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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
30/977

それは、まるでゾイドのように

 1.夢


【…………】


 またかよ。

 おい女神。呼ぶなら呼ぶで構わねえが、TPOを弁えろ。ジャンプ中に呼ぶなんて以ての外だ。俺、確実に大変なことになってるだろ。

 なんだよ。文句あんのか? 別にいいじゃねえか。たまにはベッドからジャンプしてもよ。リアルで斧を振り回すことなんてないんだ。カッコ良く戦うってのは大切なことだぞ。


【ティナンに迷惑を掛けるなと言ったぞヒューマン……】


 おぅ、淡々と荒ぶってらっしゃる。


【免罪符だと……? 殺すぞ猿が】


 まぁ待てよ。あんたの言いたいことはよく分かった。

 だがな、こうは考えられないか? 免罪符で良かったんだと。


【何が言いたい】


 遅かれ早かれ俺と似たようなことをするプレイヤーは現れたさ。そしてな、そいつは恐らく俺よりももっとうまくやったと思うぞ。

 ただし、それは飽くまでも俺が居なければの話だ。俺が失脚してムショ送りになったおかげで、ティナンたちは人間が信用ならねえってことを学べた訳よ。

 感謝されこそすれ恨まれる筋合いはないと思うがね。


【…………】


 …………。


【口の減らない人間ですね。まぁいいでしょう。確かにあなたの言うことにも一理はある。ですが、何かしらの罰は与えなくてはなりませんね……】


 何だよ。またティナン堕ちか? 芸のねえ女神様だな。

 そんなあんたに無茶を言うようで申し訳ないが、罰ゲームはまた今度にしてくれねえか? 最近の俺はウチのサブマスターが思ったよりも賢いんじゃねえかと疑ってるんだよ。


【ノーコメントと致しましょう。あなたの狂気に満ちた人間関係について口出しするつもりはありません】


 狂気って何だよ。それとな、満を持して突っ込ませて貰うぜ。

 なあ、おい。コタタマゲージって何だよ!

 突っ込んだら負けだと思って知らんぷりしたがな。俺一人だけ格ゲーみたいなってるじゃねえか……! 一瞬、知らない間にアプデ入って超必使えるようになったのかと喜んじまったよ。俺の喜びを返しやがれ。あと、朝イチで怒りゲージ軽く溜まってたのは何なんだよ。


【やかましい人間ですね。あれだけのことを仕出かして全く反省していないあなたに自分自身を見つめ直す機会を与えたのです。あなたと比べれば、業務用の電子レンジですらもう少し自重を知る。そしてどうやら、あなたが心穏やかでいられるのは事あるごとに私を年増呼ばわりするあの男と共にある時だけであるらしい。一体どういうことなのかと私は戦々恐々としている……】


 やめろやめろ。勝手に人の感情を数値化した挙句にホモ呼ばわりかよ。とんだ女神もあったもんだぜ。

 俺はな、俺なりにアットムの野郎を認めてるんだよ。努力に努力を重ねて一人だけ別ゲーみたいになっちまったんだ。これはもう認めるしかねえだろ。


【話を逸らそうとしても無駄ですよ。冒険者コタタマよ、あなたに罰を与えます】


 ちっ! 何だよ、言ってみな。俺は逃げも隠れもしねえぜ。


【今後、あなたはプレイヤーの殺害を企図した際、私に祈りを捧げなさい。常にそうしろとは言いませんが、大量虐殺が見込める場合は怠らないことが望ましい】


 ……なんで? あ、もしかして穢れた魂を集めて真の姿を取り戻すため? 真の姿ってのはあれだ、グロくてデカい感じの。


【失礼な。口を慎みなさい。私は正体を偽るなどという下賤な真似はしません】


 じゃあなんで? 俺、知ってるよ。ラストダンジョンの最深部でプレイヤーを待ち受けて「あなたたちは実によく働いてくれました……」とか言うんでしょ? そういうのラスボスっていうんだよ。


【ニャンダムの件でよく分かったでしょう。私はあなたたちプレイヤーに関して一定の権限を持っている。他言無用であることは言うまでもありませんね?】


 わざわざ念押しされなくとも、ゲーマーの嗜みとしてネタバレはしねえさ。だが、エンディングに至るまでのストーリーラインが朧げに見えちまった俺の遣り切れない気持ちは一体どうしてくれる?


 俺が精神的慰謝料を要求すると、【NAi】は少し困ったように笑った。

 見てくれだけなら女神と呼んでも差し支えない別嬪さんだ。ティナンと並べば母子のように見えるだろう。


【冒険者コタタマよ、メインストーリーを進めなさい。あなたには期待しています……】



 2.クランハウス-コタタマの部屋


 おぅ、生きてる。

【NAi】め。祈りだと? 俺に邪教徒になれというのか。怖い怖い。早くもラスボスの片鱗を覗かせやがったな。


「コタタマ? 気が付いたのか?」


 俺はポチョにひざ枕されていた。

 ベッドからジャンプして空中で意識を引っこ抜かれたんだ。頭から行ったとすれば、さすがにスルーするには厳しい騒音にもなるわな。

 俺はポチョの太ももに頭を乗っけたまま、キリッとして虚空を眺めた。


「悪いな。【NAi】に呼び出しを食らった」


 あの自称女神がプレイヤーを強制的に召喚してティナン絡みの説教をしてくるのは有名な話だ。

 ポチョにも、おおよその見当はついていたのだろう。処置なしとばかりに首を振って溜息を吐いた。


「あの女はどうしていつもここぞという時に呼びつけるのか。わざとやっているとしか思えない……」


 人のことを言えた義理かよ。俺は内心そう思ったが口には出さなかった。頭のおかしい女だが、ひざ枕に罪はないと思ったからだ。

 やっぱり女は脚だな。俺は、ふっと微笑して目を閉じた。


「えっ。わ、私が言うまでもなくもう少しこのままなのか? この体勢、普通に足がしびれてつらいんだが……」


 ポチョさんよ、怪我人には優しくするもんだぜ。俺は当然の権利を享受したに過ぎない。それだけは忘れるな。



 3.ポポロンの森


 朝っぱらから頭部に強い衝撃を受けて昏倒したものの、ポチョのひざ枕で収支はとんとんといったところか。

 今日という一日を黒字で終えるためには、不足している素材を運良く手に入れるしかあるまい。

 そう決意した俺は、さっそく常設ダンジョンに潜るべく女神像へと向かい途中で知らない小娘に絡まれた。


「あんたがコタタマ? ぷはっ、何そのモブ顔。パない」


 頭の悪そうな女だ。

 俺は一瞬キョトンとしてから後ろを振り返り、偶然にも尾行者と目が合って素でびびったものの、かろうじて規定ルートの維持を断行、首を傾げて小娘の横を通り過ぎる。


「無視すんな!」


 乱暴に袖を掴まれた。


「えっ、コタタマ……ですか? あの、人違いだと思いますよ。俺、そんな名前じゃありませんし」


「えっ。マジかよ。ご、ごめんなさい。知り合いに似てたから……」


 うわぁ。第一印象に違わず頭悪ぃなぁ。待ち伏せしておいてご本人様だと確信を持てないのかよ。


「いえ。よくある顔ですから」


 軽く愛想笑いなどして俺はやんわりと小娘の手を振り解いた。照れ隠しなのか何なのか「あれぇ? おっかしいなぁ」などと独り言を零している間抜けの声を背に、俺はさくさくと先を急ぐ。

 あ〜あ、今ので収支マイナスだわ。これはもう空から美少女でも降ってこないと取り戻せないかもしれない。俺のラピュタはどこにあるんだよ。

 空に浮かんでいる雲の向こうに目を凝らしながら歩いていると、アホと呼ばれるに相応しい醜態を晒した小娘が猛然と追いかけてきて俺に飛び蹴りを見舞った。


「やっぱお前じゃねーか!」


 つまんねえ反応だなぁ。俺は離陸したアホを目で追いつつ内心で呆れた。もうちょっと俺の意表を突く努力とかできねえのか?

 俺はひょいと身をかわした。

 目を丸くした小娘の身体が宙を泳ぐ。何を根拠に当たると思い込んでいたのかは不明だが、目標を見失った小娘は着地に失敗してぼてっと背中から地面に落ちた。

 むっ、今のは悪くないな。俺は感心した。まるでうっかり自分が鮭であることを忘れたトビウオのようだった。

 俺の心の琴線に触れることに成功した小娘には褒美を与えねばなるまい。仕方ねえな、相手をしてやるか。

 俺は既に半泣きの小娘の前に立ち、堂々と言い放った。


「どこの誰だか知らねえが、お前が俺に勝つことは生涯ないと断言するぜ」


 小娘が噛み付くように吠えた。


「ものの一分で勝手に格付け済ませんな!」


 ふん、弱い犬ほどよく吠える。

 よし、もういいな。俺はいつも手に持って歩いているトマホークを振り上げた。死ね。


「ウソ!? た、タイム!」


 小娘が両腕を交差して一時休戦を提案した。しかし受け入れる理由がなかったので、俺はトマホークを振り下ろした。いや、待て。俺は【スライドリード】を発動してブレーキを掛けた。

 そういえば、邪神に祈りを捧げるんだったな。

 記念すべき最初の生贄だ。ここはキッチリと押さえておかないと女神様の機嫌を無駄に損ねる恐れがある。

 俺はお祈りした。女神様、今から頭の軽そうな女をそちらへ送ります。

 小娘が何かきゃんきゃん吠えている。


「頭おかしい! いきなり殺そうとした! な、ナニ祈ってんの……?」


 さあな。さて、殺すか。


「まままま待て! 待てよ! 私が味方だったらどうすんの!?」


 殺すよ。無能な味方は要らん。


「ひどっ。私に興味持てよ!」


 その手順必要か? 要らねえだろ。さっさと殺し合ってさっさと終わらそうぜ。

 俺、思うんだけどよ。この時間、完全に無駄じゃね? お前にとってもそうだろ? どうも俺に対して好意的とは思えねえ。嫌ってる人間に時間を使ってどうするんだ? 無意味だろ。お前がもう少し頭良さそうなら他に使い道もあったんだけどな、残念だわ。じゃ、そういうことで。

 一方的に話を打ち切ってトマホークを振り上げる俺に、小娘が半泣きで叫んだ。


「私っ、ネフィリアさんの弟子だから!」


 それならそうと言えよ。

 いや……ええ? マジかよ。

 はらはらと落涙している妹弟子を、俺はまじまじと見つめた。

 ネフィリア、お前マジかよ。こんなの一目で使えねーって分かるだろ。意外な人選っつーか、もはや選んでなくない? 一体お前に何があったんだよ……。


 名前も知らない妹弟子が、ぐすっと洟を啜った。


「どうして、そんなひどいこと、言うんだよ。バカぁ〜」


 いや、それは違う。お前が打たれ弱すぎるだけだ。俺は怒鳴ってすらいない。少しキツイことは言ったかもしれんが、リアルと違ってゲームは幾らでもやり直しが利く。マナーを守ってもいいことなんて何もないから、プレイヤーのガラは悪くなっていく一方だ。

 赤の他人を憎め。そう教えてくれたのは、ネフィリア。お前じゃねーか……。

 わんわんと泣き喚く小娘に、俺はどうしていいかまったく分からずに立ち尽くした。


 ……結論から言おう。

 この日、俺に妹が出来た。



 これは、とあるVRMMOの物語。

 何か誤解しているようだが、人間にも良心と呼ばれるものはある。効率が悪いからと勝手に捨て去って貰っても困る。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
マゴット相手に躊躇いがないところから、昔は女キャラにも容赦なく接していたのがわかっていい
[良い点] やる気ない時のコタタマの容赦の無さ、昔の姿を想像できて良き
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