上から下へ。堕ちていく
1.マールマール鉱山-【敗残兵】前線基地
【敗残兵】の前線基地に遊びに来ている。
どうやら学校マップへの強制召喚は毎日ではないようだ。ちっ、不定期かよ。いっそ毎日なら計画を立てやすかったのに。……いや、違うか。新入学キャンペーンはョ%レ氏の置き土産という話だった。あのタコ野郎にとってはマレの暴走も読み筋だったということか?
いずれにせよ、計画は修正せにゃならん。ログイン傾向からターゲットを決める案はおじゃんだ。学生なんかはオイシイ獲物だと思ったんだが。ほとんど曜日でログイン時間が読めるからな。俺くらいネトゲーをかじってれば、特定人物のリアル情報をログイン傾向から割り出すのは基礎的な技術の一つだ。意識しなくても自然と分かってしまう。
毎日決まった時間に強制召喚されるなら、ほぼ確実にログインしているであろうターゲットの商品をごっそりと頂戴することも容易かった。予め顔見知りになっておいて実行当日に高額商品を並べさせたりしてな。だが不定期となると、この案は使えない。かと言って、毎日毎時ログインしてる廃人を敵に回すのはリスクが高すぎるからな……。
そう、廃人は味方にしておくべきなんだ。その中でも、特にコイツらは敵に回すと危ねえ。
「ペタ氏、ペタ氏。お菓子食べる?」
「ウチのメシ屋が作ったんだけどさ、ペタ氏に影響されて最近料理が上手くなったんだよね」
「感謝、感謝」
「なのにセブンはいちいち文句言う……」
「腹に入れば一緒とか言うんだよな。あの子は、まったくもう」
ネカマ六人衆だ。俺が見たところ、【敗残兵】にはスイッチがある。それがコイツら六人衆だ。アキレス腱であり逆鱗でもある。
多少からかっても大丈夫みたいだが、度を越した瞬間にサトゥ氏とセブン、リチェットを完全に敵に回すだろう。くわばら、くわばら。
そして無論のこと、俺は虎の尾を踏むような真似はしないのだ。財布が服着て歩いてるような連中だが、ネカマ六人衆の身ぐるみを剥いで簀巻きにして川に叩き込むことは避けようと思っている。
だが、六人衆の俺への評価は意外と高いようだ。
「ペタ氏にはウチの子たちがお世話になってるからね」
「特にサトゥとセブンはなぁ……」
「そう。あいつらは調子に乗ってる」
まぁあれだけの腕があればな。
同じ最高幹部のリチェットはすぐに感情を表に出すし猪突猛進なので扱いやすいタイプだ。そういうところが人気の秘訣なのだろうが。それに【敗残兵】のブレーキ役でもある。リチェットが居るからサトゥ氏とセブンは突っ走ることなく周りと歩調を合わせていられるのだろう。
それくらい、サトゥ氏とセブンは別次元のセンスを持ってる。六人衆が見出したという話だったが、よくあんなの見つけたな。リチェットも含めてだ。あの三人が揃って同じクランに所属してるというのが、もう何て言うか反則的だ。キセキの世代かよっつー。ライバル視されてる【目抜き梟】からしてみれば堪ったもんじゃないだろう。
「【目抜き梟】はいいよね」
「うん。リリララとモッニカは別ゲーの時から才能あると思ってたけど、このゲームで化けたね」
「でも一番大きかったのはやっぱり先生かな」
むっ、どういうことだ?
「んー。先生ってリアル性能が半端ないでしょ? 多分あの人、元々ゲーマーじゃないよね」
そうかもな。
「サトゥとセブンはね、トップ取って独走形態に入ると飽きちゃう面があるんだよね。先が見えたらダメっていうか」
うーん。イマイチ共感できねえな。トップが嫌なら縛りプレイすればいいんじゃねえか?
「オンゲーだとそういうのはわざとらしくてイヤみたい」
ワガママな奴らだな。
「だよ。わがままなのね。だから先生が居てくれて良かったなって」
おい、一言にまとめるなよ。スゲー興味ある。察するにβ時代の話か?
「うん。俺らは抽選に漏れたから居なかったんだけどね。別ゲーで合流して話だけは聞いてたのよ」
「いきなりフィールドに放り込まれて大変だったみたいだよ。サバイバルに近いかな?」
「星の見方とか植物の知識とかさー。いくらゲームやってても身に付かないでしょ?」
「サトゥははしゃいでたな。Goatさんが凄いGoatさんが凄いって。毎日のように」
サトゥ氏は戦うしか能がねえからなぁ。
「先生のことはセブンも渋々認めてたよ。あいつは効率大正義だからさ、のんびりしてる先生に、いつも勿体ねえ勿体ねえって言ってた」
セブンは勿体ないお化けだからなぁ。
「β組じゃないけど、ペタ氏のこともよく誉めてるよ。ついに俺が全力を出せる相手が現れたって」
え? なに? 俺、あいつらに殺されるの? なんでそういうことするの? 本気出したいなら、まずネフィリアを何とかしろよ。
「ネフィリアはダメだよ。女キャラだもん」
ああ、そういうのあるよね。女キャラには優しくみたいな風潮。でも関係ねえだろ……。ネフィリアは俺の完全上位互換だよ。
この前、ガチで喧嘩売ったらさぁ。俺、コテンパンよ。罠に嵌めるつもりで嵌められたよ。しょせん俺はネフィリアの劣化版なんだって思い知らされたね。
「俺らに言われても困るよぉ。よく分かんないけど、No.2に手を焼いてるっていう構図が気に入ってるんじゃない?」
その気持ち、なんか分かるから嫌だなぁ。
要はアレでしょ? トリコのライバルは三虎じゃなくて飽くまでもスタージュンみたいな……。
まぁいいや。他の連中は新マップの調査だろ? 地下通路だったな。何か進展あった?
「うん。あのマップ、ヨロダンと直結してるかもしれない」
マジかよ。……水か?
「そう。成分調査の結果が出た。ほぼ同一」
……ヨロダンに絶えず流れてる水は新マップに降ってる雪が溶けたものだったということだ。もしくは上下で循環している。いや、もしも地上と地下で循環なんてことができるなら、もっとスケールが大きいものなのかもしれない。謎は深まるばかりだ。
くそっ、俺は普通にゲームしてえんだよ。なんでわざわざややこしい設定をブチ込んで来るかな?
じゃあヨロダン以外の常設ダンジョンにも何か裏があるって話になるじゃねえか。そういうのは要らねえんだよ……。
だが、今のところサトゥ氏は派手には動いてないようだな。ヤツは鬼武者を使って何か企んでいる。鍵は赤カブトになるだろう。サトゥ氏……。どこまで読んでる? 俺の考えが正しければ、鬼武者はおそらく二度と目覚めない。
そして、俺が今日【敗残兵】のクランハウスを訪ねた目的は別にある。
俺はゆっくりと席を立った。
長居して悪かったな。そろそろ帰るわ。
「あ、そう? じゃ、これ……」
ネカマ六人衆がすすすと整形チケットの束を差し出してくる。
俺は眉をしかめて手を振った。やめてくれ。そんなつもりで遊びに来たんじゃねえ。
コイツら口が軽いからな。ハイそうですかと受け取る訳には行かねえ。
「でも、ほら。ペタ氏にはウチの子たちがお世話になってるから」
そう言ってネカマ六人衆は整形チケットの束を強引に俺のポケットに突っ込んでくる。
「気持ちだから。気持ち。今後もヨロシクってことで。ね?」
ちっ。そうまで言われちゃ仕方ねえな。
一応、礼は言っとくぜ。ネフィリアからせしめるにも限度はあるからな。
俺はぺこりと頭を下げた。あざーす!
ネカマ六人衆に見送られて【敗残兵】のクランハウスを出た俺は、整形チケットの束をポケットから取り出してぺらぺらと数えていく。
ふん。10枚か。毎度のことながらシケてやがんな。懐には余裕があるだろうに。気前良く100枚くらいポンと寄越しても罰は当たらねえと思うんだが。
月明かりの下、俺は整形チケットの束をポケットに突っ込んで歯列をギラつかせた。
無課金、微課金はしょせん二流、三流よ。
一流の課金戦士はな、他人の金で遊ぶのさ。
これは、とあるVRMMOの物語。
ヒモ、更なる境地へ。
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