お祭りへ行こう! 行けない
1.クランハウス-居間
お祭りだ。やったぁ。
あれ? アットムくんどうしたのかな? まるで幽霊とでも出会ったかのような顔をしているね。どうしたのかなアットムくん。
アットムはごくりと生唾を飲み下し、
「あれだけのことを仕出かして、一体どんな手口を使ってシャバに……」
「黙れ!」
俺は吠えた。
「ううっ、すっかり追い詰められて……」
黙れよ、くそが。俺はもうこれ以上ヘタは打てねえんだ。俺はガリガリと爪を噛んでブツブツと呪詛を吐き出した。
くそっ、くそっ、ケチが付いた。俺は先生の期待に応えることができなかった。
まず教会を疑えってのはゲーマーの決まり文句だ。特に教会周りの設定がキチッとしているゲームなら、ほぼ間違いなくラスボスが潜んでいる。
派手に動けば炙り出せると思っていたのだが、むしろ俺がラスボスみたいな感じになってしまった。
正直、免罪符なんつー厄ネタすらスルーされるようじゃ俺の手には負えねえ。最初からラスボスは教会には居なかったと考えるのが妥当なのかもな。じゃあ教会絡みのクソみてーに胡散臭ぇ伏線の数々は一体何なんだよ!?っつー話よ。単なるお遊び要素か? ふざけんな。宗教ネタはヤバいからやめろって言っただろ。粗方リアルでやり尽くしてるから笑い事じゃ済まねーんだよ!
司法取引で極め付けのヤバいネタを切らされたのもマズイ。まず司法取引っつー概念から理解して貰うのに手間取ったし、一発勝負でニセの情報を掴ませるクソ度胸なんざなかったから取っておきの爆弾を披露しちまった。イ号案件。クラフト技能のヤバさを如実に示した案件だ。ヒントは貨幣。
姫さんの目がマジでヤバかった。あれは種族人間の駆逐を一瞬考えた目だ。切り札に取っておいて本当に良かったよぉ。俺、悪用してないからね。ここぞって時の為に取っておいたもん! 痛くない腹を探られてもちっとも怖くないもんね! ばーか、ばーか!
という訳で俺はムショを叩き出された。はっきり言ってイ号案件の抜本的な解決策は存在しない。プレイヤーの協力なくして被害を最小限にとどめることすらできないのだ。そして俺はイ号案件を内密に処理する執行部隊の顔役みたいな感じになっている。脅しは割と得意だ。人間ってのは人前に出ると急に聖人君子ぶるからな。人質とかめっちゃ有効。
しかし今後はティナンも首を突っ込んで来るんだろうなぁ。あの子たちゴミにも優しいから不安だわ。俺の尋問テクにドン引きしたりしない? そこだけが気掛かりよ。
くそっ、どう考えても足手まといなんだよなぁ。正義漢ぶったティナンに俺が撲殺される未来が目に見えるようだぜ。だが他に遣りようも……
「こ、コタタマ」
ああ!? っせーな! こちとら考え事しとんのじゃ! 見れば分かんだろダボハゼがッ!
しかし俺はかろうじて怒声を飲み込んだ。こんなことではいけない。俺は大司教様と約束したんだ。心を入れ替えて真っ当に生きるって。
「やあ、二人とも」
改心した俺は、ダボハゼもといスズキに愛想良く返事をした。ポチョも一緒だ。何故か二人して浴衣を着ている。
……ああ、そう。お祭りね。正直俺はそれどころじゃないんだが、褒められたそうにしてるしとりあえず褒めとくか。
俺がガン見すると、チャラチャラした格好をして髪など結っている女どもは恥ずかしそうに顔を逸らしてもじもじとした。
おお、いいじゃないか。二人とも似合ってるぜ。俺は頭の中で必死に金勘定しながら二人を歓迎した。
うんうん、こうして見ると俺的にはスズキが優勝だな。準優勝のポチョは腰が高すぎて浴衣が最適コーデかっつーとやや疑問が残るぜ。お前はスタイルいいからなぁ。スズキは髪を結うといつもより大人っぽく見えるな。でも勘違いするなよ。たまに見るからドキッとするのであって、俺はいつものお前の髪型のほうが好きだぜ。
二人まとめて褒めちぎって、この件は仕舞いだ。もういいだろ。一人にしてくれ。
だが二人は引き下がらなかった。
無口キャラがぼそぼそと何か言う。
「よ、よく出て来れたね。途中でオチが見えるくらい華麗な転落劇だった、って、シルシルとかも……心配してたよ」
シルシルりん。そうか……やっぱり組合に話は通しとくべきか? いや、でも絶対にスパイが紛れ込んでるよな……俺ならそうする。ってことは、他の誰かがやっても不思議じゃないってことだ。頭の中がお花畑のティナンとは違う。ゲーマーは侮れない。自分たちが優位に立つためにリアルで情報戦を繰り広げるような連中だからな。いやゲームをしろよと何度モニターの前で突っ込んだことか。
騎士キャラは相変わらず頭がおかしい。
「見ての通りひらひらとした格好をしているが、私の戦闘力にはいささかの陰りもない。誰よりも早く、こっ、殺せる自信があるっ」
そう言って顔を赤らめて俺をちらっと見る。今の話のどこに照れる要素があったよ?
怖すぎて聞き流せなかったわ。
でも、そうか。せっかくのお祭りだもんな。これを利用しない手はねーな。この際だから危険分子の始末に打って出るか。アットム……あれ? アットムが居ねえ。どれだけクソッタレな環境に連れて行ってもまったく良心が痛まない俺の便利な相棒はどこに行ったんだよ。
俺が相棒の行方を尋ねると、猟奇的な羞恥心を引っ込めたポチョが沈痛な面持ちになって首を横に振った。
「あの男はもうダメだ。浴衣を着た私たちを見るなりハッとしてクランハウスを飛び出して行った。今頃はもう……」
……そうか。ヤツは飛び立ってしまったんだな。ティナンの元へ。
どうしてなんだよ。アットム。俺はこんなにもお前を何しても許される最下層に生息する生き物だと想っているのに。
そして何故俺は二人掛かりで簀巻きにされているんだ。実行犯に頼むのは心苦しいのだが、解いてくれないか可愛らしいお嬢さんたち。
なんだよ、一緒にお祭り行く流れじゃないの? 俺、実はちょっと期待してたんだぜ。なんかこう、出店を冷やかしつつ訳あって姿を消す俺みたいな。傷付きながらも遠くから花火を眺めるお前らを見て安心したように息を引き取る俺みたいな。
スズキが申し訳なさそうに俺を拝んだ。
「ゴメンねっ。お土産買ってくるからっ」
お土産じゃダメだよ。俺が欲しいのは記憶に残る一夏のメモリーなんだから。
瞑目したポチョが腕を組み、悩ましげな吐息を漏らした。
「コタタマ。お前はやり過ぎたのだ」
やり過ぎた? あっ、なんかデジャブ。これ前に【野良犬】の皆さんを全キルした時と一緒だ!
「先生は私たちにお前を拘束するよう命じた。迎神教に体験入信したら免罪符をばら撒き始めてニャンダムを無法の街に仕立て上げようとしたと大変に嘆いておられたぞ……」
くっ、表向きはそういうことになるのか。
先生はポチョとスズキを荒事に巻き込みたくないと考えているようだ。それは以前から感じていた。個人のゲームスタイルを重んじる先生が武闘大会の参加を禁じるなんてよっぽどのことだ。引き篭もるスズキを案じる様子もなかった。
だから、先生から裏の事情を聞いていないこの二人は俺が私利私欲で免罪符をばら撒いたのだと信じ込んでいる。いや、ついでに私腹を肥やそうとしたのは事実だが。先生から直接そうしろと指示された訳でもないし。
けど、言葉にしなくとも伝わることってあるだろ。仲間ってそういうものだろ。俺たちは仲間じゃなかったのかよ!?
涙ながらに訴える俺を、ポチョはじっと見下ろした。
「スズキ、手錠とか持ってないか?」
くそがっ、コイツ手慣れてやがる。生産職の封じ方を一体どこで学びやがった。
「えっ、あるけど」
あるの!? 一体どういった用途を想定してご購入したんだよ! 怖いっ。俺の可愛いサボテンさんが着実に洋モノ殺人鬼に毒されつつある。
俺はごろごろと床を転がると、柱に身体を預けてよいしょよいしょと立ち上がる。ぴょんぴょんと飛び跳ねて脱走を図った。
普通に追いつかれて手錠を嵌められた。
「首輪は?」
「首輪はない……。さすがに人としての尊厳を損なう恐れが……」
既に大きく損なわれてるんだよっ、この人でなし!
「そうか。しかし少し手ぬるい気も……」
「助けを呼ばれたら面倒だよ。猿ぐつわも噛ませておこう」
俺はクラフトした針金でガチャガチャと手錠の鍵穴を探る。くそっ、ダメだ。さしもの俺もこの体勢からじゃどうにもならん。
ジタバタと暴れる俺を、ポチョがじっと見下ろしている。
ポチョは少し考えてから、身体を屈めて俺の耳元に唇を寄せた。吐息が耳に当たってくすぐったい。新手の拷問か。だが俺は屈さないぞ。
ポチョが俺の耳元で囁く。
「お姉さんの言うことを聞くんだ」
俺はギョッとしてポチョを見た。
「ん?」
ポチョは不思議そうに首を傾げた。
怖い……。
俺は身体を折り畳んでしくしくと泣いた。
これは、とあるVRMMOの物語。
守ることと柵に囲うことは異なる。だが人には意思があり、心を縛り付けることは大きな苦痛を伴うから、結局はそうとは悟らせずに柵で囲ってやるしかない。見捨ててしまえば済むだろうに。
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