【ギルド】ペタタマ
1.ポポロンの森
机を買って帰ってきた。
四脚の、切り株を模した机だ。なかなか味のあるデザイン。良い買い物をした。
机の運搬を手伝ってくれている赤カブトとポチョは先ほどから同じことを繰り返し言っている。
「あれ本当に放っておいて良かったの?」
山岳都市でハシャいでいたモブのことだろう。
俺は簡潔に答えた。
いいんだよ。俺にゃ関係ねえ。
「で、でもティナンが……」
さっきから何度も同じことを言ってるだろーが。
ゴミはしょせんゴミ。エンドフレームだろうと何だろうと、あの程度のゴミにティナンをどうこうできやしねえさ。
しかしウチの子はあまり納得していないようだ。
仕方ねえな。もう少し具体的に話そう。
あのな、ティナンの正体はモンスターだ。正体っつーか、この星の生き物は例外なくモンスターという括りに入る。地球で言うなら俺らは俺ら自身のことを人間と呼んでさも動物とは別物っつー顔をする。けどよ、それはしょせんそうあって欲しいっつー願望だろ。俺らだって動物だ。ティナンも同じさ。
で、モンスターってのは生まれつきレベル100を越えてる。そしてモンスターはレベル200で上位個体ってのになる。ティナンの王族がそうなんだろう。これは確定情報じゃないんだけどな。少なくとも俺の可愛いウサ吉はそうだった。
さて、上位個体は下知という力を持つ。ティナンの場合は勅命っつーんだが、下知と勅命は同じものだろう。
俺の見立てでは、エンドフレームはティナン百人力だ。けど勅命で完全に連携したティナンの集団なら十人居れば事足りる。さらに四天王が出てくれば危なげなく処理できるだろう。
それと……まぁイマリンは俺と同じ穴のムジナでな。飼育員さん、コニャックには逆らえねえ。だから……まず戦闘にはならない。イマリンめ。あいつは飼育員さんの気を引きたくて変身したんだ。ロストは覚悟の上だろう。イヤむしろ残機を貯めるのが面倒臭かったのかもな。ロストすれば残機は復活する。いずれにせよ惜しい変態を亡くしたぜ。
俺はイマリンの冥福を祈った。
おっと? パイセンだ。図面を手に持つ先生の後ろからパイセンが図面を指差しながらお話ししている。絵になるツーショットだ。俺はカシャカシャとスクショを撮りつつ、おいおいシロ様クロ様も居らっしゃるじゃねーか! おい! 俺はテンションが上がって赤カブトとポチョの肩をばんばんと叩いた。
おい! ちょっと先に行ってろ。俺はシロ様クロ様に看病されたい。軽くダメージを入れていく。お前ら余計なことは言うなよ? 頼むぞ!
俺は切り株机を二人に託して、そこら辺の木にガッと頭を叩きつけた。イイ感じにゲージを減らしてふらふらとシロ様クロ様に近付いていく。
ああ、シロ様クロ様。すみません。二週間ぶりに目覚めて、まだ本調子じゃなくて……。
シロ様クロ様は優しい手つきで俺を寝かせてくれる。
「いいんだよ。コタタマくん。さ、横になって」
「食欲はある? 果物を持ってきたよ。リンゴでいい? 今、皮を剥くからね」
俺はシロ様クロ様にちやほやされた。俺、ご満悦である。ああ、リンゴ美味しいなぁ。
パイセンは俺の病人偽装を見抜いているようだった。賢い人だ。先生の子弟にバカは居ない。しかし俺の擬態を見抜いてはいても万が一があってはいけないと考えるのがパイセンだ。
パイセンは俺の横にひざまずいて図面を見せてくれた。
「コータ。喋れるか? 部屋の数についてなんだが……」
俺はヘッドスプリングでバッと立ち上がった。
パイセン! そんな、俺なんかに気を遣う必要なんてないっスよ!
「いや……。お前、元気なほうがおかしいんだぞ? いいから寝てろよ。何かあったら先生が悲しむだろ」
ポチョ! ジャム! 机、机!
「はーい」
ポチョとジャムが切り株机を持ってきて地べたに置いた。
パイセン、机です。使ってください。椅子も買ってくれば良かったんですが、荷物になるので今は机だけで。申し訳ありませんが。
先生が感心したように言う。
「相変わらずコタタマはメカタによく懐いてるね」
メカタというのはパイセンのキャラネだ。
ええ、そりゃもう。俺はパイセンみたいになりたいんです。俺の理想像がここに居るんですよ。
パイセンは照れている。誉められると話題を変えようとするのは先生とパイセンに共通する癖だ。
「そんなことより部屋の数だ。これを機にもう少し増やしていいんじゃないかと俺は思うんだが」
俺は図面の端に書き込まれたメモ書きに目を通した。ああ、なるほど。トドマッが頭数にカウントされてるんですね。
「よく分からないけど、お前の部屋に住んでたんだろ? ログイン時間が被ってないとはいえ、個室のほうが何かと便利じゃないか? 今後メンバーが増えることだってあり得るし」
いえ、ヤツは俺の許嫁らしいので大丈夫です。
「……ん?」
パイセンは俺を見た。ちらっと金髪と赤毛を見て、すぐに図面に視線を戻す。しばし考えてから、パイセンは思考を放棄した。
「なるほど。そういうことなら」
いや絶対に理解してないでしょ? 俺はすかさずツッコんだ。
……だが完璧だ。やはりパイセンは凄い。ややこしいと見るや深入りを避ける賢明さが半端ない。何なんだ、この人は。先生の教えを受けていれば俺もいずれはパイセンのようになれるのか?
パイセンは図面を折り畳んで話を続けた。
「アトムの意見も聞いておきたいな」
アットムのことだ。
「それと、いつもはこんなことは聞かないが。コータ。お前と他のメンバーの力関係はどうなんだ? お前の意見に流されるメンバーも居るんじゃないか?」
居ますね。特にジャムジェムとアットムは怪しいです。スズキはバランス感覚ありますよ。全体も見えてる。先生とスズキの考えをベースにするのが一番確実かと。俺とポチョは趣味に走りがちなところがあります。あと、ニジゲンがちょくちょく遊びに来ますから一度くらい話を聞いてやってもいいかもしれません。ヤツのセンスは侮れません。
「お前、ニジゲンさんと敵対してなかったか?」
和解しました。和解と言うか、もはや俺の嫁候補です。
「そうか。分かった」
いや分かってないでしょ? もう……パイセンは凄いなぁ。そういうところマジで憧れますよ。どうやったらパイセンみたいになれるんですか?
「俺だってイベントで華々しく活躍したいって気持ちがない訳じゃないんだぞ。まぁライト層なんてそんなもんさ。レベル上げていつかは……なんて気持ちで居るとドンドン置いてかれる。そして今もシロさんクロさんにお前を連れ去られようとしている」
俺はシロ様クロ様に両脇を抱えられて少し離れたところに移動された。
「コタタマくん、元気だね。良かった。ね、クロ」
「そうだね、シロ。コタタマくん。君が主導してる人身売買について少し聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
人身売買じゃないですよ。派遣会社みたいなものです。
「コタタマくん。別に咎めてる訳じゃないんだよ? 最低限のラインは守ろうねという話なんだ」
「私たちはヤギくんと同じスタンスだからね。個人のプレイスタイルは尊重したい」
ありがとうございます。
でも本当に違うんですよ。
俺はもう足を洗いました。
「……コタタマくん。君は」
俺はニッコリと笑った。
苦肉の策ではあった。
しかし俺はシロ様クロ様を敵に回すようなことはできない。
ならばお二人のご気分を害さないよう歩み寄るしかなかった。
お二人にバレた時点で俺は舵を切ったのだ。
ペタタマヒューマンパワーレンタル社は次の段階へ。
そう、つまり……。
俺は言った。
「冒険者ギルドですよ」
これは、とあるVRMMOの物語。
【ギルド】ルート進行中。
GunS Guilds Online




