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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
126/964

四限。体育

 サトゥ氏は言う。

 海外勢との衝突は免れないと。


 では、国内サーバーの面々。もっと言えば黄色いお猿さんの日本人が世界に誇れる面とは何だ?

 それは、ゆるさだと俺は思っている。

 ゆるいから俺のようなゴミがのさばる。

 ゆるいから……時として先生のような傑物が生まれるのではないか。


 先生は国内サーバーの至宝だ。

 教え甲斐のある生徒を目にすると嬉しそうに瞬きする先生。

 決して教え子を見捨てない先生。

 先生が教壇に立つことを多くのプレイヤーが望んでいることだろう。先生自身もそうしたいと思っている筈だ。

 それなのに、学校マップで先生がウサギ小屋に監禁される? そんな馬鹿な話があるか。

 じゃあどうすればいい。

 俺にできることは何だ?

 あの憎っくきウサギ小屋をブッ叩いて壊すか? いいや、壊したところで意味はないだろう。強制召喚されるたびに職員室に潜り込むのは無理だ。そもそも壊せるかどうかすら怪しい。

 ならば、GMマレと交渉するしかない。

 だが、ヤツは首を縦には振らないだろう。

 先生が賢者の称号によって内面的な干渉を受け付けないというのであれば、先生は立場に関係なく出席簿の情報を見ることができるということになる。……それだけじゃないな。学校マップのどこかにはおそらく図書室がある。先生は、運営が隠したがっている情報を全て閲覧することができる。それが称号【賢者】の【戒律】なのだろう。

 だからマレは先生をウサギ小屋に押し込んだ。新入学キャンペーンとやらは本来誰でも参加できるイベントではなかったのだろう。

 これはマレの手落ちだ。ョ%レ氏が描いたシナリオをいじって歪みが生じている。だったら、俺はそこを突く。

 そのためには……。


 俺は戦いの準備を始めた。

 もはやバンシーだのペタタマだの言ってる場合ではない。俺は、先生を救い出すために持てる手札を全て切ろう。

 まず人脈をフル活用して頭数を揃える。このコタタマさん主催ユーザーイベントの開催告知だ。名付けて先生救出大作戦。まんまだが、まぁ変にひねる必要はないだろう。一目で趣旨が伝わるほうがいい。

 俺さ、普段はイベントを開催するよりも参加する側だから。多少段取りが悪くても勘弁な。協力を呼び掛ける際にそう前置きしておいたので、俺は遠慮なく言ってることをコロコロと変えた。集合場所も標的も日によってバラバラになる。

 どういうことなんだと詰め寄ってくるゴミどもを、俺はぺらぺらと口を回して軽くいなした。予定が変更になっただの、わざと誤情報をバラ撒く愉快犯が掲示板に出没しているだのと、まぁ喋りまくった。次の強制召喚までには答え出すから。今はとにかく頭数だ。頭数が欲しい。どんどん周りに声を掛けてくれ。そんなことを延々とね。

 何とかするよ。当日までには。決行当日は次の強制召喚ね。そこは何があっても動かないから。それまでには何とかするから。

 何とかする何とかすると言い続け、特に対策を練ることもなく時間だけが過ぎていく。


 そして、今日。ついに地獄の釜の蓋が開いた。強制召喚。決行当日である。



 1.ギスギス学園-Z組教室


 よし。遅刻はしなかったな。まず第一関門は突破だ。

 まぁ俺はクランハウスで経験値稼ぎしてることが多いからな。頻繁に居間と工房を行き来するから遅刻する可能性は低い。

 強制召喚のトリガーはドアの開け閉め、マップをまたぐ、戦闘を終えるなど。意識の切り替えがスイッチになっているという説が主流だ。

 他のクラスは規定の時間を過ぎると別のチャンネルに入るらしいが、Z組の担任教師はマールマールさんしか居ないので遅刻した生徒は問答無用で殺される。殺され方には様々なバリエーションがあるぞ。頭を引っこ抜かれる、折り畳まれる、机でブン殴られる、心臓を教壇に展示される等々。

 俺から少し遅れてサトゥ氏とセブン、リチェットが教室に入ってきた。強制召喚に備えて三人一緒に行動していたのだろう。感心なことだ。

 斧を肩に担いでいる俺を目にして、サトゥ氏が息を呑んだ。


「コタタマ氏……! やるんだな? 今ここで……!」


 ああ。やる。

 俺の言葉に迷いはない。リチェットが動揺した。


「正気か!? まったく統率が取れてないぞっ。どこに集まってどいつを襲撃するんだ!? 確定情報が一切ない! 無謀だ! ここは日を改めて……」


 そいつは無理な相談だな。走り出した列車は止まらない。途中下車はできない。コタタマエクスプレスへようこそ。歓迎するぜ。

 リチェット。お前はポポロン担当だ。Z組から最低でも二人指揮官を出す。お前らはこれ以上落ちようがないからな。何故二人なのか。使徒は二体居るからだ。何故ポポロンなのか。ワッフルに司祭をぶつけても不毛だからだ。


「そこまで具体的な考えがあるなら何故……!」


 リチェット。俺は強制はしない。

 何のために、何と戦うのかはお前ら自身で決めるんだ。だから俺は標的を指定しなかった。

 まぁリチェットよ。お前ともう一人は例外だ。使徒ばっかりはどうあっても放置できない。頼むな。

 セブンが鼻を鳴らした。


「そのもう一人ってのは俺か?」


 ネフィリア次第だ。セブン。お前はリチェットよりも頭を張った回数が少ない。だからリチェットをポポロンに当てる。


「いいぞ。話が早くていい」


 ワッフルの足止めに遠距離攻撃は必須だ。できればネフィリアを当てたい。あの女は先生を敵視しているからだ。俺の計画の邪魔になるかもしれない。

 ネフィリアは俺と同様、遅刻したことがない。もしかしたら強制召喚の法則性を見つけ出しているのかもしれない。

 俺と似通った思考パターンを持つ、魔女。

 ネフィリアには俺の考えを読まれているだろうな。


「ワッフルは私が受け持とう」


 ! ネフィリア。やってくれるか。


「ああ。弟子の晴れ舞台だ。そして事が済めば、お前はますます私寄りになる。断る理由はないな」


 そうか。よし。頼むぞ。

 俺はサトゥ氏、セブンと一緒に教室を出た。目指すは校長室だ。

 廊下を走りながらフレンドリストのログインマーカーを確認して目ぼしい輩をピックアップしていく。サトゥ氏にも同じ作業をお願いした。

 条件は強さと命令を聞くこと。特に魔法使いは念入りに。

 ピックアップした連中にささやきを送って合流していく。


「何を企んでるんですか、お前は……」


 よう。メガロッパ。人聞き悪いこと言うなよ。俺はただ先生を救い出したいのさ。そのために必要なことをやるだけだ。


「コタタマ。どこまでも一緒だ」


 アットム。すまんな。俺と一緒に死んでくれ。


「崖っぷち〜! 俺のほうが早く着いたぜ!」


 JK。今度メシでもおごるよ。


「君には借りがある。これで貸し借りナシと行こう」


 サタウ。聖騎士狩りは我慢してくれな?


「よう、崖っぷち。三つ子の魂百まで、だな」


 レイテッドくん。よく来てくれた。心強いよ。けどさぁ……。


「師匠〜!」


 なんで暗たまも連れて来ちゃったの?

 お前ら、分かってんのか。下手したらZ組に転落だぞ。でも、まぁ……来ちまったもんは仕方ねえか。悪ぃな。俺と一緒に戦ってくれ。


「地獄に仏。仲間が居ればそれだけで楽しいものさ」


 ヴォルフさん。すみません。あなたを構想から外すことはできなかった。


「バンシーちゃん。今日は男の子なんだね。女の子の時のが可愛いよ」


 リリララ。お前は呼んでない。やっぱお前を撒くのは無理か。ちゃんと俺の言うことを聞くんだぞ? いい子だから。頼むぞ。


「お呼びではありませんか? ごめんなさいね。お邪魔してしまって」


 いや、モッニカ。お前はいいんだよ。けどリリララとセットみたいなトコあるからさぁ。リリララの面倒見てやってくれな。


 ウチの三人娘は居ない。ポチョとスズキには赤カブトに付いて貰う。赤カブトは連れて行けない。

 赤カブトは、おそらく使徒だ。自覚はないようだが、そうでなければ俺と偶然出会って着いてきたことになる。それは考えにくい。

 マレに命令されて赤カブトさんが反抗期に突入すると困る。娘たちよ、ペタタママは羊パパを解放するために頑張ってくるからな。

 俺の母性本能が唸り声を上げて燃え上がる。燃える炎は命の色。血というには薄く、火というには優しい、生命の輝き。

 戦争が始まった。もはやこのマップに安全地帯などない。それでも生きろと女神が告げる。

 

【警告!】

【レイド級ボスモンスター出現!】


 走り出した列車は止まらない。

 けたたましいサイレンが鳴り響き、真っ赤に染まった視界をアナウンスが走る。


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:レイド級ボスモンスターの討伐】

【制限時間:60.11…10…9…】

【目標……】


【使徒】【Photo-Roton】【Level-3511】


 おいおい、リチェット。一番乗りかよ。軽くフライング気味じゃねえか。ノリノリだな。いや、分かるよ。口では嫌がってもお前の身体は素直みたいだな?

 使徒、ポポロン。暗示は光と腐敗。森の最深部に住んでいて、迷い込んだプレイヤーを触手で圧殺してくる困ったヤツだ。ドラクエでは最弱の名を欲しいままにしているスライムだが、舐めて掛かると気付けば死んでる。

 リチェットが狼煙を上げた。それが合図になったのだろう。立て続けにアナウンスが走る。


【GunS Guilds Online】


【アノ子ガ帰リヲ待ッテイル】

【眷属ドモヨ 守レ 守レ 守レ……】


 何だ? いや考えるな。俺は先生を助ける。それだけでいい。それ以上は望まない。


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:レイド級ボスモンスターの討伐】

【制限時間:59.88…87…86…】

【目標……】


【神獣】【Eight-Order】【Level-2809】


 エッダ。暗示は八つの試練。八つの魔法環境を自在に作り出し、プレイヤーのスキルを利用して優位に立つ厄介なヤツだ。ョ%レ氏はエッダを高く評価している。それは、やはり見た目が似ているからなのか。

 エッダは強い。正直、勝ち筋が見えない。しかし完全無欠という訳ではない。

 エッダの欠点。それは他のレイド級とは共存できないということだ。仮にヤツをプールから引きずり出せたなら、エッダの魔法は他のレイド級の邪魔になる。


【子ナド必要カ?】

【愚カナ使徒 哀レナ使徒 頭ガ悪イ】


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:レイド級ボスモンスターの討伐】

【制限時間:59.80…79…78…】

【目標……】


【公爵】【Spit-Duke】【Level-2114】


 スピンドック。暗示は何だろうな。串刺し公ってことになるのか。電撃を操る。草原の最深部に巣穴を掘って暮らしている。六体のレイド級の中では最弱だと言われてるが、舐めて掛かると気付けば消し炭になっている。ぽつんと幽体だけが取り残されるもんだから、え?これ俺なの?っていう衝撃体験ができるぞ。

 大多数のプレイヤーは薄々勘付いていると思うのだが、スピンドックの電撃魔法はエッダを海中から引きずり出すのに向いてる。というか必須なんじゃないか。


【頭ガ悪イ オ前モ一緒】

【土地サエアレバ 他ハ要ラナイ】


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:レイド級ボスモンスターの討伐】

【制限時間:59.71…70…69…】

【目標……】


【神獣】【Mare-Mare】【Level-3006】


 マールマール。暗示は海。重力を操る。寝ぐらは坑道の最深部にあるのだが、散歩している姿をよく見かける。アクティブなボスモンスターだ。綺麗好きなんだろうな。普通にボス部屋から出てきて定期的にゴミを一掃する。

 マールマールは運営側に強い敵意を抱いている。うまく誘導できればGMマレにぶつけることも可能だろう。しかしマールマールがマレを倒したところで俺たちには何の得もない。


【騙サレタ 騙サレタ】

【何ダ ココハ 息苦シイ 出セ 出セ】


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:レイド級ボスモンスターの討伐】

【制限時間:59.70…69…68…】

【目標……】


【使徒】【Burn-Hail】【Level-2740】


 ネフィリア……。ワッフルをわざと最後に置いたな。マールマールの述懐を聞くためか。とっさにそういう判断ができるから、あの女は厄介なんだ。頭の回転が速すぎる。だから信用が置けないんだよ、お前は。

 ワッフル。暗示は火の雨。ご存知、最強のレイド級だ。だが固有魔法【心身燃焼】は攻撃的なスキルではない。神獣よりもレベルが低いのはそれに起因したものか。


 学校マップにニャンダムは居ない。五体全てのレイド級が戦闘態勢に入ったことになる。

 校舎全体が激しく揺れている。巨大化した教師陣が校舎を突き破ったのだろう。グラウンドから眺めれば、さぞや壮観な光景を拝めることだろうな。レイド級ウォッチングと洒落込みたいところだが、生憎と俺には他にやるべきことがある。

 俺は校長室のドアを蹴破った。窓の前に立ち校庭を見下ろしていたマレがこちらを振り返る。


「冒険者ペタタマ……」

 

 よう。マレ。来てやったぜ。


 命の火が燃えている。


【条件を満たしました】

【パッシブスキルが発動します】


【女神の加護】

【Death-Penalty-Cancel(人には譲れないものがある)】

【Stand-by-Me!(あなたの操り人形ではない)】




 これは、とあるVRMMOの物語。

 決戦の火蓋は切って落とされた。



 GunS Guilds Online


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[一言] 全てがメチャクチャ急 シナリオ暴走特急かよ
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