ハートフルVRMMO
1.マールマール鉱山-山中
「またモグラがこっち来てる!」
素敵な出会いがきっと君を待ってる〜。
「よ、様子がおかしいぞ!? リンクしたにしてはっ……!」
一人じゃない。力を合わせればどんな困難だって〜。
「こんなの無理だ! 逃げっ」
Life of the Life.Dreams come True.
「くくくっ……」
「!? ま、魔王だ! 魔王が出た!」
【本当】を探しに行こう。きっと【故郷】が見つかるよ〜。
「こ、攻撃が当たらない!」
「【スライドリード】だと! こ、コイツ生産職じゃ!?」
【待】ってたんだ。この【瞬間】を〜。
「ふははははははははは!」
【不運】なんかに負けないで。一緒に【踊】ろうよ〜。
「あっ、当たッた? 当たッた!」
…………。
「ごうっ、アアアアアアアアア!」
「き、傷が塞がっていく……」
どんなに傷付いたって負けないよ〜。
「聖騎士……! 感染源だ! こっ、殺せ!」
立ち上がるんだ。それが【絆】だから〜。
2.山岳都市ニャンダム
さて早いとこ鍛冶師に戻らにゃな。
やっぱり俺って生まれついての平和主義だからさ。戦闘職って肌に合わないんだよね。
といっても転職はそう一筋縄には行かない。お手軽に転職できたら一時的に戦闘職になって素材を集めたりもできちまうからな。このゲームはそういうところがやたらと渋い。
特にノルマがあるタイプの上位職を辞めるためには最低でも一回の査定を通らにゃならん。査定を落ちて無職になるのも手だけど、最短で転職するならノルマをこなしちまうのが一番早い。まぁそれはいいんだ。
いずれにせよ今すぐにという訳には行かないので、日課のクラフトができなくて暇になった俺は、俺の可愛い暗たまを呼びつけて一緒に遊ぼうと思い立った訳よ。
「師匠!」
ふっ、可愛いやつらよ。
「クリスマスイベント凄かったですね! 見ました!」
「参加できなくてゴメンなさい! 俺らクラスでパーティーがあって……」
ふ、ふーん。ま、まぁ俺もリアルの都合がなかった訳じゃないんだけどね。ほら、何つーの? あいつらが俺が居ないとダメだって言うからさ。どうしてもって頼まれちゃって。マジで?って俺。いや、でもリアルの事情がっつったんだけど、どうしてもって言われたからね。仕方ねーなって。うん。
まぁそれはいいんだ。あんまりひけらかすのもアレだしな。
にしても……。俺は改めて暗たまを眺めた。
……揃いも揃って野郎だな。こりゃあ紅一点が要るか。
俺がそう言うと、暗たまは円陣を組んでひそひそと内緒話を始めた。
「おい。こういってんって何だ? お前知ってる?」
「なんか聞き覚えがあるような……。あ、紅生姜? 紅生姜に近い。多分」
「マジかよ。紅生姜が要るってどういうことなの? あ、牛丼? 俺あんまり紅生姜とか使わない派なんだけど、大丈夫かな?」
待て待て。俺は割って入った。
紅生姜は大事だぞ。もしかしてお前ら牛肉とメシをバランス良く食べるタイプ? 女々しい真似すんなよ。牛丼は掻っ込め。
「師匠! でもそれだとメシが余っちゃうんです!」
そうだな。余る。しかもツユが染み込んでやたらと甘いメシがな。これが食べてると飽きて来るんだよな。そこで紅生姜の出番って訳よ。紅生姜で味を引き締めて食べるんだ。
俺が牛丼の食べ方を指南してやると、暗たまはおぉ〜と感嘆の声を上げた。
へっ。まぁ個人の好き好きはあらぁな。だからこそ色々と試してみるんだ。牛丼に限った話じゃねえぞ。チェーン店は自分の黄金パターンを模索しとけよ。いちいちメニューを見てるようじゃいつまでもアマチュアのままだからな。
よし、じゃあさっそく今日は俺の行きつけの店に……ってそうじゃねーよ! 紅一点! 紅生姜は関係ねえ!
俺が華麗なノリツッコミを披露すると、暗たまは再び歓声を上げた。
ふっ。いや悦に入ってる場合じゃねえ。マジかよ。紅一点を知らない人間が居ることにカルチャーショックを覚えたわ。
あのな、紅一点ってのは野郎の集まりに一人だけ女が混じってることだ。女って赤って感じだろ? 口紅のイメージなんだろうな。
俺が紅一点について解説してやると、暗たまは急にもじもじし始めた。
「女子っすか? でも俺ら、あんまり女子と遊んだことないし……」
「なんか面倒っつーか、何話していいのか分からねーし……」
そりゃあリアルで紅一点なんてオタサーくらいしか思い付かねーしな。けどゲームなんだし、そんな気にすることないだろ。女キャラなんてどうせネカマなんだからよ。
「えっ。そうなんですか?」
おう。だってお前、考えてもみろよ。仮にお前がリアル女だったとして、わざわざ女キャラ使うか? 男が寄ってきてウザいだけだろ。ゲーマーの九割は野郎だって聞いたことあるしな。
「あれ? でもクラスの女子はデフォルトキャラ使ってるって言ってたような……」
マジかよ。近頃のガキンチョは怖いものなしだな。
「そうなんスよ。なんか本場だとゲームはスポーツ感覚らしくて。俺らにはちょっと理解し難いっつーか、あいつら未来を生きてるっす」
はぁ。お前らにも色々とあるのね。まぁそれはいいや。話を戻すぞ。俺が紅一点とか言い出したのは、何もナンパしろってことじゃない。普通に女キャラのフレンドは作っておけってことだ。野郎オンリーで徒党を組むと男ってのは果てしなくアホになっていくからな。
考えてもみ? 仮にここでお前らの誰かが女風呂を覗きに行こうとか言い出したら止める理由がねえんだぞ? そりゃあマズイ。まぁ温泉マップとか今んトコないから事なきを得てるんだけどな。
「の、覗きなんてしませんよ!」
お前らは俺の弟子だ。まずその辺から考え方を改めにゃならんな。
学校じゃ教えてくれねえ真理ってやつだ。いいか。世の中、得するのは悪いことするヤツらなんだ。真面目に生きるってのは損なんだよ。当たり前っていう言葉に騙されるなよ。偉い人間は悪いことしても捕まらないから、そこに庶民が入って来るのは都合が悪いんだ。それが法律ってもんの正体だぜ。
とはいえ、リアルで悪いことしたら捕まるわな。当然だ。俺たちゃ別に偉かねえ。だが、これはゲームだぜ。ゲーマーに偉いも偉くもないもねえだろ。俺がお前らの師匠を買って出たのはまさにそこよ。俺はな、お前らのセンスを高く買ってるんだよ。とりあえず何しようかって時に、じゃあPKしようぜっつーセンスはそうそうお目に掛かれねえ。お前らは俺が言ったことを本能的に分かってるんだ。だからリアルじゃできねえことをしてやろうっていう考えに至る。
ま、その辺はおいおい考えていけばいいさ。焦って結論を出しても仕方ねえよ。お前らの結論を俺は尊重するぜ。たとえ俺の敵に回ったとしてもな、俺はお前らを全力で叩き潰すなんて真似はしねえ。そんなことしたらつまらなくなるからな。それは俺の流儀じゃねえ。願わくば、お前らも俺に手心を加えてくれることを祈るぜ。
「師匠……」
ふん。少し湿っぽい話になっちまったな。
師弟愛を深めるのも一興だが、そろそろ時間だ。おっ、来たな。さっきの話だが、実はお前らの紅一点についてはこっちで用意した。
「えっ。それってどういう……」
おーい。レイテッドくん。こっち、こっち。
俺がぶんぶんと手を振ると、赤い髪の女キャラが嫌そうな顔をして近付いてきた。
まぁ別嬪さんだ。怜悧な感じっつーんですかね。わざわざ不細工にキャラクリする理由がないからネトゲーの女キャラってのは大抵美人揃いになる。
レイテッドくん。俺の知り合いでは数少ないまともなヤツだ。
俺はレイテッドくんを暗たまに紹介した。
「こちらはレイテッドくん。俺のフレンドだ。お前らにとっては先輩にあたる。その筋では知られたPKerよ」
レイテッドくんは不満げである。
「……崖っぷち。俺がその筋とやらで知られたのはお前をキルした所為なんだが」
だから俺なりに責任を感じて暗たまに紹介してるんじゃないか。面が割れてやりにくくなったって言ってたじゃない? 俺さぁ、余計なお世話かもしれないけど、レイテッドくんはそろそろ腰を落ち着けたほうがいいと思うんだよね。
「お前が魔女の右腕だと知ってたら絶対に手出ししなかった。くそっ、なんなんだ。ダンジョンの奥で生産職が護衛も連れずに一人でツルハシ担いでたら誰だって殺そうかという気になるだろっ。ネギ背負ったカモが居たと思えばネギ持ったオメガだった! どんな罠だっ、一体!」
まぁまぁ。その節はどうも。派手にリベンジしてゴメンね。あと俺はオメガじゃありません。どちらかといえば初音ミク寄りじゃね?
おっと、いけない。俺の可愛い暗たまが所在なさげにしている。
もうお分かりかと思うが、レイテッドくんはネカマだ。堂々としたもんだろ。こういう、自分がネカマであることを隠そうともしない人は割と多い。
しかしレイテッドくんには一家言があるようだった。
「崖っぷちの弟子だというなら隠しても仕方ないから言うが、俺はPKerだ。見た目が女のほうが標的の油断を誘いやすいんだよ。普段からこうじゃない。パーティーに潜入する時なんかはもっと演技する」
レイテッドくんはソロで活動してる腕利きなんだぜ。死の閃光なんて呼ばれてるんだぜ。凄いんだぜぇ〜。
「俺が死の閃光とか呼ばれてるのはな、崖っぷちよ……。お前んトコの頭おかしい女に粘着されて暗殺され続けたからだ」
そう、なのですか……。それは、何だか……ゴメンなさい。ウチのポチョりんがご迷惑を……。
……さ、気を取り直して行こう。俺は暗たまを手招きして、円陣を組む。
聞いての通りだ。レイテッドくんはお前らと同じ悲しい過去を持つ。俺はな、レイテッドくんにお前らの隊長になって貰おうと思ってるんだ。腕は確かだし、互いにとっていい話だと思うんだよ。ネカマって分かってればお前らも気が楽だろ?
暗たまはうんうんと頷いた。素直なヤツらだ。何だかんだ言って見た目は美女なレイテッドくんと一緒に遊べると聞いて悪い気はしていないらしい。
よし、話しはまとまった。レイテッドくん……。
俺が振り返ると、そこにレイテッドくんの姿はなかった。
「なん……だと?」
そんなまさか。嘘だろ……?
俺はゆっくりと首をひねっていく。
そこには民家の壁に磔にされたレイテッドくんの姿が。
死の、閃光……。
暗たまが悲鳴を上げた。
俺はゆっくりと首を戻していく。ぽん、と肩を叩かれた。
「新しい女か? ん?」
ポチョさん。
これは、とあるVRMMOの物語。
ポチョさん。
GunS Guilds Online




