Gun's Guilds Online
1.ちびタコ劇場
デフォルメバージョンのタコ野郎と%女がせっせとチョコを作っている。タコ型のチョコだ。
湯せんして溶かしたチョコを型に流し込みながらモョ%モ氏が言う。
【最高指揮官が動き出したようだ】
ョ%レ氏は素っ気ない。
【そうか。まぁアレは会長の管轄だ。私はチョコを作る。バレンタインだからね。人気者はツラいのだよ。一人寂しく夜を過ごすユーザーに愛の手を差し伸べてやらねばな】
【ナイも暴れているようだが】
【女神の加護をマレに差し出したサーバーもある。そちらでは平和なものだよ】
……当然のことではあるが、女神の加護を失ったサーバーでは【NAi】は受肉できない。加護の破棄を迫るGMマレとの戦いは大きな分岐点だった。
ョ%レ氏が笑う。
【モョモ。公平性を重んじるというのはそういうことだ。女神の加護は強力なパッシブスキルだ。あれは正しくは奇跡というスキルでね。ナイの固有スキル、その一形態と言ってもいい。その恩恵を甘んじて受け入れたプレイヤーは相応の代償を支払わねばならない】
モョ%モ氏は首を横に振った。
【私は正当性を重んじる。ナイを野放しにしたのは君だ。ョレ。君はナイの上長だ。ナイの不始末は君が責任を負うべきだ。何も知らないプレイヤーに正しい判断を下せよう筈もない。これは君のミスだぞ】
ョ%レ氏は公平性を重んじ、モョ%モ氏は正当性を重んじる。それは二人の生まれ育った環境の違いによるものだった。どちらが正しいということはなく、ただしこのゲームはョ%レ氏が作ったものだった。
型に流し込まれたチョコを、ョ%レ氏が冷凍庫に入れていく。
【止めはしないよ。好きにするといい。だが……】
そう言ってョ%レ氏は、型から少しはみ出たチョコのやり直しをモョ%モ氏に命じた。モョ%モ氏が手作り感の演出であると反論した。ョ%レ氏は認めなかった。公平性と正当性が真っ向からぶつかり反目し合う。
【会長は衰えた。能力は成長を続けているが精神的なものだ。情に囚われ、選択肢を自ら閉ざしてしまっている。そして、それはこの私にとっても他人事ではない】
【君が? とてもそうは思えないがね。君にとって他人など駒でしかないのだろう。この私ですらそうだ】
モョ%モ氏の辛辣な批判に、そうではないと言うようにョ%レ氏がタコ足を振った。
【個に拘るものはそれゆえに世に何も刻むことなく朽ちていく。自分自身の満足をただ追求するならば、大掛かりな仕掛けなど必要ないからね。辺境の惑星にでも引っ越して悠々自適のスローライフだ。それも悪くはない、が……】
ョ%レ氏の瞳が青く染まった。それは自嘲、だったのかもしれない。
【このョ%レ氏にも野心はあってね。今はチョコレートを作りたい】
男からチョコ貰ってもなぁ。
2.山岳都市ニャンダム
【Gun's Guilds Online】
【バトルフェーズに移行します】
【戦列を組んでください】
訳が分からない。何がどうなっている?
少し情報を整理しよう。
俺を襲った刺客どもはセブンに雇われた連中だろう。バックに大黒屋がついてる。
セブンは分かりやすい。効率厨だからな。最初に少数の刺客を放ったのはアットムを見るためだ。アットムの拳法は生物タイプのモンスターに対して極めて有効だ。ただしレイド級や上位個体といった身体の大きなモンスターには通用しない。つまりこういうことになる。
ティナンを殺しうる技術だ。
セブンはアットムのような拳士を配下に欲している。別にティナンに対して何か恨みがある訳ではないだろうが、選択肢の一つとして確保しておきたいと考えるのは当然だ。
しかしアットムの拳法は非効率の結晶のようなものである。何千、何万回ものソロアタックが大前提となる。それだけの労力を費やす価値があるのかどうかだ。
そしてセブンのクラスチェンジ。ボランティアだったな。今スマホで検索したのだが、ボランティアというのは志願兵のことらしい。敵陣に風穴を空けるために真っ先に突っ込む役どころだ。決死隊のようなものであり、それゆえに軍隊では優遇された。
イベント、死を分かつもの。ボランティアの転職条件は現段階では完全に把握することはできないが、俺に殺されることがより確実な手段だったのかもしれない。鍵は死亡回数、殺害人数か? 俺は平穏をこよなく愛する生産職ではあるが、多少死にすぎたし殺しすぎた……そういった側面があることは否定しない。
セブンは転職条件を見極めるために動いた。そして、こうも言っていた。自分はエッダ戦で死んだ身であると。
俺たちはエッダに勝ったが、その顛末はあやふやだ。戦死者ゼロというのは驚異的な数字で、俺たちはエッダを圧倒した筈だった。それなのに、結果から見ると余力が少なすぎる。何かがあったのだ。あいまいな決着をセブンは望まない。だから俺をロストに追い込もうとした。だから【NAi】が動いた。あの鬼畜ナビゲーターは俺に何かをやらせようとしている。
そしてクァトロくんは【NAi】を止めようとした。俺のキャラクターロストを後押ししようとしたのか? いいや、違う。
今なら分かる。
見覚えのある場所。
見覚えのある仲間たち。
だけど……なぜ?
夏の夕暮れ。やさしく迎えてくれるのは、ブーンだけなのか?
気が付くと俺は【ギルド】になっていた。
供給された得体の知れない金属片が、今は身体にこの上なく馴染む。
合体巨大化した【歩兵】の頭の上に乗って【NAi】の討伐を命じている。
頭は冷静だ。天使……ナイ。読んで字のごとく、ティナンの出来損ない。ティナンをアルファベットで書くと「Tinan」ということになる。頭とケツを取ると「ina」。ティナンの「ィ」はカタカナ表記では小文字だから、「ina」を反転させて「NAi」なんだろう。まぁ正解かどうかは分からない。俺たちの頭で読み取れるのはそれくらいということだ。元々記号めいた名前だしな。
「コタタマー!」
「コタタマりーん!」
【歩兵】の足元でアットムとポチョ、シルシルりんが叫んでいる。カレンちゃんも一緒だ。
こうしてみると種族人間ってのは小さいな。間違えて踏み潰してしまったら事だ。俺は【歩兵】に命じて四人を回収した。
おーい。無事かー?
ポチョがぴょんぴょんと【歩兵】の巨体を伝って俺に抱きついてきた。おお、よしよし。
「ママ〜」
そうとも、ママだぞ。撫でくり回してやっていると、ポチョ子の後を追ってきたカレンちゃんがドン引きしていた。
「ぽ、ポーション? コタタマはあなたのママじゃないでしょ……?」
そいつは違うぜ、カレン。俺は強気に出た。
どんな人間だって母ちゃんの腹ん中で生まれ、守られて育つんだ。赤ん坊は産まれるなり泣き喚く。生命の危機を感じているからだ。人は誰しもがリアルにトラウマを持つ。
まぁその理屈は置いておくとして、だ。こっちじゃデフォルトキャラってのは一般的じゃなくてな。本場はそうじゃねえんだろ? ゲームは競技の一種っつー考えがあるらしいな。プロレスで言うなら、覆面レスラーは数少ない。正体を隠すというよりはエンターテイメントの一種だ。
だが、日本ではそうじゃない。一般的にネトゲーで名が売れてるってのは恥ずかしいことなのさ。だから隠す。国内サーバーで有数の腕利きなんて知れた日には学校や会社で何を言われるか分かったもんじゃねえ。それが日本の文化だ。理解しろとは言わない。尊重しろ。
つまり俺がポチョ子のママじゃないとは限らない……。いや違うけど。しかし概念上における「母」ではあるかもしれない……。そしてこうも言えるだろう。ママに甘えて暮らすことが人生におけるゴールの一つだ。ポチョ子は本能的にそれを理解しているのさ。賢い子だ。よしよし。
カレンちゃんはおののいた。
「うぅ……。よく分からないけど、妙な説得力がある……」
真理だからな。別に俺が今考えたことじゃねえ。昔っから人間はそういう考えだ。
カレンちゃんは一時期のダークナイトポチョを知っているらしく、ギャップに戸惑っているようだ。
まぁいい。アットム! ここは戦場になるぞ! ティナンは大丈夫か!?
「わ、分からない! 僕はどうしたらいい!?」
ティナンは避難を開始している。合法ロリ姉妹の勅命が下ったと見てまず間違いない。いざとなれば山岳都市を捨てるという決断を下せるのはティナンのたくましさゆえにだ。しかし……。
アットム! 姫さんにつけ! ティナンは強いが、指揮をとれる子は限られている! お前には守るべきものがある。行け!
「分かった!」
アットムはぴょんと【歩兵】から飛び降りた。【スライドリード】で慣性を殺してティナンの家の屋根に着地。ティナン姫の屋敷がある方角に駆けていく。
ポチョ。お前はシルシルりんを守るんだ。できるな?
ポチョはコクリと頷いた。
カレン。お前はどうする? さっきも言った通りだ。ここは戦場になる。俺は【ギルド】につくぞ。どうやら俺は……最高指揮官とやらに大きな借りがあるらしい。逆らい難い何かを感じる。頭ん中を……。俺はこめかみをトントンと指先で叩いて笑った。いじられてな。それからなんだよ。記憶のところどころに抜けがある。指摘されても何だそんなことかと思うだけだ。それはリアルですら変わりない。キャラクターデータの根幹に干渉されてる。
分かりやすく言うなら……。ネトゲーで、プレイヤーが複数の勢力に分かれてドンパチするゲームがあるだろ? ああいう感じだよ。どっちが正しいっていう問題じゃない。そういうタイプのオンゲーでな、最大勢力になるのは多くの場合、トップにロリを据えた国なんだ。そういう感じさ。俺は勝ちたいからラム子につく。
カレンちゃんは「んー」とほっそりとしたおとがいに指を当てた。
「そうね。私は【NAi】につくわ。女神の加護は失うには惜しいから」
そうかい。残念だ。
俺は金属片を組み上げてガトリングガンを形成した。銃口をカレンちゃんに向けるが、シルシルりんが射線に立ち塞がる。
「ダメー!」
分かった。やめよう。俺はブレブレだ。シルシルりんがやめろと言うなら従うし、確実な脅威を見過ごしもする。
「行きな」と声を掛けると、カレンちゃんはシルシルりんの頬にそっと唇を押し当てて【歩兵】から飛び降りた。ガチレズさんめ。俺は嫉妬した。負けちゃいられねえぜ。
俺はシルシルりんにキスしようとするが、両手で突っぱねられて拒絶された。悲しい。
「なっ、なっ、なっ。なにするんですかぁー! やめっ、やめてください! そ、そういうのはダメ! ダメです! ポチョりん助けて!」
俺はポチョりんに後ろから引きずり倒された。
くそっ、ちょっとくらいイイじゃねえか。俺はシルシルりんと一緒に幸せになりたいんだよ。生産職トークに花を咲かせながら小さな店を二人で切り盛りして今日の売り上げはイマイチだったとか手作りのクッキーをサービスで付けてみようとか二人で相談して可愛らしい工夫を施してみたりしたいんだよ。それなのに五分もあればゴミが嬉しそうに絡んでくるからやむなく断念してるんだ。ゴミどもめ。いっぺん滅んでしまえばいい。
俺は吠えた。
皆殺しだァー!
血気盛んな俺にシルシルりんが腰を屈めて人差し指を突きつけてくる。
「めっ」
ラム子……。すまん。
俺は心の中で最高指揮官殿に詫びた。
俺は……お前の力にはなってやれない。
俺はシルシルりんとポチョの手を引いて戦域を離脱した。
後ろ髪を引かれるような思いで戦場を後にする。シルシルりんが可愛かったから。俺には守るべきものがあったから。ラム子の洗脳を無視して逃げた。
俺は、ラスボス戦に興味がなかったのだ。
不甲斐ない指揮官を許してくれ、ラム子……。
これは、とあるVRMMOの物語。
い、異常個体……。
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