サバイバル
1.黒い星-ポポロンの森
流行りのサバイバルゲームに参加している。
トレーニングモードは便利だ。経験値は入らないが……死んでも残機が減らないという環境によるものだろう。日本でゲームがそうであるように、仮想的なものは評価されない。俺はむしろ逆であるべきだと思うがね。なんだかんだで人間はそこそこ頭が回る。特にクソガキどもは大したもんだ。今やチビッ子ですらスマホを使いこなす。
くくくっ……。俺は俯いて含み笑いを漏らした。テレビじゃ訳知り顔のコメンテーターがリアルとゲームを混同する子供が増えるだのと警告しているが、釈迦に説法さ。ガキどもはちゃ〜んと理解してる。理解してねえのは大人のほうだ。面白いもの、便利なものは放っておいても伸びる。スマホがそうだった。
さて、この辺りか。
俺は歩調をゆるめてそれとなく辺りを見渡した。
トレーニングモードと言っても格ゲーのそれみたいに一人で延々と無抵抗のNPCをボコる練習モードじゃない。どちらかと言えばサバイバルモードと言ったほうが分かりやすいかもしれない。
トレーニングモードのキモは、何も考えずにただひたすら殺し合いに没頭できることにある。
俺はポケットに両手を突っ込んでアビリティの合成を試みる。
このゲームのプレイヤーには「型」と呼ばれるものがあり、行動や思考によって適合するアビリティに違いが出る。例えばゴミのようなアビリティに広く適合するプレイヤーは外れキャラと言えるだろう。
そして俺がその外れキャラだ。
俺はゴミのようなアビリティを数珠のように繋ぎ合わせて、円環状に浮かび上がったドス黒い紋様を解き放った。
格下探知ソナーだ。
こっちの位置もバレるしゴミアビリティ持ちの反応しか拾えないという欠点はあるが、時間短縮には便利だ。ああ、あと俺がゴミアビリティ持ちということもバレるな。とはいえ俺がゴミアビリティ持ちなのは周知の事実だし今更だろう。他には……そうそう、俺が複数のゴミアビリティに適合してることもバレる。……これデメリット多すぎじゃね? いや迷うな。俺は自分に言い聞かせた。ゴミどもの大まかな分布が分かるのは大きい。そこから読み取れることもある筈だ。
例えばゴミどもの動きが鈍い場所には女キャラが居るとかな。男キャラは生かしておく価値がないし目障りだから出入りが激しい。
俺は格下探知ソナーを連続して放ってゴミどもの動きを観察する。……そこか。臭うぜ。チワワ臭え動きだ。
当然ながら俺の狙いは初心者だ。気分良く勝つためには初心者狩りが一番だからな。
俺はベロリと舌舐めずりをしてダッと地を蹴って駆け出した。
悪いナ。俺は胸中で呟く。どうやらお前らはお友達同士で楽しくゲームをやっているようだが、楽しませて貰うのは俺のほうになりそうだ。この俺の勝率を上げる糧となるがいい。
俺は最終確認のために格下探知ソナーを放つなり見切り発車でバッと茂みを飛び越えた。チワワ狩りは早い者勝ちだ。どう転んでも俺の負けはない。
俺が目を付けたのは、ぞろぞろとまとまって動くゴミどもだ。動きには一貫性がなく、ゴミアビリティを発現してる。まぁチャラ男のイケメンホスト集団ってトコだろう。俺のゴミ観は確かだ。
だが俺の予想は外れた。
「あっ、タマっち!」
ネフィリアんトコの小娘どもが颯爽と現れた俺を指差してやいのやいのと騒ぐ。
……よう。俺は軽く手を上げて応じながら内心キョドッた。……ど、どういうことだ? コイツらは俺のゴミ観に当て嵌まらない。そもそも発現するアビリティには他者の認識が影響する。それなのに女キャラが揃いも揃ってゴミアビリティ持ちってのは不自然だ。何か……。そこまで考えて俺はハッとした。
相互協力型の偽装アビリティか? 何らかの条件を満たすことで進化、もしくは他者のアビリティを模倣するタイプ……! 厄介な……! 俺はギリッと奥歯を噛み締めた。
コイツらは俺の天敵になり得る。成長し力を付ける前にこの場で叩き潰しておかねば。
俺はにこやかに手を振って小娘どもに歩み寄っていく。こんなところで奇遇だな。
無警戒に俺に近寄ろうとする小娘どもをノミ女ことフリエアが制した。
「待って。なんか変だよ。さっきの黒い波みたいなのはタマっちがやったんじゃないの?」
小賢しい女だ。
まぁいい。正面から叩き潰したほうがどっちが上か分かりやすいだろう。
俺は認めた。くくくっ……。まぁな。お前らがどの程度やれるようになったか見てやるのも一興かと思ってな。俺は斧を突き付けて宣言した。掛かってきな。
コオロギ女ことクリケットが警戒した面持ちで剣を構える。
「……本気っスか?」
本気? おいおい、トレーニングモードってのは元々そういう場所だぜ。
マゴットは意外と乗り気だった。小娘どもにパタパタと両手を振って、
「いいじゃん。ちょっと面白そう。ネフィリアさんがさー。あいつのこと侮るなーとかよく言うっしょ? でも私たちだってさー。カナリ強くなったよね。誰かさんと違ってロストしたりしてないし」
レベル10は越えたか?
俺の質問にマゴットはぷいっとそっぽを向いた。
「教えなーい」
そうか。越えたか。
悪いな。放ったらかしにしちまって。
マゴット。お前も分かってるよな? レベル10ってのは一つの区切りだ。お前らはもうゲーム初心者じゃねーし、いつまでも俺が庇ってやる訳にも行かねえ。ま、少し寂しいが……卒業式ってトコだな。
俺は斧を肩に担いでドス黒い紋様を放った。小娘どものアビリティと干渉してバチバチと黒い稲妻が上がる。
アナウンスが走った。
【Training-Mode】
無造作に歩き出した俺にクリケットが悲鳴じみた声を上げる。
「私たちに勝てると思ってるんスか!?」
思ってるさ。俺は気前良く答えてやった。小娘どもを指差して、その根拠を述べる。
お前らはほとんどが魔法職だ。もう少し散れ。俺が今から突進したらどう対処するつもりなんだ? 【心身燃焼】も打たずに何してる。一人か二人の巻き添えは仕方ねえと思え。あとクリケット。お前は前のめり過ぎる。友達思いなのは結構だが、お前が前に出たら後衛は魔法を撃てねえだろ。お前らは魔法使いが中心になる特殊編成のパーティーだ。魔法使いが多いから攻撃魔法を何度も撃てる。それがお前らの強みだ。ネフィリアからそう教わってる筈だぞ。なのにお前らが教えられた通りに動かねえのは、俺が身内だと思って油断してるか、ネフィリアの言ったことを真面目に受け取ってねーかのどちらかだ。結局は遊び気分なのさ。それじゃあこの先は通用しねえと言ったよな? 俺はお前らに楽しくゲームをやって欲しいと思っているが、お前らは友達を殺されて笑ってられるほど能天気じゃねえだろ。……お前らは危ういんだよ。そうじゃねえってんなら。いつまでもガキじゃねえんだってんならよ。俺を安心させてくれ。
おら、そうこう言ってる内に俺の射程距離だぜ? 敵の言うことにいちいち耳を傾けてんなよ。
フリエアが仲間に指示を飛ばす。
「離れて! そいつは変身できるよ!」
安心しな。エンフレは使わねえよ。使う必要がねえからな。
俺は両手を広げて目に力を込めた。
どうした? 掛かって来ないならこっちから行くぜ?
「タマっち覚悟〜!」
小娘どもが杖で殴り掛かってくる。遅すぎる。欠伸が出そうだ。
だが俺はもっと遅かった。レベル1のか弱い新規ユーザー様なのである。
俺はボコボコに殴られてうずくまった。
俺たちの兄妹弟子対決を見学しているゴミどもがやんややんやと歓声を上げる。
「いいぞ! もっとやれ!」
「何を言われても耳を貸すな! 殴れ殴れ!」
地面に大の字にブッ倒れた俺に、マゴットさんとクリケットさんが心配そうに声を掛けてくる。
「だ、ダイジョブ?」
「思ったよりも弱かったっス……」
……ふっ。とどめを刺さないのか? そういうところが甘いって言うんだよ……!
俺の輪郭がどくんと脈打って二重三重にブレる。
俺の身体が瞬く間に膨張していく。大気ごと押しのけられた小娘どもがコロコロと地面を転がる。
「変身しないって言ったのにー!」
クソ観客のゴミどもがそれ見たことかと叫ぶ。
「だから言ったじゃねえか! そいつはいつも口だけだ!」
「汚ねぇーぞッ、崖っぷち!」
口だけ? 違うね。俺は嬉しいのさ。
完全変身を遂げた俺は寒々しい呼気を吐いて小娘どもを見下す。
強くなったな……。
だが、ここからが本番だぜ。兄より優れた妹など居ない。蹴散らしてくれるわ……!
おっとゴミどもがしゃしゃり出てきた。
小娘どもを庇うように前に出て、
「下がってろ。ヤツは俺らの獲物だ」
言下にゴミどもの輪郭がブレる。
完全変身を遂げたゴミどもを俺は冷めた目で見る。
なんという醜い姿だ。
俺は背中にバッと翼を生やした。触手の先端に実った銃口をゴミどもに突き付けて対峙する。
ゴミどもと違って俺のまん丸ボディは愛らしさであふれている。大きな口といい、まるでカービィのようだ。杭のような歯列を打ち鳴らしてあざ笑う俺をゴミどもは冷めた目で見つめている。
【初参戦のパックンフラワーみてえな口しやがって……】
似ても似つかないが。俺は嫌いじゃないぜ、パックンフラワー。なかなかどうして愛嬌がある。もっとも俺は初参戦で言うならデイジー寄りだがね。
【生憎と俺は新キャラには興味ねえ。生粋のピカチュウ使いなんでな】
【俺はヨッシー。お前は、崖っぷち?】
そうかい。お前らも時間が惜しいんだな?
だったら話は早い。さっさと決着を付けようや。
俺とゴミどもは咆哮を上げた。
地響きを立てて真っ向から正面衝突した俺たちを小娘どもがぽかんとして見上げている。
「パねえ……」
俺たちのスマブラは始まったばかりだ。
これは、とあるVRMMOの物語。
大乱闘スマッシュブラザーズSP、大好評発売中。
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