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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
35/977

たった一つの冴えた遣り方

 1.マールマール鉱山-坑道最深部


 アップデートより一週間が経過し、友愛の使者イベントは思わぬ雲行きを見せようとしていた。

 軍政を敷くモグラ帝国に対し、兵力に劣るウサ耳たちは一致団結し、ウサギ神聖王国の樹立を宣言。

 これを受けた帝国々民の幾ばくかが王国の理念に同調を示し坑道より脱走を試みるも、予め民間に潜入捜査官を送り込んでいた俺は脱走計画の草案を事前に入手することに成功。査問会による粛清を淡々と実施した。

 かかる事態を重く見た帝国軍上層部は脱走者を正式に敵国の諜報員と断定。捕虜の処刑を決行した。

 帝国民に弱兵なし。裏切り者は敵国に利するのみ。民衆に不信を抱いた軍部の弾圧は苛烈を極め、その急先鋒を務める査問会は着実に規模を拡大しつつあった……。


 Zoo……


「以上が、シンボルによるヘイト軽減の実施報告となります」


 俺はリチェット総統への報告を終えた。

 シンボルを身に付けたプレイヤーは特定モンスターのターゲットにはならないとされているが、運営のお題目を俺は最初から信用していなかった。本当にタゲが来ないというならば、俺たちモグラっ鼻は一方的にマールマールを攻撃し殺せるということになるからだ。そのような抜け道を、あのョ%レ氏が見落とし、あまつさえ放置するなど到底思えなかった。

 ちょうど死刑を待つばかりの被検体が手元に転がり込んできたので、これ幸いと実験してみたところ、案の定シンボルの効果には限界があった。限界というより、なんだ、おそらくはイベント期間中における半永久的ヘイトの増設だ。

 要は、モグラさんはキッチリと俺たちに恨みを募らせていて、一定の臨界点を越えたプレイヤーに関しては視界に入っただけで襲い掛かってくるようになる。

 ま、さすがにないとは思うがマジもんの永久ヘイトだったらゴメンねとしか言いようがねーわ。またイチから頑張ってくれ。


 リチェット総統は俺が提出した報告書をじっと見つめている。

 総統閣下の後ろですやすやと寝息を立てているのは、御神体のマールマールさんである。レイド級ってのはどいつもこいつもちょっとした小山くらいの図体をしている。お台場のガンダムよりデカいな。


「室長。いや、コタタマ。私は間違っていたのだろうか……?」


 総統閣下……リチェットは、いつになく弱気になっているようだった。

 はて、何か気落ちすることでもあったろうか。裏切り者の件か? 俺はアホどもの資産を合法的に徴収できて内心笑いが止まらないのだが……。

 ひとまず俺は慰めを口にした。

 いいや、リチェット。お前は間違っちゃいねえよ。俺が保証してやる。


「しかしウサギさんチームは……私たちとは違う。イベントを楽しんでいるようだし、粛清とかしてない」


 表向きはな。

 まぁそれは置いておこう。

 リチェット、お前だって分かってるんだろ? モグラさんチームに集った連中は、半数以上が勝ち馬に乗ろうってーやつらだ。ウサギさんチームとは、まず前提が異なるんだよ。

 頭数が違う。条件が異なる。

 断言してもいいぜ。ウサギさんチームと似たような方針だったなら、今頃モグラさんチームは崩壊してる。

 なあ、リチェット。お前はよくやってるよ。

 為政者ってのはどうあっても恨みを買うもんだ。けどな、実際にお前が舞台を去ったとして、真っ先に犠牲になるのは弱っちいプレイヤーだぜ。さしたる根拠もなく我慢してればいつかきっと良くなると信じてるアホどもだ。仮にお前よりもうまくやれるやつが現れたとしてもそうなるのさ。どんなに綺麗事を抜かしても犠牲は避けられねえからな。


「コタタマ……。オマエには、つらい役割を押し付けてしまっているな。とても、すまないと思っている。私を恨んでいるだろう?」


 いや、まったく。

 俺は正直に告げた。

 むしろ感謝してるぜ。自分で言うのも何だけど、俺はトップに向いてねえんだよな。こうと決めたら一直線っつーか、歯止めが利かなくなることがある。

 その点、今のポジションは割かし気に入ってんだ。この前も現場で高笑いするのはヤメロっつって始末書よ。そんなの仕方ねえじゃんな? 恨まれようが憎まれようが優越感しか湧いてこねえんだから。俺ぁ身バレする情報を漏らすほどアホじゃねえからな。そんなのはネトゲーマーの常識だと思ってたぜ。ってな具合に始末書に書き殴って提出したら大目玉を食らったよ。つーか俺、そこそこ偉いんだよな? なんで経理の姉ちゃんが俺の直属の上司みたいな感じになってるんだよ。全然部署が違うっつーか、まず俺の始末書が経理を通して誰の手に渡ってるのか行方が知れねえってのはどういうこった。

 俺が溜まりに溜まった愚痴を零していると、リチェットは少し元気を取り戻したようだ。フフリと笑みを零し、


「やっぱりそうだよな。私もそんな気がしてたんだよ。いや、サトゥがオマエに謝っとけって言うからさぁ」


 だよね。知ってた。

 サトゥ氏か……。アイツの動きはイマイチ読めないな。どうもちぐはぐな野郎だ。

 早めに始末しておくべきか? しかしここで失うには惜しいゴミだ。

 俺は逸る気持ちを鎮めた。

 まだヤツには利用価値がある。最強の男っつー肩書きは、戦わずして敵に降伏を迫れる便利なカードだ。


 そう。この時、俺は既にモグラ帝国へと迫る戦火を予感していた。

 正直言ってどうしようもないんだ。何故なら、プレイヤーは何度でも蘇る。俺にできるのはリスキルして身ぐるみを剥ぐのがやっとで、あとは軽く拷問したり監禁するのが精々だ。心をへし折れば歯向かう気力は失せるだろうが、それじゃあつまんねーからな。


 当然の帰着ではある。

 そう日を待たずして、俺の予想は現実のものとなった。

 処刑されたアホどもが徒党を組んで武装蜂起したのだ。

 つまり内乱である。

 タクティクスオウガかよ。とほほだぜ。



 2.マールマール鉱山-山中


 モグラ解放軍、起つ。

 この報は、たちまち大陸全土に知れ渡ることとなった。

 プレイヤーは全体チャットを持たないが、復讐の業火に身を焦がす者たちの暗き情念は遂には時空を超えて……

 つまり掲示板、動画サイトを駆使した情報戦の幕開けである。

 ウサギ神聖王国の支援により武装蜂起した受刑者たちは帝国々内より同胞を募り、解放軍への合流を呼び掛けた。

 これに対し、モグラ帝国軍はダミー情報をばら撒くことで合流の遅延を目論む。

 両軍はマールマール鉱山の山中で衝突し、かつての同胞に夥しい出血を強いた。

 一進一退の攻防を繰り広げる中、解放軍は少数精鋭による別働隊を坑道へと送り込むことに成功するも、俺が何の実験をしていたのか理解していなかったらしく、マールマールの眷属に頭を引っこ抜かれて全滅。

 また、俺が一定の基準を設けてスパイ容疑をおっ被せていたのも分かっていなかったらしい。人望があるやつ、商才があるやつ、いわゆる勝ち組を俺は敵に回さない。俺の中の基準を実行に移してやることで、勝ち組に優越感と選民思想を植え付けるのが俺の狙いだった。

 解放軍の中核を成しているのは、残念ながら俺の基準を満たしてくれなかった連中の集まり。烏合の衆だ。

 短期決戦を掲げていた解放軍はたちまち劣勢に追いやられ、戦線の崩壊をきっかけに敗走を始めた。

 山中を逃げ惑う解放軍の行く手を、査問会が阻む……。


「そっちは罠だよっ、こっちだよっ」


 単身堂々と山道で待ち構える俺。裏声など出して騙くらかしてやろうかと遊び半分に試してみたり。さすがに騙されないかなぁ。でもアホだしなぁ。味方のふりして帝国軍の主力部隊んトコに案内してやったらどんな顔するのか見てみたい。

 おっと、いかんいかん。こうしている間にも帝国軍の兵士たちは心休まらない時を過ごしているんだ。短期決戦はこちらとしても望むところだってのに、ついつい遊び心が出ちまった。悪い癖だぜ。俺はいつまでも童心を忘れない男だからな。

 とはいえ、さすがに生き地獄を味合わせてあげた俺の顔は覚えていてくれたらしい。道のど真ん中に突っ立っている俺を警戒して足を止めたアホどもが呆然と呟いた。


「崖っぷち、さん……」


 なんだよ、人格を矯正してやった影響がまだ残ってんのか? そんな体たらくで、よくもまぁ俺に刃向かおうなんて気になれたもんだな。

 しかし解放軍の頭目と思わしき野郎は少しは見所がありそうだ。まぁ尋問をしたのが俺の部下どもだったってだけの話かもしれんが。さすがに誰が誰なんて覚えちゃいねえ。


「崖っぷちぃ! この俺を忘れたなんて言わせねえぞっ!」


 いや、忘れたよ。悪いが、毎日のようにアホどもの相手をしてやってるんでな。いちいち覚えてられねーんだよ。


「俺はホシピーだ! 覚えとけ!」


 えらく可愛らしい名前してんな。まぁモブに名乗られたところで寝て起きたら忘れてそうだけどよ。

 で? 見たところお前が解放軍の頭か?


「そうだっ。俺はな、お前に復讐するために転職した。かつて服屋だった頃の俺はもう居ねえ。ここに居るのは、復讐に取り憑かれた戦士の一人よ……!」


 話の途中で解放軍リーダーの手下が俺に矢を射かけて来たが、俺は普通に首を傾げて避けた。

 言わなかったか? 俺は自分のこめかみを指先で軽く叩いて教えてあげた。

 俺は目がいいんだ。猛スピードでカッ飛んでくるモンスターと比べれば、真正面から撃たれた矢なんて怖くも何ともねえ。

 ついでにもう一つ教えてやる。俺はお前たちと違ってな、勝算もなしにわざわざ殺されに来たりはしねえんだよ。

 

 俺が合図を送ると、身を潜めていた俺の可愛い部下どもが解放軍の残党を取り囲んだ。

 戦闘開始。

 カンカンとやり合う両勢力を、俺とアットムは一緒にぼーっと見つめる。

 俺の部下どもは対人戦のエキスパートだ。査問会なんて因果な仕事をしていると、どうしたって人間を壊すのが上達していく。

 戦闘は査問会圧倒的優勢のまま進み、解放軍の残党がバタバタと倒れていく。

 解放軍リーダーはどうしても俺を引きずり出したいようだ。俺の部下と鍔迫り合いをしながら俺を挑発してくる。


「崖っぷち! この腰抜けが! 掛かって来いよ!」


 いや、掛かっていく訳ないじゃん。悪いけど、俺お侍じゃないのよ。どうしても一騎討ちしたいなら後で一緒に格ゲーでもやる? 俺の待ちガイルが火を吹くぜ。

 俺がキャラクターIDを紙切れに写し取っていると、アットムに横から持って行かれた。


「ゴメンね。コタタマと戦いたいなら、先に僕を倒さないとダメなんだ」


 そういうことらしいぞ。


「ふざけんな! 女を盾にして恥ずかしくねえのか!」


 恥ずかしくないし、アットムは男だぞ。


「えっ、男?」


 目を丸くするアホに、アットムがにこりと微笑む。


「ゴメンね。紛らわしかった? 僕も悩んだんだけどね。見た目でティナンに避けられたら悲しいじゃない?」


 実にアットムらしい理由だ。

 気を取り直したアホが吠える。


「崖っぷち〜! 帝国に混乱をもたらしてるのはお前だ! お前さえ居なければ俺たちだって!」


 知らねえよ。だが、まぁ首を跳ねられる寸前まで来てるのに諦めない根性は認めてやらないでもない。俺は答えた。ここはもう割り切ってFFTっぽく行こう。


「搾取される側に回った時点でお前たちは敗北者なんだよ! 大人しく使われてれば命まで落とさずに済んだのになぁ!」


「お前のようなやつがいるから……!」


「ハッ、笑わせるぜ! 仲良しこよしでみんな仲良くゴールできるとでも思っていたのか? お利口なお仲間が欲しいならオフゲーでもやってるんだな!」


「違う! オンゲーにだって絆はあるんだ! お前だって、分かってる筈だ! ネトゲーには夢がある! 誰しもが諦めてるふりして、賢いふりしてっ、カッコつけてよっ、それでも期待を捨てきれちゃいない! それがっ、人の人の、つながり……!」


 だが、人と人のつながり云々よりも先に、彼の頭と胴のつながりは断たれたのだ。

 グッパイ。



 3.スピンドック平原-打ち捨てられた砦


 惨敗を喫した解放軍は帝国軍の追っ手を免れ、各地に潜伏した。

 内乱を収めた帝国軍は神聖王国への進軍を開始する。

 そういうイベントではないと神聖王国は強く抗議するも、帝国軍は仕様であると主張。

 両国の主張は平行線を辿り、帝国軍の侵攻に抗う形で神聖王国もまた泥沼の戦乱へと足を踏み入れていく。

 遂にプレイヤー同士の血で血を洗う骨肉の争いが幕を開けたのだ。

 小競り合いを繰り返しながらも兵力に勝る帝国軍は戦局を優位に進め、領土の拡大を図る。

 これに対し王国軍は戦力を集め防衛に徹することで遠征を続ける帝国軍に消耗を強いる。

 王国軍の思わぬ反攻に遭い、浮き足立った帝国軍は一部領土の奪還を許してしまう。

 かくして両軍はスピンドック平原を挟んで対峙し、決戦の時を迎えようとしていた。

 一方その頃、打ち捨てられた砦で極秘任務に従事していた俺に、潜伏していた解放軍が再び決起したとの報が入る……。


「解放軍だと!?」


 部下に報告を受けた俺は驚愕した。

 バカな……! 早すぎる。求心力を失った解放軍がこれほどまでに早く再起するとは。

 いや、しかし落ち着け。少し想定外だっただけだ。慌てることはない。

 何しろ、王国軍と帝国軍のどちらが勝とうとも俺の勝ちは揺るがないのだから。

 この砦さえあれば、俺の計画に支障はない。


「失礼します! 室長!」


 ところがどっこい。更に駆け込んできた部下がとんでもないことを口走った。


「解放軍が現れました! 既に交戦が始まっています!」


 やだっ、ピンポイントで俺の野望が挫かれようとしてる!

 ぐ、偶然通り掛かったとかじゃないよね。

 内通者か……? しかし一体誰が……。

 ええい、悩んでいる場合ではない。俺は部下どもを率いて執務室を出た。


「迎撃するぞ! ヤツらを一人たりとて生かして返すな!」


 こうなったら証拠を隠滅してしばらく姿を消すしかねえ。

 まずは解放軍だ。ここを嗅ぎ付けた以上は情報の漏洩があったと見て間違いない。しかし掲示板にリークされた痕跡はないし、交渉の余地はある筈だ。

 慎重を期すあまり、少ない手勢しか連れて来なかったのが災いしたか。せめてアットムを連れて来るべきだった。いや、でもアイツ俺に忠実な副官みたいな感じになってるけど、ピエッタさん辺りにお願いされたらコロッと寝返るでしょ……。


 トコトコと砦の中を歩いていると、思わぬ人物と出くわした。


「ようやく尻尾を出したね、コタタマ氏」


「サトゥ氏……!」


 コイツ、最初から俺に目星を付けてやがったのか!?

 解放軍は囮か……!

 俺は吠えた。


「何故だ! 何故バレた!? 俺は何一つとしてミスを犯していない! それなのに、何故っ……!」


 サトゥ氏はフッと微笑した。


「日頃の行いかな」


 くそっ、正直ぐうの音も出ねえ……!

 俺は観念した。

 最強の男という肩書きは、戦わずして俺の抗戦の意思を奪い去るには十分だった。

 解放軍に拘束された俺は、いつもの牢獄エンドを迎えるようだ。


 罪状は、談合である。


 談合。それはネトゲーの真の闇。

 俺を捕らえて大喜びの解放軍リーダーは、闇へと続く扉を開いて絶句した。

 そこには、流れ作業のようにモグラっ鼻を処刑するバニーの姿があった。


「なっ……え? な、なんだ? 何してるんだ、こいつら?」


 いや、だってさ〜。

 俺は自白した。

 敵兵を殺せばハート貰えるじゃん? ハート集めれば賞品貰えるじゃん? 賞品欲しいじゃん?

 俺、ぴーんと来たんだよね。

 戦う必要なくね?ってさ。

 いっそ国民を総取り替えして延々と処刑すればいいんじゃねーかなとすら思ったんだけど、なんかさー。絶対に反対されると思ったんだよね。

 実際にやってみて思ったんだけど、ちょっと人間性を疑われかねないっつーか、まぁ、ある種の人類への警鐘? アンチテーゼっつーの?

 そういうあれを込めて、あえてやったと言うかね。


 いやぁ〜。なんつーか、まぁ、なんだ。

 捗ったわ。

 俺、ハートの所持量トップなんじゃねーかな?

 ははは……。

 あ、ちょっと処刑してく? 軽くね。軽く。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 正直、いつかやるとは思っていた。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
おもろすぎる
[良い点] 今一話から読んでてここまできたんすけどめっちゃおもろいっす
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