママと呼ぶ感じなんだろ? 分かってるんだ、お前のやりたいことは。
俺は吠えた。
おら、マーマレードさんよ! お互い忙しいのは分かってる! 面倒臭ぇー遣り取りは抜きにしようや! どうすれば俺をママと認めるのか言ってみな!
「誰が認めるか!」
イイねぇ〜。そうこなくちゃな。しかし、こりゃあアレか? メープルのほうから先に攻略する感じか? いや、メープルは姉ちゃん大好きっ子だからな。マーマが折れればメープルも折れる。一石二鳥という訳だ。このチャンスはモノにしたい。時間の無駄は省きたい。
俺は外堀を埋めることにした。
溜息を吐いて続ける。
……マーマレード。あれから、ジョゼット爺さんとは上手く行ってんのか?
「お前には関係ない。親子の問題に口出しするな」
お前も爺さんの想いは見ただろ。爺さんはいざとなったらレ氏に挑んで死ぬつもりだったんだよ。お前に冷たく当たってたのは、お前に王位を譲るつもりだったからだ。爺さん亡きあと、お前が私怨に囚われないよう手を打った。その予定が狂ったのは俺らプレイヤーがこっちの世界に来たからだ。
この問題は解決してねえ。結局はレ氏次第ってことだよ。あのタコ野郎は、何しようとしてるのか、ちょっと読めねえ。どうやらお前らティナンを大切には思ってるらしい……。NAiのティナン贔屓はそこから来てるんじゃねえかと俺は思ってる。俺らの頭に爆弾を仕込むのは使徒の助けなしじゃ無理だろうからな。あれは【全身強打】と【心身燃焼】の合成魔法だ。
俺は、ティナン王という立場からマーマレードが無視できない話を振った。大人しく俺の話を聞いているマーマレードに内心ほくそ笑み、ボソッと付け加える。
家族も増えることだし。
マーマレードは目に見えて動揺した。
「そ、それは……話には、聞いているが……」
ここだ。
俺はマーマレードの勢いが完全に削がれた隙に商売の話をねじ込んだ。
そこで物は相談なんだが、そろそろ山岳都市に本格的にギルドを配置したい。プレイヤーはギルドの狙撃に対して無力だからな。ネフィリアには俺から話を通してある。さすがに無償でとは行かんから、生産職にギルドをレンタルして、いざという時に俺らがギルドの指揮権を行使する形だ。人間の里に関してはβ組のやったことで俺からは何とも言えんが……海上都市の李信馬准が得意とする電撃戦はあらかじめ山岳都市にギルドを配置しておけば確実に対処できる。とはいえ、だ。俺はそう言って人差し指を立てた。
問題点は幾つかある。一つ目は、ゴミの動きが読めない。生産職にギルドを貸し出すとは言ったが、そこは自己申告制に近いものになると思ってくれ。クラスチェンジというシステムがある以上、戦闘職を完全に押さえ込むのは無理だ。
中指を立てて続ける。
二つ目は上位個体の件。ネフィリアは上位個体を特別視しててな。一時は常設ダンジョンを封鎖するとまで言っていた。ギルドのレンタル業はその代案でもある。ダンジョンと山岳都市を行き来するギルドを増やして、上位個体に手出しをする戦闘職を牽制する。その何が問題か。事が事だけに、仮に何か問題が発生したとしてもレンタル業を急に停止することはできない。
つまるところ俺が知りたいのは、ギルドがティナンにとって脅威たり得るのか。その一点だ。どうなんだい?
マーマレードは悩んでいる。
「う、む……。アットム、どう思う?」
「……コタタマはティナン派のプレイヤーに好かれてるんですよ」
俺は思った。ティナン派のプレイヤーってロリコンとショタコンでしょ。そこ推されるの抵抗あるなぁ。
アットムくんが続ける。
「司会して欲しいプレイヤーのトップ10にも入っています」
俺は思った。そもそも司会やりたがるネトゲーマーなんてほとんど居ないんだよね。ついでに言うと俺は好感度調査したら多分ワースト10に余裕で入れる。
アットムくんが続ける。
「コタタマはティナンのために戦える男です。それは殿下もご存知の筈……。問題はネフィリアと彼女の下に付いている幹部ですね。どこまで信頼できるか……。そこを抜きに考えるなら山岳都市にギルドを引き入れる案は魅力的ですね。僕は、トップクラスのプレイヤーには勝てない」
マジュンくん辺りにしてみれば、アットムは押さえの利く駒だ。一対一は分が悪いと感じたなら他の強者をぶつければいい。
アットムくんの意見を聞いてマーマレードが決断を下す。
「……いいだろう。ただし条件がある。ネフィリアとGoatと不和を解消しろ。そこが一番の不安要素だ」
無理っす。先生はともかく、ネフィリアはそれが生き甲斐みたいなトコあるんで……。
「……では、コタタマ。ギルドの指揮権と言ったな……お前のそれを上げろ。ギルドの指揮官が山岳都市に現れたならどうなる? ギルドが一斉に寝返るだろう。しかし、その点に関しては目を瞑ろう。私たちに銃撃は効かない。撃ち殺されるのはお前たち冒険者だ。対冒険者用と割り切るなら、そちらの実効性を増したい。コタタマ。アットムと共に私の戦士となれ」
ママとは呼んでくれないのかい?
するとティナン王家の長女は鼻を鳴らして皮肉げに笑った。
「気が向いたらな」
……戦士、ね。要は家臣になれってことだ。
うまい落とし所かもな。俺は事態が切迫すると出しゃばる悪癖がある。俺がティナン王家の家臣となれば、俺の手柄を権威付けに利用できるという訳だ。マーマめ。こりゃあ、どうも最初からそのつもりだったのか。
ま、いいでしょ。俺はプレイヤーだ。家臣になったからって武家屋敷に出勤することになる訳じゃなし。肩書きだけ貰っておくさ。
そういうことになった。
2.山岳都市ニャンダム-露店バザー
マーマレードの許可が降りたので、正式に歩兵ちゃんのレンタル業務が開始された。
詳細は知らん。マナポの製造を禁ずるとか色々あるんだろう。国内サーバーの歩兵ちゃんはネフィリアの命令には逆らえないし、行動不能に陥ると自壊するので無理強いはできない。
他人に認められたいが、ずっと一緒だと苦痛に感じるネトゲーマーはNPCのレンタルに強い関心を示した。やはりソシャゲーの方法論は使える。時代の最先端を行くというのは、つまるところユーザーのわがままを聞き入れた結果でもあるのだ。
ギルドパワーレンタル社の設立である。
社長はネフィリアだ。俺は特別顧問という、なんだかふわっとした役職を与えられた。まぁ実際、俺は大したことはしてない。精々が売り子にネフィリアっトコの小娘どもを採用するよう提案したくらいだ。ゴミどもは何だかんだで女子供に甘い。リアルJCの小娘どもに「大切にしてあげてくださいねっ」とでも言わせておけば多少は悪さを控えようという気分になるだろう。
とはいえ、学校で教えてくれないことは知らない小娘どもではクレーマーには対応できない。ちょこまかと動き回る小娘どもの尻を眺めながら、俺は用心棒よろしくタルにケツを落として待機している。
マゴットがこちらを振り向いて助けを求めてくる。
「こ、コタタマ〜。もうちょっと安くならないかって」
死ね。俺はビッとレーザー光線を放ってクレーマーを射殺した。
値引き交渉には応じねえ。俺はクイと顎をやって手下に命じた。おい、お客さんがお帰りだ。お送りして差し上げろ。ネカマ八曜の部下が「へい」と威勢良く返事をして、かつて客だったモノの足をずるずると引っ張って通りに放り投げた。
クリケットが悲鳴を上げた。
「タマっち、やり過ぎっス! なんでそういうことするんスか!?」
空気を読まねえからだよ。他のお客さんが順番待ちしてるだろうがよ。俺は言い値で構わねえって言ってくれてる客を優先する。廃人じゃねんだからログイン時間には限りがある。
言うなり、俺はニカッと笑って揉み手を作った。バッと荒ぶる鷹のように両腕を広げて宣言する。
さあ〜お客様! ご安心ください! 当社は一切の値引き交渉に応じません! 何も時間を無駄に使う必要はない! 早ければ早いほどいい! 安売りなんてとんでもない! 我々はテイマーの味方です! ほんの少しでもテイマーの素晴らしさを伝えたい!
歩兵ちゃんのレンタル業などやっていれはテイマー職から突き上げを食らうのは目に見えている。だから味方を装う。当たり前の理屈だ。当然のことだから通りすがりの知らないゴミが野次を飛ばしてくる。
「おい、崖っぷち! 今度はどんなショーを見せてくれるんだよ!?」
「オメェーは商売がヘタクソなんだから無理すんなって! な?」
俺はググッと首に力を込めてカッと天を仰いだ。
黒い紋様が円状に放たれ、ゴミどもの戒律に干渉してバリバリと黒い火花が上がる。
種族人間の固有スキルに相手を物理的にどうこうする力はない。そして怒りや憎しみといったものは原始的な感情であるがゆえに煽りやすく、煽りやすいがゆえに手軽に扱えるアビリティとして多くのものに発現する。
挨拶代わりの殺意の伝播であったが、共鳴するかのように黒い紋様が連続して空間を波打つ。
なんだなんだなんだ?
俺はキョドッた。
今日のゴミは少し大胆だぞ? ゴミアビリティの応酬が止まらない。遠く隔てたゴミどもの怨嗟の声が聞こえてくるかのようだ。
歩兵ちゃんをレンタルして上機嫌のゴミが、ふと魔が差してそこら辺を歩いているゴミで試し撃ちした。
突然の惨劇に悲鳴が上がる。
勝手に山岳都市の治安を守る使命に目覚めたゴミがレンタルした歩兵ちゃんに狙撃を命じた。
ワートリの読みすぎで狙撃手の位置を特定したゴミがレンタルした歩兵ちゃんにカウンタースナイプを命じる。
報復が報復を呼び、戦う理由を必要としないゴミが次々と参戦していく。
血に染まった露店バザーに生産職が悲鳴を上げた。
しかし彼らは昨日までの彼らではなかった。戦う力を手にしていた。
アナウンスが走る。
【GunS Guilds Online】【Loading……】
レンタルした歩兵ちゃんが合体して巨大化した。
幾ばくかのゴミが矯声を上げ、直後に頭が破裂した。街中で攻撃魔法を使おうとしたのだろう。効果範囲内にティナンが居るとああなる。
死の連鎖が止まらない。
勝手に同士討ちを始めてバタバタと倒れていくゴミどもに子ティナンが悲鳴を上げて縋り付いた。
合体した歩兵ちゃんの巨体が迫る。
俺にはよく見える目がある。一連の事態は単なるボタンの掛け違いだと分かっている。
しかし大多数のゴミにとってはそうではなかったらしい。
子ティナンを庇うように覆い被さったゴミが吠える。
「俺はガンダムで行く!」
ならバンナムに許可取れ。
なに? レディプレ? この前、金曜ロードショーでやったからね。コイツらはホントにすーぐ影響されるな。自分ってモンがねーのか。
もっとも言うほどガンダムではなかった。
赤い光が地表を伝い、死出の門が咲く。
吹き上がった奈落の火が知らないゴミの表皮を焼き、剥ぎ取っていく。脱落した皮膚から覗くのは金属製のフレームだ。
知らないゴミの肉体が膨張し、内圧に耐えかねたかのように破裂して四散した。撒き散らされた血が熱く燃え、灼熱の軌跡を描く。
炎の輪郭は人の意思だ。意思だけでは何も変えることはできないから、【門】を潜ったプレイヤーは赤い部屋で眠る母体に問いをぶつける。このままでいいのか、いつまで眠っているのかと。
エンドフレームはプレイヤーの終点だ。
どのような過程を辿ろうとも結果は収束していく。
それは多分システムの限界を意味していた。人はいずれ死ぬ。変えられない現実というものが、この世にはある。
だから俺たちは過程をほんの少しでもマシなものにできるよう足掻くのだ。それが、たとえどんなに見苦しく無様であろうとも。
知らないゴミの叫びに呼応したかのように死出の門を潜って黒い金属片が結集し、瞬く間に組み上がっていく。
プレイヤーの最終形態、エンドフレームの雰囲気はギルドのそれだ。
一際強く輝いた双眸が赤い残照を引き、分離延長した腕の先端の五指がそれぞれ手斧のように変形した。
エンドフレームは戦うための存在だ。その手に何かを掴むことはできない。差し伸べた手は誰かを傷付けてしまうだけで、泣きじゃくる幼子の手を握って不安を和らげてやることすらできない。
命の火を燃やして決死の戦いへと赴く巨人が慟哭に似た雄叫びを上げる。
巨大化した歩兵ちゃんを操作しているのは生産職だ。戦いに不慣れな彼らはエンドフレームの威容に怯え、混乱して歩兵ちゃんに砲撃を命じた。
エンドフレームの片腕が吹っ飛んだ。
人を傷付けることに慣れていない生産職は恐慌をきたした。戦い慣れていないということは、力を振るった結果どうなるかも分からないということなのだ。ティナンにだけは当ててはいけないという思いもあったのだろう。歩兵ちゃんの腹から生えている砲口が連続して火を噴き、そのたびに相対するエンフレの装甲が吹っ飛び、身体が削られていく。
ゲーマーの人生は無価値だ。ただ無駄に浪費していくだけの人生だ。
それでも、もしも、意味を見出すなら。
NPCだけがプレイヤーの人生に意味はあったのだと保証してくれる存在だった。
モンスターとギルドは反発し合う性質を持っている。
それは相性が悪いということではなく、「力」の発露なのだとネフィリアは言っていた。
傷付けることしかできない粗大ゴミの指に子ティナンがしがみ付いて何か叫んでいる。頬を伝って流れる一滴の涙が、粗大ゴミの手のひらに落ちて弾けた。
子ティナンの胸の辺りから光が漏れ出す。
粗大ゴミが目を大きく見開いた。装甲が脱落して剥き出しになった眼球がギョロリと動き、操り人形のようなギクシャクした動きで立ち上がる。半壊した機体を引きずるように歩くと、特に損傷がひどい右腕をゆっくりと持ち上げた。
どこからともなく出現した黒い金属片が結集する。それらは分離、合体して俺たちがよく知る形を結んだ。
粗大ゴミは沈黙している。意識があるのか、ないのか。それすら分からない。
右腕を振り上げて、ブンと振るった。
身の丈ほどある黒い大剣が歩兵ちゃんを切り裂いた。合体が解けて、バラバラと地表に降り注いでいく。
粗大ゴミの機体が自壊を始める。
舞い上がった命の火を、ちびナイが虫網で捕らえていく……。
小娘どもは呆然としている。
俺は総評を下した。
「なかなか楽しいショーだったな」
これは、とあるVRMMOの物語
ピタゴラ市街戦。
GunS Guilds Online




