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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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新規購入特典:ョ%レ氏のカイワレ大根育成日記

 こんばんは。

 ョ%レ氏だ。

 マネージャーの櫻井くん。メールで失礼するよ。

 先日の酒の席での件だ。君は覚えているかな? 大層酔っていたようだから覚えていないかもしれないな。

 君は私にこう言ったね。このョ%レ氏に人を育てる大変さなど分からないだろうと。こうも言ったね。いつも一人でぶらぶらしているこのョ%レ氏に中間管理職の苦しみなど分かる筈がないと。

 よくも大口を叩いたものだ。あの日、確かに私は無礼講だと言ったがね。社交辞令に決まっているだろう? 社会人なのだから弁え給えよ。

 ここまで読んで君はこう思っただろう。また始まったぞと。ああ、またねちねち言われるんだとうんざりしたことだろうと思う。

 その通りだよ。生憎と私の頭脳は君たちのそれよりも少々出来が良くてね。寝て起きたらコロッと忘れるようには出来ていないんだ。

 それで、私は君に言われたことをずっと気にしていたのさ。櫻井くん。君が君の上司からクリスマス商戦とやらに向けて新規購入特典の限定品を私から何としてでも貰ってくるよう言われた次の日からずっとだ。

 すまなかったね。今だから明かすのだが、君から幾らせっつかれても私が限定品を出し渋っていたのは、君の無礼な態度に起因するものなんだ。

 口は災いの元という言葉を知っているかな。櫻井くん。君は君の部下にこのョ%レ氏が物臭なのだと当たり散らしていたようだが、そういう訳なんだよ。君ね、部下には謝っておき給えよ。

 少し前置きが長くなってしまったな。本題に入ろう。人材育成の件だ。

 櫻井くん。君の言葉を借りれば人格が破綻しているこのョ%レ氏は他人から見下されるのが我慢ならないタチでね。あれから色々と考えたのだが、知っての通り私は多忙の身だ。人材育成も何も下等な猿に構っている時間はないんだよ。

 そこで私はカイワレ大根を育ててみることにしたのさ。私ほどの%からしてみると、下等な地球人類とカイワレ大根に大差はないのでね。

 櫻井くん。つまり君が限定品、限定品と喚いている間、私はカイワレ大根を育てていたということになるね。本当に申し訳なく思うよ。

 これはその日記だ。刮目し給えよ。



 一日目


 マネージャーの櫻井くんがこの私に暴言を吐いた。酒の席での事とはいえ、許されることではない。このョ%レ氏の手腕を疑うとは。ヒューマンめ。

 そもそも仕事とは一人で行うものだ。他人の手を借りるなど自分は無能ですと吹聴するに等しい。人材育成だと? 下らん。

 仮に下等な猿を雇ったとして私の何を手伝えるというのか? 私の手を煩わせるだけであることは火を見るよりも明らかだ。

 そこで私はカイワレ大根を育てることにした。聞けば、日本人は初等教育においてカイワレ大根の育成を課程に組み込むことが多いらしい。ヒューマンにできて私にできないことはない。立派に育て上げてみせようではないか。

 私は入手してきたカイワレ大根の種を培養液に浸すと、社内の窓より地球を眺めた。まるで夜空に浮かぶ青い宝石のようだ。この星は美しい。豚に真珠とはまさにこのことだ。

 私は宇宙にぽっかりと浮かぶ地球を肴にワインの封を切った。ビンテージもののロマネコンティ。一流の%は嗜好品に対しても一流であることを求める。


 

 二日目


 カイワレ大根の種が枯れた。

 社内の環境に適応できなかったようだ。しょせんこの程度なのか。私は失望を隠し切れなかった。

 やはり下等な地球人に期待をするのは間違っているのか。私は計画の中止を本社に具申するべきかと悩んだが、もう少し様子を見てからでも遅くはないと考え直した。

 適応できないというなら、このョ%レ氏が自ら手を加えれば良い。惰弱なカイワレ大根でも決して見捨てはしない。まるで私は理想的な上司そのものだ。

 私は品種改良したカイワレ大根の種を培養液に浸して、船で地球に降りた。今日はサン・ピエトロ大聖堂に向かうとしよう。

 ミケランジェロのピエタ。見事だ。芸術とは空間との調和なのだ。映像や写真では決して得られない感動がある。

 一流の%は芸術を知る。



 三日目


 マネージャーの櫻井くんが限定品、限定品と喧しいことこの上ない。そう焦らずとも限定品など一時間もあれば用意できる。私を誰だと思っているのか。下等な猿と一緒にするなヒューマンめ。

 新たな生命が誕生した。カイワレ大根だ。培養液を這い出してきたカイワレ大根を私は歓迎する。一目で私を創造主であると判別したらしく、よく懐いてくる。ヒューマンよりもよほど賢いではないか。今日ほど自分の才能を恐ろしいと思ったことはない。【NAi】は傑作ではあるが、いささかティナン贔屓が過ぎる。

 この日はカイワレ大根と過ごして一日を終えた。



 四日目


 カイワレ大根に愛着が湧いてきた。

 このョ%レ氏にこのような感情があるとはな。いささか驚いている。

 よし、君は今日からマレと名乗るがいい。

 私はマレと名付けたカイワレ大根を包丁で卸した。やはりカイワレ大根は食してみないことにはな。

 私はマレを食した。

 辛い。

 辛いぞ。どういうことだ……。

 ヒューマンめ。このョ%レ氏を謀ったな。どうやら愚かな人間どもは栄光ある%に恒星間戦争を仕掛けてきたようだ。一度痛い目を見なくては彼我の戦力差すら量れないのか。私は会社の主砲を地球へと向けた。

 しかし私には撃てなかった。この星は余りにも美しすぎる。

 一流の%は慈悲を知る。



 五日目


 カイワレ大根は料理の付け合わせに用いられるようだ。なかなかどうして奥が深いではないか。ヒューマンめ。

 私はカイワレ大根の大量生産に着手した。だが、ここで想定外の事態が起こった。

 カイワレ大根が高度な社会を形成し、創造主たる私を社内に監禁したのだ。彼らは地球人類を敵視しており、私の代行者として地球を制圧する計画を立てている。

 このョ%レ氏の優秀さが仇となったか……。


 マネージャーの櫻井くん。私はこれよりカイワレ大根との戦争を始める。危険思想に染まった彼らを根絶せねばならない。

 ここまで読めば、優秀な櫻井くんのことだ。お分かりだろう。


 私は、新規購入特典の限定品について期日には確実に間に合わせると言ったな。一時間もあれば用意できるとも言った。


 しかし世の中に絶対ということはない。良い教訓になったな。これを励みに今後とも精進してくれ給え。


 親愛なるョ%レ氏より。

 忠実なるマネージャー櫻井くんへ。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 社命が下りて発行して販路に乗せた。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
[良い点] サラッと地球滅びかけてるの面白すぎる。
[気になる点] このくだりもVR内って事なんだろうか 少し前にあったVR内でVRってのが本質なのか何とも [一言] わざわざ自分の失態をデータで送って良いように使われそう
[一言] 日記晒されて"発狂"という感情を覚えそう。
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