GunS Guilds Online!
1.???
地球が俺たちを見つめている。
ジュエルキュリの両腕を命の火が這い上がる。焼け跡に残されたのは銀色に輝く腕甲だった。少女には不似合いな無骨なフォルム。それ自体で独立したものではなく、フルプレートの一部に見える。
ここに至っては否定する材料を見つけるほうが困難だった。ジュエルキュリは赤カブトと同じだ。
ョ%レ氏は無意味なことをしない。この場に赤カブトを同席させたことには何らかの目論見がある。
俺と同じ結論に至ったのだろう。サトゥ氏が叫んだ。
「ジャムを!」
セブンとリチェットはサトゥ氏の指示に忠実だ。異論を挟むことなく、率先して駆け出したサトゥ氏に続く。素早くこちらに駆け寄り、赤カブトの周囲を固めた。
ジュエルキュリはどう見ても尋常な様子ではない。米国の三人に加勢するべきなのかもしれない。しかし冷たいようだが、俺たちはどちらかを選べと言われたなら赤カブトを選ぶ。
ョ%レ氏の側に付いたジュエルキュリは、もしかしたら赤カブトの未来の姿なのかもしれないのだ。
先生とネフィリアは動かない。ョ%レ氏を警戒しているようだ。俺がエコーズact3をシアハートアタックに食らった吉良みたいになっているので、こっちに来てしまうとジュエルキュリとョ%レ氏の双方を視界に収めるのは難しくなるという判断だろう。考えなしに突進してゴメンね。だってョ%レ氏がムカつく顔の造りしてるから、つい。
アンドレとカレンちゃんが剣を抜いた。ジョンはぼろぼろと涙を零している。
「シャーリー……」
ジュエルキュリはきょとんとした。
「なにベソかいてんの?」
次の瞬間には爆発的な踏み込みでジョンの懐に飛び込んでいた。速いっ。踏み込んだ足を軸にくるりと回った銀髪褐色ロリが腰の刀を抜き打ちする。
刀が交差した。ジョンに刃を抜く意図はなかったように思える。しかし抜かされた。見方を変えれば、ジョンの血肉に刻まれた戦闘本能が彼を救ったと言える。
ジュエルキュリの連撃。コマのように回って縦横無尽に刀を振るう。スピード重視の型だが、遠心力を利用している。レベル差も大きく作用しているだろう。決して軽くない。ジョンの巨躯が押し込まれる。空中で上下反転したジュエルキュリの刃がジョンの首を刈るべく走る。とっさに割り込んだアンドレとカレンちゃんがジュエルキュリの刀を弾いた。
くるりと回って着地したジュエルキュリが肩に刀の峰を乗せて悪戯っぽく笑った。
「ああ、そういえばあんたら世界最強のトリオだっけ? まぁそれは私らαテスターを除いての話だけどね」
αテスター。それが新マップの隠し部屋に眠る鬼武者たちの正体なのか。
「さすがに三人揃うと面倒だなぁ。数を減らさなくちゃ。じゃあ、まずは〜」
ジュエルキュリは三人を順繰りに見つめて値踏みした。
「うっかりアンディくん! 君からだ!」
一瞬で背後に回ったジュエルキュリの一撃をアンドレは飛び上がって回避した。とんぼを切ってジュエルキュリの頭上から剣を叩きつける。剣と刀が交差する。ジュエルキュリは首を傾げた。
「あっれ〜? アンディ、あんた、鍛冶屋だよね?」
アンドレは冷や汗を滲ませながら軽口を叩いた。
「言ったろ? シャーリー。俺は天才なんだよ。その気になれば前衛も張れるのさ」
【スライドリード(速い)】を用いた攻防に鍛冶屋では付いていけない。ジュエルキュリを追うと決めた日にアンドレは鍛冶を捨てたのだろう。口調もガラリと変わっている。言葉遣いを矯正したのかもしれない。
多くの代償を支払ってアンドレはこの場に立っている。
銀髪褐色ロリは苛立っているようだった。
「馬っ鹿じゃないの? あんたさ、向いてないんだから大人しく引っ込んどけばいいのに」
カレンちゃんが加勢に入る。ジュエルキュリがアンドレを弾き飛ばした。
カレンちゃんが腰だめに構えた剣を走らせる。ジュエルキュリが前に出る。カレンちゃんの剣が躊躇に揺れる。その瞬間を見逃さずにジュエルキュリがカレンちゃんの手首を掴んだ。
「なんで剣なんて使ってんの? カレン。あんた槍使いでしょ。あんたら、なんなの?」
プレイヤーの膂力はレベルで決まる。
アメリカ勢のレベルはどんなに高く見積もっても30前後だろう。ジュエルキュリとのレベル差は実に40を越えている。カレンちゃんの手首はへし折られてもおかしくなかった。
しかしカレンちゃんは気丈に笑う。
「シャーリー。あなたを連れ帰る。ジョンのマズいメシを私とアンドレに押し付ける気? それはあんまりじゃない?」
ジュエルキュリも笑った。
「あ〜。それはゴメンね。でも、ほら、ホットケーキは美味しかったよ」
アンドレとカレンちゃんがジョンをフォローしているのは明らかだった。ジョンは情が強すぎるのだろう。使い物になっていない。しかしジョンは一人で勝手に立ち直った。涙は止まらない。それでも吠える。
「ウオオオオオオオオオオオオオオ!」
アナウンスが走る。
【アビリティ:鼓舞】
【英雄は人心を奮い立たせる】
【アビリティ発動!】
【制限時間:06.66…65…64…】
鼓舞? アビリティ発動……。
(称号の名に恥じない働きをしてみせろ)
称号……【英雄】の固有スキルか?
ョ%レ氏と同じ称号……。
英雄の固有スキル【鼓舞】は、周りの人間のアビリティを強制発動できるということか。制限時間はあるようだが、なるほど強力なスキルだ。例えば俺は完全に仕上がったサトゥ氏にだけは近付きたくない。
見ろよ。サトゥ氏の目が青白く発光してるぞ。こんなのと夜道で会ったら回れ右待ったなしだぜ。
サトゥ氏はセブンとリチェットを気にしている。眼光の直射を食らったリチェットが「やめっ、こっち見るな!」と嫌がっている。
「眩しいっ。なんかたまに光ってるなとは思ってたけれどもっ。漫画的な表現じゃないのかよ!」
ばしばしと叩かれたサトゥ氏は困惑している。
「えっ。ま、眩しい? 一体何の話……」
振り返ったサトゥ氏が俺を見てギョッとした。あん? 何だよ。
「い、いや。何でもない。お前がいいならそれでいいんだ……」
何だってんだよ。おぅ、俺の肌が黒ずんでいる。何か変な病気だろうか……。
赤カブトが首を傾げた。
「たまにペタさんそうなってるよ? 血が黒い時もあるし」
衝撃的な事実が今明らかになった。
ええ? マジかよ。俺の血ってオイルだったの?
リチェットとセブンがぼそぼそと内緒話をしている。
「やっぱり魔族だったんだ……」
「流れる血が俺たちとは……」
おい。セブン。お前も自慢のロン毛がヤバいぞ。獣の槍を使ったみたいになってる。わっさー伸びて床に広がってるし髪の質感が人間のそれじゃない。バケモンだ。
リチェットは……あんまり変化ないな。瞳孔が開いてるのはいつものことだし……。いや、なんか三割り増しくらい綺麗になってる……! まつ毛長っ。メイクばっちり決めたみたいになってる……!
「き、綺麗になってるとか言うな!」
俺はリチェット120%さんにばしばしと背中を叩かれて咽せた。ごほっ、ごほっ。
「コタタマ、大丈夫?」
アットムくんが俺の背中を優しくさすってくれた。す、すまんな。おっとアットムくんがキラキラしてる。なんか妙に色っぽいぞ。
格差が……! 男女アットムで格差がひどい……! ネフィリアとカレンちゃんもメイクアップしてるし、おまけに服装がメタリックになってる。格ゲーの2Pカラー、もしくはソシャゲーの進化バージョンみたいだ。
うーん。法則性がよく分からんな。赤カブトと先生、ジョンは変化なしだ。
つーか……。
おいっ、サトゥ氏見ろ! アンドレがひでぇぞ! なんか念獣みたいなのに憑かれてる! 小学生が家庭科の授業で作るような手足の長さがいびつな不細工な人形。そいつがアンドレの耳元で何やらボソボソと囁いている。アンドレの目は虚ろだ。完全に操られてる……! アンドレの惨状に俺はきゃっきゃと手を叩いて大喜びである。これにはサトゥ氏もにっこり。
「俺たちのほうが全然まともだなっ」
うんうん。下には下が居るもんだ。見下していったらキリがねえな。
……まぁあれだな。おそらくプレイヤーの真の姿とやらが影響してるんだろう。
それにしても……。
俺は、米国の三人と激しく剣戟を交わしているジュエルキュリを見た。それからウチのAI娘を見る。
「?」
赤カブトさんは、あまりよく事態が分かっていないようだ。
な、何か……。俺は奇妙な焦りを感じた。ウチの子だけバカっぽくないか……?
もう一度ちらりと赤カブトを見る。
「?」
いや、バカっぽい……!
今になって思えば、コイツ何で俺の説得に応じたんだ? 心を動かされる要素って何かあったか? 俺、ランダムチェンジ萌えがどうとか熱弁を振るってたぞ。もしも俺が赤カブトと同じ立場だったら確実にョ%レ氏の下に走ってたと思う……。
いや別に残ってくれたなら何よりだし、不満がある訳じゃないんだけど。なんか釈然としない。
まぁそれはいい。意外だったのはアットムだ。この場に居るということは、ョ%レ氏が問題ないと見なしたということなんだろう。
アットム……。お前、気付いていたのか?
「ん? ああ、ジャムのこと。うん。何となくね」
赤カブトがハッとした。感極まったように胸の前でぎゅっと手を握る。
「アットムくん……!」
「ああ、うん……」
アットムはあいまいに頷いた。
この二人の絡みは珍しい。アットムは普段ソロで動いているし、赤カブトは根っからのアウトドア派で暇になると森をうろつく。鮭を探し求める本能が働くのかもしれない。
アットムは排他的な面がある。見てくれは女みたいになよっとしているのに尖ったナイフを心に秘める男だ。けど最近は少し丸くなってきた。本人も自覚があるのか、照れ臭そうに頬を掻いている。
「僕だけの話じゃなくてさ。ポチョとスズキも気付いてると思うよ。けど、あの二人は僕と違ってジャム本人の口から聞くまではそっとしておきたいんじゃないかな。……いや、ポチョはちょっと怪しいけど」
確かにポチョは怪しいな。素で何も気付いてない可能性がある。脊髄反射で生きてるっていうか……。何でアイツあんなにバカっぽいんだろう。
いずれにせよ、赤カブトがョ%レ氏の下に走らないようにしないとな。俺は赤カブトを抱っこして撫で撫でした。
「やっ。な、なに? ダメっ。やめてっ。こ、こういう時はペタさんを殺しちゃダメって私、ポチョさんから言われてるのに……!」
ほう。それはいいことを聞いたぜ。つまり俺はシリアスな場面では赤カブトを可愛がっても殺されないのか。
よしよし。俺はすりすりと赤カブトに頬ずりしてやった。ほら、もっと甘えろ。俺はレ氏なんかよりずっとお前に優しくしてやれるんだ。ジタバタと暴れる赤カブトの口に俺は人差し指を含ませる。おら、吸え。お前のママはこの俺だけだ。レ氏なんかには渡さねえよ。分かったら吸え。
「んっ、んっ……」
うんうん。母性を満たされて俺ご満悦である。
赤カブトが俺に懐柔されている一方その頃、銀髪褐色ロリは大苦戦の様相を呈している。
ジョンとアンドレ、カレンちゃんは強い。ヤツらは本場のプレイヤーだ。アビリティの研究も盛んに行われていて、相乗効果が乗る組み合わせなんてものもあるんだろう。でも、それだけじゃなさそうだ。
ちんちくりん三号は半ベソを掻いている。
「なんでっ……! 私のほうが絶対に強いのにっ……! 当たんない! 何でぇ!?」
あ〜。分かるわ。ゲームで壁にぶつかるとスゲー悔しいんだよな。マジで泣けてくるしコントローラーをブン投げたくなる。
ジュエルキュリは不調のようだ。スランプかな? チャンスだ。が、やはり地力の差は大きい。米国トリオは攻めあぐねている。英雄の固有スキル【鼓舞】には時間制限がある。アビリティが切れるとマズいぞ……。
リチェット120%さんが振り返る。俺の指をちゅうちゅうと吸っている赤カブトをちらりと見て、すぐにさっと顔を逸らした。
「……手伝ったほうがいいんじゃないか?」
「無理だ」
キッパリと言ったのはセブンである。珍しく長生きしている。
「俺は初対面でも大抵の前衛に合わせる自信はあるが、あのレベルで、しかもあいつらは敵を生け捕りにしようとしてる。あれは手出しできない」
俺も無理だな。あそこに混ざっても横からどしんどしんぶつかる未来しか見えない。良い意味でのセクハラならできるけど、下手に動きを止めたら死人が出そうだ。つーか趣味じゃねえ。あの褐色ロリ、つるぺたじゃん。おっと、つるぺたと言えばアットムくんの出番だな。アットム。お前はどう見る?
「そうだね。僕がロリコンとして言えることは」
ロリコンとして言えることは。
「ジュエルキュリちゃんにとって、これは大切な戦いなんだと思う。僕らが手出しするべきじゃない」
なるほど。サトゥ氏?
「俺にアットム氏以上の面白発言を求めるのはやめて欲しい」
あ、はい。では満場一致ということで。休憩ですね。
お、片手が動くぞ。いつの間にかエコーズact3フリーズを脱したようだ。しめしめ……。俺は懐からボトルちゃんを取り出した。きゅきゅっと蓋をひねって、リチェットにボトルちゃんをブン取られた。あにすんだよ。
「なんでアルコール入れようとするんだよ!」
俺は少し酔ってたほうが俊敏に動けるんだよ。
事実である。俺はアルコールを入れると身体のキレが良くなる。思考能力は鈍るが、俺はどうにかしてョ%レ氏を一発ブン殴っておきたいのだ。
返せよー。返せよー。
リチェットは俺のボトルちゃんを赤カブトに手渡した。
「ジャム。オマエに託す。しっかりと持っておくんだ。この男に渡しちゃダメだぞ」
赤カブトはボトルちゃんを両手でぎゅっと握った。くそぉ……。無理に取り上げたら刺されそうだ。どうしてくれよう。
俺がボトルちゃん奪還計画を練っていると、銀髪褐色ロリが癇癪を起こした。
「あ〜っ! もう面倒臭い!」
大きく片手を振ると光の輪が放たれた。【全身強打】だ。……魔法が使えるならどうして今まで温存していた? ジョンたちは……無事だ。ジャンプして躱したらしい。マジかよ。先読みしたのか? ジャンプで【全身強打】を避けるのは簡単じゃない。反動が要るし、掠っただけでも死ぬのだ。
仕損じたジュエルキュリの苛立ちは頂点に達しているようだ。
「くそっ、くそっ……!」
ガシガシと頭を掻いて金切り声を上げる。
「ョ%レ氏! ペールロウじゃダメだ! 転職させてよ! できるんでしょ!?」
「できるとも。しかしダメだ。君は条件を満たしていない。それは公平ではない」
ジュエルキュリは「はぁ!?」とョ%レ氏を睨み付けた。戦闘放棄しようというのか、手に持つ刀を地面に叩き付けようとして、やめた。へらっと笑って、
「やーめた。やってらんないよ、こんなの。なんか調子悪いし」
ぴょんと大きく跳躍してョ%レ氏の傍らに立つ。こちらに背を向けているため、表情は見えない。その小さな背中に、ジョンがありったけの感情を乗せて声を掛けた。
「シャーリー……! 一緒に帰ろう! みんな来てるんだ! 君を迎えに来たんだよ!」
ジュエルキュリは答えない。
ョ%レ氏が笑っている。まるで愉快な見世物だったとでも言うように。
「ジュエルキュリ。君は一度として彼らを本気で殺そうとしなかったな」
「……そんなこと、ない」
ジュエルキュリの声は掠れていた。泣くほど悔しかったのか。
手下の不甲斐ない結果を、しかしョ%レ氏は嬉しく思っているようだ。
「それでいい。君は単純なようでいて、実はそうではなかったということだ。私はそのように君を作った。こうしてまた一つ、私の正しさが立証された」
ジュエルキュリは、かつての仲間を斬れなかった。無意識の内に手加減していた。そのことを一番よく知っているのは、実際に刃を交えたジョンたちだった。
「レ氏っ……! お願いだ! シャーリーを返してくれ! 私たちの元に……!」
「言ったろう。ジョン。ジュエルキュリは、自らの意思で私に降ったのだよ。私は彼女の意思を尊重したに過ぎない」
しかしョ%レ氏は運営側だ。運営は使徒に絶対尊守の命令を下すことができる。そして、俺たちが疑っていることなどョ%レ氏はお見通しだった。
「もちろん、諸君らが納得しないことは理解しているつもりだ。ジュエルキュリに迷いがあることも。負けはしないにせよ、おそらくは勝ちきれない。そう考えていた。よって私はこの場を設けた」
そう言ってョ%レ氏は、不意に赤カブトを指差した。警戒したサトゥ氏とリチェットが立ちふさがる。ョ%レ氏は意に介さず言った。
「彼女はジャムジェムと言う。ジョン。君は既に目を付けていたようだが、その通り。ジャムジェムはジュエルキュリの妹に当たる」
赤カブトがハッとしてジュエルキュリを見る。
「えっ。逆じゃ……?」
赤カブトさんは密かにご自分のスタイルに自信を持っているようだ。ちんちくりん三号を姉と見なすことはできないと謙虚に主張した。
そうではないのだとョ%レ氏は言う。
「ジャムジェム。無論のこと、私が最も期待を寄せているのは彼ら米国サーバーのプレイヤーだ。公平性とは弱小国に労力を割いて同水準に引き上げることではない。少なくとも私はそう考える。αテスターの長姉たるジュエルキュリを米国に派遣するのは当然の判断だ」
赤カブトさんが妹キャラを獲得した。
ョ%レ氏が妹キャラを手招きする。
「ジャムジェム。来なさい」
「えっ。やだっ」
赤カブトは普通に拒否した。ぎゅっと俺に抱きついてくる。よしよし。
ョ%レ氏は肩を竦めた。
「と、こうした次第だ。そう。諸君らが考えている通り。私はやろうと思えば上位権限を行使し、彼女らを操ることができる。しかし私はやらない。何故か分かるかね? これがゲームだからだ。そして……」
ョ%レ氏がゆっくりと席を立つ。
「こうまで言っても諸君らが納得しないことも理解している。そう……結局はどちらでも良いのだ。ジョン。アンドレ。カレン。私が言いたいことはたった一つだ。君たちは、まだ弱い。力不足なのだ。圧倒的に。私からジュエルキュリを取り上げたいならば」
ョ%レ氏が片手をポケットに突っ込んだ。もう片方の手に魔石を握り、ぴんと親指で弾く。
「こんなところで遊んでいる場合かね?」
先生が叫んだ。
「キューブを破壊しろ!」
俺も叫ぶ。赤カブトを抱えて後退しながら。
「あれは『武器』だ!」
玩具箱。二度の交戦でョ%レ氏が超人的な力を発揮したのは、常にあれを作り終えてからだった。
かつてョ%レ氏は言った。自分はプレイヤーの最高到達点なのだと。
ネトゲーにおける最強のプレイヤーとは、最高の武装を以って初めてそうと認められる。
アナウンスが走る。
【GunS Guilds Online】
【警告】
【強制執行】
【逆臣の処刑】
【消えゆく定め、命の灯火……】
【誰も救えない】
【王は一人】
【勝利条件が追加されました】
【勝利条件:君主の殺害】
【制限時間:00.00】
【目標……】
【英雄】
【君主】【ョレ】【Level-99】
不規則に揺れ動くキューブを従えたョ%レ氏はどこまでも不遜だ。看破を許し、なお揺るがない。
「ジュエルキュリ。手出しは無用だ。よく見ておき給え」
アタッカーが一斉に嬌声を上げた。残像の尾を引いてョ%レ氏に迫る。狙いはキューブだ。数は五。あれらはおそらくブースターの役割を持つ。強力無比な武器だ。それゆえに相応の【戒律】を刻まれている筈。
俺の魔槍が耐久力を犠牲にしているように。ョ%レ氏がブースターを無防備にしているのは【戒律】の一種と見るべきだ。
そして世界最強の男の読みは更に上を行く。
「右手側から攻めてクダサイ! レ氏は右腕を犠牲にしてマス!」
右手? ポケットに突っ込んでるほうの手だ。
ちっ……! 余裕綽々に見せて、それもブラフ。戦術か……!
ョ%レ氏は右腕を使えない。グッドニュースだ。しかしそれは同時に、ョ%レ氏に油断も慢心も期待できないことを意味する。全力で仕留めに掛かってくる。
そしてバッドニュースだ。
開幕していきなり俺が死にそうになっている。
俺の胸に深々と指を突き刺したョ%レ氏がにっこりと笑った。
「ありがとう。ペタタマ。真っ先に君を殺すと決めていたんだ」
そいつはどうも……。
「こ、コタタマー!」
これは、とあるVRMMOの物語。
一流の%は執念深い。
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