行く年来る年
1.ちびナイ劇場
新キャラのプフさんの正体は変身できるタイプの種族であった。
びびって動きを止めたちびナイに、地球産のカイワレ大根娘が戸惑いの声を上げる。
【お、お姉ちゃん? 変身できるタイプの種族って……?】
ちびナイは小剣群を引き戻して守りを固めている。
【……妹よ。変身できるタイプの種族とは、意図的に弱体化できる種族のことです。冬眠に近い。そうやってエネルギーの消耗を抑えるの。変身のコストとリスクを無視できる。つまり……】
弱体化しても生命の危機に脅かされることがないほどに強く、ひとたび本性を現せば短期間で自滅するほどのパワーを持っているのだと、ちびナイは言った。
プフさんはメガネ美女だ。メガネがずり落ちないよう指で支えながら、
【あなた方と争うつもりはありません。私の職務は運営補佐です。幾つかの星を掛け持ちで見ているので、いつもこちらに立ち寄れる訳ではありません。至らぬ点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします】
漫画家のアシスタントみたいなもんか。
【自己紹介は終えたようだね】
パッと観客席にスポットライトが灯る。
観客席に混ざっていたタコ野郎がタコ足をうにょると動かしてステージに這い上がる。
ちびナイがいつもの台詞を口にする。
【あ、あなたはもしや運営ディレクターのョ%レ氏!?】
【そうとも。私が運営ディレクターのョ%レ氏だ】
いつもの遣り取りを終えた暫定エイリアンにちびナイが泣きつく。
【ョ%レ氏〜! 生意気な新人がチームの和を乱してくるよぉ〜! こんな女、追い返しちゃって!】
ョ%レ氏がタコ足をうにょると持ち上げてちびナイのデコをつつく。
【賢者を幾ばくか本社に引き抜かれたからな。プフはその穴埋めという訳だ。それに値する人材なのかどうか……。私とて疑っているが、それは彼女のこれからの働きによる】
プフさんが頷く。
【当たり前のことですね。仕事はしますよ。そこでさっそくですが、こちらのプレイヤーのクランハウスを訪問して各マスターと面会します】
仕事熱心なメガネ美女である。
これにはちびナイもびっくり。
【えっ。メンド臭くない?】
プフさんはぴしゃりとこう言った。
【面倒でもやるのです】
観客席のほうを向いてにこりと微笑む。
【プレイヤーのエンドフレームはクランと呼ばれます。それはギルドとは似て非なるものであるということ。両者の違いは何でしょうか。分かりますか?】
観客席から、ざわ……ざわ……とモブ言語が上がる。
違いね。何だろう。プレイヤーの母体はクロホシ社長がゲットした【ギルド】だろう。そのものでなくとも、製造に【ギルド】が関わっていることは間違いない。つまり違いなどないのだ。しいて挙げるなら、俺らの母体は出来損ないの【ギルド】ってことかな。
プフさんは肯定も否定もしなかった。
紅を引いた唇が優しげに笑みの形を作る。
【人の心ですよ。私は光の使徒を輩出した一族のものです。勇者クァトロとも付き合いがある。彼の言葉を私は信じようと思います。あなた方はゴミではない。出会い、話しましょう。これはオンラインゲームなのだから。私たちは、ずっとそうやって来た。それはこれからも変わりません】
2.山岳都市ニャンダム-露店バザー
バザー巡りしている。
新キャラのプフさんはデキる女っぽいけど、マレも最初はあんな感じだったしな。第一印象は大事だけど、当てにならないものでもある。だから人間関係ってのは拗れる。
いずれにせよ、各クランマスターの元にプフさん訪問日時の予定表が配布された。当然ながら先生の手元にも。いくらプフさんがデキる女でも変身できるタイプの種族を先生と二人きりにする訳には行かない。俺も同席するぞ。
まずは買い出しだ。料理でもてなしてプフさんのハートをがっちりキャッチしておきたい。何しろ俺はウッディと同居してるからな。俺とウッディの仲を認めて貰わなくては。
いそいそと食材を買い集めていると、ゴミどもに絡まれた。
「崖っぷち〜。ネタは上がってんだ。正直に言えや。オメェが【ギルド】の指揮官なんだろ?」
「だからオメェーは狙撃兵と裏で通じて俺らのロストを目論んだ……! 違うか!?」
違うなァ。
俺は嘘を吐いた。むしろ俺は特別な理由でもなければ本心を明かさない。自白する必要性を感じないからだ。
俺が指揮官だって? どこからそういう話が出てくるんだ? 妙な話じゃねえか。俺ぁエンジョイ勢だぜ? ログイン時間は限られてるし、腕利きって訳でもない。
いい加減お前らも諦めろよ。今まで生きてきて将来こうなる実はこうだと予想して当たった試しがあったか? ねえだろ。お前らの予想は当たらねえ。賢いふりしてんじゃねえよ。諦めろ。お前らはバカなんだ。そこを認めれば少しは賢くなれるぜ。無知の知ってな。
俺は善良な市民さ。【ギルド】とは縁もゆかりもねえ。
俺の頭にウッディが這い上がってきて、み〜っと身体をぴんと伸ばす。
屈伸運動をしているウッディをゴミどもが指差して吠えた。
「そいつだよそいつぅ! バッチリ乗っ取られてるじゃねーか!」
あーあー聞こえない聞こえなーい。
俺は耳の後ろに手を当てると舌を突き出してぴろろろろろろろと効果音を発した。
耳を塞いだゴミどもが怒鳴り声を上げる。
「それやめろ!」
俺くらいになると種族人間が不快に感じる周波数の音波を出すこともできるのだ。まぁアマチュアには無理だろうが、俺はセミプロなんでね。
俺は怪音波を発しながらぴょんぴょんと飛び跳ねて後退していく。余裕で逃げれそうだったので、それもつまらないと思い、飛び上がった拍子に左右の靴底をバンバンと打ち鳴らして煽ってやる。おら、どうした。俺はここだ。逃げちゃうぞ〜?
ゴミどもが街中で凶器を抜いた。
「追え! 殺せ!」
「ブッ殺してやるぁ!」
そら、逃げろー! ぴゅー!
ゴミどもを煽るのは楽しいなぁ。
残像の尾を引いて急加速したゴミに俺は適当にその辺の物を投げつけてカウンターを取る。
【スライドリード(速い)】の欠点は反射神経まで強化されることはないということだ。
仰け反ったゴミが露店に突っ込んで軒先の商品をブチ撒ける。ほら、どうした。がんばれ。俺はここだぞ〜。
逃げる俺と追うゴミ。
俺たちの年の瀬はこうして慌ただしく過ぎ去っていった……。
これは、とあるVRMMOの物語。
人の心なさそう。
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