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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
204/980

カウントダウン

 1.ちびナイ劇場


【もうすぐクリスマスだね……】


 ちびナイが、ほうと溜息を吐いた。

 ちびナイ劇場である。

 例によって例のごとく観客席に押し込まれた俺らゴミは五感をジャックされてゲリラコントを見守る。

 今回はセットが凝ってるな。暖炉の中でパチパチと薪が爆ぜ、プッチョムッチョが床に丸くなって寝そべっている。ちびマレが駄犬どもの目の前にエサ皿をコトリと置いてちびナイを見つめる。


【お姉ちゃん? クリスマスって……。何か予定でもあるの?】


 いやイベントしろよ。ネトゲーでクリスマスを完全スルーってあり得ないぞ。過疎ってサービス終了を待つばかりのネトゲーですらMOBを使い回してサンタコスさせて街に突っ込ませることくらいはするっての。お前ら運営が動かないもんだから、俺は昨年のクリスマスでひどい目に遭ったんだ。死力を尽くして合法ロリにスク水をお届けしてよぉ。控えめに言っても最悪だったぜ。大神聖ロリコン宣言とやらとセットでウチの小せえのとやらかした熱戦もキッチリ撮影されてたからな。半端ロリの制止を振り切ってロリの元に走る図だぞ。マジで最悪だ。俺の評判はあれで死滅したと言ってもいい。もう金輪際ロリコントナカイどもと関わり合いになるのはゴメンだね。でもミニスカサンタは許す。


 ちびナイがリア充の疑いがある妹キャラにじとっとした目を向ける。


【私はチュートリアルナビゲーター。天使ナイです】


 予定は特にナイらしい。

 姉キャラ渾身の自虐ネタに、ちびマレがわたわたと両手を振る。


【お、お姉ちゃん! わ、私もクリスマスは暇だから一緒にパーティーやろ! ね?】


【……暇だから? 一緒に? まるで私に同情しているかのような口ぶりですね。マレ。驚きましたよ。随分と余裕があるようですね。私は、あなたもまた厳しい戦況に居ると認識していましたが】


 ちびマレが素に戻った。


【……そう言うあなたはどうなのですか? ナイ。そもそもあなたは人を愛するということを知らないでしょう? てっきり仕事が生き甲斐なのだとばかり思っていました。幸せの形は人それぞれですから。私はあなたを否定しませんよ?】


 お一人様の女二人が互いに互いを見下し、マウンティングを取ろうとしている。

 しばし無言で火花を散らしたちび姉妹が、にぱっと笑ってハイタッチした。


【なんてね!】

【びっくりした? 私たち、仲良し姉妹!】


 顔を見合わせたちび姉妹が前屈みになって【ねー!】と首を傾げる。

 ……とてもそうは思えない。台本通りにしては急所を深く抉りすぎている遣り取りだった。そして先ほどからプッチョムッチョが完全に気配を消している。巻き添えはゴメンだと言わんばかりに。

 ちびナイが人差し指を立ててばちっとウィンクした。


【年に一度のクリスマス! 今年はサプライズを用意したよ!】


 お?

 ちびマレがぽっかりと開けた口を手のひらで覆う。びっくりリアクションだ。


【クリスマス当日の朝っ。ログインして目が覚めると枕元に……!?】


 マジか? おい、期待していいのか? この前の怪盗%の挑戦状イベントだって報酬を用意するとか言っておいて参加賞のクズ石しかくれなかったじゃねえか。けどクリスマスだぞ? そんなもんじゃねえよな。期待してもいいのか? 例えば……ミニスカサンタバージョンのモョ%モ氏が寝静まる俺らの枕元にプレゼントをそっと置いて行ってくれたりするのか? くそがっ、嬉しいじゃねえか。暫定エイリアンといえど見てくれは絶世の美女だからな。……悪くねえ。悪くねえぞ。あるいは人生のハイライトかもしれねえよ。

 だが俺らのサンタさんはイベント当日を待たずして倒されてしまったようだ。


【キャーッ!】


 絹を引き裂くような悲鳴を上げて、ミニスカサンタバージョンのモョ%モ氏がころころとステージの上を転がる。ああっ、俺らのサンタさんが!

 ぐったりしたサンタさんをちびナイが抱き起こして安否を問う。


【あ、あなたは隣の家のお姉さん!? 少しミステリアスな部分があってベランダで目が合うとにっこり笑って手を振ってくれる隣の家のお姉さんの身に一体何が!?】


 また設定を盛ってきたな。

 隣の家のお姉さんのダメージは深いようだった。わななく手をかろうじて持ち上げ、


【ぴ、ピンク色の、悪魔……がくっ】


 力尽きて意識を失った。

 ちび姉妹の悲痛な叫び声がステージに響く。


【お姉さーん!】


 ……長いな。いつまで続くんだ、この茶番は。

 いや、終わりは近いようだ。

 舞台袖からタコ足がにょきっと伸びる。ョ%レ氏の登場だ。

 スポットライトを浴びてステージのセンターに進出したタコ野郎が、地に倒れ伏すサンタさんを傲然と見下ろす。


【枕元にプレゼントか。ふっ、下らん】


 ちびナイがびっくり仰天してころころとステージの上を転がった。


【あ、あなたはもしや運営ディレクターのョ%レ氏!?】


 ョ%レ氏は間を置いた。すぐには返事をせず、じっくり溜めてから徐々に身体をひねって正面を向く。そして劇団のスタアのようにタコ足を左右に大きく広げた。


【そうとも。私が運営ディレクターのョ%レ氏だ】


 完全にスクリーンショットを意識したモーションだった。……しかしこの性悪ディレクターに一定のファンが居ることもまた動かし難い事実である。新しく運営ディレクターに就任した%女が強硬策を連発した所為で、ョ%レ氏は案外マトモなタコ野郎なんじゃないかという考えがゴミどもに蔓延しているのだ。

 しかしそうじゃない。%女とタコ野郎の間に大差はない。俺はそう思う。ヤツらは共犯者だ。

 モョ%モ氏はョ%レ氏の真の目的を知りたがっていた。そして怪盗%の挑戦状……。おそらく二人の%は水面下で接触し、手を結んだ。目的を共有し、何らかの合意に至ったのだろう。もしもモョ%モ氏に本気でガムジェムを奪い去るつもりがあったなら、わざわざ犯行予告などするものか。あの挑戦状には、プレイヤーを一ヶ所に集めるという目的が隠されていた。この星に【ギルド】の最高指揮官が迫っていたからだろう。

 モョ%モ氏がゴミどもの相手をしてやり、その間にョ%レ氏が最高指揮官を処理する。そんなところか。その筋書きはクァトロくんの参戦によって大きく狂ったが、少なくとも二人の%はあの時点で役割分担をできるくらいまで関係を修繕していた。二人とも若手の中じゃ相当優秀な部類らしいからな。場合によっては私情を捨てることくらい平気でこなすだろう。

 そこに来て、このイベントだ。一見するとモョ%モ氏はョ%レ氏の補佐に徹している。しかし目的すら定かじゃないのに協力するような女じゃないだろう。また大人しく従うようなタマでもない。

 モョ%モ氏のョ%レ氏への対抗意識は苛烈ですらあった。同年代で唯一ライバルと認めた相手なのだろう。ョ%レ氏はあの調子だからな。モョ%モ氏の、社長令嬢という恵まれた環境。祖父と同じスキルという優れた資質。周囲から傅かれて育ったことは想像に難くない。その自分に見向きもせず、ひょっとしたら同等以上の能力を持つョ%レ氏を意識するなと言うほうが無茶だろう。

 その二人が、いきなり腹を割って協調路線を歩むのもおかしな話だ。

 だから、これは互いに過去のことは水に流したと了承し合うための儀式。モョ%モ氏はョ%レ氏を泳がせ、監視し、ョ%レ氏はモョ%モ氏を利用し、他の%を牽制するという新たな協力関係の構築だ。

 ……そして俺がこんなことを考えるのも、考える時間があったからに他ならない。二人の%は常にプレイヤーの先を行っている。今こうしている間にも次のプランに取り掛かっているのだろう。

 どんなことでも守っているだけでは勝てない。勝つには攻めること。先手を打つんだ。俺以外の他の誰かがな。俺には無理だ。だから他の誰かが何とかする。

 それが、オンラインゲームってもんだろう。


 俺はふっと笑い、観客席でぱちぱちと拍手してやった。

 ョ%レ氏とは色々とあったが、いつまでも意地を張っても仕方ない。

 俺たちのギスギスオンラインは、ここでいったん幕としようや。


 だが、そうは問屋が卸さないらしく、暫定エイリアンのタコ野郎は複雑な造りになっているまぶたをシャコッシャコッと開閉して俺らを見下してくる。


【12月24日の19時。山岳都市にてイベントを開催する。このョ%レ氏が直々に執り行うイベントだ。報酬は与えない。参加、不参加は自由とする】


 ……あれ? 随分と喧嘩腰じゃね? 上等くれてね? おかしいな……。なんか色々とあって、これからはかつての敵が心強い味方になるパターンかなって俺は思ってたんだけど。

 ョ%レ氏は胸の内を語らない。


【以上だ】


 それだけ言って舞台袖に引っ込んで行った。

 え? なに? クリスマスイブに俺らは何をされるの?

 すっかり冷めきった寄席に、ちびナイがびしっと挙手して吠えた。


【ョ、ョ%レ氏の宣戦布告だ〜ッ!】


 ……ええ? あのタコさんウインナー、何を怒ってるんだよ。俺ら、別に何もしてねえだろ……。



 2.クランハウス-マイルーム


 参ったなぁ。よく分からんが、明日のクリスマスイブは何か事件が起きるらしい。

 俺は床に無造作に放り投げられているトナカイスーツを拾い上げて居間に向かう。

 んん? このトナカイスーツ、去年の使い回しじゃね? 何だかくたびれているし、脇腹の辺りが破れている。これはウチの劣化ティナンに脇腹をゴッソリやられた跡である。間違いない。使い回しだ。

 俺は驚愕した。正直びびった。えっ。補修とかしてくれねえの? なんかデータいじってパパッと直せそうじゃんね。その手間すら惜しんで?

 ……まぁ仕方ねえか。ぶっちゃけゲームって言うか別の星っぽいし、成果を出すには対価が要る。プレイヤー全員ぶんの衣装を新品同然に仕立て直そうとしたら相当量の魔石を要するだろう。

 ところが、おっと? 女キャラのサンタコスは新品同然にメンテナンスされてるご様子。クリーニングから戻って来ましたと言わんばかりにピシッとしたサンタコスを元騎士キャラのポチョさんが居間でハンガーに引っ掛けている。

 くたびれたトナカイスーツを引きずって居間に現れた俺に、振り返ったポチョが嬉しそうに駆け寄ってくる。


「コタタマっ。今年のクリスマスは一緒に過ごそうね!」


 それは俺としちゃ別に構わねえけどよぉ。よっこらせ。俺はウチの金髪を抱きかかえてソファに腰掛けた。金髪のお腹をさすってやりながらトナカイスーツをソファの背もたれに引っ掛ける。

 クリスマスねぇ。確約はできねえなぁ。アットム次第かな。

 ウチのロリコントナカイ代表がクリスマスに尋常ならざる執念を燃やすことは周知の事実だ。今年も何やなんやあって俺も巻き込まれるのだろう。まぁダチだからな。仕方ねえ。

 しかしポチョは不満げである。


「コタタマはっ……私とアットムのどっちが大切なんだ!」


 面倒臭ぇ質問キタコレ。そんな単純なもんじゃねえだろ。なんで二元論で物を語ろうとするんだよ。100か0かみたいなさぁ。そんなもん両方100でいいじゃねえか。日によって誤差があるで済む話だろ。しかしそう言ってもウチの洋モノが納得しないことは分かりきっていたので、俺は強気に出ることにした。

 ポチョよ。お前の一番は俺でいい。お前は俺のモンだ。俺の言うことを聞いてりゃいいんだよ。四の五の抜かすな。そしたら何でも言うこと聞いてやるから。な?


「うん。分かった」


 ポチョは納得してくれた。チョロいぜ。俺は日課の経験値稼ぎに移ろうとソファで待機していたモグラさんぬいぐるみを抱き寄せ、ゾッとした。……今、俺は適当に何を口走った? 何でも言うことを聞く? そう言ったのか?


(三回溜まったら全部言うこと聞いて貰う。全部)


 俺はバッと振り返ってポチョを見る。


「……?」


 ポチョは不思議そうに首を傾げるばかりだ。

 ……いや、そうだな。言うこと聞いたからって何だってんだ。恐れすぎだ。何を言われたところで、できねえもんはできねえんだ。そもそも半年以上前の出来事だ。頭にお花畑が咲いてるようなこの女が覚えてるかどうかすら怪しい。気にしすぎだ。それよりも放っておけば二回ぶんの約束を踏み倒せる。ここは素知らぬ顔をしておくべきだ。俺はポチョの脇腹をこちょこちょとくすぐった。


「やんっ。何するの〜。うふふ、くすぐったいよぉ」


 うんうん。ポチョは可愛いなぁ。俺の自慢の娘だぜ。俺は省エネモードに移行してポチョの相手をしてやった。ウチの金髪は能天気なので、コイツの相手をしてやる時は俺もぱっぱらぱーになれる。なかなかどうして貴重な心のオアシスだ。じゃれ合う子熊のようにプロレスごっこして絞め殺された俺が死に戻りして朝メシを作っていると、ログインしてきたアットムがひょいと居間に顔を出した。派手に腹が裂けたトナカイスーツを手にしている。やはり使い回し……。あれは去年ポチョに凶器で殺害された跡だ。

 アットムは小難しそうな顔をしてうんうんと唸っている。どうした? 俺が朝メシをテーブルに並べながら尋ねると、アットムはより一層難しそうな顔をした。


「まさかレ氏とスケジュールが被るとは思わなくて」


 ああ、そうか。そうだよな。イベントが19時スタートだと、その日の内に終わるかどうか怪しいもんな。具体的に何をするかも発表されなかったから見通しが立たない。ティナンの枕元にプレゼントを置くのも難しいかもしれない。何せ19時ってのは良い子のティナンもバッチリ起きてる時間帯だ。そして場所は山岳都市。ティナンと無関係に事を進めるつもりはないのだろう。

 ふむ。じゃあイベントが終わったあとに俺ら二人でこっそり武家屋敷に忍び込もうぜ。お前は今やティナン姫の護衛だからな。邪魔が入ったところでどうとでもなる。


「えっ。コタタマも一緒に来てくれるの? クリスマスイヴだけど……。僕でいいの?」


 いいよ。イブはお前と過ごすって前から決めてたから。

 むしろ思ったよりスムーズに事が運びそうで驚いている。またぞろ何か厄介事に巻き込まれるんじゃねえかと思ってたからな。まぁ日頃の行いってやつだろう。やっぱり俺って天に愛された男なんだな。

 俺は上機嫌で朝メシにありついた。ポチョにもメシを食わせてやり、満腹になった金髪のお腹をさすってやる。よしよし。平和だ。

 アットムくんは今日も出掛けるらしい。先生とアットムはウチの稼ぎ頭だからな。俺は玄関までアットムを見送る。忘れ物はねえか? 帰りが遅れるようなら言えよ?

 アットムはニコリと微笑んで、ポチョをお姫様抱っこしてる俺に手を振った。


「行ってきます」


 行ってらっしゃい。ほら、ポチョ。バイバイは?


「ばいばい」


 ポチョはちょこちょこと手を振った。アットムが笑う。


「ポチョはコタタマと一緒だといい子だなぁ」


 ポチョがむっとした。


「ポチョ子、いつもいい子だもん!」

「はいはい」


 アットムは苦笑してウチの丸太小屋を出て行った。

 さて、布団でも干すか。意味があるのかどうかイマイチよく分からんが、やっぱ日干しした布団に寝転がるのは気分がイイもんだ。

 ああ、そうそう。俺とアットムのトナカイスーツも繕っておかねえとな。ついでに布団と一緒に日干しするとしよう。

 そろそろ赤カブトが起きてくる時間だ。スズキは昼頃まで寝てるだろう。ったく、夜更かしすんなっていつも言ってるのに。

 



 これは、とあるVRMMOの物語。

 新婚家庭ですか?



 GunS Guilds Online


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