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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
423/965

セブンとコタタマ

 1.クランハウス-居間


 ぶっちゃけた話、俺は言うほどメルメルメに関心がない。

 フレンド解除? スゲーな。ほーんってな具合だ。

 よってサトゥ氏に丸投げした。

 フレンドリストなんざ何ならロストすりゃリセットできるしな。俺が心の底からスゲー!って思ってる情報なら普通に独占するわ。

 俺が一番関心があるのは、先生とアットムくんとウチの三人娘の発育具合だ。それ以外にはあり得ない。

 という訳で、寂しい思いをさせた赤カブトの身体を撫で回している。でへへ……。で、どうだったんだよ? 俺が居ない間にちゃんとレベル上げしてたか?

 赤カブトは元気に頷いた。


「うん! あのね、ペタさん。私、もうポチョさんスズキさんと同じレベルなんだよ。レベルが上がる時にちょっと時間差があるかなーくらい!」


 おお、そうかそうか! いやぁ、留守にしてゴメンな。ホントはお前も連れて行きたかったんだけどよ、正直俺はお前とペヨンをあんまり近付けたくないんだよ。国によってαサーバーの立ち位置は全然違うからなー。ただ、まぁそろそろだな。そろそろお前の妹たちを目覚めさせようかと思ってる。


「……ん?」


 俺ぁーよ、ジャム。幸運な男だよ。レ氏の意向なのか何なのか知らねーが、お前と出会えた。お前が俺と仲良くしてくれてるのは、やっぱり最初に会ったからだろ。そこは覆らないと思ってる。お前は真面目で明るいからな。大抵の奴らと仲良くやって行けるだろう。

 で、だ。今後、お前の邪魔になるのはお前自身の希少性なんだよな。俺はそう思う。そいつを薄めるためには仲間を増やせばいい。俺はずーっとそう考えてた。つまり遺跡マップに眠るお前の妹たちを目覚めさせればいい。

 分かりやすく言うとな。遺跡マップのメカドラゴン。あれは本来、お前らの乗り物なんだよ。マジュンくんがメカドラゴンを使って山岳都市を襲撃したろ。あれはつまり操縦者がプレイヤーだったってことだ。

 召喚術師のカレシを使ったんだろうな。まぁ詳細は省くぜ。説明が長くなる。

 ただ、サトゥ氏とセブンは何か知ってる筈だ。俺はこれからセブンに会いに行く。

 赤カブトは首を傾げている。


「え? え? 全然分かんないけどダメだよ。セブンさんって。ペタさん死んじゃうよ!」


 ジャム。お前と話してよく分かったよ。

 アイツらはお前に何も言ってないんだな。


 そう言って俺は目口さんぬいぐるみを頭に被った。肌にぴったりと張り付く黒タイツを摘んで引っ張ってシワを正す。種族人間の戦闘服だ。勝負服と言ってもいいかもしれない。鼓膜をカバーしてくれる上に特別な所有権を極限まで攻めているため、下手な鎧よりも丈夫だ。


 セブンに会いに行く。

 サトゥ氏の裏を掻くにはそれしかない。



 2.ワッフルの巣


 ぢょんぢょんぢょんぢょん……

 ブーンたちが合唱している。


 ザッと巣に降り立ったセブンがチラリと周囲を見て言う。


「チャンネル操作……。俺に何か用かよ、崖っぷち。その服」


 ここなら邪魔は入らない。

 セブン。俺につけ。


 セブンはつまらなそうに鼻を鳴らした。

 巣の縁まで歩いてきて俺の横に並ぶ。


「ちったぁマシになったか。ジャムの件か。……そうか、気付いたか」


 なんで黙ってた?


「そこだよ。お前は身内に甘ぇ。αテスターは俺たちがコントロールする」


 思ったより素直に喋るんだな? サトゥ氏の命令か?


「サトゥは俺にそんな細々としたことはいちいち言わねえよ。まぁそんなことはどうでもいい。俺の要求は一つだ」


 αテスターの隠れ家か?


「いいや、レベルだ。崖っぷち。レベルを上げろ。ロスト癖を直せ。戦力になれ」


 ……そう来るのか。

 俺は眉をしかめた。交渉を試みる。

 待てよ、セブン。お前はαテスターをコントロールしたいんだろ? 今そう言った。αテスターの隠れ家に入れるのはジャムジェムだけだ。アイツはお前らを隠れ家には連れて行かねーぞ。


「αテスターはジャムだけじゃねえ。何を言っても無駄だ。俺は折れねえよ。いいな。レベルを上げろ」


 それだけ言ってセブンは俺に背を向けた。ワッフルの雛たちの元に歩いていく。あんぐりと口を開けている雛のくちばしに手を掛けて、半ば頭を突っ込みながら最後に一度だけ振り返ってこう言った。


「ディープロウのレベル制限は80だ。ジャムに余計なことを言うな。ぬか喜びさせるな」


 ……何だそれは。何でそんなことが分かる。お前らは一体どこまで……!

 セブンは答えなかった。

 教える義理などないと言わんばかりに雛に丸かじりされて死んだ。

 くそっ……! ああ、そうかよ。αテスターのトップエース、ジュエルキュリのレベルは73だった。レベル制限。ディープロウには……なれないのか。

 そうだ。俺たちは何度も答えを見ていた。

 αテスターたちを完全に目覚めさせるにはディープロウの号令が要るのか。モョ%モ氏とNAiがそうしたように。

 だが……。一目だけでも会わせてやることはできる筈だ。

 ジャムジェムは俺のカレシに憑依したことがある。召喚術師をαテスターの隠れ家に連れて行けば……。

 俺の脳裏をアンパンくんの能天気な声が過った。


(俺、薬剤師じゃないよ。このたび召喚術師にクラスチェンジしました)


 …………。

 いや、アンパンはない。アイツを隠れ家に連れて行くなんてとんでもない。

 くそっ、俺は! ジャム!

 俺は、ちょこちょこと寄ってきたワッフルの雛のくちばしに手を掛けた。あ〜んした雛の口に頭を突っ込みながら吠える。

 ジャムっ、待ってろよ。俺が……俺が何とかしてやる!


 リビングアーマーには操縦者が居る。

 そいつはスライムに近いらしい。

 ジャムジェムは、俺のカレシに憑依したことがある。

 αテスターは謎の発光物体に干渉できるのだ。

 そして謎の発光物体はスライムと似ている。

 おそらくメカドラゴンの開発者はαテスターだ。

 そこまでは分かる。

 しかしリビングアーマーの正体が分からない。

 謎の発光物体と何か関係があるのか?

 どうしてαテスターは謎の発光物体に干渉できるんだ?

 サトゥ氏とセブンは何か知っている。

 かつて山岳都市に攻め込んできたメカドラゴンを墜としたのはアイツらだ。

 ぬか喜びさせるなだと?

 違う。違うぞ。そうじゃない。


 ワッフルの雛の口腔にちらつく炎が俺の歯列を照らして鮮烈な輝きを放った。

 

「αテスターを支配するのは、この俺だ」


 雛のくちばしがゆっくりと閉ざされた。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 とめどもなく加速していく下心……。



 GunS Guilds Online


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