バイトリーダー
廃課金のネカマ六人衆がついに本気を出してきた。
水を得た魚とはこのことか。
よほど金が有り余っているらしい。
ヤツらの新事業、6sTVとは、簡単に言うとゲーム内の動画サイトだ。
具体的にどういう仕組みになっているのかは知らないが、状態1のスマホがあれば怪しいアプリをインストールして不明なデータをダウンロード終了後、スマホのホーム画面にサトゥ氏の笑顔アイコンがポコンと生える。せめてリチェットにしとけよと思わんでもないが……。
つまりマトモにやっても【目抜き梟】には勝てそうにないから別路線でアピールして行こう、ということらしい。
まぁどんなに躍起になって超絶技巧を披露しようが、このゲームをやってないと何が凄いのか分からんし、それ以前にわざわざ検索しないからな。
ゲームのプレイ動画なんてそんなもんだ。ただでさえゲーマーしか見てないのに、ネトゲーマーってのは自分がやってるゲームが一番面白いと思ってるから未プレイの他ゲーを無視する。
その点、【目抜き梟】の配信動画は二の腕やら太もも全開の美少女戦隊が歌って踊ってるので問答無用の強さがある。
アイドル気取りの優位は動かない。
しかし、その状況に少し変化が生じた。
長らく迷走していたクソ廃人どもの配信にブレイクの兆しが見えたのだ。
トレーニングモードのスマブラごっこである。
かつてョ%レ氏が実演してくれたように、エンフレは操作に慣れると上下左右に動ける。場外に落ちたら負けというルールで戦っていると当然のように落ちた落ちないで揉めて醜い場外乱闘に突入する訳だが、必死になって崖にしがみ付く粗大ゴミと執拗なまでに追撃を行う粗大ゴミの醜態が微妙にウケているらしい。
あと女キャラのエンフレにはコクピットがあって、コクピット開放からの激しい舌戦が見せ場の一つになっている。他人の友情が破綻するのは見ていてとても楽しい。
俺もちょろっと出演してるぞ。このゲームのプレイヤーに肖像権などという概念はない。ゲームを始める前に規約に同意した時点で全部タコ野郎に持って行かれている。ゲーム内の画像を外部に持ち出すのは規約違反なのだが、公式サイトにチクっても丁寧にバカにされるだけだ。あのタコ野郎に言わせてみれば、1秒の価値は種族によって異なるらしい。種族人間に生まれたのは不幸なことかもしれないが強く生きるよう励まされる。
俺のエンフレはカービィ寄りなので、高い復帰力と道連れ性能が持ち味だ。ゴミどもを煽るの楽しいです。
スマブラ人気にあやかって好評を博したことで、クソ廃人どもは年末年始にかけて勝負に出ることにした。
すなわち、エッダ戦で何が起こったのかを検証する特番である。
全てを知っている俺からしてみると遠い過去の話であり、もう終わったことなのだが、ゴミどもはどうしても納得行かないらしい。
ラム子の介入によりレコーダーが回収されて、のちの大量ロスト事件で目撃者の大半が当時の記憶を失ったからだろう。
いつまでも下らない過去に拘るのは種族人間の悪い癖だ。大切なのはこれからどう生きるかじゃないのか。
未来志向の俺は、余計なことを嗅ぎ回るハイエナを始末するべく動き出した……。
1.ポポロンの森-人間の里
クズ女ことキャメルがギフターズに聞き込み調査をしている。
「あなたは当時の貴重な生き残りです! あの時、何があったのか。真実を教えてください!」
「帰ってくれ。何も話すことはない」
けんもほろろに追い返されたキャメルがトボトボと帰路に着く。ぼそぼそと独り言を口にしながら。
「……ギルド憑きの口は堅い。でも、どこかに必ず居る筈。あの魔族に強い反感を抱いている人が」
なるほどな。それをやられると確かに面倒だ。
雉も鳴かずば撃たれまい……。
俺は物陰から這い出してキャメルの行く手に立ち塞がった。
顔を上げたキャメルがハッとして警戒する素振りを見せる。
「コタタマさん……!」
俺は歯列をギラつかせて友好的な立場であることを強烈に示唆した。
よう、モルダー。お前は疲れてるんだよ。
「け、消される……!」
消さねえよ。どこのブラックメンだ。
俺はクズ女に近寄って親しげに肩に腕を回した。ガッと効果音が鳴る。
エッダ戦のことを嗅ぎ回ってるブン屋ってのはお前か。おいおい、どうして俺んトコに来ないんだ? 友達じゃないか。
クズ女はきょろきょろと左右に首をひねって辺りを気にしている。
俺は教えてやった。
安心しろ。俺一人だ。友達と話すのに護衛は必要ないだろ?
「……そ、そんなこと言ってコタタマさんは自分にとって都合の悪いことは話してくれないでしょ?」
くくくくっ、ふははははははははははは!
俺は哄笑を上げた。
クズ女が後ずさりして震える声で言う。
「く、狂ってる……」
くくくっ、おっと失礼。
いやね? なかなか演技が上手いじゃないか。
俺は猫背になってぐっと身を乗り出した。
キャミ〜……。さっきの独り言はありゃなんだ? 情報を売り物にしてるブン屋で独り言の癖があるヤツなんざ見たことねえ。俺を誘き出したかったんだろ? お仲間が居るな。さっさと出て来いよ。
「ちっ……」
舌打ちしたキャメルがピュイっと指笛を吹く。
物陰からぞろぞろと知らないゴミが出てくる。
クズ女が俺を小バカにするように笑う。
「コタタマさん。先ほどのご質問ですが、お答えしますよ。簡単です。例の事件を追っていれば必ずあなたが出てくると思っていました。ならば、こちらから出向く必要はないでしょう?」
俺はニヤニヤと笑っている。
おお、怖い怖い。
時に、キャミーよ。さっき俺は一人だと言ったが、悪いナ。あれは嘘だ。
俺はピュイっと指笛を吹いた。
物陰からぞろぞろと俺の可愛い部下どもが出てくる。
余裕の表情を浮かべていたキャメルが一転して悔しげな顔をする。
「くっ、査問会ですか。卑劣な……」
数の上では互角でもそこら辺のゴミでは俺の可愛い部下には勝てない。
クズ女の手下が武器を左右に振ってこちらを牽制しながら言う。
「ちっ、キャメル。逃げろ! 捕まったらおしまいだっ。諦めるなっ。崖っぷちが動いたのは確信を持てないで居るからだっ。どこかに必ず証拠があるっ!」
モブがハシャギやがって。
俺は査問会に命じた。
殺せ! キャメルは生け捕りにしろっ!
クズ女の手下どもと査問会が衝突する。キンキンとやり合う。やはり査問会のほうが上だ。
俺は舌を突き出してキャメルを挑発した。
「逃げるのか〜? 仲間を見捨てて! お前のために身体を張ってるのにな〜。俺なら仲間を見捨てて逃げるようなヤツは二度と信用しねえけどな〜」
モブキャラが吠える。
「乗るなっ! 逃げろー!」
オメェは黙ってろや! 俺はモブキャラの首を刎ねた。崩れ落ちたモブキャラの身体を蹴り転がしてドカッと踏み付けにする。立てた親指で自分の胸をつつき、
「おい、キャミー! 俺はここだぜ! 掛かってこいよ! 真実が知りたいんだろ? お前のお望みの品はここにあるぜ〜!」
「魔族ッ……!」
クズ女はわなわなと握り拳を震わせている。地べたに転がっているゴミの残骸を見つめ、じりじりと後ずさりしていく。ダッと地を蹴って逃げ出した。
ちっ、なかなか冷静じゃねえか。
査問会の一人がクズ女の手下とやり合いながら声を上げる。
「室長! 追いますか!?」
いや、いい。掃討に専念しろ。変身されたら面倒だ。
……キャメルはしばらく泳がせるとしよう。真相を追っているのはヤツだけじゃないからな。
俺はキャメルが逃げた方角をじっと見つめて叫ぶ。
「逃げろ、逃げろ! 疫病神め! お前は不幸を撒き散らす存在だ! 二の舞にならないといいよなぁ!?」
もう年末だ。
気持ち良く新年を迎えたい。
大掃除をしなくちゃな。目障りなゴミを処分してスッキリしたい。
俺の哄笑がポポロンの森に響いた……。
2.ちびナイ劇場
ちびナイとちびマレがチクチクと編み物をしている。
またかよ。クリスマスにゲリラコントしたばっかりじゃねえか。
ちび姉妹は喧嘩をしているようだ。
目が合うとぷいっと目を逸らす。
まぁ殺し合いしてたからな。むしろ今まで仲良くやって来れたのが不思議なくらいだ。
気まずい沈黙を打ち破るように、ぴんぽーんと呼び鈴が鳴る。
舞台袖にパッとスポットライトが灯る。
……え? 誰?
メガネを掛けた女キャラが立っている。
長い髪を結い上げ、振袖を身に付けている。
し、新キャラだと……。
メガネのつるを指でくいっと押し上げて位置を調整した新キャラがドアノブに手を掛ける。
【失礼します】
ドアを開けてちび姉妹の家に足を踏み入れる。
玄関に向かおうとしていたちび姉妹が新キャラを目にして怪訝そうな顔をした。
【……誰?】
新キャラはぺこりと頭を下げて一礼した。
【初めまして。プフと申します。運営ディレクターのレ氏はご在宅でしょうか?】
【えっ。居ないけど……】
【そうですか。では、しばらくこちらで待ちます】
プフと名乗った新キャラが壁際に寄って待機する。
ちび姉妹に飼われている駄犬ことプッチョムッチョがぴくりと反応した。読みかけの漫画を床にうつ伏せにして立ち上がる。
【兄貴に何の用だよ?】
ついに番犬らしい仕事をしようというのか?
いや、単なるチンピラだった。新キャラに壁ドンして絡み始める。
【お前、AIじゃねーな? 血族でもない……。本社に言われて来たのか?】
【何をしに来たのかは知らねーが……帰りなよ。この家にタダメシ食らいの居候は要らねーんだよ】
タダメシ食らいの駄犬コンビは食い扶持が増えることを警戒していた。因縁を付けて追い返そうとしている。
新キャラを歓迎していないのはポンコツ姉妹も同様であった。珍しく働いてる番犬二人の後ろでやっちゃえやっちゃえ〜と応援している。
新キャラがメガネのつるをくいっと押し上げる。メガネ越しに怜悧な眼差しが鋭く光る。
【まるでチンピラですね】
壁から手を離したプッチョムッチョが両手をポケットに突っ込んで【ハッ……】と鼻で笑う。胸を張って新キャラを見下してから、暖炉の前に戻る。暖炉の中でパチパチと燃える薪をじっくりと眺める眼差しは真剣そのものだ。二人はどちらからともなく床に寝そべって、漫画の続きを読み始めた……。
ちび姉妹がびっくりして言う。
【えっ、言われっ放し!?】
【弱っ……!】
通常業務に戻った駄犬に代わってちび姉妹が新キャラをいびる。
【なにさ、その格好。おめかししちゃってさ】
【調査不足なんじゃないですか? 日本で振袖を着るのはお正月からですよ。張り切っちゃいました?】
新キャラがゆっくりと分かりやすく説明する。
【正月イベントを元旦から始めてどうするのですか】
デキる女だった。
おっしゃる通りである。例えばクリスマスイベントなら、クリスマスの二週間前、遅くとも一週間前からイベントを始めるのがネトゲーの常識だ。
何故なら、別にクリスマス当日だからといって課金が捗ることは決してないからだ。
むしろリア充がラブホにしけ込む分、実入りは悪くなるかもしれない。
一口にゲーマーと言っても様々だ。比率で言えば非リア充のほうが多いだろうが、その非リア充にしたって祝日になったら急に人口が増加するということはない。
このゲームは営利目的で運営されている訳ではないから、これまでは特に言及されることはなかったのだが……。
痛いところを突かれたちび姉妹は【なっ……!】とか【そっ……!】だのと言って硬直する。
新キャラのプフさんが深々と溜息を吐いた。
【……まぁ今からイベントの準備を始めても間に合いませんから、それは今後の課題ですね】
初対面の新キャラに会っていきなりフォローされたちび姉妹の視線が交差する。
ネトゲーにおける旧キャラの末路は哀れなものだ。かつての強キャラもインフレに付いて行くことができずに二軍、三軍へと落ちぶれていく。
一瞬のアイコンタクトを交わしたちび姉妹が新キャラの排除に動く。
ちびナイが小剣群を傍らに浮かべて回り込めば、ちびマレは変身して手のひらから根っこを生やしてプフさんに迫る。
ちびナイが小声でぼそりと「死ね」と言った。
プフさんがふわりと跳躍してトトッと軽やかに壁を蹴って宙返りする。背後を取られたちびナイが驚愕に目を剥く。
【お前、人間じゃ……】
素早く後退してちび姉妹から距離を取ったプフさんがメガネを指で押さえながら言う。
【最初に言っておけば良かったですね。私は変身できるタイプの種族です】
他星系のプレイヤー……!
【ですが、もちろんこの場で変身するつもりはないのでご安心を……】
フリーザ様!?
これは、とあるVRMMOの物語。
みんなのアイドル天使NAiです。
大変! 私の聖域に宇宙人が攻め込んで来たよ! 今の私じゃ変身できるタイプの種族には勝てないかもしれない……。
私たち、これからどーなっちゃうの!?
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