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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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創造

 1.マールマール鉱山-【敗残兵】前線基地-会議室


 俺とプッチョムッチョは路上で酒瓶を抱いて眠っていたらしい。らしいというのは、浴びるほど酒を飲んだので記憶があいまいなのだ。

 気付けば俺たちは【敗残兵】のクランハウスに転がされており、ムッチョは別室に監禁されていた。押しも押されぬ廃人どもが雁首揃えてああでもないこうでもないと問答している。


「いや、レ氏と【NAi】はこのゲームの運営だ。プレイヤーに自分のスキルを与えることができても不思議じゃないだろう」


「でもそれができるならGMにも同じことが言えるんじゃ? GMのあの時の口ぶりは、自分を殺さなくてはスキルを渡すことはできないというようにしか……」


「うむ……うむ……」


 ネカマ六人衆と宰相ちゃんが議論している。そこから少し離れて一人でコクコクと頷いているのはリチェットだ。会議室の床にセミの抜け殻みたいにセブンの死体が転がっている。

 議題になっているのはスキル解放の手順か? 宰相ちゃんは自分のこめかみに人差し指を押し当てて、


「それに自殺という手もあります。何故そうしなかったのか。未だ私たちはレイド級の【戒律】について全容を解明できていません。帰巣命令、特定行動の禁止、絶対服従……。最低でももう一つ何かある筈です。レイド級の称号は四つありますから」


「いや何故って……。自殺は普通しないでしょ」

「メガロッパは難しく考えすぎだよ」

「なんか訳分かんなくなってきた……」


 訳分かんなくなってきた六人衆は当事者に尋ねることにしたようだ。


「ど、どうなんだ? SP」


「プッチョだ」


 プッチョはサングラスを押し上げた。


「私はこのゲームの運営ではないし、スキルの解放について細かいルールまでは分からない」


 一人でコクコク頷いていたリチェットが大きく頷いた。


「うむ。分かった」


 どうやらささやきで外部と連絡を取っていたらしい。セブンの死体を仰向けに転がしつつ、ソファに座っているサトゥ氏に声を掛ける。


「サトゥ。検証チームに確認を取った。やはり人間形態時に倒してもスキル解放に関しては問題ないという見方だ」


 ネカマ六人衆がしょんぼりした。


「そっかぁ……。ペタ氏の友達だし、あんまり手荒なことはしたくないんだけどなぁ」


 一方、宰相ちゃんは冷静そのものだ。


「自在に変身できることから間違いないとは思っていましたが……。しかしこうなって来ると焦点になるのは……」


 宰相ちゃんは言い淀み、サトゥ氏の隣に座る俺をちらっと見た。

 リチェットはセブンのまぶたを押し開けて瞳孔を確認している。死後硬直の進み具合をチェックしながら情報を整理していく。


「黒服をやっつけてしまえば新しいスキルが手に入る可能性は高い。しかし彼らはコタタマの友人であり……。スキルと引き換えに私たちはレイド級にほぼ等しい協力者を、その可能性を摘むことになる……。そしてスキル解放が人間形態時にも適用されるということであれば……放っておいても誰かがヤッてくれるかもしれない、か」


 六人衆がハッとした。まったく話について来れていなかったようだ。


「そ、そうか! 何も俺たちが十字架を背負う必要はないんだ!」


 宰相ちゃんが頷く。


「念のために二人を引き離しましたが、証言に食い違いはありませんでした。意識的にスキルを他者に譲る場合はペナルティが生じる……。ならば、ここは現状維持が一番無難ですね」


 サトゥ氏がぽつりと呟く。


「……そうなる……」


 表情には出さないようにしているようだが……サトゥ氏。悔しそうだな? くくくっ……。俺は内心でほくそ笑んだ。

 残念だったな。お前がスキル獲得に動くことくらいは読んでいたさ。予め手は打っておいた。この後の展開も大体読めている……。

 サトゥ氏は手元にじっと視線を落としている。マグカップに浮かべた葉っぱを凝視しながら、


「SP。いやプッチョだったな」

「? なんだ?」


 プッチョが振り返る。サトゥ氏は葉っぱから目を離さない。プッチョに背を向けたまま質問を一つずつ浴びせていく。


「スキルは【戒律】の一面というのは間違いないか?」

「ああ。間違いない。お前たちの言う……マナが枯渇するというのは面白い言い回しだ。分かりやすいしな。だが正確じゃない。スキルを過度に使用した際にお前たちが行動不能に陥るのは【戒律】が薄まるからだ」


「……では、お前たちの【戒律】は何だ? 使徒ではない。しかしスキルは持っているという。生まれつき何らかの制限を持つのか?」

「それは言えない。俺は別にお前たちの味方をすると決めた訳じゃないからな」


「よってどのようなスキルを持っているかも言えない、か」

「その通りだ」


 リチェットがサトゥ氏の肩をぽんと叩く。


「サトゥ。気持ちは分かるが、先にムッチョをここへ。私たちの都合で二人を引き離したんだ。対立する理由はないと分かった。なら、もういいだろ?」


「…………」


 サトゥ氏は返事に間を置いた。やはり俺の干渉を疑っているようだな。しかしリチェットの言うことは正しい。プッチョムッチョという強力なカードを手放すことはサトゥ氏にはできない。

 ややあってサトゥ氏は渋々と頷いた。


「……分かった。プッチョ。済まなかった。こちらの身勝手に付き合ってくれて感謝している。ありがとう」


 言葉だけ聞けば和解の申し出だ。リチェットが嬉しそうに頷き、会議室を出て行った。別室に隔離しているムッチョを呼びに行ったのだろう。

 プッチョが俺の肩をぽんと叩く。ああ、良かったな。これでお前らは【敗残兵】の後ろ盾を得たことになる。

 サトゥ氏がぼそりと呟いた。


「……仲がいいんだな?」


 コイツ、まだ……。

 ……否定しても意味はない。無論、接触はないに越したことはないんだろうが……。飲みすぎて昨日の記憶が吹っ飛んでる。噓を吐いてもボロが出る可能性は高い。

 俺は何を当たり前のことをと言うように自然な態度で俺たちの仲を認めた。

 サトゥ氏。今お前も言っただろ。二人がこんな尋問紛いの扱いを受ける謂れはないんだ。それでも協力的な姿勢を示してくれたのは俺の顔を立ててのことだろう。ダチなんだよ。これだけ好意を持たれ、尽くされたなら情のある人間なら心を動かされて当然だ。


「好きになった……と?」


 ……ああ。自分でも今まで気付かなかったがそうなのかもしれない。

 宰相ちゃんがぽかんとして言った。


「え、ホモなんですか?」


 誰がホモだ。

 今のは流れ上そう言わざるを得なかったんだよ。だが友人として大切に思っているのは本当だ。


「スキルの移譲に伴うペナルティというのは」


 しかしサトゥ氏はまったくと言っていいほど諦めていない。どうあってもこの場でプッチョとムッチョをやっつけて新スキルを手に入れたいようだ。


「【戒律】のことか? おそらくは……プレイヤーの所有権」


 やはりそこに目を付けるか。サトゥ氏……。お前がそのくらいのことに辿り着くのも計算済みだ……。


「どうなんだ? プッチョ。それも俺たちには教えられないのか?」


 サトゥ氏。その考えで間違いないだろう。

 俺はプッチョがボロを出さないよう割って入った。

 レ氏と【NAi】、そしてマレがプレイヤーを強制召喚する際に行使している所有権だ。

 称号、職業とはまた別に俺たちには【戒律】が掛かっている。それは職を剥奪されたプレイヤーがささやき魔法を使えていることから容易に推測できる。

 プッチョがサングラスを押し上げて小さく頷いた。


「……二人とも賢いじゃないか。本来であれば私が言うべきことではないが、そこまで見抜いているなら否定しない。その通りだ」


 サトゥ氏は肩越しにじっとプッチョを観察している。


「…………」


 くくくっ……。考えているな。いいぞ。悩め。

 しかし無駄だ……。予め二人とは口裏を合わせておいた。



 2.回想-ポポロンの森


「スキルの移譲をするならって?」


 プッチョムッチョの呂律が怪しい。

 そうらろ。

 俺も負けじと怪しい。

 俺はバンバンと両頬を叩いて、ふいーっと大きく息を吐いた。くそっ、これ以上飲んだらマジでヤバいぞ。

 と、とにかくだな。プッチョムッチョ……。おいっ、ムッチョ寝てんじゃねえ!


「! ねねね、寝てねぇーし」


 寝てただろ! お前っ、さっきから全然酔ってないとか言っておいて……! すやぁ……。


「ペタタマぁ! 寝るなぁー!」


 ハッ。うう……ダメだ。一瞬で意識が落ちそうになった。

 な、何の話をしてたっけ? いや、あれだ。スキルの移譲の件だ。


「あっれー?」


 ムッチョが素っ頓狂な声を上げた。どうした。酔っ払いが。


「俺らぁ、言ったっけぇ? スキルのぉ〜シュッシュッ」


 ムッチョはシャドウボクシングを始めた。

 おお、堂に入ってるじゃねえか。よっ、宇宙一!

 あん? おいっ、プッチョ。寝てんな! 起きろ! 夜はこっからだぞ! こっからだ!

 お、俺は……。

 この俺がペタタマだーっ!

 あおーん!


 俺は森の中で月に向かって遠吠えした。

 そして、それ以降の記憶かぷつりと途切れたのであった……。



 3.回想終わり


 くくくっ……!

 酔いどれが三人揃って口止め出来てんのか出来てねーのか。まったく自信なかったが、どうやら勝利の女神様とやらはこの俺に微笑んだらしいな?

 そう、スキルの移譲は可能だ。移譲というのも変だが。伝授と言うべきか……? とにかく、プッチョとムッチョがその気になれば二人のスキルを俺たちは使えるようになる。

 しかし俺は、そこにペナルティを付け加えろと二人に指示したらしい。まったく覚えてねえ。

 いや俺のことだ。何か考えあってのことだろう。そう信じるしかねぇーじゃねえか!

 プッチョと一緒に会議室を出た俺は、丁度廊下の向こうから歩いてきたムッチョとすれ違いざまに手を打ち鳴らした。黒服二人を引き連れ、ザッときびすを返す。

 行こうぜ。【火の車】には席の予約を入れておいた。待たせたが、ようやく見せてやれそうだ。

 俺の一発芸をな……!




 これは、とあるVRMMOの物語。

 宴会二日目、突入……!



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デスノート好きな私としましてはこーゆーのは………大好きです❤️
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