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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
358/990

GunS Guilds Online

 1.スピンドック平原


 リアルで対人格闘などやれば、どんな達人だろうと囲まれれば終わりだ。人間を倒すにはそれ相応の打撃が必要で、腕を振り回せば敵がバタバタと倒れていく無双ゲーとは違う。しかしこれはゲームなので、自分しか持っていない何かがあれば話は別だ。

 攻撃魔法を持つマジュンくんを相手に韓国ゴミどもは攻めあぐねている。下手に包囲すればまとめて一掃されかねない。マジュンくんクラスのプレイヤーなら無詠唱もあり得る。ガムジェムを持っている以上、マナの枯渇には期待できない。

 待っていても状況が好転しないなら結局は数にモノを言わせて突っ込むことになる。雄叫びを上げて突進したゴミがたちまち首を刎ねられた。別のゴミがマジュンくんに掴み掛かる。狙いは矛だ。マジュンくんの判断は早い。一対多の戦闘に慣れている。ぱっと矛を手放して、キョトンとするゴミに掌底を浴びせる。攻撃後の硬直を埋めるように【全身強打】を放つ。味方もろとも殺そうとした韓国ゴミの【全身強打】と干渉して相殺した。

 ヒーラーが【心身燃焼】を打った。真偽のほどは今以て不明だが、君主は回復魔法を受け付けないのではないかという疑いがある。検証しようにも君主の数が少なすぎるのと、リジェネ効果は【八ツ墓】で散らすのが定石だった。今もそうだ。連続して青い波を放ったマジュンくんが魔法環境の揺さぶりを掛ける。君主というジョブは、その手札の多さゆえに他職にはない攻撃パターンを生み出せる。魔法環境の揺さぶりは、君主と同じく補助魔法を使えるヒーラーがやらないことだ。火力不足のヒーラーは他職との連携が問われる職業であり、アタッカーの立ち回りに制限を掛ける意味がない。

 バフ効果に伴うデバフ効果とステータスの変動。立て続けに走るアナウンスがプレイヤーの視界を遮る。

 マジュンくんがバラ撒いた弾(ビン)に魔法職の幾ばくかは反応できなかった。意識の違いによるものだろう。近接職は遠距離から一方的に敵に攻撃を加えることがない。敵の攻撃圏に自ら足を踏み入れるのが仕事だからリアクションが来る前提で動く。後衛職のガンナーにしても普段自分たちがやっていることだから慣れがある。その点、魔法職は物理的な近・中距離射撃に対して鈍感だ。モンスターとの戦闘経験で培われてきた経験則が逆に足を引っ張ってしまう。敵に近寄ることを極端に避けようとするのだ。しかしガンナーからしてみると射撃はある程度離れていたほうがやり易い。

 なすすべなく散っていく仲間たちに、韓国産のゴミは打ちひしがれた。


「……無理ィ!」

「強すぎィ!」

「中国兄さんに挑んだのが間違いだったんだ……」

「チョッパリ! 見てねーでオメェらも手伝えや!」


 俺はびょんと飛び上がって地べたに大の字になって寝転がってる韓国ゴミの眼前に着地した。

 チョ〜ン。それがお願いする態度か? あん? 正直イマイチぴんと来ねえが、オメェらの言うチョッパリってのは侮蔑を含んでンだろ? そりゃあ俺を舐めてるってことだろうが。


「あ? 言えた義理かよ! オメェらは万年俺らを見下してンだろーが!」


 ふっ、その通りだ。いいだろう。気に入った。不問にしてやるよ。

 日本と韓国は海を挟んでお隣同士の間柄だ。そして隣国というものは仲が悪くて当然なのである。何かと商売の邪魔だからな。


 後方で韓国産のデカブツが動く。ペヨンだったか。大国に尻尾を振るのは仕方ないだと? そりゃあお前らの都合だろう。俺らとしちゃ面白くないと感じるのは当然だ。何の言い訳にもなってねえ。

 卵と似たエンドフレーム。女キャラのエンフレは男キャラのそれほどド派手に人の道を踏み外さないぶん精神的にクる姿をしていることが多い。しかし魔法生物型のエンフレは男女の枠に囚われないらしい。

 ひび割れた卵の中に何かが潜んでいるようだ。脱落した殻の隙間から無数の光点が覗く。赤く強い輝き。目か? 【ギルド】の目は丁度あんな感じに赤く輝く。プレイヤーの母体は【ギルド】のレプリカだ。

 気味の悪いエンフレが、太い触手で地表を手繰り寄せるようにして迫って来る。


【中国兄さーん。いくら兄さんでもエンフレには勝てませんよ〜。正常個体は変身できないんでしょ? 私、ガムジェムが欲しいなっ。あはははははははっ!】


 ……?

 何を言ってる? いや、ガムジェムがあれば正常個体でも変身できることを知らないのか。そいつに関しては俺だって金髪ロリに攫われるまで知らなかった。人のことをとやかく言える立場じゃない。

 マジュンくんが地に這いつくばる韓国ゴミを矛で串刺しにしてやりながら答える。


「ペヨンか。私の記憶が確かならば、君は私に永遠の忠誠を誓っていたような気がするのだが……。私の記憶違いかな?」


【ああ、中国兄さん。ガムジェムも君主のジョブも差し出せない私たちに良くしてくれて、とても感謝しています。でも兄さんはキルペナカンストしちゃったから〜……もういいよね! だって私が一生ついていくって誓ったのは、いつも冷静で強くて誰にも負けない中国兄さんだから! あなたはもう私の兄さんじゃないんだよね。残念!】


 マジュンくんが声を上げて笑った。


「ははははははははっ! 分かりやすい子だな、君は!」


 今日のマジュンくんはよく笑う。案外こっちが素なのかもしれない。


【もうっ、強がっちゃって!】


 ペヨンが触手を振り上げる。ブンと振りおろすと、ビャッと伸びてマジュンくんを押し潰した。いや、届かなかったようだ。マジュンくんの全身から漏れ出した禍々しい光が大質量の衝突を阻んでいた。

 禍々しい光が形を成してペヨンの触手を掴み、ぐいっと引き寄せる。


【このーっ!】


 ペヨンが逆らわずにマジュンくんとの距離を一気に詰める。残った触手でマジュンくんを覆い包み、押し潰そうとした。

 しかしガムジェムの光はいよいよ両手を形成し、ペヨンの触手を力尽くで押しのけていく。

 ペヨンの動揺した声。


【う、嘘でしょ? そんな。や、約束が。約束が違うと思う……】


 マジュンくんの声は優しい。


「どんな約束?」


 正常個体のエンフレはオートパイロットだ。ただただ敵を粉砕することを目的に動く。キルペナに侵された今のマジュンくんがそうであるように。

 地の底で鳴り響くような獰猛な唸り声が聞こえた。マジュンくんの全身から発散される光が堰を切ったようにあふれ出し、巨人の輪郭を描いていく。

 光の巨人が地を踏みしめ、背筋を反らして咆哮を上げる。


 Woooooooooooooooooooooo


 ペヨンは打たれたように呆然としている。

 ちっ、あんなでも戦力には変わりない。このままみすみすと失うには惜しい。俺は叫んだ。セブン! やるぞっ!


「ふん。サシで戦(や)りたかったが……」

 

 サトゥ氏は残機に不安が残る。若社長との戦いでロスト寸前まで行ったからな。ここは俺とセブンでやるしかない。

 俺とセブンはマジュンくんのあとを追うように完全変身した。

 奇しくも魔法生物型のエンフレが揃い踏みだ。

 俺は杭のような歯列をガチガチと打ち鳴らして前に出る。横に並んだミノムシ野郎が七体、砲身を突き出して光の巨人にぴたりと照準を合わせる。

 キショい卵みたいなのがびくっとした。


【なんか出た! ラスボスですか? キモっ】


 お前ほどじゃねえわ。

 アナウンスが乱舞する。エンフレを出すとキャラクターの個人情報は晒される。

 おっと自己紹介してなかったな。性悪ナビゲーターにキャラネを暴かれるってのも業腹だ。俺は触手でびしっと自分を指差して言った。


【俺はラストコタタマだ】


 読んで字のごとく、この俺が最後のコタタマになるだろう。もう二度とロストしないという強い決意が込められている。ロマサガ2の最終皇帝みたいなモンよ。

 しかしリチェット隊長殿は別の受け取り方をしたようだ。


「……スターマン?」


 Mother? た、確かにラストスターマンってのが居たが……。思くそ敵キャラじゃねーか! くそがっ、舐めたことばかり言ってるとしまいにはPKビームγを試みるぞ。


 日没が近い。

 斜陽に照らされ、俺とセブン、ペヨンがマジュンくんのエンフレと対峙する。

 ……そうだろうとは思っていたが、強そうなエンフレだ。細い胴体。首に龍を模したマフラーのようなものを巻いている。腕がやたらとゴツい。胴体と分離していて宙に浮いている。脚もそうだ。こちらは細く、すらっと長い。ボロのようなマントがなびく。古今東西、種々様々な武器を腰と背に差している。

 レベルは……。


【目標……】


【無職】【Majun】【Level-1037】


 無職? 無職だと? 職を剥奪された? いや、そんな筈は……。マジュンくんはついさっきまで魔法を使っていた。ガムジェムの副作用か? いや違う。もっと別の……。

 エンフレ大量投下は日本サーバーのお家芸だ。何かヤバい。考えろ。

 キルペナ。死出の門。エンフレ。母体。レプリカ。ゲートキーパー。プッチョムッチョ。【目口】。αテスター。リンリー。仙人の……。

 俺はハッとした。エンフレはコンフレとは別に、独立して動かせる。

 マズい! マジュンは、もう……! 俺は羽を生やしてブンと震わせた。戦域の離脱を試みるが、遅かった。俺は叫ぶ。サトゥ氏とメイヨウも俺と同じ結論に至ったようだ。ハモった。


「リンリーだ! 隔離される!」


 赤い流星雨が降る。

 プライベートルームの形成。

 赤い牢獄の中心に立つのは黒い髪の女だった。αテスター……リンリー……。

 抜け殻となってなおも戦意を燃やす光の巨人を従え、リンリーがメイヨウを見つめて言う。


「マジュンはこんなところで死なせはしない」


 赤い牢獄が紅蓮の渦を巻いて徐々に狭まってくる。死なば諸共か……!

【重撃連打】もそうだった。このゲームのクソ強力な攻撃魔法は術者の自死に対してひどく寛容だ。最終的に全滅するなら過程はどうでもいいとばかりに。

 リンリー嬢は足止めだ。マジュンくんはエンフレを残してこの場を去った。どこへ? 選択肢は限られる。キルペナに侵されているマジュンくんはより多くのプレイヤーを殺害するためにしか動けない。今、日本サーバーを代表する戦闘集団はリンリー嬢のプライベートルームに閉じ込められた。完全に裏を掻かれた。

 マジュンくんの狙いは山岳都市だ。


 メイヨウが震える声で友人の名を呼ぶ。


「り、リンリン」


 リンリー嬢の両腕が指先から燃え上がり、這い上がった緑色の炎が無骨な籠手を形成していく。言った。


「死に戻りは許さない。ここではNAiの所有権は意味をなさない。あなたたちの魂は行き場を失ってさまよう」


 アナウンスが走る。


【GunS Guilds Online】


【警告】

【強制執行】

【黄昏より来たれしもの】

【始まりすら定かでなく】

【自由は重荷でしかない】


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:ペールロウの殺害】

【制限時間:00.00】

【目標……】


【ペールロウ】【ルインルビィ】【Level-72】


 もしもマジュンくんに助かる道があるとすれば、長期間拘束するしかない。

 ガムジェムを手にしたαテスターなら、それができる。

 そして、ガムジェムはもう一つ要る。

 マジュンくんはキルペナに侵されていて、近くに居ればリンリー嬢ですら殺そうとしてくるからだ。

 マジュンくんのキルペナが解消されるまで、赤い牢獄で延々と戦い続けるしかない。

 負けることは許されない。

 手加減できるほど甘い戦いにはならない。

 リンリーはマジュンくんを何度も殺すことになるだろう。


 メイヨウが、かぶりを振って叫んだ。


「リンリンーッ!」




 これは、とあるVRMMOの物語。

 できますか? そんなことが。マジュンはいつでもデリートできる。彼ならそうするでしょう。



 GunS Guilds Online


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