二人の%
1.ちびナイ劇場
ョ%レ氏とモョ%モ氏。
二人の運営ディレクター。二人の%がついに対峙した。
歴史的瞬間に立ち会ったマーマレードが戸惑いの声を上げる。
「ゲストが二人……」
ョ%レ氏はマーマレードを無視した。
両手に二人の黒服を引きずっている。本社が放った追っ手とやらか? その二人をョ%レ氏はポイと放り投げた。
「本社に伝えろ。罰とは正すためのものだ。このョ%レ氏を適正に罰することができるのは私自身でしかあり得ない。この私はより強力になるだろう」
追っ手の二人がサングラス越しにョ%レ氏を睨み付ける。暫定エイリアンたちは感情によって瞳の色が変わる。サングラスを掛けるのは感情を隠すのに有効な手段だ。
「調子に乗るなよ。若いの」
「君は敗北者だ。捕縛する」
スーツを突き破って触手が伸びる。変身しようとしている。
ョ%レ氏がパチンと指を鳴らした。
変身しようとしていた二人の頭がいびつに膨らむ。制御を失ったように見える。頭を抱えた二人が絶叫を上げ、破裂して死んだ。
クラフト技能だ……。体内に魔石を仕込んだのか? いや、そんなことをすればさすがに気付くだろう。何をした……。
当然のように勝利を収めたョ%レ氏が言う。
「言ったろう。より強力になると。助からんよ。このョ%レ氏に一度でも接近を許したならね」
モョ%モ氏が吐き捨てるように言う。
「チートスキル」
ョ%レ氏は、モョ%モ氏を見た。
「人のことを言えた義理かね」
そう言って地面に転がっている双子を一瞥する。それは一瞬のことで、すぐにモョ%モ氏に視線を戻した。
「血統の優劣か。正直、耳が痛いな。何しろ兄弟三人揃ってこの体たらくだ。しかし少なくとも私の弟たちは、気に入らないものに気に入らないと言える男に育ったようだ」
モョ%モ氏はョ%レ氏との再会を喜んでいるようだった。瞳の色は赤とピンクを行き来し、狂喜とすら言える壮絶な表情を見せる。
「だが、君は【聖剣】に選ばれなかった。選ばれたのはこの私だ」
聖剣? 俺の声は届かない。
モョ%モ氏が片腕をぶらりと垂らす。
まただ。突如として出現した無数の金属片がモョ%モ氏の手元に集まり、一振りの大剣を構築していく。
あれは……【NAi】の。奪われたのか? いや、そうとは限らない。モョ%モ氏の口ぶりは自分こそが正当な後継者なのだという自負に満ちている。むしろ、プッチョムッチョが【NAi】があの剣を持っているのを見た時の反応は……。
(お前っ、それは……!)
【NAi】があの剣を持っているのは不自然であるということだ。模倣品か何かなのかもしれない。
しかしマズいぞ。あの剣は得体が知れない。かつてョ%レ氏は【NAi】が持つ剣について武具の極限と評した。クラフト技能を以ってしても量産は不可能だとも言っていた。
だがョ%レ氏に動揺はない。
「モョモ。その剣は君の家のものだろう。会長の血縁者以外が選ばれた記録はない」
単なる財産分与だった。
しかしモョ%モ氏は強気の姿勢を崩さない。
「そうでなければ自分が選ばれたと言いたげだな? ョレ……。私を見くびるなよ。アカデミー時代に君が一度たりとて本気を出さなかったことなど分かっている。しかし、それはこのモョ%モ氏が君に劣るということでは決してない。君は、この私との勝負から戦わずして逃げた。それが事実だ」
「面倒な女だね、君は」
ョ%レ氏はうんざりしているようだった。魔石を取り出し、ぴんと指で弾く。魔石は粘土に変じ、トリモチみたいに四方八方に伸びる。たちまち分裂したそれらが無数のサイコロとなってョ%レ氏を取り巻く。宙に浮かんだサイコロ群がジャラジャラとけたたましい音を立てて回り続けている。
大剣を構えたモョ%モ氏が笑う。
「ダイスロール。使い古された武器だ。お得意の玩具箱は使わないのかい?」
「クラシックには長年愛されるだけの理由があるものさ。とはいえ、これはプレイヤーには使えない。%がγ体に計算能力で挑むなんて虚しいだけだろう? それは公平とは言えないな」
モョ%モ氏は嬉しそうだった。
「それは、今度こそ君の本気を見せてくれると解釈しても?」
ョ%レ氏はにべもない。
「どうかな。君はファンが多いからな。この段階で事を構えるのは予定外だった。どうしたものか、と思案している」
「つれないな。同じ勇者候補じゃないか」
ョ%レ氏の瞳が真っ赤に染まった。
「勇者。この世界で最も私が嫌いな言葉だ」
そう吐き捨てて、ョ%レ氏が真紅の瞳をこちらに向ける。カメラ目線。ョ%レ氏はこちらを指差し、こう言い放った。
「次は君の番だ」
シャッと幕が閉じた。
2.【目抜き梟】クランハウス-謁見の間
何か宣戦布告めいたものをされたような気もするが、生憎と俺はシロ様クロ様のエスコートで忙しい。
ささ、シロ様クロ様。行きましょう。女神像までご一緒します。
「崖っぷちくん。また何かイベントがあるのかな。君はいつも事件の渦中に居る。私たちは君のことが心配だよ」
「崖っぷちくん。君は生産職なんだから。無茶をしなくてもいいんだよ。早くレベルが上がるといいね。レベル3になれば色々なものが作れるようになるよ」
心配は要りませんよ。そういうのはサトゥ氏の仕事ですからね。レ氏とはちょっと個人的な確執があるだけなんです。俺は鍛冶屋だ。勇者だの聖剣だの。俺には何の関係もない。
……だがマーマレードは心配だ。モョ%モ氏の狙いはガムジェムだろう。あの%女は雑誌の対談でプレイヤーをより強力にサポートしていくと言っていた。ガムジェムを手中に収めてマーマレードに取って代わることを考えていたのか。あるいはョ%レ氏を誘き出すことが狙いだったのかもしれない。
俺はシロ様クロ様を山岳都市に送り届け、その足でティナン姫の屋敷に向かった。
ただ、ゴミが多すぎた。大々的にあのような放送をすれば、まぁこうなるのは当然だな。ゴミが多すぎて一歩も進めねえ。やむなし。俺は帰って寝た。
3.ポポロンの森
その翌日の出来事である。
俺は目を覚ますと森の中に居た。
誘拐されることには慣れたつもりでいたが、よもやログイン時の一瞬の隙を突かれて丸太小屋から連れ去られるとはな。恐れ入ったよ。
それで? 一体何のつもりだい?
俺は誘拐犯に動機を尋ねた。
合法ロリ姉妹と知らないティナンの三人組だ。
何か言いたそうにしてる知らないティナンをマーマレードが制した。
「コタタマ。知恵を貸せ。父にガムジェムを渡す」
ジョゼット爺さんにか。
どうやら俺はまたぞろ厄介ごとに巻き込まれているらしかった。どうして俺なんだよ。しがない生産職にどうしろってんだ。トホホ……。
これは、とあるVRMMOの物語。
しがない生産職にしては手が汚れすぎている。
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