周回遅れのサンタクロース
俺居るところゴミどもあり。
アットムくんと一緒に月の洞窟を周回していると段々ゴミが増えてきた。
俺自身よく分からないのだが、ゴミどもが近くに居るとお化けがあまり怖くない。いや怖いには怖いのだが、心にバリアが張られているような感じがして精神強度が上がる。
お陰で俺はゴミもろともアンデッドを魔法で粉砕できるようになった。元よりアットムくんは対アンデッドに特攻が入るキャラなので周回ペースはどんどん早くなっていく。
しかし月の雫はまったくドロップする気配がない。
レアドロップ、と言えば一般的にはどれくらいの確率を指すのだろうか。
ゲームによってまちまちではあるが、最高レアともなれば確率は1%未満だろう。0.5%もあれば上等な部類と言えるのではないか。
少なくとも俺は月の雫の実物を見たことがない。そもそも……。
本当に実在するのか?
未実装じゃないの?
ゲーマーってのは見栄を張るからな。最高レアを引いたと嘯いて、まだ持ってないやつおりゅ?だのと散々煽っておきながら後日になって実は未実装でしたなんて例もある。
月の雫はティナンの願いを叶える力を持つという話だが、その話がどこから出て来たのかも分かってない。
まぁクリスマスまではまだ間があるからな。そう焦ることはないだろう。
そう思っていた時期が俺にもありました。
1.三週目終了
最深部に辿り着いた。
最後の一体となるアンデッドを殴り倒したアットムくんが俺を見てコクリと頷く。
よっしゃ。見てろよ〜。俺のリアルラックが火を噴くぜ。
俺は手に持つツルハシを振り上げてカンカンと最深部の壁を削っていく。
残念ながら今回も外れだったようだ。
気落ちする俺をウッディが慰めてくれた。
(シンイチ、そう気にするな。今回はたまたま運が悪かった。そういうこともある)
2.五週目終了
今回もダメだった。
ウッディが励ましてくれる。
(レベル上げのついでだと思えばいい。家にこもって藁人形を作るよりはよほど建設的だ)
3.十周目終了
ウッディが希望的な観測を述べた。
(次辺りひょっこり出るんじゃないか? なんとなくそんな気がするぞ)
4.二十周目終了
ウッディが迷信を口にし始めた。
(シンイチ。無心になれ。欲を捨てるんだ。物欲センサーを潜り抜けねば我々に未来はない)
5.五十周目終了
俺のレベルが上がった。
ウッディは苦悩していた。
(……何なんだ。これは。ゲームとは楽しむものではないのか? もはや飽きを通り越して苦痛でしかない)
安心しろ。すぐに何も感じなくなるさ。
そう、ネトゲーマーにとっては馴染み深い感触だ。あの感触がやって来た。
ああ、またこの時間かと思うだけだ。
さあ、共に限りある生の瞬間を溶かしていこう。
6.そしてウッディは数えることをやめた
もうどれくらい周回したろうか。
段々と無口になっていったウッディが完全に沈黙してしばらく経った頃に、急にハジけた。
長時間周回していると、一時はピークを迎えた周回ペースはやがてゆるやかに落ちていく。スピードよりもいかに楽をして回るかに思考がシフトしていくのだ。
集中力はとうに打ち切れになって久しい。あり得ないようなミスを連発するようになるのもこの頃だ。
スケルトンの群れに正面からトコトコと歩いて行って骨モグラと骨うさぎの間を通り抜けようとした俺とアットムくんはたちまち窮地に陥った。
「くっ、数が多い……!」
くそっ、骨モグラさんがタイミング良く手を上げてくれれば通れたのに……!
まとめて一掃しようにも生憎とマナが切れてる。
なんとなく付いてきた知らないゴミが俺に虎の子のマナポを投げて寄越す。
「弾を込めろ!」
一次職には特別な【戒律】がないので、マナポの副作用に強い耐性を持つという役に立つんだか立たないんだかよく分からない特徴がある。が、いかんせんそれはエンカウントの前にやっておくべきことであった。
エリクサーを最後まで取っておいて結局使わない派の俺は、マナポの摂取を躊躇う。マナポはそこそこ値が張るのだ。キメたところで全滅したなら収支は完全にマイナスになる。財布に直接響く。マナポが「実弾」と呼ばれる由来だ。
俺はマナポを着服した。
スケルトンの群れが迫る。
アットムくんが危ない!
その時であった……!
ウッディが俺の身体を無断で動かしてスケルトンの群れに突進。俺の口をパクパクと動かして叫ぶ。
「俺に構わず先に行け!」
「コタタマ!? だ、ダメだ!」
アットムくんの制止を振り切って俺のボディは勝手にスケルトンの群れに飲み込まれていく。
俺に犠牲になれというのか?
いや、違う!
ババっと両手を大きく振ってポーズを決めた俺の身体に黒い金属片がブッ刺さる。
「変・身……!」
ヒーローは正体を明かさないもの。
ウッディは変身の瞬間を見られないために、あえて敵陣に身を投じたのだ……!
ウィング見参!
ブンと羽を震わせたウィングが垂直に飛び上がってビッとレーザーを放つ。バッと跳躍したスケルトン衆が空中で側転して華麗にレーザー光線を回避した。洞窟の天井に張り付いたウィングがゴミどもの勇気を奮い立たせるように吠える。
「今だ!」
「今とは!?」
俺たちは全滅した。
7.12月24日-AM3:48
クリスマスイブである。
未だに月の雫は落ちない。
……ヤバいぞコレ。間に合わん。
うわー! 俺は頭を抱えた。ネトゲーしてる! 久しぶりだわ、この感覚。イベント終了間際の、ポイント足りないんですけどっていう……!
こ、こうなったらもう人海戦術しかねえ。もしくは奇跡的に市場に流れたブツを有り金叩いて買うかだ……!
決断の時だぜ。アットム!
「……それはチョット」
分かるよ? 自力で手に入れてこそってのはあるよな。それは分かる。分かるけどさぁ! もうどうにもならねーって! タイムリミット今日だからね! 今日!
おや、知らないゴミどもが増えたぞ。
ちびナイ劇場のノルマを達成してきたらしく、各々トナカイスーツを手に抱えている。ちびナイ劇場には二種類あって、強制召喚されるタイプとタイマー予約のタイプがある。タイマー予約のほうはリログしないと見れないのだ。つまりクリスマスイブはスケジュールが埋まっているので事前に収録した映像ですよと言いたいらしい。お一人様の健気な抵抗である。
新参のゴミどもがバッとトナカイスーツに袖を通してニヒルな笑みを浮かべる。
「水臭いじゃないか、アットム氏」
アットムがハッとした。
「ロリコン先輩!? どうしてここに」
ロリコン先輩とな。
ロリコン先輩たちが俺にぺこりと頭を下げる。
「どうも。ロリコンです」
「初めまして。ロリコンです」
「ロリコンだ。ショタもイケる」
まさしく人間のクズだな。
ロリコントナカイの参戦であった。
ロリコントナカイどもが何故か俺を囲ってえいえいおーと腕を突き上げる。
「全はロリ! ロリは全!」
さ、最低だな……。
だが……溺れる者はロリコンにも縋る、か。
こうなったら仕方ねえ。
俺は叫んだ。
「ギフターズ! 来い!」
ギフターズとは人工悪魔の実の能力者のことである。もっともそれはワンピースの話……。
この場でギフターズと言えば俺を陰ながら見守る【ギルド】憑きのストーカー集団のことである。
月の洞窟は、洞窟とは名ばかりの辛気臭い墓地マップだ。
墓石の裏に潜んでいたストーカーどもがゾロゾロと姿を現す。
……なんだ? ギフターズを見つめるアットムくんの眼差しが優しい。
アットムくんが苦笑などして軽く手を上げる。
「やあ、みんな。元気だった?」
ギフターズはコクリと頷いて、アットムくんに近寄るとサッと手を上げた。
アットムくんとギフターズの手が合わさってパンと小気味いい音を立てる。
ギフターズが能面じみた無表情で言う。
「アットム。お前のカーディナルへの友愛に我々は応えるだろう」
ええ? 何やら知らない間に仲良くなってるぞ……。
これは、とあるVRMMOの物語。
人間失格のパーティーが始まる。
GunS Guilds Online




