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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
184/964

GunS Guilds Online

 とても単純なことなのだが、ョ%レ氏やモョ%モ氏は俺たちとは別の生き物なのだ。

 ヤツらの恐ろしさ。それは頭の良さだ。

 脳、あるいはそれに類する器官の造りが俺たちとは異なる。

 俺たちが歩く時に無意識に筋肉を動かすように、ョ%レ氏やモョ%モ氏は無意識に複雑な作業をこなせる。それは、つまり……。


(……負けた? この私がか)


 目の色を変えるほど激昂していても、戦況を見紛うことはないということだ。

 激しい感情は、時として集中力を高め潜在能力を引き出すきっかけになる。

 ならば、ョ%レ氏とモョ%モ氏を比較した時、ヤツらの種族特性を最大限に活かせるのはモョ%モ氏のほうなのかもしれない。

 より戦闘に向いている。



 1.ギスギス学園-死の森


【NAi】が言う。


「ョ%レ氏は負けるべくして負けたのです。プレイヤーに多くの選択肢を与えたのは彼なのだから。幾つかの偶然が重なれば、そうなる可能性は当然あった。……モョ%モ氏。あなたはどうでしょうか」


 モョ%モ氏が大剣を突き出して答える。


「こちらの要求は一つだ。ナイ。ガムジェムを私に譲りなさい。このモョ%モ氏ならば、プレイヤーをより良く導ける。それは君にとっても悪い話ではない筈だ。ョレの不透明性が本社の疑いを招いている。その嫌疑を、この私ならば払拭することができる。私は【勇者】の直系なのでね」


【NAi】が笑った。


「私が何も知らないとでも思っているのですか? あなたのお祖父様は、ョ%レ氏を随分と高く買っておられるようです。無茶な要求を突き付け、ョ%レ氏が表舞台に立たざるを得なくした。勇者候補というのは? なろうと思えば簡単になれるものなのですか? プッチョとムッチョをこちらに派遣したのは何故ですか? ョ%レ氏の身内だから? そうなのでしょう。あなた方は、虐げてきた二人の兄がどんな人物で、どれほどのことを成せる人物であるかを思い知らされたのです。あなたのお祖父様の思惑通りに」


 モョ%モ氏が反ばくした。


「この私がそうなるよう働き掛けたのだよ。ョレの弟たちは弱すぎる。周囲の者に見下され、冷遇され……。彼らは兄の背を追うのではなく、別の道に幸せを見出すべきだった。持って生まれた資質が異なるのだから」


 二人は敵意を隠そうともしない。間合いを詰める素振りはないが、実質的には銃口を向け合っているようなものだ。二人が手に持つ聖剣とやらはそういう武器だ。

 張り詰めた大気が肌を刺すかのようだ。俺たちは鍋を突付きながら両者の対決を息を呑んで見つめる。モョ%モ氏が降下してくる前に放った一撃は周辺一帯の木々を伐採し、残された切り株がちょうど鍋を置くのに良い具合だった。集まってきたゴミどもが俺に倣ってもるもると嬉しげに鳴きながら鍋パーティーを始めている。

 先生がうんうんと頷きながら順繰りに各班の鍋を見て回っていた。なお、アンパンくんは早々に復活している。合流してきたアットムくんにお願いして蘇生魔法を当てて貰ったのだ。やっぱ司祭は頼りになるぜ。だろ? ポチョよ! 当たり前のように俺の隣に座ったポチョはコクリと頷いた。よしよし。便利な女に良く出汁が沁みた豆腐を食べさせてやっていると、俺の膝の上にちょこんと乗っているピエッタが文句を垂れた。


「おい、ポチョ。つーかスズキとジャムもだが……。お前らは別の班だろ。あっち行けよ。私の取り分が減るだろ」


 赤カブトがにこにこと笑っている。


「ピエッタさん小さくて可愛い。いいなぁ」


 そしてピエッタの取り分は更に減るようだ。サトゥ氏にセブン、リチェットが俺の鍋パに参戦してきた。


「コタタマ氏。【目口】が出てるってことは、またお前がやらかしたのか?」


 またって何だよ。俺はやってねえぞ。トチ狂ったモモ氏が周辺一帯のゴミを皆殺しにしようとしたんだよ。たまたま生き残ったプレイヤーで一番レベル低かったのが俺らしい。呼び出す母体は誰でも良かったんだが、今日の俺はツイてるから俺に決めたって理屈みたいでな。


「……レ氏はモモ氏に負けたのか?」


 さあな。分かんねえよ。ただ、そうだとしても不思議じゃないとは思うがね。

 モモ氏と【NAi】が持ってるあの剣。聖剣とか言ったか。あれは異常だ。ルールを逸脱してる。要は剣の形をしたファンネルみたいなもんだろ。とんでもねえ武器だ。なのに、見たトコそれらしいペナルティが見当たらない。

 サトゥ氏。お前はどう見る?


「武器そのものを追求したものって話だったな。レ氏の創造魔法でも量産できない、か。その辺りに何か秘密がありそうだな。アメリカ勢なら何か知ってるかもしれない。聞いてみたか?」


 いや。あんまり気が進まねえなぁ。攻略本を読むみたいでよ。まぁ言ってる場合じゃねえか。くそっ、俺の母体を厄介ごとに巻き込みやがって。ジョンに聞いてみるわ。んんっ……!

 返事はすぐに返ってきた。こっちとあっちじゃ半日以上の時差がある筈なんだが、世界最強のプレイヤーが廃人でなくて一体何だというのか。普通に起きていたのだろう。


『ペタタマサーン。その剣ですが、正しくは【律理の羽】と言うらしいですヨ』

 

 羽ぇ? どう見ても剣じゃねえか。んああっ……!


『んン。コッチだと、プッチョサンとムッチョサンをプレイヤーがやっつけちまったそうデス。私たちが合衆国ステイツを離れていた時の出来事ネ。その時にプレイヤーの指揮を取ったのが【NAi】だったヨ。彼女の【羽】はオリジナルなのですが、モモ氏の【羽】には及ばないという話デシタ』


 あん? オリジナル? 逆じゃねえのか? 普通、オリジナルのほうが上だろ。はぁんっ……。


『そこまでは分かりマセン。ただ、言ったのはプッチョサンとムッチョサンですカラ。嘘を吐くとは思えないネ』


 あいつら素直なバカだからな。バカなので誤った情報の可能性はあるが……。まぁ信じるしかねえか。ありがとよ。

 ってことらしい。俺はジョンとの遣り取りを面々に伝えた。

 ハッ。先生だ。先生が俺の鍋をじっと見つめている。俺は素早く鍋の一等地から一番いいトコを小皿によそって先生に捧げた。


「いいのかい? ありがとう」


 先生が召し上がる。ああ……。俺はうっとりした。先生の箸さばき、凄く綺麗だ。キャラクリの都合上ほとんど握力がない筈なのに、全然見苦しくない。

 サトゥ氏が先生に水を向ける。


「先生はどう思いますか?」


「【律理の羽】か。そうだね。これは前提条件なのだが、私はレ氏のクラフト技能に限界はないと思っている。何でも作れるし、模倣品だから劣化するということはないだろう。しかしあの剣がそうでないというなら、レ氏の言う通り特別なものなのだろう。つまり存在自体が何らかの影響を外部に与え続けるものなのではないかな」


 律理の……。法則ですか?


「そう。コタタマには以前に話したね。【戒律】というのは、とても異常な法則なんだ。【戒律】と【律理の羽】は二つで一つなのかもしれない。オリジナルかどうかは大きな問題ではないのだろう。例えば今、モモ氏の剣が破壊されたなら力関係は逆転するのではないか。過去にそうしたことがあったから、現在の【NAi】の剣は二番手に甘んじている……。私はそう解釈したよ」


 ……先生は当たり前のように言っているが、法則の正常性を人工物に頼っているということは……。

【戒律】の根っこにある下知の力、勅命の力。それらは元からあったものじゃないということになるんじゃないか?

 ああ、嫌だ嫌だ。俺はゲームができれば満足なのに、知れば知るほどこのゲームは胡散臭くなっていく。


 モョ%モ氏の瞳が赤く染まっていく。


「ナイ……。君は、ただのAIではないな。まさか本物のディープロウだと言うのか」


【NAi】はあざ笑った。


「最初からそう言っているではないですか。私はチュートリアルナビゲーター。天使【NAi】です。私は、正体を偽るなどという下賤な真似をしません。あなた方とは違う」


 直後、二人の手に持つ大剣が分解した。大剣を構成していたパーツが数え切れないほどの金属片となって衝突し合う。

 押されているのは【NAi】だ。ジョンの言う通り、剣そのものの性能はモョ%モ氏のほうが上であるらしい。

 そして、それは【NAi】にとって事前に承知していたことだ。当然対策はある。さっと片手を振ると、モョ%モ氏が吹っ飛んだ。マールマールの超重力だ。【四ツ落下】だったか。以前に【刺しビン】を吹っ飛ばしたように、【四ツ落下】は真横にも撃てる。

 本当に【NAi】がガムジェムを隠し持っているというなら、【NAi】の魔力は無尽蔵だ。

 モョ%モ氏が薄く笑う。


「ふふ」


 たちまち放電し、重力圏を脱した。何をどうやったのかは分からない。だが……。


(一つのスキルを極めれば、他のスキルに頼る必要はない)


 モョ%モ氏は電撃を操る。この広い宇宙で働く力は、突き詰めていけば四つの力まで絞り込めるってDr.ストーンで言ってた。

 四つの力。重力と電磁気力、弱い力と強い力だ。つまり、それら四つの力と無関係な事象は俺たちが知る範囲で存在しない。

 言い換えれば、こうなる。モョ%モ氏に不可能なことはほとんどない。

 ただしコストの問題はある。マナの上限は【戒律】の強さと同意義だ。ディープロウの魔力が君主を上回るということはないだろう。魔法を連発すればモョ%モ氏はガス欠になる。

【NAi】の手元で大剣が再構築された。デカい。パーツ同士が目には見えない力で繋がっているようで、柄尻から剣先まで十メートルくらいはある。また手に持つ必要もないようだ。【NAi】が片手を振ると、大剣もつられて動く。射程だけならレイド級と比べても遜色ない。その長大な斬撃をモョ%モ氏が再構築した大剣で受ける。【NAi】の追撃。数十もの魔槍をクラフトして射出する。

 やはり魔力の差は大きい。モョ%モ氏は後手に回っている。だがヤツはレ氏と同じ%だ。何らかの勝算があるのだろう。

【目口】は……動かない。ゴミが多すぎてやる気を失っているようだ。おや? 何やらじっとサトゥ氏を見つめているぞ。

 サトゥ氏?


「ああ、そうだったな」


 一つ頷いたサトゥ氏が【敗残兵】のメンバーを呼び集める。


「良かったよ。約束を果たせそうだ」


 約束? あっ、もしかしてプレーリードッグの件か? 【目口】さんを本来あるべき姿にしてやるっていう……。や、やれるって言うのか?

 サトゥ氏は自信たっぷりに笑った。


「まぁ見ておけ」


 集まってきた【敗残兵】メンバーが等間隔に広がって魔石を掲げる。何をする気だ? 俺は固唾を呑んで見守る。

 監督しているサトゥ氏が解説してくれる。


「クラフト技能ってのは面白いよな。ふとした瞬間に壁を突き破ることがある。鍛冶と細工を分担できるってのは知ってるか?」


 あ、ああ。シルシルりんから聞いたよ。鍛冶師と細工師でデサントと同じことができるんだってな。


「そうそう。一人じゃできないことも、二人ならできる。だったら三人なら? 四人なら、五人なら……。もっと色々なことができる。魔石の質を克服することだってできる」


 魔石を掲げているのは【敗残兵】所属の生産職たちだ。そいつらが一斉に嬌声を上げ、粘土を繋ぎ合わせていく。巨大なトリモチみたいになったそれを、ピザ生地を伸ばす要領でくるくると回す。

 凄ぇ。俺は感嘆の吐息を漏らした。やれって言われても即席でやれるワザじゃない。訓練の賜物だろう。

 息がぴったりだ。【敗残兵】の生産職たちが一斉にターンしてトリモチをブン回す。ふわりと宙を舞って高速でスピンするトリモチが大きく変化する。

 ふわりと地面に舞い降りたそれは、何か……巨大な毛皮みたいなものだった。何だろう。なんか期待と違う。

 しかし【目口】さんは敏感な反応を示した。のそのそと寄ってきて毛皮を拾い上げ、頭からすっぽりと被る。

 ああ、そういう……?

 サトゥ氏が満足そうに頷いた。


「プレーリードッグの着ぐるみだ」


 いや、サトゥ氏。ちょっと待て。形から入ったんだな。それは分かる。けど体型に無理があるだろ。

【目口】さんのスタイルを一言で表すならモルボルだ。頭と胴体に明確な区別がない。上から毛皮を被っても体型は誤魔化せないし、布が足りてない。どっちかと言えばあれはベムスターだ。ハムスターならまだ近かったんだがなぁ……。一字違いだよ。惜しい。

 しかし【目口】さんはご満悦の様子である。触手を使って無理な体勢をキープ。プレーリードッグっぽさをアピールしている。

 うーん……。まぁ本人は喜んでいるようだし、30%くらいはプレーリードッグに近付いたような気がする。

 お? よちよち歩きのプレーリードッグがモョ%モ氏に加勢した。意外だな。てっきり言うこと聞く気がないのだとばかり。

 その点に関しては【NAi】も俺と同意見だったらしい。振り下ろされた巨大な斧をかろうじて防いだが、目に見えて動揺している。


「ペタタマ!? 何故、モョ%モ氏の味方を……。いえ、召喚されたのだから当たり前と言えば当たり前なのですが……」


 しかしモョ%モ氏は特に加勢を命じた訳ではないらしい。


「手出しをするなと言ったろう! 何を……なに?」


【目口】さんは、参戦した動機を熱く交信しているようだ。三対ある目玉がぎょろぎょろと忙しくなく動く。

 モョ%モ氏は渋々と認めた。


「まぁそれはそうだが……。随分と口の達者なレプリカだな。やはり異常個体……」


【目口】さんは、そんなことは決してないと頭を振った。異常個体ではない……。

 モョ%モ氏が億劫そうに指を振る。システムに介入して何らかの操作をしたようだ。

 アナウンスが走る。


【おい、お前ら。誤解しないでくれよな。俺もね。何も好きこのんでモモ氏の味方する訳じゃないのよ】


 それは【目口】さんの述懐であった。


【異常個体だ? 何のことかさっぱり分からねえが、俺はノーマルだ。失礼な%女だぜ。ただ、コイツはどうやら俺らを呼び出せるらしい。俺はレプリカ?の地位向上のためにだな。こうして身を粉にして働いてる訳よ。言ってみればお前らゴミどもの代表としてな】


 ゴミどもが一斉にバッと俺を見る。んだよ。まだ俺の母体と決まった訳じゃねえだろ。世の中には叙述トリックってもんがあるんだぜ?

【目口】さんが大きく頷いた。


【それな。ナルトでもよー。ずっとネットじゃナルトは四代目の子だろって言われてた訳よ。まぁ実際そうだった。けどよ、じゃあ他人のガキを九尾の容れ物に使うか?って話よ。そりゃねえだろ。あれはストーリーの必然なんだよ。俺とはケースが違う】


 待て。お前、もう黙れ。


【あ? お前が黙れよ。俺に喋らせろ。こんな機会は滅多にねえ。つーかお前はいいよな。言っとくが、今ここに居る俺はスゲー危機感を覚えてる。さっきモモ氏がよー。クソ虫どもの対抗戦力として俺らを育ててるって言ってたろ。寝耳に水とはこのことだぜ。おいおい、じゃあ俺はどうなるんだよって話よ。え? なに? 将来的にはクソ虫どもの本拠地に向けて出撃する羽目になるの? 宇宙を泳いで? マジかよっつーね。まぁ俺は荒事に向いてねえから後方支援に回されるんだろうが。そういうのはサトゥ氏の仕事だぜ。ああ、お前らが刺しビンとか呼んでるアイツだよ。たまに部屋に遊びに行くんだけどよ、最近は付き合いが悪くて嫌んなるぜ。ヤツにはヤツなりの悩みがあるらしい。五面のボスみてーななりしてな。けけけっ。Bプレート探してリバイバルしたいらしいが。人間、大事なのは中身だぜ。お前は大丈夫だよっつってガンガン肩を叩いてやるんだが、硬いの硬くないのって。おっとモモ氏。俺を無視してドンパチ再開するんじゃねーよ。ちっ、仕方ねえな。喋り足りねえが、これまでだ。召喚獣はツライぜ。これも定めか。行っくぜー! ナイ! 死に晒せよやぁー!】


【目口】さんの自由意思は縛られているようだ。%女の味方をするのはどうも抵抗があるが、召喚されたなら仕方ない。

【目口】さんの参戦により形勢は一気にモョ%モ氏の優勢に傾いた。【NAi】がきゃんきゃんと喚いている。


「私のガムジェムを狙って!? お前はっ、まだ根に持っていたのですか……!」


 ゴミどもを燃料にしている以上、【NAi】はモンスターにはなれない。ティナンほどガムジェムを使いこなすことはできない。

 レプリカのレベルは最低でも1001。パワーとタフネスの桁が違う。

 モョ%モ氏は【目口】を利用することにしたようだ。


「不本意ではあるが……。ナイ、幕だ」


【目口】の斧を受けて弾き飛ばされた【NAi】にモョ%モ氏が電撃を浴びせた。

 呆気ない幕切れだ。意識を失ってぐったりした【NAi】にモョ%モ氏が歩み寄っていく。

 そして【NAi】の羽衣に手を掛けた。発動した特別な所有権を、モョ%モ氏は魔法でねじ伏せた。


「セキュリティが甘い。衣服に武器の特性を持たせる以上は一定のリスクが生じる」


 ……【NAi】とマレが身に付けている羽衣は瞬間的に硬質化して鋭い刃にもなる。武器の側面を持つから、特別な所有権も脆くなるということだろう。

 モョ%モ氏が【NAi】の羽衣を引き裂いた。白い肌が露わになる。

 俺たちはぐっと身を乗り出した。だがモョ%モ氏には甘えがあった。同じ女として【NAi】に同情したのかもしれない。ポロリは避け、胸元の露出にとどめる。くそがっ。

 ゴミどもがざわつく。【NAi】の胸元に何か埋まっている。ウルトラマンで言うところのカラータイマーの場所だ。

 宝石のようなもの。

 ……ガムジェムだ。

 肌と同化しているように見える。

 モョ%モ氏が大剣を分解して金属片を周囲に浮かべる。

 何をするのかと思いきや、【NAi】のガムジェムを金属片でブッ叩き始めた。それさ、カッコ良く出撃して電池切れしたエヴァ初号機に第十四使徒がやってたけど、食われちゃったんだよなぁ。大丈夫か?

 ガンガンとガムジェムをブッ叩く音が断続的に響く。つーか何で壊そうとしてんの?

 モョ%モ氏は真剣だ。切迫している。


 ゴミどもは戸惑っている。このまま【NAi】を見捨てていいのかと。

 ……仕方ねえなぁ。俺はてくてくとモョ%モ氏に歩み寄って、ぐいっと肩を掴んだ。

 おい、そこまでだ。俺らに無断でラスボスを倒すな。エンディングはどうなるんだよ。

 モョ%モ氏が肩越しに俺を見る。


「この女は天使だ。殺戮人形だよ。君たちは暴走したナイを見たろう。あれが本性さ。生かしておくことはできない」


 知らねえよ。俺は【NAi】の正体なんざ知ったこっちゃねえ。興味もねえ。


「完全ではないがガムジェムと同化している。ここまで侵食が進んでいるとなると、殺して奪うしかない。使い物にならなくなるかもしれないが……。首を刎ねたところで意味はないだろう」


 そこが一番気に入らねんだよ。より良く導くだ? あんたは俺らのためにと言うが、こっちは別に頼んでねえだろ。そりゃあ結果的には良くなるかもしれねえけどよ、だからってティナンを襲ったりよぉ……。

 あのな、モモ氏。俺らにだって血は流れてるし、涙を流すことくらいあるんだぜ?

 NPCだからって。人間じゃねえから何してもいいとは思ってねえんだよ。

 言ってる意味分かるか?

 俺はこう言ってる。

 あんた、ダサいんだよ。


 俺は首を刎ねられて死んだ。

 金属片を操って俺の首を刎ねたモョ%モ氏が盛大な溜息を吐く。


「やはりこうなるのか。……ガムジェムを手にする方法はある。より確実な手段だが、物騒なのでね。できることならば避けたかったのだよ」


 モョ%モ氏が振り返った。再構築した大剣をプレイヤーたちへと突き付けて、こう言った。


「ナイへのエネルギー供給を一度、絶つ。諸君らには死んで貰う」


 アナウンスが走る。


【GunS Guilds Online】


【警告】

【強制執行】

【手招く災禍】

【決して終わることはない】

【安らぎがあなたを縛るだろう】


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:ディープロウの殺害】

【制限時間:00.00】

【目標……】


【傾国】

【ディープロウ】【モョモ】【Level-99】




 これは、とあるVRMMOの物語。

 命の使い方は個人の自由だ。燃え尽きようとしている命がある。死に場所くらいは自分で決めていい。



 GunS Guilds Online


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[一言] 目口の語り、共感性羞恥の気がある人は身悶えしそう
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