放送事故
1.クランハウス-居間
先生は和の心を持つ人だ。
日本ってのは妙な国で、不法侵入を咎める刑罰がある癖に玄関の鍵を閉める習慣が徹底していない。客人をもてなす気持ちの表れなんだろうが、俺からしてみればいささか無用心じゃないかとも思う訳だ。
つまり何が言いたいかっつーと、そろそろマジで戸締りはキチンとしたほうがいいんじゃねーかってことだ。
「…………」
勝手にウチに上がり込んだアホがこそっと俺を見つめている。どこの不審者かと思えば俺を独房にブチ込んだ張本人じゃありませんか。
サトゥ氏である。
こういうアホが居るからマジで玄関の鍵は閉めるべきだと思うんだよな。でも鍵閉めてると先生が悲しそうにするからなぁ……。結局は俺がアホの対応をするしかないのか。
仕方ねえ。俺は溜息を吐いてアホに声を掛けた。
「やい、そこの不審者。何の用だ」
しかしサトゥ氏はひねくれた野良猫みたいに警戒した眼差しを俺に向けたまま動こうとしない。
……なんなんだよ。しまいには先生に言い付けるぞ。俺がそう言うと、ようやくサトゥ氏は俺と意思の疎通を図ろうという気になったらしい。ぼそりと呟く。
「……怒ってない?」
ん? ああ、俺を独房にブチ込んだ件か。
怒っちゃいねえよ。しょせんゲームじゃねえか。そりゃあむかっ腹は立ったが、いつまでも引きずっても仕方ねえだろ。いいから、とっとと用件を言えよ。
「いや、コタタマ氏の感性は少しおかしいよ。VRでそこまで割り切れるのはおかしい。本当は俺のこと恨んでるんでしょ?」
しつけえな。殺すぞ。さっさと入って来い。
「ほら! 今、殺すって言った! やっぱり恨んでるんだ!」
恨んでねえって言ってんだろ殺すぞ。
「ちょっ、もう軽く語尾みたいになってんじゃん! あぁ、もう本当にコタタマ氏は口悪いわ……。こんなで本当に大丈夫なのか……?」
あ? 大丈夫って何だよ?
含みのある言い方に俺が突っ掛かると、観念して居間に入ってきたサトゥ氏が俺の向かいに座る。そして出し抜けにこう言った。
「コタタマ氏、ウチの生放送に出演してみない?」
嫌だね。俺は断った。
生放送というのはゲームのプレイ動画をリアルタイムでネットにアップするあれだ。サトゥ氏が率いる【敗残兵】みたいに大御所のクランともなると、広告も兼ねて定期的に生放送している。
なお、このゲームの動画は正規の手段では外部には持ち出せない。データの圧縮形式が異なるのではないかと言われているが、真相は謎だ。
ではどうやって生放送をするのかというと、ハードの血圧計もどきに納まっている謎の発光物体に端子を差し込むのだ。そのまま二、三日放っておくと、スマホならスマホ、パソコンならパソコンに変な角が生えてくる。角に付着している粘液を拭き取ると得体の知れないアプリがダウンロードされるので、そいつを起動すれば一丁上がりという寸法だ。
まぁ俺はやったことないがな。個人情報とか確実に抜き取られてそうだし、そもそも不正だ。少なくとも運営は外部へのデータの持ち出しを許可していない。その割にはティナンが映った画像にはキッチリと検閲が入ったりするのだが。
そりゃあ興味がないと言えば嘘になるけど、さすがに角はなぁ。角が生えたスマホを持ち歩くのは生理的な抵抗があるわ。ていうか普通に邪魔だろ。いや邪魔っつーか角って。もうね、リアクションに困るんだよ。困るとしか言いようがない。
ところがゲームに人生を捧げた廃人にとって角は大事の前の小事でしかないらしい。
まず間違いなくスマホに角が生えているであろうサトゥ氏は折り目正しく頭を下げた。
「そこを何とか! この通りだ!」
そう言われてもな……。
本来なら【敗残兵】の生放送に出演するというのは光栄なことなのだろう。このゲームのデータを外部で加工するのは不可能なので、身バレする心配は無用ということも知っている。俺とて人並みの顕示欲は持ち合わせているのだ。出演して黄色い声援を浴びるのはさぞや気持ちのいいことだろう。
だが、俺である。俺なのだ。もはや説明は不要であろう。まず撮影自体が可能なのか?とすら思う。確実に野次馬の茶々は入るだろうし、石持て追われる事態すらあり得る。それほどまでに、談合というのは妬みを買う行為なのだ。
無理でしょと簡潔に述べる俺に、サトゥ氏が食い下がってくる。
「撮影は極秘に行う。不測の事態はあるだろうが、クラン総出でカバーするつもりだ。具体的には近寄るヤツらは殺す」
目がマジだよ。怖えよ。
そこまで俺の出演に拘るのは……【目抜き梟】か?
「ああ。ウチは戦力で言えば間違いなく最大手だ。にも拘らず首位独走できてないのは、やっぱり広告面で負けてるからだと思う」
そうだろうな。俺は肯定した。
【目抜き梟】は、国内サーバー最高峰の魔法使いが所属しているクランだ。構成メンバーはリアル女性のみという触れ込みでアイドルグループみたいになっている一点突破型のクランであり、完全に妙ちくりんな方向性に突き進んでいる。
いかな攻略最前線をひた走る【敗残兵】といえど、むさ苦しい野郎どもが超絶技巧を披露している限り勝ち目はないと断言できる。何をトチ狂ったか握手券を配布している場合ではない。
「握手券に関しては、俺は失敗とは思ってない。ただ、純粋にキツかった」
長蛇の列をマッチョが成したからな。正直、あれは少し面白かった。
「マッチョはもういい。これからの時代の最先端を行くのは魔王。そう、コタタマ氏……お前だ!」
無理やり組み込むんじゃない。だから嫌だっつーの。確実に罵詈雑言の嵐だろ。気になってどうしても見ちゃうだろうから俺の繊細なハートが保たないんだよ。
「それで本当にいいのか! コタタマ氏! お前は今が旬なんだぞ! 今売り出さないでいつ売り出すんだ!」
未来永劫売り出さねーっての。
ん? いや、待て。売り出しか……。
なあ、サトゥ氏。物は相談なんだが、俺のイメージアップ戦略というのはどうだろうか。
「無理だ!」
言い切りやがったな。だったらこの話はナシだ! 帰れ!
「待て! 検討する!」
サトゥ氏は検討した。
「……いいだろう。だが条件がある」
何だ。言ってみろ。
「ウチとしては視聴者のニーズに応えたい。つまりお前の暗黒面を前面に押し出していきたいと考えている」
言いたいことはそれだけか?
「焦るな。お前はお前のA面を出したい。ウチはB面を出したい。これは一見すると決して並び立たないように思えるが、しかし勝負としては成立している」
言いたいことは山ほどあるが、続けろ。何が言いたい?
「ロングインタビュー形式にしてみてはどうかということだ。俺たちが自信を持ってお送りする刺客にお前がボロを出さなければお前の勝ちだ」
なるほどな。刺客か。それは構わねえが、一体誰を寄越すつもりなんだ?
「今、俺の油断を誘おうとしたな。コタタマ氏、俺はお前を決して侮らない」
まぁ待て。確かにお前の言い分は分かる。刺客とやらに俺が前以って接近するのを警戒してるんだろう? だが、生放送に脚本は不可欠だ。俺がうっかり放送禁止用語を連発したらどうしてくれるんだ?
「その時は共に闇に沈むまでだ。俺は生半可な覚悟でこの話をお前に持って来ちゃいない。むしろ反対した。だが、リチェットがどうしてもと言う。あいつは、お前に残された最後の良心を信じているんだ」
お前を殺したいが、いいだろう。脚本なしの一発勝負という訳だな? 改心した俺の底力を見せてやる。
「本当に改心したなら底力を見せる必要はないと思うが……決まりだな。精々クソつまらない生放送にするといい。日時は追って伝える」
ハッ、ほざけ。その日がお前の命日になるだろう。首を洗って待っているがいい。
俺たちは互いに睨み合い、ニヤリと笑みを交わした。
2.生放送当日-スピンドック平原
撮影の舞台に選ばれたのはスピンドック平原であった。
まぁ想定内だ。ティナンが映り込むとその時点で映像は途絶する。
選択肢は二つ。良い子のティナンがおねんねする夜の街か、野外ロケのいずれか。あえて野外ロケとしたのは、勝手に俺との約束を取り付けたサトゥ氏がクランメンバーに叩かれ、せめてMPKの体験講座を設けるよう泣きが入ったからだ。
別にそれくらいは構わないので俺は承諾した。MPKは俺の生命線と言ってもいい技術ではあるが、勝手に真似してどんどん死ねばいいと思っている。
一つ問題があるとすれば……。
「…………」
俺の隣に立っている黒尽くめは一体何のつもりなのか。
どこに出しても恥ずかしくない邪神教徒であるが、頭巾から栗色のポニーテールがにょきっと伸びている。
コイツ、絶対にアンパンだろ。中途半端な仕事しやがって……。
刺客、アンパン。悪くないチョイスだ。敵ながら天晴れといったところか。このアホは俺との付き合いが長い。長いどころかネフィリアに次ぐ。
しかし甘いな。俺たちは互いに弱みを握った間柄だ。身の破滅に繋がりかねないネタを互いに握っている以上、裏切りはあり得ない。
ただ、こいつアホだからなぁ。ちょっと不安だわ。念の為に釘を刺しておくか。
「おい、分かってるな?」
俺が小声で念押しすると、黒尽くめはコクリと従順に頷いた。栗色の髪が揺れる。
……何か妙だぞ。嫌な予感がする。逃げるか? いや、しかしこれはチャンスなんだ。世間ではまるで俺が極悪非道で人の心を失ったモンスターみたいに言われているようだが、それは誤解なんだと知らしめるまたとない機会なんだ。
そうさ、何を心配することがある? アンパンと俺は一蓮托生だ。いや、しかし……。
俺が決断を下しかねている内に生放送が始まってしまった。
ええい、ままよ。俺はカメラマンに向かってそよ風のように爽やかな微笑を振り撒いた。
するとどうだ。隣のアホが黒衣を脱ぎ捨てたではないか。
何だと? どういうことだ? 報復を恐れての変装ではないのか? それにしては中途半端な仕上がりではあったが……。
俺はギョッとしてアンパンを見る。アンパンも俺を見る。にま〜っと締まりのない笑みを浮かべた。
「この時を待ってたよ、崖っぷちの旦那……」
! コイツっ……!
俺は全てを悟った。このアホは俺を脅すつもりだ。死なば諸共という訳か? まんまと【敗残兵】に丸め込まれやがったな。
くそっ、ここまでアホだったとは……!
一体俺に何の恨みがあるってんだ! ああ、そういえばあんまり舐めたこと言うから殺して埋めたんだった。
事ここに至っては事故に見せ掛けて殺すしかねえ。俺はにこにこと笑いながらアンパン殺害計画を練り始める。
アンパンもにこっと笑ってカメラに愛想を振り撒いた。
「視聴者の皆さん、こんにちは! 【まんどらごら】のアンパンです!」
「【ふれあい牧場】のコタタマです!」
しかし生放送中だぞ。どうやって殺す? 少しでも怪しい素振りを見せれば俺が疑われる。つーかMPKしかない訳だけど、MPKっつー時点で俺が疑われる。くそがっ、詰んでるじゃねえか!
「タマっち、久しぶり〜」
「アンパンっち、元気してた?」
誰がタマっちだ。殺すぞ。つーか殺す。
「うん! アンパンっち元気だよ! あっ、ゴメンなさい! 内輪で盛り上がっても仕方ないよね? 実は俺たち、友達なんだ。ねっ、タマっち!」
「そうだね! う〜ん、結構長い付き合いになるのかな?」
ノーと言え。死にたくなければな。
「そうだなぁ……。あれ? タマっち、なんか猫被ってない? 生放送だからって緊張してるのかな〜?」
「え〜? いつもこんな感じだよ?」
そう、いつも俺はこんな感じだ。
「そう? でもネフィリアのトコに居た時は全然キャラ違ったよね……」
サトゥ氏。カメラ止めろ。こいつ殺す。というかお前も殺す。
……いや、違う? サトゥ氏はグルじゃないのか? めちゃくちゃ目が泳いでるぞ。
え!? これアンパンの独断なの!?
俺は愕然としてアンパンを見た。ば、バカじゃないの……? 採算度外視の破滅のチキンレースを仕掛けて来やがった……。
「あれっ、イイ顔してますね〜。もしかしてあんまり触れて欲しくない過去だったのかな〜?」
「そうだね……。アンパンっちはどうなの? 俺たち、ネフィリアのトコに居た時はお互い励まし合って生きてきたもんね……」
アンパン。こいつは元ネフィリアの手下だ。ネフィリアがやらかしたバイオテロの大半は、こいつが関わっている。
おい、アンパンよ。どこまでアクセルを踏み込むんだよ。これ放送できる内容になるんだろうな?
アンパンは急に真顔になった。
「いや、俺はあんまり。旦那とは立場が違ったし」
「アンパンくん?」
「でも、感謝してるんだよ。旦那がネフィリアと喧嘩別れして盛大な置き土産をしてくれたお陰で俺は脱走できたんだ」
アンパン……。
「まぁ巻き添いで殺されただけなんだけどね」
安心しろ。何度でも殺してやるさ。
「アンパンっち。俺、アンパンっちのことはずっと心配してたんだよ。また会えて、嬉しかった……」
さて、今日はどうやって殺そうかね。
「でも、タマっちはさ〜」
この小憎らしい顔と来たらどうだ? 完全に自分の優位を確信してやがる。だが、その確信はどこから来る? お前と俺は似たような立場だろ。どっちが優位ってことはない筈だ。
「ネフィリアのトコに居た時と、あんまりやってること変わらないよね〜」
「え〜? そんなことないと思うけどな〜」
かつての話だ。ネフィリアは薬学の知識を持つプレイヤーを探していた。
あのおっぱいは昔から人を見る目がなかった。連れて来たアンパンをいい拾い物をしたとか言っていたが、俺はそうは思わなかった。
アンパンはお調子者っつーか、調子に乗ると決まって失敗するようなヤツだった。この前も余計な一言を吐いて俺に埋められた。悪癖ってのは拭い難いもんだ。
「え、知らないの〜? タマっちはネフィリアを越えたって言われてるよ。俺もそう思うな〜」
本音か? だとしたら、お前はどこまでおめでたいやつなんだ。
悪事ってのは成功したら表沙汰にならないんだよ。俺は失敗したから名前が売れちまったんだ。
けどアンパン、お前はそうは考えないんだな。よく分かったよ。お前はネフィリアのことを甘く見てる。
つまりお前は、ネフィリアから逃げることができたのは偶然なんだと未だに信じてるんだな。
そいつは違うぜ、アンパン。ネフィリアはな、お前をわざと逃したんだよ。
俺がネフィリアをおっかねえと思うのは、そういうところだ。あいつは我慢できるんだ。俺なんかと違ってな。
俺は一転して攻勢に出た。
「アンパンくん。少し黙ろうか」
「あっ、ちょっと素が出た。旦那は昔からそう。堪え性のない人だよね〜」
よく分かってんじゃねえか。
「怖い怖い。俺、殺されちゃうかも。でも、俺が死んだら旦那の所為にされちゃうんじゃない? それは俺としても心苦しいなぁ」
「けっ、調子に乗りやがって。お前は昔からそうだ」
なぁに、俺のアリバイはお前が保証してくれるから大丈夫さ。
俺は苦笑した。
「だがアンパンよ。心配してたってのは本当だぜ。お前は目ぇ離すと何しでかすか分かんねえトコがある」
好感度ゲットぉ……!
まぁ本音ではあるんだが。何しろ今まさに俺に歯向かってる真っ最中だ。
「えっ。本当? そういえば旦那、昔からたまに優しい時ある」
それは気の所為だな。お前は長い物に巻かれるっつーか、虎の威を借る狐ってやつだ。俺やネフィリアの後ろに隠れて大口を叩いたりしてたから記憶が美化されてんじゃねえか?
そうか。そうだったな。こいつ【敗残兵】の後ろ盾を得た気になってるのか。なるほどな。
だが、そんなことはもうどうでもいい。俺はこのアホを殺す。事故に見せ掛けて殺す。
俺とアホは終始和やかなムードでトークを続け、待ちに待ったMPKの体験講座の時間がやって来た。
さて、ここからは伸るか反るかだ。
俺は、アンパンを脅しておちょくる。
「おいおい、いいのか? 体験講座ってよぉ、俺にMPKさせたらお前死ぬだろ」
「視聴者の皆さん、今の聞きました? 殺人予告ですよ! 俺が死んだら絶対にこの人の仕業ですっ」
くくくっ……そうだな。俺の仕業だ。違いねえ。
俺は呆れたように言う。
「何でもかんでも俺の所為にするんじゃねえよ。ネフィリアって線もあるじゃねえか」
ネフィリアは、視界に入ってすら居ないモンスターのヘイトを遠隔コントロールできる。俺には無理だ。
アンパンは俺に言われて初めてその可能性に思い至ったようだ。ハッとして不安そうに俺に擦り寄ってくる。
「あっ、そうか。あ〜っと、ネフィリアはですね、なんかモンスターを遠隔操作できます。どうやってるのか俺も知らないなぁ。旦那、説明できる?」
「いや、俺にもあれは真似できねえんだよ。お前も俺がネフィリアに叱られてるの聞いたことあるだろ。何で出来ないんだって」
まぁ説明だけならできるんだが。
ネフィリアがやってるのはモンスターの分布密度の調整だ。モンスターってのは器用なもんで、同族がどの辺りに居るのか大まかに把握してるふしがある。そのバランスをネフィリアは意図的に崩してるらしいが……あいつ説明するの下手だからな。俺なりに解釈したところ、どうも数式を見てなんとなく答えはこれくらいかなって弾き出せるセンスが要るらしい。俺にはそのセンスがない。だから真似できない。
「まぁ結局はバランスらしいな。断言はできないが、円の内側にプレイヤーが居ないと使えない……と思う」
「えっ、やだよ。なんで濁すのさ」
「俺には使えないからな。はっきりしたことは言えない」
おっ、スピン発見。
いやいや、参ったなぁ。そういえばお調子者のアンパンくんにはちゃんと説明したことなかったね。
俺とネフィリアは目がいい。魔物の群れをコントロールするために鍛えたんだ。前にそう言ったよな。コントロールするためにだよ。攻撃を避けるためじゃないんだ。
目がいいってのも常識的な範疇じゃない。ネフィリアに言わせてみれば、目で覚えるってのが大事らしいね。説明が下手すぎて何言ってるのか分からなかったけど、要は目を使うんだ。目ぇかっ開いたまま千回くらい死ねば分かるようになるかな。使いすぎると目が潰れて失明するけどね。
俺とネフィリアは目を使う。視線でモンスターをコントロールするためだ。
モンスターってのは人間に見られるのが気に入らないらしい。特に動きを目で追われるとすこぶる機嫌が悪くなる。
ネフィリアがアンパンくんを逃したのはね、間違った情報を拡散させるためなんだよ。
視界に入ったモンスターなら、俺も遠隔コントロールできるんだ。
内緒にしててゴメンね。
俺の舐めるような視線に、スピンがびくっとした。臆病なスピンは、目が合うと恐慌状態に陥って前足で殴ってくる。
ぴょんぴょんと飛び跳ねて近寄ってきたスピンが俺に殴り掛かってきた。おっと危ない。ああっ、たまたま射線上に居たアンパンくんのお腹をスピンの前足が貫通してしまったぁー。なんてことだー。
突然のスピン襲来に場が騒然となった。
しかしさすがはトップクラン【敗残兵】である。スピンの一羽や二羽は危なげなく処理できるらしい。
サトゥ氏が俺を見る。俺はカメラに背を向けて倒れ伏したアンパンを抱き締める。勘付かれたか? 目を使った直後はどうしたって充血する。だが、もういい。俺は堪え性がないんだ。こればっかりは仕方ねえ。
俺は叫んだ。
「ネフィリアだっ! アンパンがやられた!」
アンパン、死ぬなー。気をしっかり持つんだー。ああ、ダメだな。こいつはもう助からねえ。
「ごふっ。旦那……っ!?」
アンパンが目を見開いた。
ああ、気付いたか。そうだよなぁ。お前、何だかんだで俺と付き合い長いもんな。
差し出された震える手を、俺はしっかりと握った。アンパン。俺はやったぞ。お前のお陰だ。好感度が上がってるのを肌で感じる。
今、心からこう思うよ。
「死ぬな! アンパンーっ!」
はっ。アンパンが何か言おうとしている。どうした。
「ね、ネフィ、リア、を……旦那は、越えて、いる」
お世辞のつもりか? あんまり嬉しくないぞ。もうちょっと頑張れ。
アンパンは安堵したように微笑み、そっと息を引き取った。
「アンパンーっ!」
これは、とあるVRMMOの物語。
魔女の風評被害が著しい。しかしそれは彼女自身の選択でもある。悪の道は険しい。弟子が平気で罪を被せてくる。
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