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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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魂の牢獄

 1.山岳都市ニャンダム-志士宿舎-取調室


 俺はやってねえ!

 山岳都市の治安を守るティナン志士の詰所で取り調べを受けている。

 容疑は学校マップの校舎破壊とバザーの盗難未遂だ。

 俺は机の上にぐっと身を乗り出して歯列をギラつかせた。

 へへ。刑事さんよ。だっておかしいじゃねえか。盗難未遂に関しては、まぁな。認めるよ。魔が差した。だが校舎を破壊ってのはおかしいんじゃねえか? 聞いた話によるとレイド級同士をカチ合わせたらしいが、俺ぁその時バザーに居たんだぜ? 死に戻りしても多少のタイムラグはある。間に合わねえだろ。それとも何かい? 刑事さんは俺が二人居るとでも言うのかい? そりゃあおかしい。筋が通らねえよ。


「そ、それは確かにそうだが……」


 ティナン志士は戸惑っている。俺の言うことが正しいからだ。くくくっ……。押し切れそうだな。俺は内心でほくそ笑んだ。当事者のマールマールとワッフルから証言なんざ取りようがねえ。

 ガチャッとドアが開いて別のティナンが入ってきた。おっと見覚えがあるティナン女子だ。いつぞや俺の準隊士研修を担当してくれた教官殿である。


「ゴミタマ。やっぱり戻ってきたんだな……」


 ううっ。俺は頭を抱えた。や、やめろ。嬉しそうにするな。優しい目で俺を見るんじゃない。

 ティナン志士はバザーの警邏だけでなく、山岳都市の門番もローテーションで担当している。


(その格好はどうかと思うぞ。最低限、下着姿で往来をうろつかないことを勧める)


 ……教官殿とは俺が記憶を失っている時にも会ってる。俺がコタタマくんではないと言ったら残念そうな顔をしていた……。


「ゴミタマ……」


 ぐっ。ううっ……! お、俺は……。

 俺は観念した。

 ……刑事さん。俺がやりました。

 教官殿が俺の肩にそっと手を置く。


「コタタマシリーズ。査問会を使ったんだな?」


 俺はコクリと頷いた。


「バザーの盗難未遂。お前にしては短絡的な犯行だと思ったよ……。アリバイ作りか。お前は校舎破壊の罪だけは被りたくなかった。しかし状況的に圧倒的に不利だったから、バザーで盗難騒ぎを起こすことでアリバイを作れると思い付いた。そうだな?」


 俺はコクリと頷いた。

 ……魔が差したんです。本当にたまたま……。バザーに居る部下が居て。どこまで俺の代わりが務まるのか試してやろうって。ほんの軽い気持ちだったんです。それが思いのほか上手く行ったものだから、欲が出た……。

 校舎の破壊については……。ピエッタ……有名な詐欺師です。あいつが近くに居たから、すぐに俺に疑いが掛かることは分かっていました。

 種族人間は……ティナンとは違う。恨みを買うと面倒なことになる。それならば盗難未遂のほうが幾らかマシだ。少なくとも処刑されることはない。

 査問会の。俺の部下は優秀なやつらです。俺にはもったいないくらいの。学校マップで異変が起こってすぐに俺が絡んでいると察したんでしょう。Z組のメンバーに接触し、バザーで盗難騒ぎを起こしました。それで、途中から俺と入れ替わって……。

 刑事さん。俺をプレイヤーに引き渡すんですか?

 俺が怯えた目でそう問い掛けると、教官殿がかぶりを振った。


「よく正直に話してくれた。ゴミタマ。お前を冒険者たちに引き渡すような真似はしない。私がお前を守ってやる」


 俺は教官殿に手を引かれて留置場に連れて行かれた。

 ……まぁ。俺は胸中で呟いた。査問会の連中に盗難騒ぎを起こすよう命じたのは俺なんですけどね。へへっ。情状酌量の余地を勝ち取ったぜ。

 俺は留置場で一夜を明かした。



 2.翌日


 さて、と。これまでの傾向からいって……そろそろか。俺は牢屋の中で屈伸運動をした。

 アナウンスが走る。


【条件を満たしました】

【イベント】【星降る夢】【Clear!】

【Class Change!】

【ペタタマ さんが鍛冶師にクラスチェンジしました!】


 くくくっ……。ぬるっと来たぜ。

 笑いが止まらねえ。はははははは。

 俺はガンと鉄格子に頭突きした。額が切れ、血が滴り落ちる。その血を手のひらで拭い、クラフト技能を発動した。

 俺たちのこの身体はレイド級と無関係じゃない。プッチョムッチョが教えてくれたことだ。

 かつてョ%レ氏は自らの血を魔石に変えた。

 プレイヤーの血は魔石の原材料になり得るということだ。

 俺は目がいい。目を使っている時に視界に映り込んだものは後で自由に思い出すことができる。

 俺は合鍵をクラフトして悠々と牢屋を出た。

 昔取った杵柄というやつで、看守ティナンのシフトは把握している。ティナンって種族は本当に甘っちょろい。生まれながらにして悪意を落っことして来ちまっているらしく、情報の漏洩を疑わない。何かあってからでは遅いという考え方をしないのだ。

 くくくっ。チョロいぜ。チョロい。俺は看守ティナンの見回りを遣り過ごしながら刑務所内を移動し、目的の牢屋へと辿り着いた。


「こ、コタタマ……?」


 よう。アットム。遅くなって済まねえ。助けに来たぜ。ま、ついでにな。



 2.脱獄


 行け。アットム。

 言った筈だぜ。俺は納得してねえ。お前は正しいことをした。半裸が何だってんだ。

 俺はアットムを牢屋から出してやり、整形チケットを手渡した。

 アットム。教会に行け。子供たちがお前を待ってる。名を変え、姿を変えて生きろ。ティナンにプレイヤーの本名を探る手段はない。整形チケットだけで事足りる筈だ。


「……コタタマも一緒に来るんだよね?」


 いいや? 俺には情状酌量が付く。大した罪にはならねえから大人しく釈放を待つさ。お前の脱獄を手引きした後に牢屋に戻るよ。

 アットムは少し残念そうだった。ふん、言っとくが脱獄は重罪だぜ? だが、どうにも教会のガキどもは俺に懐いてくれねえ。苦手なんだよ、ガキの相手するのは。

 アットムは俺の手をぎゅっと握った。


「ありがとう。コタタマ。……僕ね。僕、もうロリコンという言葉に縛られる必要はないんだと気付かされたよ」


 うん?


「僕は、小さな子供なら誰でもいいんだ。そして例外があってもいい。僕は愛の使徒だ」


 おぅ。アットムくんが変態として新たな境地に達してしまっている。どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

 愛の使徒ねぇ。どうも使徒って言葉はイメージが悪い。あと例外って何だ? よく分からないが。まぁいい。アットムよ。さっさと行こうぜ。時間が惜しい。

 俺はアットムと手を繋いだまま移動し、ティナン志士の間隙を縫って脱獄の手引きをした。まぁ大した仕事ではない。ティナン志士は有志の集まりということもあり人手不足だ。シフトさえ把握していれば牢獄を抜け出すのは難しくない。問題は敷地内の脱出ということになるが、そこは準隊士の転職ツアーに紛れ込ませる。

 SSコンテストの締め切りが近いとあって、ゴミどもは活発化している。準隊士の転職は楽な部類だ。

 学校もあったしな。俺が教師役なら新米戦士には準隊士になるよう勧める。【戒律】の重量制限は面倒臭いが、そもそも新入りは継戦能力が低い。

 案の定、署内をゴミどもの団体様がうろついていた。あれなら一人や二人増えても分からないだろう。脱獄が発覚して騒ぎになる前にドロンという寸法よ。

 俺はアットムを送り出して留置場に戻った。

 看守ティナンと遭遇。


「お、お前。ここで何を」


 まぁね。俺は肩を竦めた。シフトの間隙を突くと言っても限界はある。牢屋の見回りとか普通にあるしな。

 アットムを逃がして、その上で見つからずに戻るってのはどう考えても無理だった。

 俺は舌なめずりした。アットム。上手くやれよ……。胸中で祈りながら両手を上げて口を回す。

 見ての通りさ。逃げようとしたんだが、どうにも行き詰まってね。こりゃあ無理だと思って戻って来た。しかし見回りの時間か。ミスったな。見逃しちゃあくれねえんだろ?


「当然だっ。牢屋に戻れ! どうやって出た?」


 それは簡単。こいつさ。俺は合鍵を差し出した。

 予め用意して隠し持っておいたんだ。バレちゃ仕方ねえ。脱獄は諦めるよ。

 ……時間稼ぎもここまでか。留置場の外が騒がしい。


「囚人が逃げたぞ! 脱獄だ!」


 看守ティナンがじっと俺を見る。


「お前……」


 さて。偶然と言い張ることもできるが……。

 俺は言った。


「あんたじゃ話にならないな。偉いやつを呼びなよ。話がしたい。そうさ。アットムを逃したのは俺だ。どうやったか。興味あるだろ?」


 俺は両手両足を拘束されて牢屋にブチ込まれた。



 3.ティナン姫の屋敷-地下牢獄


「コタタマ! 戻って来たんだね!」


 もるるっ……。俺は悲しげに鳴いた。

 ティナン志士に担がれて宿舎から合法ロリの屋敷へ。地下のVIPルームに舞い戻った俺を、マッドティナンのコニャックさんが大歓迎してくれた。

 俺の頭をぎゅっと抱きしめて撫で回してくる。


「よしよしよし……」


 もるるるる……。俺は喉を鳴らした。

 くそがっ。誰が一番偉いやつのところへ連れて行けと言った? 俺は署長とか何かその辺の手頃な偉いやつと話がしたいと言ったんだよ。

 ええいっ、離せ! 俺はコニャックの腕を振りほどこうとしたが、がっちりとホールドされていてびくともしない。たちまち押し倒されて腹を撫で回される始末よ。

 俺は吠えた。

 くそがっ! くそがーっ! 俺を犬コロ扱いするんじゃねえ! 俺を誰だと思ってる! 俺は誇り高き種族人間だぞッ! 万物を支配する霊長類様だぞーッ! 


「ああっ、すっかり野生化してしまって……。私が分からないのかい? 私だよ、コタタマ。コニャックだ。君のご主人様だよ。追い出したことを恨んでるのかい? ゴメンよ。でも、君は同じ仲間と一緒に暮らしたほうが幸せだと思ったんだ。それは私の勘違いだった。許しておくれ」


 だ、騙されるもんか!

 俺は屈さないぞ! お前の思い通りになどなるものか! これは不当逮捕だ! 冤罪だ!

 弁護士を! 弁護士を呼べ〜!



 4.三日後


「コタタマ〜」


 もるるっ。ご主人様のコニャックさんが俺を呼んでいる。

 俺は鉄格子に張り付いて自分の名前を認識していることをアピールした。

 ご主人様は喜んでくれた。


「おお、やっぱりコタタマは賢いなぁ。私が喜ぶことを知ってるんだね。よしよし」


 グッドコミュニケーション!

 俺はご主人様に撫で回された。もるるっ。

 って僅か三日で心折れてるじゃねーか!

 正気に戻った俺はコニャックの手を振りほどこうとしても無駄なのでひとまずコニャックが満足するまで撫でられてやった。

 素早く牢屋の中央に戻ってクールに座り込む。

 で? 何の用だ?


「マーマ殿下がお呼びだよ。一緒に行こう」


 ふん。断ったところで無駄なんだろ? 好きにしな。

 俺はその場で寝っ転がると、両膝を抱えて丸くなった。身体が小さなティナンにとってはこの姿勢が一番持ち運びしやすいのだ。

 牢屋に入ってきたコニャックがひょいと俺を抱きかかえる。


「よし。粗相のないようにね」


 どうだかな。俺は不敵に笑った。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 だが躾は十分のようだ。



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