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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
125/964

三限。体育

 1.ギスギス学園-Z組教室


 強制召喚されるなりサトゥ氏に壁ドンされた。


「どうして【目抜き梟】なんだよ?」


 この濃厚な人間関係と来たらどうだ? 

 俺は溜息を吐いた。

 あのなぁ、サトゥ氏。俺は別にお前らの味方って訳じゃないんだよ。【目抜き梟】にしてもそうだぞ。たまたま面白そうだったから付き合っただけだよ。


「じゃあウチのリチェットをプロデュースするのもアリなのか?」


 ええ? リチェットぉ? いや、それはちょっとどうかなぁ。


「何でだ? ウチのリチェットの何が不満だ?」


 いや、不満って訳じゃないんだけど。黙って立ってればおしとやかな感じなんだけどさぁ。戦ってる時とか瞳孔開いてるし、キャラ的にちょっと……。

 俺はサトゥ氏の追求を適当に躱しながら問題のリチェット隊長殿をチラ見した。

 隊長殿はネフィリア、ピエッタとお喋りしている。Z組の数少ない女子生徒だ。普段は敵同士だが、学校では仲良くやって行こうということだろう。アンパンが周りをちょろちょろしている。ネフィリアは怖いが機嫌は取っておこうという魂胆が透けて見える。

 ピエッタが人数分の制服を取り出し、三人に手渡した。三者三様の面持ちで手元のブレザーとプリーツスカートをじっと見つめる。


「……ピエッタ。これは何のつもりだ?」

「へー。制服か。器用なもんだな」

「ピエッタさんてもしかして服屋なの?」


 ピエッタはアンパンの質問をチョイスした。


「崖っぷちから聞いてねーのか? 仕事柄、服は自分で作れた方が都合いいんだよ」


 足が付くからな。

 ピエッタは悪名高い詐欺師だ。整形チケットを駆使してNPCを装うその手管は、まるでファントムドリブルのように防ぎようがない。

 リチェットが制服を広げてへーへーと感嘆の声を上げている。


「いや、でもさ。これ変なコスプレみたいにならないか? ピエッタとアンパンは似合いそうだけど、私とネフィリアはキツいだろ」


「キツいとは何だ」


 ネフィリアが食いついた。変な食いつき方をした。


「リチェット。私を甘く見るな。私のキャラクリはありとあらゆるイベントを想定したものだ。ヒーラーだからと、とりあえずシスターっぽくしたお前と一緒にするな」


「し、失礼なヤツだな……。いやいや、キツいものはキツいって。私ですらキツいもん。オマエはもっとキツい」


「ほう。自分の方が似合うとでも言いたげだな?」


 待て待て。俺が割り込んだ。待てって。お前たち、変なコトで言い争うのはやめなさい。

 ったく……。お前らは本当に何も分かってねえな。いいか? お前らは何か勘違いしてるようだが、同じ制服モノでもJKモノと着せちゃいました系は別物なんだよ。JKモノについては置いておこう。言われんでも分かるだろ。若いチャンネーに惹かれるのは男なら当然だ。問題は着せちゃいました系だな。例えば人妻がよー。熟れた肉体に制服を着て恥じらってる訳よ。その恥じらいが大切なのね。分かるか? 言われて仕方なく着たけど実は内心満更でもなくて、大人のズルさを秘めつつも無意識の内に十代のトキメキを思い出して身体は反応しちゃうっていう、そういう一言では言い表せない複雑さがイイんだよ。それをお前らと来たら似合うだの似合わないだの……。そうじゃねえんだ! 似合わないからこそイイんだよ! グッと来るんだ! それを、お前らは……!


「コタタマ氏っ……!」


 興奮して喚き散らす俺を、サトゥ氏が後ろからガッと抱きとめる。


「いいんだ。もう、いいんだよ……! お前の気持ちは、十分伝わったから。な?」


 あ、ああ。そ、そうか。

 だが伝わり過ぎたようだ。女性陣の眼差しが恐ろしく冷たい。

 ふう。俺は呼吸を整えてピエッタに声を掛けた。ニコッと微笑み、


「男子用の学ランとかも作ってくれたのか?」


「ねーよ。野郎を着せ替えしても仕方ねえだろ」


 それな。やっぱピエッタさんは分かってるわ。賢い子やよ。俺はピエッタさんの頭をナデナデした。「さわんな」と跳ね除けられたけど、俺は満足だ。まぁ俺の性癖については同意を得られなかったようだが。

 いや、そうでもないのか? アンパンの野郎が俺に抱きついてきた。


「旦那ー!」


 おお、どうした。キメェな。離れろよ。


「旦那ぁ。ネフィリアが俺を無視するんだよ〜!」


 あん? ああ、そういえば俺ら三人が揃うのは久しぶりだな。旧ネフィリアチームだ。アンパンはネフィリアの元手下である。

 俺はアンパンの頬を手でガッと掴んだ。テメェ、アンパン……。ネフィリアがダメなら俺に泣きつくのかよ? お前ん中じゃ俺はネフィリアの下ってことか? 気に入らねえぜ。


「ち、違うよー違うよー。それは、だって仕方ないじゃんかよー。旦那はネフィリアの弟子なんだから〜」


 何も違わねえじゃねえか。ちっ、お前よー。その長い物に巻かれるトコ直せよなー。

 ネフィリアに無視されるだ? そりゃあネフィリアの性格上そうなるだろうよ。ココじゃ情報収集が優先事項だ。お前は口が軽すぎるんだよ。まぁ気にすんな。別にお前が嫌われてる訳じゃねえよ。


「えっ。ホント? 良かった〜。俺、てっきり殺されるのかと思った〜」


 よしよし、お前は素直なバカだなぁ。

 バカとハサミは使いようだ。アンパンの野郎は俺の大切な金づるだからな。俺はアンパンの頭を撫でくり回して歯列をギラつかせた。学校もそう悪かねぇな。こうやって金づるとの関係を強化できる。



 2.ギスギス学園-職員室前廊下


 それなのに、どうしてこんなことになるかな?


 Zoo……


 廊下の曲がり角に身を潜めたマールマール先生が職員室の様子を窺っている。

 なお、訳も分からず教室から連れ出された俺らZ組のメンバーは既に半壊状態だ。途中で足音を立てたのがマズかったらしい。

 廊下を歩く時は足音を立ててはならない。そのような校則はつい先日までなかった筈だ。新ルールの追加だと……。

 マールマールの陰に身を隠している俺の隣に、さっとセブンがしゃがみ込む。そう、驚くべきことにこの死に急ぎはまだ生き残っていた。小声で俺に尋ねてくる。


「崖っぷち。何だコレは。俺たちは一体何をやってるんだ?」


 俺はちらっとマールマールさんを見上げた。マールマールは動かない。

 セブンめ、危ねえ橋を渡りやがる。マールマールの耳に届いたら事だぞ。

 何だこれはってか。知るかよ。だが、予想は付く。マールマール先生が俺たちを職員室の前に連れて来た理由。それは……。

 暗殺の授業だ。

 標的は教頭のポポロンだろう。つい先日、サトゥ氏がエッダを強襲したのを見て思い付いたに違いない。発想が安直っつーか……。だが、級長のネフィリアは俺とは違った見解を持っているようだ。


「ポポロンの最大射程は未知数だ。【全身強打】には非生物を透過する性質がある」


 ……やろうと思えばマールマールに一方的な打撃を与えることができるということか。その際、生徒は巻き添えになるだろうが。ポポロンには自由自在に操れる触手もある。改めて考えると本当に厄介な使徒だな。

 そう、一介のZ組担任教師のマールマールが校長のマレをブン殴るためには、最低でもポポロン教頭か保健室の先生ワッフルのいずれかを始末せねばならない。

 マレは脆い。不意を突くことができれば一対一の戦いに持ち込める。しかしポポロンとワッフルが揃っていては無理だ。

 つまり、この場でポポロンを始末することができれば……。


 職員室のドアがガラッと開いた。中からポポロン教頭がずるずると這い出てくる。俺たちは息を潜めて襲撃のタイミングを窺う。

 ! 気取られたか? ポポロンがぴたりと動きを止め、わらわらと触手を伸ばす。宙を探るような仕草。

 ま、マールマール先生。これ以上は、もう……。しかしマールマール先生は動かない。何か……確信めいたものがあるのか?

 いや、違う。マールマール先生はじっと俺たちを見つめている。こ、こいつ……。俺たちに捨て石になれと言ってやがる。

 だが、ここはやるしか……。

 ダッとピエッタが逃げた。なに!? 俺は瞠目した。完璧なタイミングだった。あの似非ティナン、俺のモーションを盗みやがった! ええいっ、南無三! 俺は奇声を上げてポポロンに突っ込んだ。

 しかし、やはりポポロンは俺たちの存在を感知していたらしい。俺はたちまち触手に捕まって放り投げられた。職員室のドアを突き破って床にごろごろと転がる。すかさず跳ね起きた俺は、目に力を込めてハッとした。押し広げられた視界の端に、何か白いものが見えた。嘘だろ……?

 俺は振り返って見た。


 職員室の片隅。

 ウサギ小屋のようなものが。

 その中で、先生が懺悔していた。

 ……いや懺悔じゃない。あれは先生の趺坐スタイルだ。


「せ、先生……」


 俺はふらふらとウサギ小屋に近付いていく。どうして。先生が。こんな……。

 衝撃的な光景に頭が回らない。


「先生……!」


 ウサギ小屋と外界を隔てる網にしがみ付いて俺は悲痛な声を上げた。

 先生がぱちっとつぶらな目を開く。


「コタタマ。授業は……?」


 俺なんかのことはどうでもいいんです。

 先生。どうしてこんな……。

 俺の問い掛けに、先生はつぶらな瞳を細めた。


「コタタマ。私はこの学校に居てはいけない存在なんだよ」


 ど、どういうことです?

 だって先生は。先生は誰よりも……! 特別な……。

 俺の脳裏をョ%レ氏の言葉が過った。


(Goat。君は私を出し抜けるかもしれない唯一の可能性になった)

 

 称号、ですか?

 先生は観念したように頷いた。


「コタタマ。私はもう生産職にはなれない」


 それは、どういう……?


「試してみたんだ。私はクラフト技能を使うことができなかった。発動はできても、そこからどうしていいか分からなかった」


 先生はョ%レ氏から賢者の称号を得ている。先生がこんな理不尽な扱いを受けるとすれば、原因はそれ以外に考えられない。

 賢者。クラフト技能を使えない。それは、つまり……。


「私は内面的な干渉を受け付けなくなった。おそらくはそういうことだろう。……レ氏は私に【戒律】を刻むことができなかった。だから私を最後まで残したんだ」


 だからって、こんな……。

 許されるものか。こんな扱いが。

 先生! 俺は!

 俺の首筋にポポロンの触手がブッ刺さった。ちょっ、待てよ。今、先生と話してんだろ。俺、今ちょっとイイこと言おうとしてただろ。待てって。あっ、あっ、あっ……!

 俺は怪しげな体液を注入されて死んだ。

 俺は……先生を救ってみせる……。

 何があろうとも、だ……!

 GM……マレ!




 これは、とあるVRMMOの物語。

 迫る、カイワレ大根との決戦の時……!


 

 GunS Guilds Online


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