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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
352/965

奇跡片

 1.ポポロンの森-人間の里


 最強のプレイヤーとは最高の武装を以って初めてそうと認められる。

 カートリッジは人間増幅器のことだ。

 おそらくは調合のクラフト技能で生きた人間を改造し、代償に捧げることで爆発的なパワーを得ている。

 ジョンは世界最強のプレイヤーだ。

 米国サーバーの誇りそのものだった。

 正義とは力であることを、彼らはよく知っている。

 彼らにとって、世界最強と称されるプレイヤーは他国の誰かであってはならなかった。

 カートリッジに身をやつしたマクレーンがゴロリと地面を転がり、ボロボロと崩れていく。ロストの死に方だ。エネルギーが枯渇したプレイヤーを救う方法はない。

 ヴォルフさんがジョンの胸ぐらを掴んでグイッと乱暴に引き寄せた。


「何故殺したッ!」


 ジョンはヴォルフさんをチラリと見て冷たく突き放した。


「ヴォルフサン。あなたには関係のないことネ。私とマクレーンの問題ですヨ」


 ヴォルフさんは責任を感じていた。ジョンを応援に呼ばなければ、この悲劇を避けられたかもしれないと考えているのだろう。ボロボロと涙を零しながらジョンを激しく揺さぶる。


「ジョン! 君は……! 時代遅れのタンクをやっている私を笑わなかったじゃないか! 誰かを守ることは素晴らしいことだと言ってくれたじゃないか! あの言葉は何だったんだ!? 君はッ……!」


 ジョンはニコッと笑った。


「マクレーンは素晴らしいプレイヤーでシタ。彼の遺したアビリティは私の中で生き続けるネ。ずっと一緒ヨ」


 そう言って粗大ゴミの巨体を見上げる。


「あなたもそうなるネ」


 しかし粗大ゴミはひるまなかった。


【おお、怖い怖い。あんた、強そうだね。ああ、強いんだろうな。分かるよ。今まで俺が会ったどんなやつよりも。でもよ……】


 粗大ゴミがビャッと舌を伸ばした。舌の先端はトゲの付いた鉄球のようになっている。

 ジョンがヴォルフさんを突き飛ばして横っ飛びする。速い。残像の尾を引いて軽やかに粗大ゴミの舌に飛び乗る。踊るように旋回して腰に差した刀の鯉口を切る。命の火が舞った。それらが刀に吹き込まれ、刃を赤く染めた。抜刀。粗大ゴミの舌が切り落とされ、ズシンと地べたに転がる。

 ジョンの肉体はコンフレームの限界を超えている。

 アナウンスが走る。


【限界突破!】


 ジョンの身体が人外のそれへと変貌していく。エンフレを出せば一瞬でカタが付きそうだったが、ジョンは何故かそうしなかった。機械化した腕を振るうたびに粗大ゴミの鋼鉄の皮膚が切り裂かれていく。

 粗大ゴミはもうジョンに夢中だった。


【おい、強すぎだろ! こりゃ大物だわ! 面白え! もっと遊ぼうぜ〜!】


 俺は少し寂しく思ったが、時間がない。ウッディの元に行かねば。ついでに時間はもっと足りなくなるようだ。


『コタタマりん! これからコタタマりんのおうちにご挨拶に行きますね〜。先生はご在宅ですか?』


 シルシルりんの年始の挨拶回りだ!

 シルシルりんはルールをしっかりと守る人なので、当然スマホに角を生やしたりはしない。6sTVなんて知らないだろう。

 先生はプフさんと面談中だが、俺はシルシルりんとお喋りをしたかった。シルシルりんをウチの丸太小屋に引きずり込めば、面談が終わるまで待とうかという流れになる。このチャンスは逃せない。

 無理があることは分かっていた。

 でも俺のエンフレには触手が生えている。

 この触手は人との触れ合いを求めてのものなのだと思った。


 人の思いを具現化したエンドフレームに限界などというものはない。

 

 俺は咆哮を上げた。

 触手を四方八方にビャッと伸ばす。自販機の下に転がり落ちた硬貨を、地べたに這いつくばって拾おうとする感覚だ。足りない。もっと遠くへ。

 プフさんが鎮めてくれた命の火が再燃する。俺の触手が分離、延長した。まるで【律理の羽】のように。この宇宙のどこかに居るクァトロくんとモョ%モ氏が笑ってくれたような気がした。

 黒い稲妻で繋がった触手片が縦横無尽に伸びていく。俺は人間の里をトコトコと歩いているゴミどもを卵かけご飯をすするように吸引していく。力を貸してくれ……! 悲鳴を上げるゴミどもを噛み潰して協力を仰ぐ。ゴミどもの血肉は俺に応えてくれた。

 俺は一人じゃない。ゴミのような仲間たちが居る。こんなに幸せなことはない。

 触手の先端に俺のサブボディが生えていく。時期外れの桜が咲いた。満開の俺が時空を越えて人々と結び付いていく。

 要するに歯止めが利かなくなった。

 サブボディが増えれば、それだけ制御が難しくなる。

 メインボディに還元された思いがあふれる。

 ナルトの影分身が本体に無断で九尾のチャクラを引きずり出して影分身を増やすようなものだ。

 とめどもなく俺が増殖していく。



 2.山岳都市ニャンダム


 街中をうろついている俺を見つけて、知らないゴミが嫌そうな顔をして声を掛けてくる。


「ちっ、崖っぷちか。こんなところで何してる。お前、今日は生放送じゃなかったか?」


 よう。まぁ細かいことはいいじゃねえか。最近どうなんだよ? ちゃんとレベル上げしてるか?


「うるせーな。お前は俺のカーチャンかよ。街をぶらついて何が悪ぃんだ」


 いや、悪くねえさ。飲みにでも行くか。そこら辺を歩いてるヤツらも誘ってよ。

 知らないゴミは俺のケツから生えてるアンビリカルケーブルに気が付いたようだ。エヴァの電源コードことアンビリカルケーブルの元になったのはアンビリカルコード。つまり、へその緒のことだ。

 俺がもう長くないことを察した知らないゴミが俺の肩にガッと腕を回してくる。


「お前……。ちっ、仕方ねぇな。付き合ってやるよ」



 2.カレシ自慢大会会場


 ウッディ〜!

 ブンブンと腕を振って駆け寄る俺に、トドマッの頭の上に乗っているウッディがふんぬと腹を突き出した。

 おお、勝ったか?

 ……いや、負けたようだ。ステージに展示されている対戦表にキッチリと黒星が入っている。

 トドマッがウッディの名誉を守ろうとしている。


「惜しかったもる。土俵際でうっちゃるかと思ったけど、体格差で押し切られたもるよ」


 ウッディを受け取った俺に、お犬様がトコトコと歩み寄ってくる。


「コタタマくん。さっきは助かったわ。ありがとな」


 いえいえ。当然のことをしたまでですよ。


「……君、大丈夫か? なんか全体的に燃えてるけど」


 そう珍しいことじゃないでしょ。そんなことよりお犬様。今日のイベントは絶対に成功させましょうね。

 お犬様は舌をベロリと出してハッハッと浅く呼吸しながら頷いてくれた。


「うん。ワシ、嬉しいわ。みんな楽しんでくれるといいな。コタタマくん、君もな」


 ええ、楽しいですよ。

 俺は、カレシが負けそうになって対戦相手に殴り掛かるゴミを見つめた。

 ピーッとホイッスルを吹き鳴らしたトドマッが駆けていく。


「こらーっ! もるっ」


 ウッディ。次は勝とうな。


(ああ。先程は不覚を取ったが、勝負は時の運。負けることもある。大切なのは次に繋げることだ。私はスロースターターだからな)


 なんか言い訳臭いな。ま、いいさ。勝ちに行こう。白星を上げたやつ、上げられなかったやつに分かれたな。ここからが本番だ。まずは負け犬どもに話を付けに行く。俺たちはチームで戦うのさ。個人戦などという概念は俺にはない。ルールすら乗り越えてみせる。



 2.クランハウス-客間


 ようやく腰を据えてプフさんの話を聞けるな。

 客間にひょっこりと姿を現した俺に、スズキもホッとした様子だ。やはり初対面の他人と話すのは苦手なのだろう。

 プフさんと先生は我らが【ふれあい牧場】のメンバーについて話し合っていたようだ。プフさんが確認するように言う。


「では、コタタマさんを計算に入れるとして……。前衛が一人、魔法職が三人、後衛が二人ということになりますね。魔法職は二人が前衛を兼ねる。アットムさんとジャムジェムさんですね。そう悪くないバランスですが、やはり前衛はもう一人欲しいですね。トドマッさんはクランに誘わないのですか?」


 先生が淀みなくすらすらと答える。


「彼女の意思に委ねるつもりです。トドマッには彼女なりの立場がある。ログイン時間のことも考えると、彼女に負担を掛けてしまうかもしれない。責任感の強い子ですから。それだけは避けたいと思っています」


「なるほど……。ああ、失礼しました。聞いてばかりで。コタタマさんも落ち着いたようですし、そろそろ私自身の話も致しましょう」


 俺に気を遣ってくれたのか。何なんだ、この変身できるタイプの種族は。とても運営側とは思えない。

 しかしそれは当たり前のことだったらしい。プフさんはこう言った。


「私はGGO社の正社員ではありません。アルバイトということになります。正式に社員にならないかと誘われたこともありますが、遠慮させて頂きました」


 ……そりゃまた何で? 正社員になったほうが給料はいいだろうに。


「私の一族は会長派ですから。クァトロ会長とクァレュュ社長の確執は根深く、他人が口出しできる問題ではありません。個人的な感情を除けば、社長はGGO社のトップに相応しい。彼のスキルは【ギルド】に対抗できる唯一無二のもの。肉体的な死をスキルの一部に取り込んだ【黒星】はドレインもしくはコピーできないのです」


 ……死ぬことで真価を発揮するスキルだから、社長を倒しても戦いの途中という扱いになるってことか?


「そういうことです。クァレュュとしても歯がゆく思っているでしょうね。もしもプレイヤーに渡せたなら、今頃は全ての【ギルド】を傘下に収めることができたかもしれない。ですが、それもまた彼の選択です。強大な力には代償が付き物なのですから。まぁそれに関してはあなた方には何の責もないこと。お気になさらず。いずれ強く成長したなら手伝って貰いましょうか。ふふ」


 プフさんは少し楽しそうだった。未熟な種族に関わる今の仕事が気に入ってるのかもしれない。


「このゲームは日々ネットワークを広げていますが、運営ディレクターの采配によってコンテンツは異なるのです。こちらのタイトルであれば、私は曜日ダンジョンに興味がありますね。ヒューマンのアルバイトを雇っているという話でしたが、アルバイトに関して私はちょっとうるさいですよ。いつまでも正社員にならずにふらふらしてることを各所から色々と言われてますから」


 曜日ダンジョンか。お目が高い。トレーニングモードの解放でやや下火になった感はあるが、曜日ダンジョンはPvPコンテンツとして悪くない仕上がりになっている。バイトのゴブリンが宝箱を設置して客寄せしたりと、人員を削減されないよう色々と工夫を施しているらしい。


 プフさんとの面談は実に有意義なものだった。話題は尽きない。俺と先生はョ%レ氏との因縁やこれまでに乗り越えてきた数々のレイド戦のあらましをプフさんにお伝えした。あのタコ野郎がいかに俺たちを苦しめてきたかを時に笑い時に涙しながら強く訴えるのだ。



 2.6sTV局-収録スタジオ


 一方、6sTVでは謹慎が解けた俺にとうとうクソ廃人どもの刺客が迫ろうとしていた。

 紅蓮の天秤ガチャの検証もいよいよ大詰めだ。当時何があったのか、エッダ戦の序盤と中盤に関しては目撃者多数につき誤魔化しようがない。当時の貴重なフィルムを基にエッダ戦のハイライトを様々な角度から検証していく。

 エッダ戦の大きな争点は三つ。

 エッダを倒した直後に何があったのか。

【ギルド】の指揮官は誰なのか。

 結局のところ誰が悪いのか、だ。


 スタジオのモニターにVTRが流れる。

 真犯人をよく知る人物とやらが顔出しNGという約束でペラペラと軽い口を開け閉めしている。


『まぁ〜犯人は例のあの人だと思うよ。ハッキリとは言わないけどね。俺も命が惜しいんで。けへへっ』


 すりガラスの向こうでポニテがぴょこぴょこと揺れている。

 アンパンこの野郎。困った時には俺に頼る癖して、たまにちょいちょいと後ろから突付いてくるのは何なんだ。そんなに俺に構って欲しいのか。よほど命が惜しくないと見える。

 すりガラスの向こうでアンパンが調子に乗っている。いつものパターンだ。


『てか、あの人、軽く自白してなかった? 俺もチラッと聞いてたけど、セブンさんがロストしたとかラム子ちゃんが力を貸してくれたとか叫んでたよね。何でそんなこと知ってんの?っていう話になるよね。もう黒でしょ。真っ黒だよ』

 

 VTRが終わった。

 マイクを手にしたリチェットが厳かに言う。


「例のあの人とは誰なのでしょうか……? スタッフはAさん(仮名)に出演依頼をしましたが、出演者のリストを見せたところAさんは出演を強い口調で断ったと聞いています。このまま事件の真相は闇に葬られてしまうのか……? 我々は大いに落胆しました」


 何を言ってる。プレイヤーの課金アイテムを湖に沈めてゴミどもを煽ったのはお前だろうが……。

 そう言いたいところを俺はぐっと堪えた。今更ぐだぐだ言うつもりはない。あの時、リチェットは正しい判断を下した。人間増幅器にされたステイシーを見るにつけ、俺はその思いを新たにしていた。

 リチェットがバッと手を振り上げて言う。


「ですが、我々はついに貴重な証言者を見つけ出すことに成功しました! スタッフの粘り強い出演交渉の結果……彼らは勇気ある決断を下してくれたのです! オマエら拍手!」


 ほう。アンパンの他にも命知らずが居たのかい。

 勇気ある証言者とやらは男女の二人組だった。

 まぁ案の定だ。

 一人はクズ女ことキャメル。もう一人は見覚えのある知らないゴミだった。

 知らないゴミが俺を指差して言う。


「久しぶりだな。冒険者ギルドの元ギルドマスターがのうのうと出演すると聞いて驚いたよ。未だに考えは変わらないか? 金が全てか? どうなんだ?」


 いつだったか【ギルド】の力を剥奪された俺をあざ笑った元Cランカーのゴミだった。


「俺は冒険者ギルドのAランカーだ。俺は知っている。エッダ戦の犠牲者がゼロだったのは【ギルド】の最高指揮官ラムダの介入によるものだ! そして、プレイヤーをそそのかし、エンドフレームの大量投下を引き起こしたある男をラムダは【指揮官】に任命した……! それが、あんただ!」


 そうか。お前か。フフフ……!

 俺は少し楽しい気分になってきた。追い詰められるのは楽しい。俺に限った話じゃない。ゲーマーはそういう人種だ。まったく勝ち目のない戦いはつまらないが、そうでもないってところがな。何しろゲームだ。勝てるように出来ている。

 だが、まだだ。まだまだ……。俺は前の席に座ってる出演者の一人を蹴飛ばして、ゆったりと脚を組んだ。手のひらをやんわりと見せて言う。

 なるほど、ラム子か。お前の証言一つじゃ根拠としちゃ弱いが……まぁいいだろう。その点については認めてやってもいい。お前以外にも探せば出て来るだろうからな。お互いゲーマーだ。時間の無駄は省こう。

 だが、俺が【ギルド】の指揮官ってのは何だ? 証拠はあるのか? あるなら出せよ。勿体ぶるな。何か……あるんだろ?


 キャメルが頷いて一歩前に出る。書類を取り出して俺に見えるよう突き出した。ゴミの顔写真が載った書類だ。


「彼に見覚えは?」


 ねえな。俺は嘘を吐いた。


「そうですか。コタタマさん。あなたはご存知ですよね? ラムダさんの洗脳は完璧なものではなかった。できなかったのか、あえてやらなかったのかは分かりません。ですが、ギルド憑きには適合できなかった個体という人が居ました」


 フフフフ……! だから勿体ぶるなって。そいつを見付け出したんだな? 大したもんだ。それで? 適合できなかった個体とやらが居たとする。何が言いたいんだ? 言ってみな。


「……コタタマさん。あなたは知らないでしょう。あなたは他人に興味がないから……! それだけ口が回るのに、アフターケアがひどく杜撰になる時がある。……! あの時……! あなたがラムダさんにギルドの力を剥奪された、あの時に。あなたに【調整】されたギルド憑きも人間に戻ってたんですよ……! 私は彼と会って話しました。その証言がこの書類です!」


 フフフフフ……! いいぞ。なるほどな。そいつは知らなかったぜ。いいね。実にいい。俺はぱちぱちと拍手してやった。人ひとりを探し出すってのは骨が折れる作業だ。この短期間でそれを成し遂げたキャメルは称賛されて然るべきだ。

 だが、まだだ。

 俺はキャメルを指差した。そして視聴者に分かりやすく説明してやる。

 確かに。確かにな。適合できなかった個体を調整してやれるとすれば、そいつは……つまり俺のことだが……俺はただのギルド憑きじゃなかったんだろう。だが、キャミーよ。さっきから証言、証言と……。イマイチ決め手に欠けるな? 俺は最初からこう言ってる。証拠を出せ。俺の口を割らせてみろ! 今すぐにだ!

 ここで証拠を出せないようなら興醒めだが、俺はクソ廃人が救い難いクソであることを信じた。何かある筈だ。決定的な何かが。証拠を出せ〜……!

 俺は我慢できずに立ち上がった。舌を突き出してキャメルに迫る。

 キャメルと元Cランカーが目線を交わしてコクリと頷き合う。手振りで合図を出すと、舞台袖からちょこちょこと二体の【歩兵】が歩いてきた。馳夫とトチローだった。

 キャメルが俺を指差して叫ぶ。


「コタタマさん! あなたは【ギルド】の指揮官です! 今! この場で……! 彼らに命令をしてください!」


 くくくくっ……ふはははははははははは!

 俺は哄笑を上げた。

 そう来たか。分の悪い賭けだ。俺は元指揮官であって、現役じゃない。おそらく馳夫とトチローは俺の命令を聞かないだろう。しかし万が一はある。ギフターズが俺に付き従うように、この身にウッディを宿している俺の命令は【ギルド】にとって特別な意味を持つかもしれない。いずれにせよキャメルにとって分の悪い賭けであることは変わらない。

 だが、確かに俺の命令が通ったなら動かぬ証拠になる。言い逃れすることは簡単だが、俺はネカマ六人衆の新事業を成功させてやりたいと思ってるし、これ以上の証拠は出て来ないだろう。少なくともキャメルは、あるいはサトゥ氏辺りの入れ知恵はあったかもしれないが、キャメルはこの上ないと思える手を打ってきた。

 見事だ。いいだろう。

 俺は含み笑いを漏らしながら、手を振った。

 命令か。いや、やめとくよ。そいつら……馳夫とトチローとは知らない仲じゃないんでね。命令なんて気分のいいもんじゃねえ。

 事実上の敗北宣言に、キャメルがギョッとした。


「な、何を……。コタタマさん……?」


 意外かい? そうでもねえだろ。俺は昔っからこうだ。堪え性がねえ。ネフィリアに何度同じことを言われたか……。でもな、悪癖ってやつは直らねえ。

 俺は言った。


「そうだ。俺が【ギルド】の指揮官だ。元、ではあるがな」


 事ここに至っては隠す必要もないだろう。

 俺は人差し指と親指をコの字にして、些細な違いであることを示唆した。

 コツがな。あるんだよ。俺の固有スキル……コタタマ・ハードラックってことになるのか……。そいつの使い方にはコツがある。なに、そう難しくない。当然ながらキャラクターとリアルのユーザーは別人だ。考え方の齟齬がある。その齟齬は、死ねば死ぬほど開きがデカくなる。ユーザーは身の安全が保障されてるから、気軽にキャラクターを殺すだろ。そんなことを繰り返していると、キャラクターは徐々に死んでもいいんだと学習していく。

 俺のハードラックはそこを突く。

 二律背反に陥った生死の観念を、ぺりぺりと薄皮を剥ぐように引き離してやるのさ。

 完全変身は癖になるだろ? 一度ブッ壊れたタガは二度と元には戻らない。ニャンダムの言葉だ。実際その通りになったな。

 そして……。

 遠く離れた人間の里に居る俺のメインボディが、命の火を撒き散らしながらボロボロと崩壊していく。

 降り落ちる火の粉は全マップに及んだ。

 よく見れば火の粉の一つずつが黒い輪で包まれていることに気が付いただろう。

 俺は言った。


「受け取ってくれ。少し遅れたが、俺からのクリスマスプレゼントだ」


 言下にアナウンスが走る。


【Death-Penalty】

【GunS Guilds Online】


【条件を満たしました】

【新たなスキルが解放されました】


【スーパーコタタマ】


【GumS Gems Online】【Loading……】

【新たなスキルが解放されました!】


【ハードラック】


 俺はゴミどもにスキルを譲渡した。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 ああ、これで……ようやくパズルのピースが一つ埋まりました。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
[一言] NAiさんがまたラスボスムーブしとる
[一言] 今さら気づいたけどこれ半沢直樹のネタか
[一言] ステイシーって捨て石か...
感想一覧
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