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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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セピア色の情景

 1.回想-先生の華麗なる中国生活


 一人の新規ユーザーとして中国サーバーに降臨した先生の新生活が始まった。

 死骸を漁るハイエナのように先生の存在を嗅ぎ付けた残飯野郎に目を付けられるというハプニングはあったものの、のんびりとした日々を過ごす。

 しかし正体を隠すことと能力を隠すことは別次元の問題だった。

 パンダカラーの先生は困ったプレイヤーが居れば助けてやり、問題解決に尽力していく。場合によっては中国サーバーに潜伏しているであろうクソのような廃人の刺客に頼ることもやむなしと考えていたが、幸い……と言っていいのかどうか、中国には仙人とかいうクソ強い超人集団が居た。

 修行漬けの毎日に価値を見出す仙人たちは運営絡みの強制召喚を忌み嫌う。中国人にエンフレ大量投下の習慣がないのは、彼ら仙人会の存在によるところが大きいらしい。

 さっさと修行を再開したい仙人たちが、何かとちょっかいを出してくる鬼畜ナビゲーターやカイワレ大根娘をボコして泣かせる。仙人たちがあまりにも強すぎるので、タッグを組んだNAiとマレの協力オペレーションなんてものもあったらしい。でもダメ……! 勝てない……!

 中国サーバーは修羅の国であった。モブキャラのクオリティが高い上に、世界二位という巨大なゲーム市場は仙人に匹敵するほどの怪物を産み落としていた。あえなくボコされたポンコツ姉妹はわんわんと泣き喚きながら「もうこの国やだ!」「人外魔境! 滅んじゃえ!」と捨て台詞を吐いて逃げた。

 先生の平穏な日々は続く。

 だが、その平穏も長続きはしなかった。

 日本サーバーと中国サーバーの二足のわらじを履く先生は、ログイン時間が限られていることもあって、あまり目立たずに済んでいた。

 しかし先生の啓示を受けた中国チワワを中心に徐々に、けれど確実に先生を祀り上げる怪しい宗教が広まっていく。

 フレンド登録できない先生はいつしか謎のNPCという扱いになっていく。

 中国サーバーに語り継がれるパンダマンの伝説の幕開けだった……。



 2.パンダマンの伝説


 さて、伝説とは何か。

 諸説あるだろうが、伝説とは多くの場合「完結しない物語」である。

 誰もが納得するようなエンディングを迎えたなら、人々は大きな感動を得る一方で日常の喧騒に紛れて忘れ去っていく。

 パンダマンは多くの謎を残したまま人々の前から姿を消したことで伝説となったのだ。


 先生にはパイロンという中国の友人が居た。

 その人物は中国サーバーでは超が付くほどの有名人で、こと戦闘に関しては仙人ですら一人では危うい、二人掛かりでも仕留めることは困難と言われるほどの猛者だった。

 技量はもちろんのこと、地形を利用するすべに長け、先生が舌を巻くほどの洞察力を兼ね備えていた。そして何よりも特筆すべきは生存能力の高さだ。とにかく逃げ足が早かった。

 そう、中国サーバーの元トッププレイヤー。通称「白龍」のことだ。

 オムスビコロリンの奸計によりロストに追い込まれた人物である。

 金髪ロリは白龍という人物について脳筋だと言っていたが、どうやらそれほど単純な人間ではなかったようだ。

 先生は友人のパイロン氏について多くは語らなかった。

 ただ、友人をロストに追い込んだ残飯野郎を恨んではいないようだ。

 もしかしたら、と俺は思う。パイロン氏のロストはパイロン氏本人が望んだことだったのかもしれない。

 かつて残飯野郎は言っていた。白龍のアビリティはマジュンくんに受け継がれたのだと。

 俺は少しだけパイロン氏の気持ちが分かるような気がした。

 マジュンくんには人を惹きつける何かがある。雑踏の中で不意に目を奪われ、目で追ってしまうような雰囲気を持っている。

 それは、おそらくパイロン氏の下でNo.2に甘んじていては花咲くことなく、つぼみのまま終わってしまうような種類の才能なのだ。

 

 そして、失意の先生が中国サーバーを去った頃。

 時を同じくして、日本サーバーでは神獣エッダとの決戦の火蓋が切って落とされた。

 世に言う紅蓮の天秤ガチャ事件である。

 時のトップクラン【敗残兵】マスター、リチェットの策謀により、俺含むゴミ一同はロストの危機に晒されていた。

 もしもラム子の介入がなければ、冥王の日こと大量ロスト事件を大きく上回る犠牲者が出ていただろうと未だに語り草になっている大事件だ。

 リチェットめ。とんでもない女だ。傷心の先生に追い打ちするような真似をしやがって。世間では何故か俺が共犯者というポジションにすっぽりと収まっているが、ゴミどもの言うことは当てにならない。再現VTRを流すまでもなく、当時の状況から俺が多大な被害を被った犠牲者の一人であることは明白だ。

 つーかちょっと前からネカマ六人衆がリアルマネーにモノを言わせて6sTVとかいう怪しい広報活動をしてるんだが、今度そこで紅蓮の天秤ガチャ事件の特番を組むとか言ってる。リチェットが可哀相だろ。そっとしておいてやれよ。俺はリチェットの味方だぜ。よって無能もろとも事件を闇に葬り去らなくちゃ。世の中には知らなくてもいいことってのがある。この俺が光の使徒となって優しい世界を作るんだ。この地上を光で満たして闇は払われる。証拠は闇と共に消滅するという寸法よ。真相に近付くものもあとを追うことになるだろう。

 悲しいことだが、いつの世も真実とはR指定の向こう側にあるものだ。子供の健全な育成の妨げになるものは遠ざけるのが良識ある大人というもの。ならば未練たらしく未成年の手が届く範囲に置くのではなく闇に葬ってしまうべきだろう。

 好奇心は猫を殺すという言葉もある。余計な詮索はするなということだ。


 中国での悲しい別れを語り終えた先生のつぶらな瞳はうるんでいた。

 俺は余計なことを嗅ぎ回るハイエナどもの処理方法を頭の片隅で考えながら、先生にガッと抱き着く。先生には俺たちが付いてますよ……!

 ウチの三人娘も先生に抱き着いてすすり泣いた。

 先生の瞳からポロリと涙が零れ落ちた。俺たちの肩にガッと腕を回すと、天井から吊り下がっているミラーボールのきらめきが幻想的に俺たちを彩った。

 先生はクッと涙を堪えるように天を仰いで、満を持して言った。


「キャバクラかッ……!」

 

 俺たちは身を寄せ合っておいおいと泣いた。

 課金アイテムは日々充実している。

 ョ%レ氏の専属マネージャー、S編集セレクションの課金アイテムはどうしようもなくキャバクラ御用達であり、アットムくんが家を発つ前に残した爽やかな微笑が俺の脳裏を過った。


(まるで大きな月の雫みたいだろ?)



 3.ポポロンの森-人間の里


 赤カブトさんの部屋からそっと抜け出した俺は、査問会の報を受けて人間の里へと急行していた。

 行方不明になっていたセブンが見つかったらしい。

 月の雫ドロップの喜びに沸く俺たちは、そのまま宴会に突入したので、ヤツの存在をすっかり忘れていたのだ。

 結局あのセミ野郎は何の役にも立たなかったのだが、一応はウチのアットムくんのためにがんばってくれたのだから労ってやるのもやぶさかじゃない。

 サトゥ氏とリチェットは、二次会のスマブラごっこ大会中に突如消息を絶ったセブン捜索のために有志を引き連れて遺跡マップの中層域に潜っている。ささやきは飛ばしたが完全にもるっていたので合流は難しいだろう。今頃は魔物の身体のパーツを掻き集めて新たなセブン誕生の儀式を執り行っている筈だ。妄執に取り憑かれた哀れなモルラーである。そんなことをしてもセブンは帰ってこないというのに。

 だがセブンは生きていた……!


 人間の里には似つかわしくないほったて小屋の手前に査問会の一人が立っている。


「し、室長……!」


 良くやった!

 俺はセブン発見の労をねぎらって、ほったて小屋に駆け込む。


 そう、セブンは生きていた。

 ……変わり果てた姿となって。


 立ち竦む俺に、車椅子を押しているハチがパッと振り返って嬉しそうに笑う。


「あ、パイセン! 俺ぇ、新居を買ったんですよぉ! どうスか? ちょっとボロいスけどぉ、味があるって言うか?」


 ハチが車椅子ごとくるっと回る。

 車椅子に腰掛けた長髪の男が茫洋とした眼差しを虚空に向けていた。ひび割れた唇がわななき、掠れた声が漏れる。


「あ、う……」


 ハチが慌てて車椅子の向きを窓のほうに直した。


「わっ、ゴメンなさい! ほら、怖くない。あっちがワッフルの巣ですよ〜。ね?」


 ハチはとても幸せそうな顔をしていた。

 ベッドの脇に置かれた小箱を手に取り、蓋を開くと、キン、キン……と澄んだ音が鳴る。

 オルゴールのどこか寂しげな音色がボロ小屋に響き渡る。


 俺の脳裏を先生の言葉が過った。


(人には為すべき役目というものがある)

(私は種を蒔き、どのような花を咲かせるのかを傍らで見つめたい)

(それが私の責任だ)


 長髪の男は茫洋とした眼差しで窓の向こうを見つめている。


 あ、あ、あ……。

 俺は言葉を失って後ずさり、顔面を両手で覆った。

 ……ラム子は最初から最高指揮官だった訳じゃないだろう。いずれかの兵科から自然淘汰されるように【指揮官】となり、少しずつ成長していった筈だ。

 スキルコピーとデスペナルティー。

 おそらくは、あの二つがラム子のオリジナル。

 それは……。

 それらの特徴は……。

 種族人間と、ひどく似通っちゃ居ないか?

 イヤ単なる思い込みだ。人間は不吉な符丁に警戒心を抱く構造になってるから悪いほうに考えてしまうだけだ。

 そう思うのに、頭の片隅にこびり付いた嫌な感触を振り払えない。


 ハチが幸せそうに笑っている。ようやく望みが叶ったと言うように。

 車椅子のそばを離れて窓を開くと、室内に穏やかな風が吹き込んだ。

 壁に引っ掛かっている黒コートがかすかに揺れる。


「もう、遠くに行かないで」


 俺の背筋をゾゾゾと怖気が這い上った。

 オルゴールの調べが呼び水となり、おぞましいトラウマの蓋が開いていく。

 俺は掻きむしるように頭を抱え、目の前に突き付けられた現実を拒絶するように叫んだ。


「ランスロットさーん!」




 これは、とあるVRMMOの物語。

 デスペナ溜めすぎぃ……。



 GunS Guilds Online


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