キズナ☆バトル
やっぱり酒の飲みすぎは良くないな。
人の振り見て我が振り直せという言葉もある。ジョッキに向かってシャウトする宰相ちゃんの姿を見て俺は大いに反省した。
しばらく酒は控えよう。
1.スピンドック平原-【目抜き梟】ライブ会場
ライブ会場に詰め掛けたゴミどもが固唾を飲んで見守る中、ステージの上に佇むお犬様が前足もとい片手を突き上げてぴょんと元気良く飛び跳ねた。
「第一回! ペット自慢コンテストの開催だ〜!」
えー!?
俺は仰け反って絶叫した。
……まぁ何だ。お犬様がキャラをかなぐり捨てて昇竜拳するほどの事態ということなのだろう。
ウィザード問題である。
先生に情報公開を迫ったお犬様はマジで責任を感じているらしく、ついに搦め手に出たのだ。テイマーの素晴らしさを世に知らしめ、ウィザードになりたくてもなれないプレイヤーの不満を和らげようというのが今回の企画。もはや形振り構っている場合ではなくなったらしく、軽く運営の手先みたいになっている。
普段とのあまりの落差に、在りし日のお犬様の勇姿がまざまざと俺の脳裏に蘇った。
(勝ち目が薄ぅなっても仕方ないじゃろ……)
だが今ここで勝ち目が見えない戦いに身を投じているのはお犬様ご本人であるという事実に俺の胸がしくしくと痛む。
「さあ! いよいよ始まりましたね! バンシーさん!」
そして道中のお供を務めるのは誰あろう俺である。
だが悔いはない。元はと言えば俺の責任でもあるのだ。お犬様を一人で逝かせはしない。
お犬様の隣で綺麗なおべべなど着ている俺は、バラエティ番組の女子アナポジションである。俺はアホだがアホではないので、女キャラの姿で出演したほうが受けが良いことくらいは当然のこと理解している。
いや、でもちょっと待ってくださいよ。お犬様。そのハイテンションキャラは何ですのん? リハーサルん時はぼそぼそ喋ってたじゃないですか。のっけから打ち合わせと違うことやらんといてくださいよ。あなたは大御所なんですから、そんな汚れ役はやらなくていいんです。
「ワシは今日ここに骨を埋める覚悟じゃ」
やめてください。何千年後か知りませんけど、化石で発掘されたら未来の人たちが戸惑うでしょ。俺らの星でも過ぎ去りし日が意味の分からん発掘のされ方して考古学のセンセらも大概迷惑してますよ。
お犬様はそんな余計な気を回さなくていいんです。最悪、俺がそこら辺に居るアンパンをブッ叩いて無理やり盛り上げますから。
おい、聞いてんのか。犬種マルチーズ。
俺の話を無視して踊り始めたお犬様を俺は土下座覚悟で引っ叩いた。ひえっ、と会場から悲鳴が上がる。はいはい、リアルな反応ありがとうございますぅー! あとで楽屋で土下座しとくわ!
ねえ、お犬様。踊ってないで俺の話聞いて? 俺、別に漫才やりに来たんじゃないからね。ガッコの学園祭とかでさ、何か勘違いしちゃった子らが漫才披露しても周りは反応に困るでしょ。ああいう感じだけは何としても避けましょうって俺リハで言ったじゃないですか。変に尖った部分は見せなくていいんです。
「でも君、そこそこウケてるよ。本当に良ぉ喋るなぁ」
けど明らかにお犬様が喋ってる時のほうが客の反応いいよね。痛感するわ。あなたたちは本当にズルい。喋ってるだけで可愛いもん。喋ってる!ってなるもん。
あー。いやいや、ちょっと話切ろうか。ほら、見て。あそこ。スタッフが手ぇぐるぐる回してるでしょ。見えます? あれね、フリートークの時間じゃねえから!っていうサインですよ。そんな時間予定に入ってねえからっていう。正直、素人にそんなこと求められても困りますねぇ。お犬様、どうします? もういっそ予定変更してお犬様のディナーショーにしちゃいます? 俺ね、分かっちゃった。客が求めてるのはそれですわ。誰もペット自慢なんて求めてませんよ。
「それは困るなぁ。出演者のギャラな、ワシのポケットマネーから出とるし。ワシ、単に金あげたことにならん?」
なりますねぇ。さすがに出番潰れたからノーギャラってのは通らんでしょ。いや、通るかな? どう思います? そこの舞台袖でスタッフに絡んでるあなた。あなたですよ、ええと顔出しNGのナナシさん。
「絡んでませんよ!」
舞台袖から怪しい覆面女が出てきた。ご自慢のペットも一緒である。
……またエラいもん連れて来ましたねぇ。
熊。ヒグマである。
あのね、ナナシさん。確かに自慢のペット連れて来いとは言いましたけど、動物園に忍び込めとは誰も言ってないでしょ。
「忍び込んでませんよ! ウチのミーちゃんです」
じゃあどういうことなんですか。まぁいいです。プライバシーには触れないっていう約束なんで。凄く気になりますけど、聞いたら後戻りできなくなりそうなんで。
ねえ、お犬様。これどうします? ぶっちゃけ優勝でしょ。インパクト強すぎるからスタッフと相談して一次審査で弾こうとしたんですけど、さすがにスルーできなかったんですよ。大トリに持ってくるっていう案も出たんですけどね。事件は早いほうがいいよねっていう結論になりまして。
お犬様はヒグマのミーちゃんの毛並みをチェックしている。
「これは熊ったな」
ヤマダさん! 困りますよ。恐ろしい……。
今のは俺拾いましたけど、次はどうなるか分かりませんよ。やめてくださいね、本当。これ前振りじゃないですからね。ガチですから。
というかナナシさん。この場を借りてお聞きしたいんですけど、つい先日ミーちゃんを俺にけしかけましたよね。動機は何ですか?
「怨恨ですかね」
ああ、その線。ええっと……どこかでお会いしましたっけ? 正直ね、俺あっぷあっぷなんですよ。スーパーでパック入れ放題とかあるでしょ? 俺のパック破れてるんですよね。もはや入る入らないの問題じゃないんですよ。破れてますから。床にばっさー行ってますから。店員さん呼ばないと。俺の可愛い暗たまにも会いに行けてないし。
「ミーちゃん撫でます? 大人しい子ですから大丈夫ですよ」
いや大丈夫ではないでしょ。つい先日、俺ガッツリ行かれてますから。何でそんな嘘を吐くんですか?
あ、お犬様。お犬様、あんまり近寄らないほうがいいですよ。果敢に行きますねぇ。
「お手とかしてくれるかな?」
どうかなぁ。あなたの場合、立場が逆でもまったくおかしくないからね。明暗を分けたのは決して大きな差ではないと思うし。あ、正面? 正面から行きます? 大丈夫? 本場のベアクロー貰って退場しないでね? ウチの子が一番っていう大会なのに、お犬様やられたら趣旨変わってくるよ? 司会者全滅とか放送にならんし、俺は助けに行かないからね?
「あっ、ワシの尻尾掴みよった!」
お犬様〜! 俺は奇声を上げて熊公に突っ込んだ。
これは、とあるVRMMOの物語。
司会者コンビが優勝した。
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