スズキシリーズ
1.山岳都市ニャンダム-露店バザー
スズキシリーズを追跡する俺に、ぴょんぴょんと飛び跳ねて追い付いてきたコニャックが言う。
「コタタマ。彼女たちのことは放っておいていいのかい?」
いや、そんなことよりコニャックさん。どうしてここに。
「ん? ああ、気配を隠していたつもりはなかったけど、やっぱり伝わってなかったのか。ふふふ。私に子は居ないけど、母親の気持ちっていうのはこういうものなのかな」
気配を読むことすらできない無力な種族人間に、コニャックは赤子ティナンを重ねて見ているようだった。
おいおい、見くびって貰っちゃ困るぜ。俺は一人の地球人としてコニャックの勘違いを正してやらねばならなかった。
コニャックさんよ。お前さんがどう考えようと勝手だがな、俺らの母星、地球じゃ種族人間は下の下よ。階級別で言ったら史上最弱かもしれねえ。その俺らよりちっとばかし強いからって、そんなもん何の自慢にもならねえんだぜ?
コニャック。地球を舐めるなよ? とうに絶滅しちまったが、俺ら地球組の代表選手は満場一致で恐竜さ。地球史上、最大にして最強の暴君。ヤツらにはお前らティナンですら手を焼くかもな? くくくっ……。
俺は史上かつてない壮大なスケールで負けを惜しんだ。
実際それくらいしないと勝負にならないのだ。本音を言えば恐竜ですら互角に戦えるか怪しい。
コニャックは戦闘に向いたタイプのティナンではない。ティナンにしては育っているほうだが身体能力は平均的なもので、大司教様や四天王のようなセンスは感じない。そんなコニャックですら、白衣のポケットに両手を突っ込んだまま障害物から障害物へぴょんぴょんと飛び移り、ごく自然に宙返りを合間に挟む。体操選手顔負けのバランス感覚だ。
つーか、なんで俺に付いて来るんスか?
「君の結婚相手を最終的に決めるのは私だからね。無責任なことはできないさ」
ああ、そういえば前にそんなことを言ってたな。本気だったのか。なるほど。どうやら俺くらいになると、政略結婚や自由恋愛という域を優に飛び越えて血統を管理される宿命にあるらしい。
正面を向いた飼育員さんがぽつりと言う。
「ゲスト……実在したんだね」
んあ? 今更だな。どうした?
「話に聞くのと実際に目にするのは違うよ」
コニャックは興奮しているようだった。両手で顔面を覆い、熱に浮かされるように呟きを零していく。
「コタタマ。君はポプラから聞いてるだろ? 私たちには原始の記憶がある。天翔ける船。そしてゲストの記憶だ。そうそう、あんな感じだったよ……! 姿は大分違うけど、一目で分かった。つまり君たちプレイヤーの言葉は正しかった。私たちはゲームのNPCかもしれない。これって自分たちの正体が分かるかもしれないってことだ……! 凄いことだよ」
あ〜……。まぁそうね。俺ら人間にしたってそうじゃねえっつー保証はねえからな。胡蝶の夢だったか。簡単に言うとマトリックスだな。
露店バザーを怒号と悲鳴が飛び交っている。突然のブーン襲来によるものだ。俺のレベルは低いから、まともに追跡しても逃げられる。だが、すぐそこまで危機が迫っていればどうだ? スズキシリーズは盟主のスズキを見捨てることができない。そいつはこの俺と接触する丁度いい言い訳になるよな? お膳立てはしてやったぜ。
俺は【スライドリード】で二段ジャンプして、露店バザーと面したティナンの家の屋根の上に飛び乗った。
「ここまでやるのか……。魔女の手下め」
俺を待ち受けていたのは十数名の男女だった。俺は、最初に口を開いた男に的を絞って言葉をぶつける。
名乗りな。
「その必要が? お前が俺たちを知るように、俺たちもお前のことをよく知っている。ずっと見ていたからな。平和だった【ふれあい牧場】に潜り込んだゴミめ」
くくくっ。言うじゃねえか。だが、この俺を先生の元に連れて行ったのはポチョだぜ。お前らの大切な盟主のお友達のな。お前らはポチョにもっと感謝するべきなんじゃないか? スズキはよく笑うようになった。それは、いつも近くにポチョが居たからだ。あいつは他の誰にもできないことをやってのけたんだ。お前らじゃないな。
「知ったふうな口を。しかし……的確だ。人が嫌がることを熟知しているな。怪物の弟子はやはり怪物……。いいさ。認めよう。お前は【ふれあい牧場】に居ていい。他ならぬポチョさんがそうしたなら、我々は従おう」
そうかい。じゃあ交渉に入ろうか。
お前らは俺の下に付くべきだ。それは、これまでずっとそうだった。何故そうしなかった? 言え。俺に接触して来なかったのはスズキの命令か?
「俺たちは影だ。初日組ですらないお前には分かるまい。俺たちはあの子の幸せをただひたすら願っている。お前の下に付けだと? それはそうかもしれん。お前は頭が回る。人を使うすべに長ける。身内は大切にするというのも知っている。だが、あの子は表立って我々に指令を下すことはない。目立つことを嫌う。それでも改名しないでくれている。それだけで十分だ」
はん? 分かんねえな。それでお前らに何の得がある?
「このゲームは重複ネームを禁止していない。我々の歴史は、欲に目を奪われた成り済ましとの戦いの連続だった」
偽スズキってことか。
「そうだ。ヤツらの目的は俺たちを従えることにあったから、結局最後には馬脚を現す。しかし中には巧妙なヤツも居たからな。俺たちは様々な手段を駆使して検証するしかなかった。β組の目撃証言、当日の状況。何故β組でありながら姿を消したのか。動機は? 罠に嵌めたこともある。先生には感謝の言葉しかない……」
じゃあ俺にも感謝しろよな。お前らは分かってんだろ? 先生が俺を【ふれあい牧場】に誘ってくれたのは、ポチョとスズキを守るためだ。牧羊犬みたいなもんだよ。
「そうだな。その点については感謝している。だからこうして同胞を集めた。これで全てではないが、ここに居るのは主要なメンバーだと思ってくれていい。そして、これだけは伝えておこうと思ってな……。コタタマさん」
何だよ。俺は嫌な予感がした。
「お前があの子たちのママだというなら、我々はパパだと思っている。つまり俺たちとお前は夫婦ということになるな」
ならないんじゃないスかね。
「いや、なる。俺だって嫌だが、結果から言うとそうなるんだ。最悪、俺はホモになってもいい。それくらいの覚悟があるということだ」
嫌だよ。俺はノンケだ。
「俺だって嫌だよ! でも仕方ないだろ」
仕方なくはないだろ。どうしてそうなるんだよ。
ねえ、コニャックさん。黙ってないで俺を助けてよ。ホモの集団だ。怖いよ。俺を助けて。
「でも、コタタマ。君の運命の人がこの中に居るかもしれない。焦りは禁物だよ。じっくりと見定めるんだ」
せめて女子がいいです。
「性別に囚われることはないよ。君たちは自在に姿を変えることができるのだから。大切なのは相性だ。参考までに、まずはこれを見てくれ」
そう言ってコニャックさんは俺のステータスをオープンした。巻物に俺の各種ステータスが事細かに記載されている。どうやら飼育員さんの手作りであるらしかった。
「何と言っても君は口が回る。その長所を伸ばすべきか、それとも短所のフィジカル面を補うかで私は日々悩んでいる」
ええ? なんか具体的な話をし始めちゃったぞ。
「今、私が一際注目しているのがジョゼット陛下だ。やはり陛下の身体能力は群を抜いている。しかしここで一つの大きな問題がある。それは種族の壁だ。そこで段階を踏んではどうかと考えている。……時に、コタタマ。君はペスのことをどう思ってるんだい?」
えっ。段階を踏んで初手ペスなの? それって飼育員さん的には種族人間より犬のほうがティナンに近いってこと?
「うーん。安定性がね。どうも。君たち、たまに何もないところで転びそうになるだろう?」
ああ。なるほどね。見てて危なっかしいと。無理するなと。なるほど。四脚のほうが何かとね?
「うん。私はね、君たちが走ってるのを見ると、とても不安な気持ちになるんだよ。上体はふらふらしてるし、歩幅も何だか変だ。個人差はあるようだけど……。ここは今一度、初心に返ってだね」
初心っつーかモンキーだけどな。いやモンキーも二足歩行か。俺は猿の前は一体何者だったのだろう。勉強不足だな。今度調べておこう……。
とにかく、そういう訳だ。残念だったなホモめらが。俺の結婚相手を決めるのはコニャックさんなんだよ。お前らの出る幕じゃない。
おっと赤カブトさん登場。いっけね、そういやセクハラしてたっけな。逃げろ〜。俺はコニャックを小脇に抱えてぴゅ〜っと逃げ出した。
ところがどっこい金髪が俺の前に立ち塞がる。くっ、挟み撃ちか。前門の金髪、後門の赤カブトだ。
くそっ、くそっ。久しぶりにオーソドックスなパターンだな。俺が悪さをして刺されるっていういつものやつだ。最近ゴブサタなもんで上手く命乞いできるか心配だぜ。勘が鈍ってなければいいが。
土下座フォームに移行しようとする俺に、ヘソ出し女がガッと抱きついてきた。
「コタタマ! 会いに来たぞっ。もるるっ」
お、おお。そうか。よく迷子にならなかったな。偉いぞ。俺はヘソ出し女の頭を撫でてやった。
ハッ。スズキだ。ちんちくりん一号がてくてくと歩いてきて少し離れたところで見学を始めた。何か察したらしく、はにかんでスズキシリーズにぺこりと会釈した。スズキシリーズが感動している。
「尊い……!」
そりゃーまぁウチの劣化ティナンはサトウシリーズの盟主なんかと比べたら断然可愛い。気持ちは分かる。しかしホモで、かつロリコンかよ。救えねえな。
だが真に救いを欲しているのは俺だった。金髪と赤毛がじりじりと迫ってくる。俺は、擦り寄ってくるヘソ出し女を撫でてやりながら誤解である旨を告げた。
ま、待て。待ってくれ。違うんだよ。そ、そうだ。証拠は? 証拠はあるのか? 俺がセクハラしたという証拠は! ない。そうだろ? へへっ。だったら俺が殺されてやる謂れはねえなぁ。決め付けは良くねえよ。どうしても俺を殺したいってーなら証拠を持って来いよ! ヘソ出し女が余計なことを口にした。
「コタタマ。この目、どうした? 血が出てる」
ドライアイがひどくてな。俺はとっさに嘘を吐いた。うっ、ダメだ。金髪赤毛が止まらない。俺の犯行を確信している。セクハラされた本人にしか分からない何かがあるのかもしれない。この路線はダメだ。俺は素早く舵を切った。面舵いっぱーい。
わ、分かった。認めるよ。確かに俺はお前らのパンツを見た。だが、それは飽くまでも想像上のパンツだ。実物じゃない。必要なことだったんだ。俺の視点移動はローアングルでしか使えない。仕方なかったんだ。ままま待て。剣を抜くなっ。刃物はダメだろっ、こんな街中で……!
金髪が小首を傾げた。
「許嫁……って?」
んん? なんだ? 俺のセクハラについて怒ってる訳じゃないのか? 俺は素早く計算してぺらぺらと口を回した。
俺がニャンダムに嫁入りした件は知ってるだろ。そん時な、本当は山の民に仲間入りするってんで、コイツと結婚する予定だったんだよ。昔の借りがあってな。罪滅ぼしって訳じゃないが、俺は野良人間たちを救ってやりたかった。おまけに嫁さんは見ての通り別嬪さんと来てる。断る理由はなかった。
……許嫁じゃないと言い張るのは簡単だ。しかし俺はそれをしなかった。ヘソ出し女をキープしたかったのである。
待て! そ、それ以上近寄るな。俺は小脇に抱えるコニャックさんをそっと立たせてやって見せびらかした。
ティナンだぞ! 俺にはティナンが付いてる! へへっ。生憎だったな。いくらお前らでもティナンには勝てねえよ。ね。飼育員さん。可愛らしくおねだりする俺に、コニャックさんは一言。
「見定めたい」
言ってる場合じゃねえだろ! 俺を守れよ! 戦闘民族ティナンの底力を見せつけてやってくださいよォー!
「ふふ。なんだ。ウチの子はモテモテじゃないか。選り取り見取りだ。さすがに女性の気持ちは無視したくなかったからね」
俺の気持ちは無視するくせにっ……! くそっ、このマッドティナンはダメだ。そもそも守るも何もねえ。この女は俺の内臓を眺めて悦に浸るような狂人だ。異端児め。
ば、万策尽きたか……?
凶器を手にした金髪と赤毛が迫ってくる。ヘソ出し女がバッと両手を広げて俺を庇う。
「な、何をする気だ!? コタタマをいじめるな!」
おお、名前も知らない女が一番俺に優しくしてくれる。
だが金髪と赤毛はお構いなしに距離を詰めてくる。
動くなと言ったぞーッ! 俺はヘソ出し女を後ろから拘束した。白い喉に斧の刃を押し当てて叫ぶ。動けば殺す!
ヘソ出し女がギョッとして俺を見る。俺はボロボロと涙を零した。済まねえ……! それでも、俺は、生きたいっ。死にたくねえっ。もちろん嘘泣きだ。
ヘソ出し女が頬を緩めた。
「いい。それでお前が助かるなら」
へえ……。俺は内心でほくそ笑んだ。思ったより使える女だ。しかし、そうだよな。自然回帰派ってのは甘ちゃんの集団だ。足の引っ張り合いはやめろだの、マナーを守れだの。それで済んだら苦労はしねえ。
おっ。ポチョと赤カブトが動きを止めた。人質は有効なのか? へへっ。何だよ。そうと知ってれば最初からこうしたのによ。
俺は舌なめずりをした。よしよし。そのまま動くなよ? 道を開けろ!
おっと斧を落としちまった。参ったな。俺の手首に矢が刺さっている。俺は吠えた。
「スズキィィィィッ!」
速射か。大したもんだ。矢継ぎ早とはこのことか。ぴゅんぴゅんと矢が放たれ、それら全てが的確に俺の動きを制限してくる。
キャラクターの身体能力はリアルのそれを上回る。オリンピック選手と同じくらいの土台はあるということだ。
避けきれなかった矢が俺に刺さる。スズキがうっとりしている。
「私の矢がコタタマに……」
くそっ、どういうことなんだよ。
ポチョと赤カブトが迫る。普段から一緒に狩りをしてるだけのことはある。スズキが矢を射かけた時には駆け出していた。
くそがっ、くそがーっ!
俺はヘソ出し女を突き飛ばして応戦した。事ここに至って人質は通用しない。左手で斧を掴んで闇雲にブンブンと振り回す。剣を構えたポチョと赤カブトが俺の脇を通り抜けた。
くそっ……。
俺は小さく悪態を吐き、ふらふらと後ずさる。二人が通り過ぎざまに繰り出した斬撃は俺の急所を完璧に捉えていた。【スライドリード(遅い)】でダメージの進行を抑えているが、致命傷だ。これは助からない。
俺は笑った。
「ふん。見事だな。だが、俺の死は俺のものだ。渡すものかよ……」
めりめりと傷口が裂けていく。
ハッとしたポチョと赤カブトが前に出るが、遅い。さらばだ! 俺はバッと屋根の上から身を投げた。そして頭からイッて死んだ。
「こ、コタタマー!」
2.クランハウス-居間
ふい〜。ひどい目に遭ったぜ。
ダッシュで死に戻りした俺は、丸太小屋の居間でモグラさんぬいぐるみと一緒に経験値稼ぎに勤しむ。
ウチの子たちが帰ってきたようだ。おぅ、お帰り〜。俺は朗らかに声を掛けた。つい先ほどコンビネーションアタックで急所を切り裂かれた俺だが、殺し殺されはワンシーンでリセットだ。それが俺たちの間での暗黙の了解……だと思っていたのだが。
いつものようにポチョを抱き寄せて経験値稼ぎを続行する俺に、赤カブトがぽつりとこう言った。
「ペタさん。もういいよね?」
もういいとは?
赤カブトさんがすらりと剣を抜いた。
俺はギョッとした。ええ? 前後編なの? そんなパターンもあるのかよ。
まぁ待てって。座れよ。な? ひとまず座れ。俺はモグラさんぬいぐるみを横に置いて赤カブトのスペースを空けてやった。赤カブトが俺の隣に座る。何やらもじもじしている。
「わ、私ね、知らない人たちが居たから我慢したよ。偉い?」
何を言っているのか分からない。テーブルを挟んで向かいの席に座ったスズキがニコニコしている。
「ジャム、がんばったもんね。ほら、コタタマ。凄いでしょ。ジャムね、我慢できるようになったんだよ〜」
赤カブトは照れている。
「えへへ」
……?
いや、正直何を言ってるのかよく分かんねえけど、もしかして人前では俺を殺さないってこと? じゃあ我慢できてねえじゃん。完全にバッサー行かれてるからね、俺。そりゃあ死因は墜落死だけどさ、それは俺の手柄じゃん。お前らの論法で行くと、むしろがんばったのは俺じゃんね。
赤カブトがちらっと俺を見た。
「ご褒美、欲しいなぁ」
ご褒美? ご褒美って何スか?
あ、俺を殺したいってこと? たまげたなぁ。でもさ、少し落ち着こう? 実はちょっとした臨時収入があってな。金ならあるんだよ。お前らにはいつも世話になってるから、今日くらいは羽を伸ばして一緒にメシでも食いに行こうぜ。もちろん俺の奢りだ。
赤カブトは剣の柄を両手で握って大喜び。
「ホント!? 嬉しい! わーい! あ、でも先生とアットムくんは? 私、みんな一緒がいいなぁ」
居ないもんは仕方ないだろ。先生とアットムは折を見て俺が誘うさ。二人とも多忙だからな。今日のところは四人で行こう。
俺は赤カブトの手から剣を奪おうとするが、がっちりと握っていてびくともしない。くそっ、こいつレベルが上がってる。下手したら二桁台に乗ってるかもしれない。後発のプレイヤーってのは開拓された狩り場でレベル上げができるし、先人が築き上げたテンプレを参考にできるから無駄なくスケジュールを組める。
必死に指を引き剥がそうとする俺に、赤カブトがちょこんと首を傾げた。
「ごはんが先?」
先とか後とかじゃくてさ。その、俺を殺すのを我慢したからご褒美に俺を殺すっていうこと自体がおかしくない? いや絶対におかしいよ。だって俺、結論から言うと助かってないじゃん。
こらこら。まだ答え出してないだろ。のし掛かって来るのはやめなさい。命を大切にしようよ。俺の命をさぁ。だろ? ポチョよ! ポチョはコクリと頷いた。ほら、サブマスターがこう言ってるぞ。ジャム。お前はサブマスターの命令を無視するのか? 俺はお前をそんな子に育てた覚えはないぞ。
「ポチョさんも一緒にしよ?」
ポチョはさっと頬を赤らめてそわそわしている。
「わ、私は、いいっ。私、サブマスターだから。一番お姉さんだからっ」
スズキが身を乗り出した。こらっ、テーブルに乗るな! 俺の叱責も何のその、テーブルを乗り越えた小せえのがポチョを見つめて微笑んだ。
「じゃあ私も混ぜて貰おうかな〜。ポチョ我慢できるんだ? 偉いなぁ。でも三人一緒のほうがコタタマは喜んでくれると思うな」
コイツ……! 俺はちんちくりん一号を睨んだ。ポチョをコントロールしてやがる……! コイツっ、スズキが全ての元凶なのか?
自称一番お姉さんのポチョが折れた。
「こ、コタタマが喜ぶなら……その、私も。む、無理にとは言わない。やむなしっ」
騙されるな! 俺は喜んでないぞっ。見れば分かるだろ! 凄く嫌がってるぞ! コタタマくんは死にたくないって言ってるぞ! ポチョ〜! 角砂糖三つだぞ! 俺を助けてくれたら角砂糖を三つやる! 三つだぞ!
「でも私は知ってる。コタタマは自分を殺した女に優しい」
そんなことねーだろ!
いや、あるかもしれんけど。それは俺なりに気を遣ってだな。気にすんなよってのを態度で示してる訳であって……。
あっ、だからか? だからお前らは俺を殺そうとするのか?
「い、言えない」
あん? 何だよ。言えよ。俺は強気に出ることにした。この際だ。俺は今から殺される。それについては諦めよう。大切なのは次に繋げることだ。理由さえ分かれば対処できる。原因を追求することができる。俺はポチョの腰に腕を回した。逃げられないよう足を絡めて、ポチョの髪を指先で弄ぶ。
なあ、お前は俺を殺したいんだろ? 具体的にどう殺したいのか言ってみろよ。実況しろ。聞いててやるから。お前は本当にどうしようもねえ女だな。俺を殺してどうしたいんだよ? おらっ、言え! 言うんだよ!
だが、いささか攻めすぎたらしい。ポチョは湯気が出るんじゃないかと思うくらい顔を真っ赤にして俺にのし掛かってきた。
やめっ。理由を……! 理由を言え!
あっ、あっ、アットムくん! アットムくん助けて! アットムくん!
アットムの爽やかな笑顔が脳裏を過った。
(僕は、小さい子供なら誰でもいいんだ)
アットムの影を拭い去るようにスズキが上から覆い被さってくる。
「今は私たちだけを見て」
アッー!
ギシギシとソファが揺れる。モグラさんぬいぐるみが、ぽとりと床に落ちた。
これは、とあるVRMMOの物語。
それでも食事は約束通り四人で一緒に食べに行った。
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