木の葉崩し……!
1.ギスギス学園-死の森
ワッフルに貪り食われた俺とセブンをリチェットが蘇生してくれた。まぁさすがに魔力の消費がヤバそうだったので、手持ちのマナポーションを渡しておく。ウチのチームはアンパンが結構な量の在庫を抱えてるからな。ほれ、リチェット。自然回復が追いつかないようなら使ってくれ。ただし【戒律】が強くなるから気を付けてな。司祭の場合はどうなるか知らんが。
しかしセブンは知っているらしい。
「司祭は穢れに制限が掛かる。一時的ではあるが、血や死に触れるとアウトだ」
【戒律】が追加されるのかよ。そんなのもアリなのか。
穢れね。じゃあセブン、気を付けるのはお前だな。死ぬならリチェットの目の届かないところでひっそりと死ね。いいな。
「お前が死ね。お前を取り込んだのは失敗だった。死にたがりめ」
んだぁ? やんのか? コラ。
ひたいを突き合わせてもるもると威嚇し合う俺とセブンにリチェットが割って入る。
「こらこら。喧嘩をするな。どっちもどっちだから。な?」
ちっ。隊長殿がそう言うなら仕方ねえ。
俺たちは今後の予定を話し合った。
サトゥ氏たちはサバイバルで普通にトップを狙うらしい。
「サトウさんとケリを付ける。ヤツが次に打つ手は読めてる。売名だ」
売名か。そうかもな。俺は首肯した。
RMT業者が一枚岩ってことはないだろう。儲けが出ると分かれば、真似をするやつが出てくる。スマイルが業界最大手の立ち位置を狙うのはありそうな話だった。イベントで優勝すれば一躍有名人の仲間入りだ。互いにトップを目指せばいつか鉢合わせることになるだろう。
サトゥ氏よ。改めて言っておくが、俺は別にスマイルの旦那のことが嫌いじゃない。お前の言いぶんは分からんでもないが、RMTを根絶するのは無理だからな。放っておいても別の誰かがやるだろう。
サトゥ氏は頷いた。
「ああ。分かってる。俺がサトウさんを追うのは、ヤツがシリーズの元盟主だからってのが大きい。身内の恥って感覚に近いかな。だからコタタマ氏。お前を巻き込むつもりはなかった。もちろん味方をしてくれるなら歓迎するが」
そうか。すまんな。がんばれよ。
サトゥ氏が苦笑した。
「完全に他人事じゃねーか。言っとくが、お前はサトウさんに標的にされてるんだからな。なんかあったら言えよ」
俺とサトゥ氏は固い握手を交わして別れた。
かくして本格的にサバイバルが幕を開けた。
俺たちの目的はまず生き残ることだ。巻物は二の次。何しろか弱い生産職チームだからな。ボスのネフィリアはどこで何やってんのか。ささやきを送っても返事が来ない。今頃は風影に成り済ましてるのかもしれない。
アンパンを養う生活が始まった。俺とピエッタがコンビを組んで標的のチームに詐欺を仕掛け、身ぐるみを剥いでやる。やっぱり仲間の一人に化けて懐に潜り込むのが一番確実だな。整形チケットを駆使した詐欺はどうしても時間が掛かるが、正面から挑んでも返り討ちにされるだけだから仕方ない。
今日はこれくらいにしておくか。暗くなる前に引き上げ、目星を付けておいた寝ぐらに移動。
「旦那〜。お腹減ったよ〜」
ハイハイ。俺はエプロンを身につけていそいそと晩メシの支度をする。アンパンは薬剤師のくせに料理はからきしだし、ピエッタはあんまり食べることに興味がない。必然的に俺がメシ当番をやることになる。
俺はクズ石を地面に埋めて土を被せると、その上に発火式を刻んだ。ほうほう。こうなるのか。こりゃ便利だ。だが、まぁ確かに火力の調整に難があるな。揚げ物は無理っぽい。
薬剤師のクラフト技能は合成メインだ。アンパンにあれこれと指示を出して下拵えをショートカット。ぱっぱとメシを作ってアンパンとピエッタに振る舞ってやる。
「旦那は料理上手だな〜」
幸せそうにメシを食っているアンパンに、ピエッタが皿を持つ小さな指を突き付ける。
「おい、アンパン。お前、今日何もしてねーぞ。料理の練習くらいしたらどうだ?」
いや、いいんだ。俺はアンパンを擁護した。コイツに何も教えなかったのは俺とネフィリアだ。実験ばっかりやらせてたからな。慣れてる俺がメシを作ったほうが早い。それよかアンパンにはフリーで色々なモンを作って貰う。
一日過ごしてみてどうだ? そう悪くないトリオだろ。俺とピエッタでゴミどもの身ぐるみを剥いで、アンパンが食材を合成する。ついでに巻物もちょっとは集まったぞ。獲物の選り好みしてる余裕はねえから微々たるもんだがな。本日の成果は〜……じゃん。62点〜。
「お〜」
アンパンがパチパチと拍手した。
うんうん。明日以降もこの調子で行こう。ネフィリアが怠けてるから大したことはできねえが、安全第一だ。
俺たちのログイン時間は大まかに一致してる。まぁそうじゃなきゃ元々出会うこともなかったろうしな。拠点を決めておいて、基本的には三人一緒に行動することになる。留守番を作っても意味ねえからな。
まぁ気軽に行こうや。先生も言ってたろ。チームメイトと親睦を深めろってよ。幸い、話すネタには困らない。なあ、ピエッタ。お前が俺に作ってくれたセーラー服なんだけどよ。ちょっとデザインが古臭くねえか。
「はぁ? なに言ってんだよ。セーラーとブレザーを一緒くたにすんな。セーラーに変な冒険心は要らねーだろ」
いや、そこは俺に合わせろよ。つーか俺にもブレザーくれよ。疎外感が半端ねえ。ドコの転校生だよっつー。
かくして俺たちの夜は更けていった。
2.サバイバル二日目
翌日、俺たちは何事もなく合流した。
本日は休日。朝から遊べる。昼頃に出掛けるにしても二、三時間は遊べるな。
という訳で、さっそく偵察に出る。俺は目がいい。情報収集はお手のものよ。
ネフィリアにしごかれて育った俺と違って、ピエッタは野外行動があまり得意ではないようだ。森の歩き方がなってねえ。それじゃ疲れるだろ。いいか。俺らは普段、舗装された道を歩いてる。けど森ん中は平坦じゃない。一番負担が掛かるのは足の裏だ。そこを意識して歩くんだよ。まぁ慣れれば意識しなくともできるようになる。
「お前、実は凄いやつなのか」
俺は凄くない。お前がポンコツなんだ。温室育ちの似非ティナンめ。
その点、アンパンくんは基礎が出来てる。習得するスキルを間違えて育ってしまったような子だが汎用性は高いのだ。
獲物の品定めは慎重に行いたい。俺たちには追われた時に逃げる足がないのだ。派手に殺し合いしてるゴミどもは狙い目だ。疲弊は思考能力を制限する。しばらく眺めてればパーティー内の力関係は大体把握できる。人間関係は歪なものであるほど付け入る隙がある。特に近接職が強権を振りかざしているようなパーティーは脆い。くくくっ……。今日も荒稼ぎできそうだな。俺はじっくりとゴミどもの活動範囲を見定めていった。
よし、いったん昼メシにしよう。ちょいと早いが、食べられる時に食べておくべきだ。
俺が地面にしゃがみ込んで発火式を刻んでいると、周囲一帯の木々が根こそぎ切り倒された。おぅ、お約束の不測の事態か。何事だ。振り返ると、アンパンくんが死んでいた。木々と一緒に伐採されてしまったようだ。悲しい。ピエッタは無事だ。背の低さが幸いしたな。アンパンの切り口からいって斜め上からの斬撃だな。俺は上空を仰ぐ。
大剣を肩に担いだモョ%モ氏と目が合った。降下してくる。空を飛べるのかよ。
……ピエッタ。逃げろ。
俺は小声で囁くが、ピエッタは動かない。いや動けないのか。地面に転がるアンパンの上半身を呆然と見つめている。
地に降り立ったモョ%モ氏がこちらに歩み寄ってくる。ボロボロの服。編みがほつれた麦わら帽子。……まさか今の今までョ%レ氏と戦ってたのか?
やや赤みがかった瞳が俺を見据える。
「冒険者ペタタマ。レベル2の君が生き残るのか。運がいいな。よし、君にしよう」
%女の片手が稲妻を帯びる。脅してるつもりかい?
「脅し? いいや、そうではない。誰でもいいのだよ。単純に今の君はツイてるという話さ」
なに言ってるのか分かんねえな。だがアンパンを殺されて黙ってられるほど俺はお人好しじゃねえんだ。
俺は奇声を上げて%女に襲い掛かった。
死に晒せよやぁー!
%女が、ちょいと大剣を動かす。俺の斧が砕け散った。貰い物のゴミだからな。そんなもんだろう。本命はこっちだぜ。俺はくるりと反転してもう一つの斧を叩き付けた。まぁ普通に防がれる。なるほど。強ぇな。こりゃ勝てねえ。
俺は%女に胸ぐらを掴まれて持ち上げられる。ピエッタが悲鳴を上げた。
「崖っぷち!」
いい。下がってろ。コイツは俺が殺す。よくもアンパンを殺りやがったな。
ピエッタを参戦させないための方便だった。二人で束になったところでこの%女には勝てない。
モョ%モ氏が大剣を無造作に放り捨てた。空いた手を俺の胸に当てる。
「この特別マップがある限り、ティナンからガムジェムを奪うことは難しい。ならば他のところから調達するしかない」
モョ%モ氏の手のひらが光っている。耳障りな音を立てて、大気を焦がすような稲妻が迸る。【スライドリード】のエフェクトじゃない。それが、あんたのスキルか。
「スキルは使いようだ。一つのスキルを極めれば、他のスキルに頼る必要はない。ペタタマ。ョレが山岳都市の付近にスピンドックを配置したのは何故だと思う? それはね、このモョ%モ氏の血族に発現するスキルを、あの男は最も高く評価しているからさ」
……それは、あんたがスピンドックと同じスキルを持っているということか。
%女はにっこりと笑った。
「段階解放も大事だが、何より応用力だ。……君たちは、もう理解しているのだろう? GunS Guilds Online。このゲームの土台は【ギルド】が作ったものだ」
%女の発した稲妻が広がっていく。
「私たちは彼らと同じ土俵に上がり、システムを利用することで対抗戦力を育ててきた。レプリカがそうだ。この私のスキルは祖父と同じもの。【勇者】のチカラだ」
電子を制御する力だ。
モョ%モ氏はシステムに侵入して何かやろうとしている。
何を? 答えはすぐに出た。
遥か上空に死出の門が咲く。
這い出してきた【目口】が地表に降り立つ。
【目口】を従えた%女が、用無しと化した俺を放り捨てて両手を広げた。
「これでいいのだろう? さあ、ナイ。出て来なさい」
これは、とあるVRMMOの物語。
ご指名とあらば仕方ありませんね。
GunS Guilds Online