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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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魔族の秘術

 1.ギスギス学園-体育館


 ネフィリア速報により、俺たちの学園生活は安定しつつある。

 余裕を持って強制召喚された俺は、気付けば一流のゴミどもに混ざって体育館に整列していた。

 やはり俺の可愛い生徒たちは再び深い眠りに就いたらしく、俺は華麗にZ組に舞い戻ってしまった。悲しい。もるるっ……。

 俺が悲しげに鳴いていると、体育館のステージに立つマレ校長先生が全校生徒に向けて出し抜けにこう言った。


「これよりテストを開始します」


 聞いてねえぞ。ぶっつけ本番かよ。いや、実はスケジュールは発表されていたのかもしれない。ただウチの担任教師は喋れないので俺らZ組には伝わっていなかっただけとか……。

 そんなことはないようだ。ゴミどもからブーイングが上がった。

 しかしブーイングを浴びせられたマレは一向にひるむ様子がない。


「詳細は生徒会長より発表があります。聞き逃してどうなっても私は知りませんよ。紹介しますね。生徒会長のGoatくんです」


 ブーイングがぴたりと止んだ。

 先生? 俺の知らない間に先生は生徒会長に就任していたようだ。まぁ選挙したところで結果は変わらなかっただろうが。

 しずしずとステージに登った先生が、演台に突っ伏して頭を下げた。


「力及ばず……」


 え!? ど、どういうことなんだ?

 先生が頭を下げたまま、ちらっとピエッタを見た。

 あっ、そういうこと? 俺は察した。

 以前に先生はピエッタととある約束をした。校内行事を行うよう校長のマレに直談判してみるという話だった。

 おそらく先生は、その約束を守ったのだ。

 しかしGMという立場にあるマレからしてみれば、例えば文化祭を開催してプレイヤーにチャラチャラとした学園生活を提供しても何らメリットはない。交渉は難航したのだろう。そしてどういった経緯によるものかは分からないが、結果としてテストを実施することになった。そんなところか。

 ……ただのテストじゃないな。先生はマレからある程度の譲歩を引き出したに違いない。それは一体どんな? 俺は傾聴した。

 頭を上げた先生が、ひづめを胸に当てた。もう片方の腕を軽く掲げ、訥々と今回のイベントについてご説明をなされる。


「教師の原型。古代の人類社会における教師とは語り部であり、あるいは神官だった。歴史とは家系図であり、子々孫々へと受け継がれていく財産の保証だった……」


 要約すると、テストはサバイバル形式で行われる。

 クラスで三人ないし四人のチームを編成し、班ごとに森に転送される。その際に配布される巻物がテストの点数に該当し、持ち点は班によって異なる。これまでの学園生活で優秀な成績を収めたものは高得点を与えられるようだ。

 そして、最終的に集めた巻物の合計点が今期の成績となる。

 なるほど。いやナルトの中忍試験じゃねーか。巻物に点がついてるっていうオリジナル要素をブチ込んでも騙されないよ。これナルトの中忍試験だよね? まんまじゃん。……ええ? これはあれか? 先生発案の楽しい学校行事とマレ発案のバトルロワイヤルが反発して融合した結果、キャンプin死の森になった感じなのか? 判然としないが……。

 先生は最後にこう付け加えた。


「もちろん何もしないという選択肢もある。反省し、受け入れることが肝要だ。チームメイトと親睦を深める良い機会だと思ってだね。あ、何をする。やめ……」


 話の途中だが、マレの意にそぐわない発言をした先生はプッチョムッチョに脇を抱えられて強制的にステージを降ろされた。

 まぁ先生の言わんとするところは分かる。制限時間が設けられている以上、赤点チームが何もしなければサバイバルは平和に終わるだろう。高得点チームはリスクを冒してまで他のチームと争う意義は薄い。大抵のチームが自分たちよりも低い点数しか持ってないからだ。赤点チームが粛々と自らの至らなかった点を受け入れ、来期に向けて悔しさをバネにできるなら、今回のイベントは楽しいキャンプとなる可能性を秘めている。

 だが、もちろんそんなことにはならない。ゴミどもは一様に俯き、頭を巡らせていた。誰とチームを組むか。仮にチームを組んだとしたらどうなるか。メリットとデメリットを冷徹に計算していた。そして、それは俺も同様だった。



 2.ギスギス学園-Z組教室


 当然、俺は【敗残兵】の最高幹部三人と組む。そのつもりだ。

 教室に戻るなりさっそくサトゥ氏に声を掛けようとするのだが、


「コタタマ」


 ネフィリアさんが俺をお呼びである。何スか?


「近接職を二人だ。連れて来い」


 むむっ。どうやら俺は知らない間にチームネフィリアに組み込まれていたらしい。まぁ悪くないか。次善策ではあるが、ネフィリアと敵対せずに済むのはありがたい。近接職二人ね。了解。

 おっとアンパンくんが仲間になりたそうにこっちを見ている。仕方ねえなぁ。おい、アンパン。何ぼさっとしてんだ。さっさとこっち来いよ。旧ネフィリアチーム結成だぜ。

 アンパンは嬉しそうに駆け寄ってきた。よしよし。アンパンくんが仲間に加わったぞ。やったぁ。

 これで三人か。他の連中はどんな具合だ?

 おや、ピエッタが所在なさげにしている。ああ、そうか。ピエッタは服屋だもんな。一応鍛冶師ではあるのだが、服屋は武具を打つノウハウが少ない。今回のイベントで服屋はあまり役に立たないだろう。仕方ねえなぁ。おい、ピエッタ。何してる。こっち来いよ。俺がお前をご指名だ。


「……はあ? 私なんて何の役にも立たねえだろ」


 それを決めるのは俺だな。お前じゃない。いいからさっさと来いよ。しかし、そうか。お前は服屋に使い道がねえと思ってるんだな。お前がそう思うってことは大半のヤツもそう思うってことだ。なるほどね。参考になったよ。おら、ピエッタ。ウチに来い。お前は他の連中には渡せねえ。来いよ。


「……別にいいけど」


 ピエッタは渋々とこっちに歩み寄って来た。よしよし。ピエッタが仲間に加わったぞ。やったぁ。

 四人揃ったな。やい、ネフィリア。連れて来たぞ。


「生産職三人でどうするつもりだ」


 生産職三人? 些細な問題だな。ネフィリアさんよ。生産職三人じゃねえ。俺、アンパン、ピエッタの三人だ。これ以上のチームが他にあるのか? 俺には思い付かねえけどな。それともグレードを落として近接職にすげ替えるかい? だったらお前一人でやれよ。俺はコイツらと組む。そのほうが勝率が高いからな。

 ネフィリアは笑った。


「くくっ。言うじゃないか。分かった。お前の言う通りだ。最高のチームだよ」


 その言葉が聞きたかった。じゃあ作戦会議と行くか。標的はA組だな? Z組で潰し合っても仕方ねえ。今の内にクラス全体で共闘関係を結んでおいたほうがいい。途中で状況は変わるだろうが、最底辺からの出発ってのは悪くねえ。マトを絞れる。その案で進めていいか?


「待て。私に考えがある。お前たちは時間までに手持ちの札を確認しておけ。他のチームには見せるな。クラスメイトだろうと同じだ」


 そうかい。お前に考えがあるってんなら従うさ。アンパン、ピエッタ。聞いたな? 狙う立場、狙われる立場、両方の面から考えておいてくれ。俺たちのチームに近接職は居ない。歩調を合わせられる。俺とネフィリアで指示出しをすることになるだろうが、その時にできないならできないと言え。要は、巻物を持ってるやつが最後まで生き残ればいいんだ。お前らナルト読んでる? 中忍試験の二次試験にサバイバル演習があったろ。ああいう感じだよ。

 そういうことになった。



 3.ギスギス学園-死の森


 死の森に転送されるなり、ネフィリアは俺たちにこう言った。


「サトゥがどこまでやれるか見たい。お前たちで襲撃しろ。方法は任せるが、毒物による無差別殺傷は認めない。巻物は、コタタマ。お前に預ける」


 いや無理だろ。死ねってのか。ナルトの中忍試験じゃん。しかも俺たち音忍の三人組じゃん。死亡フラグ立ってんじゃん。ねえ大蛇丸様。聞いてる?


「誰が大蛇丸だ。いいから行け。ほら、巻物を持って。早く」


 くそがっ、何だってんだよ。俺はぶつくさと文句を垂れながら、押し付けられた巻物を広げてみる。13点か。間違いなく低いんだろうが、ネフィリアは級長だしZ組の中ではマシなほうかもな。

 おーっし。じゃあ行くか。まずサトゥ氏たちを探さねえとな。俺はアンパンとピエッタを引き連れてトコトコと森の中を歩いていく。

 ネフィリアの姿が見えなくなった辺りで、ピエッタがぼそりと言った。


「なあ、このまま逃げようぜ」


 それも一つの手だな。だがサトゥ氏のチームは三人組といえど全校でも屈指だろう。その動向を把握しておくことは無駄にはならねえ。お零れに預かる機会もあるかもな? やる、やらないの最終判断は俺が下すさ。何も一から十までネフィリアに従う義理はねえ。切るなら切るで、サトゥ氏は味方に付けておきたいしな。

 それとアンパンよ。ネフィリアはああ言ったが、毒の用意はしておけよ? いざとなったら使うぞ。俺としても避けたいんだけどな。さすがに全域に毒を撒くのは無理だから生き残った連中に集中攻撃される。でも、こっちとしてはもう助からねえってなったら知ったこっちゃねえよな。道連れだ。全員死ねばいい。


「旦那さ。考え方がヤバいんだけど……。もしかしてキルペナ溜まってる?」


 え? 全然。オールグリーンよ。最近あんまり殺してないし。いや、やや黄色がかってるかな? 余裕、余裕。

 ピエッタが頷いた。


「いつも通りっちゃいつも通りだしな。おい、崖っぷち。お前、スマイルの野郎と一悶着あったらしいな。大丈夫なのか? 野郎は業者の顔らしいじゃねーか」


 スマイルな〜。サトゥ氏がさー。スマイルの旦那のことスゲー嫌ってんのな。びっくりしたわ。昔からそうなん? 俺、あんまり詳しいこと知らねんだよ。サトゥ氏と知り合った頃にはスマイルの旦那は引退してたし。


「お前が先生のトコに身を寄せて猫の皮を被ってた頃の話だな」


 被ってないよ。なに言ってんの? むしろ大人しくしてた頃の俺が本物だから。今の俺は心を痛めながら日々を過ごしてるんだぞ。ネフィリアに脅されて仕方なくだな……。そう、ウサ吉を人質に取られてるんだよ。


「ウサ吉ってーと、ネームドか。お前、あの化けもん何とかしろよ。平原の深部が魔境と化してるらしいぞ」


 あ? 可愛らしいもんじゃねえか。俺の可愛いウサ吉はプレイヤーと違って一つしか命がねえんだ。健気に生きてるんだよ。そっとしておいてやってくれよ。


「どこが健気なんだよ。深部に足を踏み入れた瞬間に殺しに掛かって来るんだよ。あれ今レベル幾つだ? 300近いって話だぞ」


 相当数のプレイヤーを葬ってるんだが、まだ300か〜。やっぱり種族人間の経験値はゴミだな。そのくせ金だけは持ってやがる。踊る宝石かよ。

 くっちゃべりながら廃人三連星を探す。一応当てはある。川だ。広大な森林には必ず水源がある。地下水脈もそうだが、土壌に養分がないと木々を維持できない。その養分はどこから持ってくる? 生物だ。有機物の死骸。一部の例外を除き、生物は水がなくては生きていけない。そしてそれは種族人間にも同じことが言える。薬剤師は飲み水をクラフトできるが、魔石の浪費は戦力の低下に直結する。水源の確保は急務だ。

 サバイバル期間はティナン時で三日間。高得点の保持者は隠れ場所を探すだろう。ログイン時間を減らす手もあるだろうが、イベント参加はゲーマーの本能だ。ティナン時で三日間、108時間をゲームで勝つためにゲームを控えるのは無理がある。巻物を持ってるやつがログアウトしているなら、そいつの仲間を捕まえてログアウト地点を吐かせればイチコロだ。ログイン時のプレイヤーは完全に無防備になる。

 話をまとめよう。まず川を目指して歩く。サトゥ氏も俺と同じことを考えるだろう。クランメンバーとの合流を優先することも考えられるが、情報収集の観点から固まって動くのは避ける筈。歩けばゴミにぶつかる。中にはサトゥ氏を見掛けたというゴミも居るかもしれない。というか居た。俺はそいつらに巻物を堂々と広げて見せ、


「サトゥ氏を見なかったか? セブン、あるいはリチェットでもいい」


「……13点か。ゴミだな」


 やはり俺たちの点数はゴミだった。争ってまで奪うほどの価値はないと判断され、金で見逃して貰う。情報も提供してくれた。サトゥ氏の居場所ゲット。ありがとよ。何かあったらお前らの味方するわ。


「お、そうか。じゃあ貰ってばっかってのも何だからコレやるよ。使え」


 ボロボロの斧をゲット。ゴミからゴミを貰ったぞ。やったぁ。

 じゃ。ゴミどもと別れ、目撃証言を頼りにサトゥ氏たちの元へ向かう。

 居た。思ったより早く見つかったな。サトゥ氏とリチェットだ。セブンの姿は見えない。偵察に出ているのか、それとも死んだのか。俺はアンパンとピエッタに待機を命じ、サトゥ氏の前に姿を現した。

 よう。ご両人。奇遇だな?


「コタタマ氏……。一人か?」


 どうかな。俺はしらばっくれた。斧を肩に担ぎ、サトゥ氏を指差して言う。


ろうぜ」


 サトゥ氏は偉そうに腕組みなどして俺を見つめている。微かに苦笑いし、


「そう来たか。なんだ? ネフィリアに何か言われたのか?」


 俺に勝ったら教えてやるよ。

 ……なあ、サトゥ氏。思えばお前とは本気でやり合ったことがなかったな。丁度いい機会だ。どっちが上かハッキリさせようや。

 死に晒せよやぁー!

 俺は奇声を上げてサトゥ氏に襲い掛かった。おっと随分と柔らかい土壌だな。足首まで埋まった。泥沼かよっつー。隆起した土くれが俺を鷲掴みにした。何だろう。こんな魔法は見たことも聞いたこともないのだが……。

 いや、違う。もしやセブンか? くそっ、罠だ。嵌められた。予めセブンを殺して埋めておいたんだ。

 ぐっ。土くれセブンが俺の身体をぎりぎりと締め付けてくる。

 ま、待てっ。俺は命乞いした。巻物ならやる! 見逃してくれ! そ、そんなつもりじゃなかったんだよ。俺とお前の仲じゃねえか。な? へへっ……。

 しかしサトゥ氏は見逃してくれなかった。


「うるさい。口まで覆っても殺せるが……。ちょっと惨めすぎるからな……」


 くそっ、何やかんやあって呪印解放したサスケみたいになったサトゥ氏にやっつけられるかと思ってたのにまさかの我愛羅とは。

 待っ……!

 俺はぐしゃりと握り潰されて死んだ。

 俺の死に様を見届けたサトゥ氏がぐるりと辺りを見渡す。


「…………」


 土くれセブンを従えたサトゥ氏がゆっくりと歩いていく。アンパンとピエッタが身を潜めているほうへと。

 リチェットが慌ててサトゥ氏の肩を掴んで引き止めた。


「さ、サトゥ! もういいだろっ。巻物を持ってるのはコタタマだ! ネフィリアがコタタマ以外に巻物を預けることはないって……!」


 サトゥ氏がリチェットの手を払いのける。


「俺に指図をするな。俺が頭だ」


 そう言って茂みを指差す。土くれセブンが緩慢な動作でアンパンとピエッタに迫る。リチェットが叫んだ。


「サトゥ!」


 サトゥ氏が舌打ちした。


「……分かったよ」


 手首を返したサトゥ氏に、ぴたりと動きを止めたセブンも従う。

 そこでナルト劇場はひと段落したらしく、リチェットが俺を蘇生してくれた。まぁセブンと混じり合ってキメラみたいになっちまったけどな。なんだか力があふれてくるぜ。素晴らしい。セブンの中あったかいナリぃ……。

 土くれセブンの体表にぽこっと顔だけ出した俺は全能感に酔いしれる。

 今の俺は無敵だ。くくくくっ、ふははははははははは!

 これにはサトゥ氏もにっこり。


「行こう。コタタマ氏。友達だからな。どこまでも一緒だ」




 これは、とあるVRMMOの物語。

 かつてないゴミの誕生である。



 GunS Guilds Online



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[一言] これ巻物をクラフト偽造したら大混乱するんじゃ
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