成れの果て
1.人間の里-復興中
「進めぇー!」
サトゥ氏麾下の攻略組連合が血河を踏み越えて人間の里の残党を刈り取っていく。
圧勝であった。
正直もう少し手こずるかと思っていたのだが、やはり頭の居ない軍というのは脆いものであるらしい。
しかし何だな。結局はサトゥ氏が頭を張るのか。情けない話ではある。【敗残兵】は解散したってのに第三、第四のクランが頭角を現すことはなかったようだ。……ん? もしかして俺が潰して回ったクランがそうだったのか? いや、まさかな。ただハッキリと言えるのは悪いのはネフィリアだということ。俺はウサ吉を人質に取られて逆らえなかったんだ。これが漫画とかなら仲間が何とかしてくれて主人公はその手を血に染めずに済むのだが、現実はそう甘くない。そして仲間が何とかしてくれなかったら主人公はその手を汚すことになるので、やっぱり俺は悪くないということになる。
ですよね? 先生。
「一歩前進だ」
先生はコクリと頷いた。
「コタタマ。君は【ギルド】の因子を取り入れたことで新たな価値観を獲得したように思える。それが洗脳によるものだったとしても無駄ということはない筈だ。共に地獄に落ちよう」
やだなぁ、先生の行き先は天国に決まってるじゃないですか。俺もご一緒しますよ。
おっとウチの赤カブトを発見。おーい、こっちこっち。俺は黒光りする前足をふりふりした。
「ペタさん可愛いっ」
だろぉ? 撫で回してくる赤カブトに俺はデレデレだ。
ペットが飼い主に甘えるようなピュアな気持ちで赤カブトを抱き上げて、二人きりになれる暗がりを探してうろつき回る。だが暗がりに連れ込む前に劣化ティナンさんに捕まった。
ちんちくりん一号が恨めしそうに俺を見る。
「コタタマ。またなんか変になってる……」
変じゃないよ。今の俺ほとんどUFOキャッチャーの景品みたいなもんだからね。このつぶらな瞳を見てくれ。俺は頭の横に付いてる目を指差した。飾りでしかないのだが、言ってみれば猫耳カチューシャのようなものだ。俺の顔が逆さに付いてるのも、よりパンツを覗きやすいよう進化した結果なのだろう。また胸部に顔が生えていることで、女キャラを抱きしめると自然におっぱいが顔に当たる。いわゆる不可抗力というやつだ。
可愛く育った俺は赤カブトに大好評である。
「可愛いっ。スズキさんっ、この子ウチで飼いたいっ」
女というのはどうしてこうエロい身体をしているのだろうか。俺は哲学をしている。抱きしめたら普通におっぱいが当たるとかもうどうしようもないだろ。不可避のエロスだよ。
しかしスズキはじとっとした目で俺を見つめるばかりだ。
「顔の場所がヤラシイ。下心を感じる」
何を言う。俺は普段から下心満載だ。それは姿形が変わったからといって何一つ損なわれちゃいない。むしろ着ぐるみ体型になったことで可愛さが増してセクハラのボーダーラインが下がった。例えるなら、そうだな……。露天の混浴風呂に混ざってても許されるレベルだ。いや、それはギリギリか? ギリギリかもしれん。アリ寄りのナシ……そんなところだろう。俺は俺の現状を冷静に伝えた。
近くに寄ってきたポチョの腰に腕を回しながら続ける。
まぁ俺は俺だ。人間、大切なのは中身だって言うだろ。多少見た目が変わってもオンドレぁ!
「イチャついてんじゃっウバー!」
俺は目から怪光線を発して絡んできたゴミの首を焼き切った。ぐるぐると顔を回してレーザーをチャージしながら話を続ける。見た目は変わっても着ぐるみみたいなものさ。そう考えれば、むしろ過剰なくらいのスキンシップで丁度いいんじゃないか。
「……そう?」
スズキは半信半疑といった様子で俺の尻尾をちょこんと摘んだ。なんか敏感になったケツを触られてるような感じがする。これが逆セクハラってやつなのか。
2.クランハウス-居間
サトゥ氏の補佐に付いたとはいえ、俺は廃人じゃない。時間になればログアウトするし、ログインした後は日課の経験値稼ぎに勤しむ日々だ。
そもそもサトゥ氏が具体的にどういうプランで動いてるのかを知らない。会議の途中で追い出されたからな。あの時、幸運の壺を買っておけば良かったと後悔させてやるぜ。俺が密かに負の情念を燃やしていると、なんとサトゥ氏のほうから仕掛けてきた。
俺の冒険者ギルドに喧嘩を売ってきたのだ。
手口はこうだ。
冒険者ギルドは腐敗の温床であり、プレイヤーの成長を促すものではないと真っ向から批判してきやがった。
ふん、愚かな。俺は鼻で笑った。分かってねえな。俺の冒険者ギルドは利用者に成功体験を植え付ける組織だ。野良パなんぞよりよっぽど人材の育成に向いてる。そりゃあ攻略組には及ばねえさ。だが、それは元々攻略組が廃人の集まりだからだ。何なら試してみるかい? 簡単だ。実際に戦ってみればいい。勝敗は置いておくとして、衆人環視の中で戦えば誤魔化しは利かねえぜ。さて、どこまで勝ち上がれるか……。お手並み拝見と行こうか。
そう、対戦アリーナの実施だ。
俺には勝算があった。俺の冒険者ギルドは金が全てだ。金さえ納めれば上に行ける。だが本当のトップクラス……トップランカーともなればさすがにモノが違う。
だろ? お前ら。
俺の自慢のトップランカーどもは黒い金属片で身体の一部を換装しながら応えた。
「目標を排除します」
くくくっ、いい返事だ。その力は人前では使うなよ?
3.対戦アリーナ
「勝者サトゥ!」
ワッと歓声が上がる。
サトゥ氏を筆頭にクソのような廃人は順調にアリーナを勝ち上がっている。
さすがにCランBランじゃ相手にならねえな。まぁ予想通りだ。俺としては観戦チケットさえ売れれば文句はない。
だが、サトゥ氏の快進撃もここまでだな。
次の対戦相手はトップランカーではないものの、三回の強化手術を施された猛者だ。レーダーに加え、耐G、旋回性の向上。生身の人間とはワケが違う。
対戦開始。
Aランカーの急静止、急発進を交えた機動に観客がどよめく。
迎え撃つサトゥ氏。
「いよいよ出てきたな」
サトゥ氏〜。お前は確かに強ぇよ。俺だってトップランカーならお前に勝てるとは思っちゃいねえ。だが、お前が強ぇってのは誰でも知ってることなんだ。トップランカーだろうが何だろうが負けて当たり前なのさ。要はどこまで食い下がれるか。そこよ。そして、いくらお前でもトップランカーに圧勝するのは無理だ。
だがサトゥ氏の目論見は別のところにあったようだ。
「どうした! その程度か!」
野郎ッ……! 俺はガタッと席を立った。強化段階が浅いAランカーが狙いだったのか!
サトゥ氏の挑発にまんまと乗ったAランカーのゴミの足元から黒い金属片が迫り上がる。ちっ、使えねえ。この金稼ぎはここまでだな。
俺はAランカーのゴミを撃ち殺してバッと跳躍した。アリーナに降り立ち、荒ぶるの鷹のように両腕を広げる。
「さすがだ。サトゥ氏。この俺を引きずり出すとはな」
「そんなつもりなかったよ。堪え性のない……。お前はいつもそれで失敗する」
失敗? いいや、違うね。俺はいつだって全力で走ってきたぜ。
「その成れの果てがそれか」
俺は前足を突き上げて吠えた。
成れの果てかどうか……試してみるがいい!
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俺の足元から黒い金属片が迫り上がる。それらはたちまち【歩兵】となってサトゥ氏を取り囲んだ。
「いや、どう見ても成れの果てだよね?」
これは、とあるVRMMOの物語。
成れの果てですね。
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