かちこみ!
商会連合。
商圏での活動をメインにしているクランの集合体であり、生産職相互組合の商売敵ということになる。
主な業務はケツ持ち。つまりショバ代と引き換えにゴミを始末してくれる。
その商会連合で実行部隊を任されているト金組とヌキエ組の間で抗争が勃発した。なまじ同じ業務を請け負っていただけに、元より縄張りや方向性の違いから小競り合いが絶えなかったらしい。
とはいえ、同じ組織なのだから協調路線を敷くに越したことはない。そんなことは互いに分かっていたので、これまで本格的に衝突することはなかった。
しかしここ最近になって、ヌキエ組にRMT業者が出入りしているという噂が流れた。
数々のネトゲーでマクロとBOTを使い狩場を荒らしてきた業者を、ネトゲーマーは忌み嫌っている。
事は信用問題である。商人の中には業者と付き合いがある組は信用できないと考えるものも居るだろう。稼ぎがデカいやつほどそうした傾向が強いかもしれない。稼ぎを出せるほど多くの客と関わりを持つということだからだ。仕事でゲームをしている業者は強い味方になり得るが、何事も一長一短である。良いことばかりではないのだ。客層が変われば付き合い方も変わる。商会連合全体に関わることを、ヌキエ組は本隊に無断で話を進めている。当然ちょっと待てよという話になり……。
ヌキエ組の構成員による金ちゃん殺害。これにより、事態は一気に緊迫した。もはや抗争は避けられないだろう。ト金組は、衆人環視の元でメンツを潰されたのだ。
うーむ。確かに話だけ聞くとヌキエ組に非がありそうだが……。腑に落ちない点が幾つかある。
まず、ヌキエ組と業者の繋がりが不鮮明だ。業者がヌキエ組で具体的に何をしているのかが分からない。
それと、金ちゃん襲撃のタイミングがおかしい。抗争を起こしたかったとしか解釈できない。勃発前に頭を殺ったところで効果は薄い。殺るなら正面衝突してからだ。それならヌキエ組の優位をアピールできる。
つまり、これは罠だ。十中八九、ト金組を返り討ちにする準備がある。対策を練るべき、なのだが……。
ダッシュで死に戻りした金ちゃんが吠えた。
「カチ込みじゃ〜!」
ちょっと。金ちゃん。これ絶対に罠だぞ。
「おん!? 崖っぷち〜。眠たいこと言ってんじゃねえ! ワシらは力で周りのモン黙らせて来たんじゃ! オメェとは生きる理屈が違うんだ、よ……!」
そっかぁ。まぁそうかもね。
若いのが猛ダッシュで駆け寄って来た。何よ。何なん?
「崖っぷちの兄ィ! ニジゲンの姉御がっ……!」
誰が兄ぃだ。勝手に俺をお前らの親戚にするんじゃねえ。JKがどうした?
「ヌキエ組の連中に攫われたっ! 面目ねぇ!」
マジかよ。俺の大切な金づるが。おのれヌキエ組。やってくれたのぅ。この俺を舐めてやがるな。皆殺しだ。
俺は吠えた。
「カチ込みじゃ〜!」
そういうことになった。
2.ポポロンの森-人間の里-【ヌキエ組】本部
種族人間は山岳都市に住むことを禁止されている。国に税金を支払うことを拒否したためだ。納税者だけに居住権を与えるという案も出るには出たらしいが、一部の例外を許せば勝手に住み着くゴミが現れる。そんなことはやらなくても分かったので、山岳都市に種族人間の家を建てることは全面的に禁止したという訳だ。
よって山岳都市にある種族人間の建物は営業所であり事務所という扱いになっている。
ヌキエ組も同様で、事務所とはまた別に人間の里に本家がある。ニジゲンが連れ込まれたのはそちらのほうだ。
オンドレぁ!
先陣を切った俺は、ヌキエ組本部の前に突っ立っていたゴミの首を刎ねて先に進む。構成員かどうかなんざ分からん。もしかしたら無関係なゴミだったかもしれないが、俺の空気を読めないゴミは死ねばいい。
ト金組と一緒に屋内に雪崩れ込み、出会う端からゴミをブッ殺していく。
「コイツらト金組の!? か、カチ込みじゃ〜!」
悲鳴を上げて逃げ出したゴミを、俺は後ろから引っ掴んで首を落とした。ふはは。楽しくなってきたのぅ!
金ちゃんが何か言っている。
「守りが手薄じゃのう。何か妙じゃ」
そんなのどうでもええわ! さっさと行くぞぁ! もっと俺に血ぃ見せろや!
ヌキエ組の本部は典型的な和風建築だ。アウトローは何故か形式に拘る。組織である以上は何らかの芯が要るからだろう。
ト金組の襲撃に浮き足立っていたヌキエ組だが、ようやく地に足を付けることができたらしい。ふすまを蹴破って広い座敷に出ると、そこにずらっと兵隊どもが並んでいた。その中の一人、偉そうなゴミが叫ぶ。
「ト金組の! 何のつもりじゃ!」
興味ねえわ! いいから死ねや!
駆け出そうとする俺の肩をぐいっと金ちゃんが掴む。
「落ち着けや崖っぷち! 何か妙じゃと言っとるじゃろがい!」
知るかボケぇ! 全員殺したったらええんじゃ! すっきりするわ! なあ!
同意を求めてト金組の面々に話を振るが、そいつらに俺は取り押さえられた。何なん? 俺は味方なのに。こいつらも殺したいわ。
金ちゃんが吠えた。
「ヌキエ組の! 頭を出せや! 三下じゃ話にならんわ! このワシが直々に出向いとるんじゃ!」
まだるっこしい。殺せや。端っこから順に殺したったらええんじゃ。
ヌキエ組の偉そうなやつが答える。
「抜かせ! 狂犬がっ」
話が分かるじゃねえか。おい、お前ら聞いたな! 交渉決裂じゃ! 全員死ぬまで殺し合うんじゃ〜!
偉そうなやつが待ったを掛けた。
「待てやっ。崖っぷちさん……! 分かったわ! カシラに話だけ通してみるわ! それまで大人しくしときっ」
ヘタレてんじゃねえ! 掛かって来いや!
「ト金のっ。頭おかしいの連れ込んでからに! カシラぁ! 魔族がっ……」
そう言って後ろのふすまをすぱっと開けたヌキエ組の人がギョッとした。
二間続きの広間だ。そこに三十人強の男たちが立っていた。集団の真ん中に居る男がニコニコと笑っている。
ヌキエ組の人は困惑している。
「お前ら、何じゃ? カシラは……?」
集団の真ん中に立つ男が答える。
「私だよ。この姿で会うのは初めてだね。チケットを使ったんだ」
あんたは……。
男が俺を見る。
「やあ。コタタマくん。健在なようだね。また会えて嬉しいよ」
俺は吠えた。
「テメェ! スマイル!」
つまり、こうだ。
ヌキエ組の頭は、引退した筈のサトウシリーズの元盟主だった。大黒屋の情報は正しかった。とうに復帰してやがった。
業者が出入りしてる? 違う。そうじゃない。ヌキエ組はRMT業者の隠れ蓑だった。
スマイルはニコニコと笑っている。ヌキエ組の人に歩み寄り、親しげに肩に腕を回した。
「済まないね、若頭。ヌキエ組は解体だ。君たちじゃ私を守りきれないからね」
ヌキエ組の人の腹から剣が生えている。若頭とやらをスマイルが刺した。
「カシラ……?」
若頭は信じられないといった様子で目を見開いている。彼の肩を、スマイルは労うようにぽんぽんと軽く叩く。
「今までご苦労だった。私のことは心配しないでくれ。これからは彼らが私の手足となって動くことになる」
ここに来てスマイルが正体を現したのは、もう正体を隠しても無駄だと悟ったからだ。
スマイルは抗争を欲していた。それは多分最後の悪足掻きだった。ト金組とヌキエ組の抗争を演出して業者の存在を有耶無耶にしようとしたのかもしれない。
だが、それも無駄に終わった。スマイルとしても事が上手く運べばラッキーくらいにしか考えていなかったのだろう。やってみて損はないだろうと。
スマイルを追い詰めたのは俺たちじゃない。
因縁の相手。トップクラン【敗残兵】だ。
サトゥ氏率いる【敗残兵】のメンバーが、ぬっと俺たちの背後から現れた。セブンとリチェットも居る。メガロッパも。
サトゥ氏がスマイルを見た。
「サトウさん。やはりあんたか」
スマイルがニコリと笑った。
「やあ。サトゥ。思ったより早かったね。さすがはトップクランだ」
アナウンスが走る。
【GunS Guilds Online】
【警告!】
【強制執行】
【逆臣の処刑】
【消えゆく定め、命の灯火……】
【誰も救えない】
【王は一人】
【勝利条件が追加されました】
【勝利条件:君主の殺害】
【制限時間:00.00】
【目標……】
【君主】【サトウnキ】【Level-18】
アナウンスを合図に【敗残兵】が一斉に動く。応じて前に出たのは、スマイルが連れて来た業者たちだ。
サトゥ氏が叫ぶ。
「業者だ! 手強いぞ! 用心して掛かれ!」
命の火が燃える。【心身燃焼】を纏った【敗残兵】メンバーと業者たちが正面から衝突した。剣戟が響く。ト金組とヌキエ組は避難して壁際に寄った。
因縁の二人。サトゥ氏とスマイルが対峙した。
サトゥ氏が吐き捨てるように言う。
「サトウnキ? 適当な名前だ。あんたらしいよ」
その瞳には憎しみすらちらついて見えるようだった。
スマイルは笑っている。この男にとって今の状況が望ましいものである筈がない。追い詰められている。それでも笑う。どこか他人事のように。
「サトゥ。どうしてお前はいつも私の邪魔をするんだい? 確かに私は私利私欲のために動いているが、それはそこに居るコタタマくんも一緒だろう」
「あんたは、ダメだ」
サトゥ氏が剣を抜いた。
「サトウさん。あんたはコタタマ氏とは違う。あんたは、このゲームが好きでも何でもない」
そして強い怒気を込めてこう言った。
「こっちは楽しくやってんだ。掻き回すなよ。あんたみたいなのが居ると、マジで萎えるんだよ」
俺は藁人形をクラフトした。
これは、とあるVRMMOの物語。
経験値稼ぎはやめなさい。
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