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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
174/964

黄昏より来たれしもの

 1.ポポロンの森


 合法ロリ姉妹。マーマレードとハニーメープルの話によれば、モョ%モ氏とョ%レ氏の攻防はハタから見てさっぱり意味が分からないものであったらしい。

 変幻自在の剣とダイスロールの衝突だ。

 モョ%モ氏が一方的に攻めているようにも見えたし、手加減しているようにも、あるいは手玉に取られているようにも見えたのだとか。

 それについて俺には心当たりがあった。

 TRPGだ。

 ョ%レ氏はダイスロールについて、計算能力でプレイヤーと競うのは虚しいだけだと言っていた。それは越えようにも越えられない種族の差を示唆していたように思える。

 つまり、あのダイスロールという武器は行動判定を強制するものなのではないか。

 もしも瞬間ごとに判断を迫られたならば、おそらく人間ではョ%レ氏には勝てない。それは、あのタコ野郎にとってつまらないことなのだろう。

 ダイスロールか。エッダの固有魔法に近いな。使う側が必ずしも有利になる訳ではないという辺りが。やはり同じタコ同士、響き合うものがあるのか。

 いずれにせよ、二人の運営ディレクターの戦いは長期戦にもつれ込んだ。

 マーマレードは武家屋敷の放棄を決断。モョ%モ氏率いる鬼武者の目的はガムジェムの奪取にあると判断し、山岳都市を脱出することにした。自分自身を囮に鬼武者を誘き寄せるつもりだったのだろう。

 しかしその目論見はモョ%モ氏に看破されていた。鬼武者はマーマレードを追跡することなく、山岳都市を占領した。

 当てが外れたマーマレードは引き返す訳にも行かずポポロンの森に潜伏し、外出していた妹のハニーメープルと合流。協議の末、ハニーメープルの護衛に付いていたティナン四天王の一人に命じて俺を誘拐した。本当は先生を連れてくるつもりだったのだが、不在につき仕方なく俺で手を打ったというのが事の真相のようだ。俺の扱いひどくない?

 だがまぁ大方そんなこったろうと思っていたので、話を聞いてる間に俺はプロフィールに暗号文を打ち込んでおいた。

 大概のオンゲーには自分のプロフィールを作成して編集する機能が備わっている。トップランカーの極まりすぎた装備を見てドン引きしたりする機能だ。このゲームの場合は少し特殊で、プロフィールを閲覧できるのはフレンド登録したキャラクターだけという仕様になっている。プロフィールには自己PRを載せる項目があり、ネトゲーマーはそこをメモ代わりに使ったり尽きせぬ怨嗟の念を呪詛に塗り込んだりする。そして、このゲームの場合はもう一つ重要な役割がある。ささやきとチャットの仕様がクソなので、伝言というか置き手紙みたいな使い方をするのだ。要するに犯行計画の打ち合わせに使っている。

 ただ、ネトゲーの友達付き合いは基本的に上辺だけのものなので、友情が薄っぺらく。相応にフレンド登録も軽い。知らない人がフレンドリストに乗っていることなど珍しくも何ともない。よってPKの襲撃計画をプロフィールで練っていたら襲撃当日に標的のゴミがPKer側に参加していたなんていう笑い話もある。

 その当時、そうしたアホな事例を俺は面白おかしく眺めていたのだが、どういったいきさつなのか、とある大御所から俺に暗号文を作成するよう依頼が入った。依頼してきたのは、誰あろうサトウシリーズの盟主である。色々と悪どいことをやっていたのだ。悪事が祟って引退したけどね。第二席のサトゥ氏にやっつけられたんだよ。サトゥ氏は昔っから人の良心を盾にして大衆を味方につけるのが上手かった。怪物だよ。裏で何やってるか知れたもんじゃねえ。

 だからよ、マーマにメープル。あいつにだけは気を許すなよ? 味方のふりして近付いてくるけど、騙されちゃダメだぞ。レ氏を殺った時もさぁ、あいつ俺らを平気で見捨てようとしたからね。マシーンだよマシーン。ヤツは人の感情を捨てた冷徹なマシーンだ。それでいて人の良心を計算に入れて動ける。サトゥ氏のおっかねえトコはそこよ。全ては打算なんだ。

 俺はラスボス戦に向けて布石を撒いておいた。合法ロリ姉妹はきょとんとしている。


「……コタタマ。お前は喋らないと死ぬのか?」


 マーマよ。そいつは違うぜ。俺ぁお前らの緊張をほぐしてやろうと思ってだな……。つーか、さっきからそこの知らないティナンが何か言いたそうにしてるんだが。お前ら気が利かねえなぁ。察しろよ。お前らと違って初対面なんだからさ。紹介くらいしてくんない? あーあ、タイムアップだわ。ほら、俺の優秀な部下が任務達成しちゃったよ。


「室長」


 おぅ。でかした。これで美味いもんでも食え。

 俺は可愛い部下どもにボーナスを支給した。整形チケットも付けておく。

 さて……。俺は査問会に捕獲されて連行されてきたゴミを見る。ただのゴミじゃない。一流のゴミだ。


「何なんだよ……。この掻き入れ時に」


 冷蔵庫泥棒ことピンキーである。

 こいつは空き巣のプロだ。


「おっ……」


 ピンキーは合法ロリ姉妹を目にしてギョッとした。誰も聞いてないのにぺらぺらと自己紹介を始める。


「鍵師のピンキーだ。鍵師というのはアレだ、うっかり鍵をなくした時に活躍する。鍵のことならピンキーくんにお任せ」


 鍵師などというジョブはないのだが……。まぁ本人がそう言うならやぶさかではない。

 そんなピンキーくんにお願いしたいことがある。国家存亡の危機につきタダで一つよろしく。


「もちろんだよ崖っぷちくん。俺は国家の役に立てる男だ。この日が来ることを夢見て技を磨いていた」


 かつてコニャックさんに養われていたこともあるピンキーは従順な態度を示した。

 そうと決まれば話は早い。詳しい話は道中に済ませるとしよう。出発だ。

 俺とピンキーは地面に転がって丸くなった。さあ、運べ。

 合法ロリ姉妹はぽかんとしている。


「え。どこへ?」


 メープルよ。お前らは説明が下手なので俺は勝手に察した。つまりはガムジェムを安全なところに移動したいんだろ。モモ氏の実力は未知数だ。危険は冒せない。第一、攻めて来たのはあっちだ。勝算あってのことだろう。だからジョゼット爺さんにガムジェムを渡したい。鬼武者との遭遇を最低限に抑えた上で。じゃあどうするか。俺はこうする。家の中を突っ切る。家から家だ。ティナンの家は種族人間にとって狭いからな。仮にモョ%モ氏に見つかっても有利に戦える。魔法で攻撃されることはない。あの女は運営ディレクターで、ティナンを傷付ける意思はないからだ。分かったな? 分かったなら行こう。他に代案があれば言え。ない。よし行こう。どんどん行こう。

 そういうことになった。



 2.道中


 森の中を丸くなった俺たちを持ってティナンが駆ける。速いなぁ。速すぎて怖い。枝に当たりそうになるとブン投げられるし、俺とピンキーはダンゴ虫のように丸まることしかできない。

 ピンキーが何か言っている。


「言っておくが。崖っぷち……。俺を下に見るなよ? 学校ではお前に従うが、それは集団行動には頭が要るからだ。頭を張るやつは名前が売れてるほうがいい。カマせるからな……。だが『裏』の人間から言わせてみれば、お前は単なる間抜けだぜ」


 こいつタフだな。


「それと、これも言っておく。かつて俺はお前のクランハウスから冷蔵庫を持ち出そうとしたが、あれは挨拶代わりだ。勘違いするなよ?」


 何のプライドだ。

 森を抜ける一歩手前で知らない女と合流した。どういうことなんだよ。聞いてねえぞ。文句を垂れる俺に、俺を持っているハニーメープルが反論する。


「あ、あなたが説明の猶予を与えてくれなかったんでしょうっ」


 まぁね。それは認める。

 で、誰だよ。知らない女だ。髪は肩に届く長さ。つーか……。んん? 俺は女をじっと見る。


「な、何かな?」


 こいつ……。俺は胸中で呟いた。

 アットムだ。間違いない。そうか。脱獄したあと女に化けたのか。

 髪を長くして顔の作りをちょいちょいいじるだけで大分印象は変わるが、俺はアットムがどんな姿をしていても見分ける自信がある。それは、俺を見る時にちょっと嬉しそうな顔をしたり、それを表には出すまいと口元を引き締める癖だったり、じっと見つめてやるとそれとなく目を逸らす仕草だったりと、まぁ色々だ。俺はそういう小さなサインを見逃さない。俺が刺客なら、俺の不意を突くのに最も適しているのはウチの子たちの姿を真似ることだからだ。

 俺に見つめられて何やらそわそわとしているアットムに、俺は「うんにゃ?」と誤魔化した。


「どこかで会ったかなと思っただけだ。気にせんでくれ」


 アットムと姫さんの間でどういう話になってるのか分からないから迂闊なことは言えない。

 マーマレードが簡潔に説明した。


「アベルだ。山岳都市の偵察をして貰っていた」


 ずっと何か言いたそうにしていたティナンが唐突に口を開いた。


「ミルフィーユ」


 あ?


「私の名前」


 お、おぅ。そうか。なんかゴメンな。


「いい。でも情報は共有しておくべきだと思う。私はエッダと同じ魔法を使う。覚えといて」


 とても素っ気ない。コミュ障ティナンかな?

 地面に寝転がって丸くなったアットムをミルフィーユが持つ。これで三人のティナンが漏れなくダンゴ虫の面倒を見ることになる。ティナンの機動力と種族人間のゴミさが融合した理想的な隊形と言えよう。

 そして、ふと思い付いたのだが、俺はもう帰っていいんじゃないか? 作戦は提供したし、他にしてやれることは何もない。単なるお荷物だ。文字通り。よし、帰ろう。

 だが俺にはピンキーくんの話し相手という重要な役割が残されているらしかった。

 森を抜け、匠の技でティナン宅の玄関を解錠したピンキーはダンゴ虫に戻って誇らしげにこう言った。


「崖っぷち。『家』とは特別だ。侵されざる聖域であり、人は『家』の中で初めて心から安らぎを得ることができる」


 空き巣のプロが何やら語り出したぞ。


「分かるか。『安心』だよ。俺はその『安心』を味わいたいがために鍵師をやっている。金じゃないんだ」


 自己正当化もここまで来れば立派だ。

 いや、待て。ピンキー。せっかくの機会だ。金目のものは持って行こう。何かに使えるかもしれない。


「そうだな。いやいや、崖っぷちさん。いやいや。何言ってるの。時間が惜しい。ここは後日改めて伺うということで……」


 やっぱり金じゃねーか。

 まったく……。どうしてこう俺の知り合いは揃いも揃ってクズなんだ。類は友を呼ぶってやつか?


「あ、自覚あるんスね」


 俺は犠牲者だからね。ネフィリアに人格改造された哀れな存在よ。

 アットムが会話に混ざってくる。


「あ、それ知ってる。幻のピュアタマくんだよね。どんな感じだったの?」


 どんなってお前。そりゃ凄いよ。疑うことを知らないっつーんですかね。ピュアホワイトよ。聖なる存在だったね。もう、ほぼ妖精みたいなもんよ。よく見たら羽生えてたもん。


「ええ? 疑わしいなぁ」


 俺らがああだこうだとくっちゃべってる内にティナン列車は一軒目から二軒目へ、二軒目から三軒目へ。どんどん進んでいる。合法ロリ姉妹が勅命を飛ばしているらしく、在宅ティナンから文句が飛ぶことはない。ただ俺たちに惰眠を貪るパンダを見るような目を向けるばかりだ。

 さて、どこまでバレずに行けるか。さすがにこのまま山岳都市を縦断するのは難しいだろう。ジョゼット爺さんはスピンドック平原のスピン牧場に居る。居てくれると信じてる。そして俺がモョ%モ氏なら平原に通じる出入り口を封鎖する。門を迂回する手もあるが、そこまで行ったら強行突破したほうが早い。

 門に一番近いティナンの家を抜けた。門が見えた。やはり封鎖されている。鬼武者の団体様だ。マーマレードが両手を広げて叫ぶ。


「私に掴まれ!」


 ハニーメープルとミルフィーユがぴょんと跳ねてマーマレードの腕にしがみつく。俺とアットムはどうなるのだろうとぼんやりと思っていたら、襟首を掴まれた。ぐえっ。

 マーマレードの全身から怪しい光が放たれ、尾を引く。ガムジェムの光だ。その光が俺たちを保護するように取り巻く。気持ち悪っ。

 マーマレードが地を蹴って跳躍した。山岳都市の門を軽々と飛び越え、まだ伸びる。ええ? ドラゴンボールじゃん。これドラゴンボールじゃん。一人だけZ戦士じゃん。これ本当にジョゼット爺さんのトコに向かう必要あったか?

 まぁそう甘くはないか。俺は目を使った。

 居る。モョ%モ氏だ。ご丁寧にも俺たちの着地点で待ち構えている。どうやらこちらの考えはお見通しだったらしい。参ったね、どうも。%ってやつは凄えな。どういう思考回路してんのか。

 ョ%レ氏の姿は見えない。撃退されたのか? それとも別のトコに居るのか。あのタコ野郎はティナンに甘いからなぁ。本人に自覚がないのが、また弱点、だぜ。ジョジョリオンね。

 モョ%モ氏が大剣を構える。聖剣ねぇ……。武具の極限っつー話だが。さてさて、どんなだ? 俺は舌なめずりした。有りったけの声で吠える。


「行け!」


 ハニーメープルの腕を振りほどいてピンキーを踏んづける。蹴りつけて一足先に地上に向かう。


「コタタマ!」


 アットムくんは俺の心配をしてくれているようだが、その感覚が俺にはよく分からない。そりゃあこの高さから落ちたら死ぬだろうが、プレイヤーは死んでも甦れる。母体のストックという限界はあるんだろうけど、セブンが枯れない内は問題あるまい。

 モョ%モ氏の唇が綻んだ。大剣を突き出し、剣先を俺へと向ける。変幻自在の剣か。だが俺はプッチョムッチョとは一味違うぜ? 見極めてやる。俺は目に力を込める。

 だが、モョ%モ氏も俺も甘かった。

 このゲームを作ったのはョ%レ氏だ。あのタコ野郎はシステムを熟知している。

 鬼武者は山岳都市を占拠した。マーマレードは万が一があってはならないとティナンたちに自宅避難を命じている。

 つい先ほど俺自身が言ったことだ。身体が小さいティナンは狭い場所で有利に立ち回れる。

 つまり、現在の状況。山岳都市は、ほぼ完全な迎撃体制にあると見なすことができる。

 強制召喚の条件を満たしたということだ。



 3.ギスギス学園-EX組教室


 おぅ、そうか。なるほど。

 俺はついにZ組を脱出することに成功したらしい。

 気付けば教壇に立っていた俺を、可愛い生徒たちがざんっと一斉に見る。

 ほ、ほほう。なかなかどうして規律の取れたクラスじゃねえか。カラーリング、装備に至るまで完全に統一されてやがる。恐れ入ったぜ。

 けどペタタマ先生ね、完全武装して登校するのは正直どうかと思うな。俺はぺらぺらと口を回しながら、そっと出席簿を開いた。

 うむ。物の見事に鬼武者で埋め尽くされてるぜ。

 あ〜。目が滑って名前読めねえんだけど、この中にジャムジェムさんは居るかな?

 最前列の席に座っていた鬼武者がしゅぴっと挙手した。ああ、やっぱり混じってたのね。多分そうなんだろうなぁと思ってたけど。

 赤カブトの甲冑が火の粉を撒き散らしながら自壊した。何やら興奮冷めやらぬご様子である。


「ペタさん! この子たちって私の家族なのかな!?」


 ど、どうかな。αテスターの生態は謎に包まれてるし……。まぁ同期っつーのが一番近いんじゃないか。

 ョ%レ氏はジュエルキュリと赤カブトの続柄を姉妹と明言していたが、他のαテスターもそうとは限らない。ぬか喜びさせるのもどうかと思い、俺は差し障りのない推測を述べるにとどめた。

 だが赤カブトは俺の話など聞いちゃいなかった。


「私が一番お姉さんなんだから、みんなは私の言うことをちゃんと聞かなくちゃダメなんだからねっ」


 しかし鬼武者どもはじっと俺を見つめるばかりだ。

 んんっ。俺は咳払いした。ひとまず自己紹介でもするか。お前らに俺が教えられることなんて何もなさそうだしな。俺が教師役に選ばれたのはアレだ、お前ら喋れねえんじゃねえか? 俺に何とかして間を繋げと。ひでぇ話だ。こんな無茶振りってある? まぁこのクラスが今後続くかどうかは分からねえ。一回限りってこともあるかもな。でもよ、俺が思うにお前らはいつか眠りから覚める仕組みになってるんだろう。遺跡マップが解放されたのは、それを見越してのことなんじゃねえかと俺は思う。そう考えると、この授業もあながち無駄ってことはないのかもな。

 俺はペタタマ。鍛冶屋だ。どうやらお前らはペールロウっつー上級職みたいだが、中には元々鍛冶屋だったやつも居るんじゃねえか? これは検証チームの受け売りなんだが、君主が四つの【戒律】を持つのに対して儀仗兵、ディープロウ、ペールロウは三つの【戒律】に収まってる。まぁアナウンスで確認できる強制執行がそうなってるだけで、他にもあるかもしれないが。少なくとも装備制限はなさそうだ。その鎧、重くないか? 別に脱いでも構わねえぞ。この際だから言っとくが、ペタタマ先生は美女を優遇する。ジャムジェムの例もあるからな。中身が美女ってことは十分にあり得る。

 赤カブトがくねくねしている。


「えっ。わ、私、美人かな?」


 そりゃあな。俺は認めた。ゲームん中じゃ水準高すぎるから目立たねえけど、リアルだったら家族が勝手に芸能オーディションに応募するレベルだよ。待てっ。剣を置け。そっとだ。お前は家族かもしれないやつらの前で俺を殺す気か。それはまだちょっと早いんじゃないか。お互いのことをもっと知ってからでも遅くはないと思う。そもそも俺は教師で、お前は生徒だ。そういうのは良くない。

 赤カブトさんはハッとして剣を収めた。よ、よし。よく分からんが説得に成功したぞ。快挙だ。

 快挙を成し遂げた俺は、いよいよノッてきた。

 おっとすまん。話が途中だったな。ペールロウの【戒律】が君主のそれより少ないってところまでは話したな。結論を言うと、検証チームはお前らペールロウが回復魔法かクラフト技能のいずれかを使えないんじゃないかと推測している訳だ。俺の見立てではクラフト技能だな。ディープロウの【戒律】に、安らぎがあなたを縛るだろうっつーのがある。あれは多分、蘇生不可を示してる。

 つまりどういうことかと言うと、ディープロウとペールロウの力関係は将棋の金と銀に近いんじゃないか。ディープロウは回復魔法を使えないが、クラフト技能は使える。ペールロウはその逆だ。おっとお前らは正解を知ってるだろうが言うなよ? そういうのは自分たちで探るから面白えんだ。攻略本なんつーのは邪道だぜ。


「ペタさん長いよ! 話が長い!」


 いや長くないよ。なに言ってるの。全然長くないよ。お前な、先生が本気出したらこんなもんじゃないぞ。先生はやろうと思えば二十四時間フルでお喋りできるからな。そんで、たまにやりたそうにしてるからな。先生が俺たちの部屋を一つ一つ覗いて回ってたらその前兆だぞ。だからって逃げるなよ? 逃げたら許さんぞ。さすがにフルはキツいから俺が何とかしてやる。何とかしてやるから逃げるな。

 俺は赤カブトにキッチリと釘を刺してから自己紹介に戻った。

 少し脱線したな。要するにディープロウとペールロウは互いに補完し合えるジョブだと俺は推測してる訳だが、比率で言ったらどうしてもペールロウが多くなる。そう、ディープロウの指揮下にあるペールロウは強化されるらしいってことだ。純粋な戦力で言えば、強化されたペールロウはディープロウを上回るんだろう。ペールロウは多いほうがいい。

 となると、どうしたって鍛冶屋が不足する。軍隊としちゃあディープロウとペールロウの組み合わせは理想的なんだろうが、それだけじゃ暮らしは成り立たない。よって俺は、αテスト時のお前らは別のジョブに就いてたんだろうと思ったのさ。今は統一されてるみたいだけどな。

 さて俺は鍛冶屋だ。お前らの中にも元々鍛冶屋だったやつが居る。きっと俺らは上手くやって行けるだろう。これが一点目。

 二点目は、俺の趣味について話そう。リアルの学校なんかでもよ、こんな感じで集まって順々に自己紹介して行くんだよ。お前らの中にはリアルなんて興味ねえってやつも居るだろうけど、いざ眠りから覚めた時によ、選択肢は多いに越したことはねえだろ。レ氏とモモ氏がどう考えてるのかは知らねえが、俺はこう考えてる。そこに居るジャムジェムがこの中で真っ先に目覚めたのは、先行テストの意味も兼ねてるんじゃないか。お前らは自由だ。人間と一緒に遊んでもいいし、運営側に付いてもいい。けど、何も自分から遊び方の幅を狭めるこたぁねえ。プレイヤーの目を欺くならリアルの知識の一つや二つは持ってねえとな。まぁその辺は、ある程度はデータを埋め込まれて送り出されるらしい。そこに居るジャムジェムがそうだった。よう、実際どんな感じなんだよ?


「はい、はーい! あのね、私はジャムジェム! みんなのお姉ちゃんだよ!」


 はい時間切れー。

 困ったお姉さんだな。自己PRすることしか頭にねえ。今のは悪い見本だぞ。ジャムジェムお姉さんが使い物にならねえから代わりに俺が言ってやろう。少なくともコイツは、この世界がゲームってことを認識してた。普通に遊ぶ上で支障がないくらいの知識はあったんだろう。はっきりと齟齬が出たのは、バックアップデータ関連だな。プレイヤーの、まぁ俺なんだが……俺が記憶を失った件についてはまったく理解が追い付いてない様子だった。

 どうもレ氏はお前らのことをそれなりに大切にしているらしい。と言うのは、お前らは運営のオモチャじゃねえっつー意見に同調を示していたように思うからだ。レ氏の性格からいって、αテストで成果を出したお前らを高く評価してるんだろう。となれば、おそらくは初期の段階でボロが出ないよう何らかの処置が施されてる。ただ、完全じゃない。それは本人の自覚を促すためだろう。ってな具合だが、ジャムよ。大体合ってるか?


「えっ。急に来た。ど、どうだろ。そうやって改めて聞かれると、自分でもよく……」


 お前さぁ。あんまりこれまで触れないようにしてたけど、もうお前だけの問題じゃないから言うわ。α時代のお前ってどんな感じだったの? まんま今のお前な感じ?


「ぺ、ペタさんが私に興味を示してくれている。どうしよう。嬉しい」


 俺はお前にずっと興味津々だよ。いいから答えろ。αテストって言うと何となくキツそうなイメージだけど、戦いに明け暮れるハードボイルドジャムジェムさんは実在したの?


「それはもう。キュリ姉さんに迫る危機をですね、こう、千切っては投げ千切っては投げ」


 それ本人に確認しても大丈夫か? お前は忘れてるかもしれんけど、俺はジョンとフレンド登録してるぞ。ささやきで証言を持って来れる。


「うっ。い、いえ。今になって思えば、た、立場は逆だったかも? でもっ、クールな感じでっ。クールな感じで行こうっていう気持ちは誰にも負けないつもりでっ」


 もるるっ……。俺は悲しげに鳴いた。やはりハードボイルドジャムジェムさんは実在しなかったのだ。

 別にいいけどさ。なんかね。ジュエルキュリさんがシリアス担当だったからさ。あれれ、担当部署あるんだなって。個性的でいいと思います。ペタタマ先生は生徒の個性を大切にしたいと思いますよ。

 赤カブトが挙手した。


「はいっ、はーい!」


 はいジャムジェムさん。


「ペタタマ先生は無人島に何か一つだけ持って行けるとしたら何を持って行きますか〜?」


 何の脈絡もねえな。どうした急に。


「この前、ポチョさんスズキさんとその話してて」


 ふうん。無人島ねぇ。

 何かトンチの効いたことを言ってやりたいところだが、そうも行かねえか。俺なら、このゲームのハード本体を持って行くだろうな。近頃はもう愛着が湧いてるから。いや、マジで名案かもしれねえな。たとえ宇宙空間に居てもログインできそうな安心感がある。

 赤カブトはニコッと笑った。


「じゃあいつでも私と一緒だね!」


 おお、遭難したらお前にも相談するわ。その時はお前の封印された真の力を発揮してくれな。俺は本気を出したお前ならスパコンにも負けないって信じてるぞ。

 つまり俺の趣味はゲームってことだな。無人島に持ってくくらいだから筋金入りだ。とはいえ、リアルでご趣味は?なんつー話になったらゲームとは言えん。どうしても根暗なイメージになるし。いや、マゴット辺りは平気で言いそうだな。今はゲームかなっみたいな。何なんだろうね、あの陽性キャラ。何言っても許される感じ。単なるアホだと思ってたけど侮れないわ。


 そんなこんなで俺は二時間フルで自己紹介をして授業を終えた。

 通常マップに復帰した俺に、合法ロリ姉妹とミルフィーユが駆け寄って来る。


「コタタマ〜!」


 モョ%モ氏の姿は見えない。学校マップに引きずり込まれ、何らかの決着が付いたのだろう。

 俺はふっと微笑すると、優雅にお辞儀して指で輪っかを作った。


「それで、お幾ら頂けるんで?」




 これは、とあるVRMMOの物語。

 ペタタマレンタル(有料)。



 GunS Guilds Online

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― 新着の感想 ―
[一言] シリアス展開からいきなり詰みモンスターハウスに連れて行かれたのになんとか収まるの笑う
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