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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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胸ときめく春のヨカン☆

 1.山岳都市ニャンダム-露店バザー


 今日はアットムくんとバザーで待ち合わせ。

 新マップ関連のゴタゴタがひと段落……いや、むしろ厄介事は上乗せされた感すらあるのだが、物事には順序というものがある。いい加減に人間関係を整理しなくてはならない。小さなことからコツコツと。

 ただ、本当に小さなことから手を付けてしまうと、その間に緊急を要する問題が爆発しそうなので、ある程度は優先順位をつけて処理せねばならない。

 極めてヤバいのは赤カブトの件だ。何もかもが中途半端になっている。だが爆発まではまだ間があると見たぜ。

 ウィザードの転職条件がクソ過ぎる案件もヤバい。ヤバいというか、既にヤバい。ただ先生には飛び火していない。よっていったん保留。

 ウチの三人娘が俺を殺そうとしてくる件に関しては後回しだ。俺は廃人ではないので、限られたログイン時間を有効に使わなくてはならない。構ってられん。

 新マップはもういい。何かあったら後で誰かから聞く。世間では絶賛攻略中だが、俺の中ではいったん解決したと見なしていいだろう。済。

 ネフィリアに脅されて仕方なくやっているクラン潰しについては、解決する必要性を感じない。むしろ息抜きにちょうどいい。済。

 キャメルがやらかした件について……。俺の言動を捏造して、俺が魔族の秘術とやらでセブンを新種のモンスターに人体改造したことになっている。可愛い絵で誤魔化せると思ったら大間違いだぞ。俺、めっちゃ笑顔で雪だるま怪人の誕生を歓迎してるじゃねえか。キャメル……。あのクズ女はいつか殺す。先生に怪しまれないよう事故を装って殺す。しかし先生の目を欺くのは非常に困難であることがハッキリしたので、いったん保留だ。算段がついたら殺す。

 そしてブン屋つながりで今思い出したのだが、メルメルメの出所が近い。早急に手を打たねばならない。しかしそんな暇はないので、臨機応変とは名ばかりのぶっつけ本番で何とかするしかない。

 俺の可愛い暗たまはどうしてる? 会いに行ってやりたい。

 復讐に取り憑かれた新しいフレンズのサタウの動向が気になる。

 俺の可愛い部下ども、査問会は強化月間を進行中だ。少なくともトップクランを相手に俺の死を偽装できることは分かった。大きな収穫だった。

 シルシルりんに会いたい。シルシルりん成分が不足している。

 あと、リリララとの繋ぎが切れないよう小まめにささやき入れないとな。あいつは金になる女だ。モッニカ女史の存在も欠かせない。


 課題は山積みだ。しかし放っておけば時間が解決してくれるかもしれない。とてもそうは思えない案件だらけだが、俺はスパロボ大戦でボスボロットをレギュラーに入れる男。確率の壁を乗り越えることに関しては自信がある。大丈夫だ。やれる。


 本日のミッションはこれだ!

 ニジゲンの野郎に会いに行く。てっててー。

 ……何をされるか分からないので、アットムくんを連れて行く。アットムと組めば俺は無敵なんだ。

 アットムくん、遅いな……。

 俺はメニューを開いてティナン時を確認した。

 噂をすれば何とやらだ。俺が街角でそわそわしていると、アットムくんが通りの向こうから走ってきた。肉塊と化したゴミを引きずっている。


「ゴメンね、待った?」


 ううん、今来たトコ。

 定番の遣り取りを交わして、肩を並べて歩き出す。

 アットムくんは肉塊と化したゴミを引きずっている。重そうだね。持とうか?

 俺が提案すると、アットムくんはニコリと微笑んで手を振った。


「なんの。これくらい、軽い軽い」


 だろうな。アットムのレベルは20を越えている。サトゥ氏に匹敵する、空恐ろしいほどのハイペースだ。


「見苦しいよね。ごめん。ティナンの街を汚したくないんだ。処理方法に困ってる」


 おお、そういうことなら俺に任せてくれ。こう見えて意外と家庭的なんだよ。生ゴミの廃棄は得意な方だ。いいスポットを知ってる。

 俺はアットムと一緒に山登りした。テキパキと生ごみを地面に埋める。俺はスコップで地面をぺんぺんと叩きながら自説を披露した。

 やっぱり人間、こうやって還元しないとな。生態系っていう大きな枠組みの中に居ないと。そこは拘っていきたいよな。何かを返してやらないと。託されたバトンを次の走者に渡してやらないと。

 という訳で、俺はJKの野郎と会って話さねばならない。

 

「それなんだけどね。う〜ん……」


 だが、アットムはあまり気乗りではない様子だ。

 何か問題でもあるのだろうか。いや、問題があることは理解している。ヤツは許されざる裏切り者であり、かつ俺を付け狙っている変態だ。しかしアットムを悩ませているのは別のことのようだ。

 街に戻る道中、事情を詳しく聞いてみる。


「ニジゲンさんは戦える鍛冶屋なんだよね」


 そうだな。俺は頷いた。

 元々、このゲームの生産職はある程度戦える設計になっている。【スライドリード】の段階解放が発覚するまでは、むしろ近接職がクラフトできない生産職扱いされることもあったくらいだ。あまり表沙汰になることはなかったが。というのも、種族人間のレベルがゴミすぎて職ごとの比較が難しかったのである。

 性格の違いもあった。生産職を選ぶプレイヤーは基本的に荒事を嫌う。当然、戦闘経験も少ない。試しに同じレベルの戦士と薬剤師で力比べをさせてみても、戦士のほうが身体を上手く使えるぶん有利になる。

 ところが、データが揃ってきて検証チームが機能し始めるに伴い、戦士の正体はクラフトできない生産職であることが判明したのだ。

【スライドリード(速い)】の発見により既に解決したが……。生産職の相互組合で密かに問題視されていたロ号案件。ジョブ村人案件だ。

 村人とは、当時の戦士と準隊士を暗に指し示した隠語である。準隊士を村の若い衆と呼ぶこともあった。正式オープンから二ヶ月ほど続いた暗黒時代の出来事だ。

 その当時、目に映るもの全てが新鮮に見えていたプレイヤーたちは、どうにかして女キャラの服を剥ぎ取れないかと試行錯誤を繰り返していたらしい。そうしてごく自然と検証チームが発足した訳だが、皮肉にも彼らは自らの手でこのゲームは女キャラの服を剥ぎ取るゲームではないことを証明してしまうことになる……。

 所有権の特別ルールの発見だ。いや、発見そのものは初日にされていた。何しろ下着と布の服はモンスターがどんなにがんばっても悟空の道着みたいに役目を全うしやがるし、下半身がレーザー砲みたいなので吹っ飛んでも蘇生するとキッチリ元通りになる。

 だが、検証チームは諦めなかった。いや、諦めたくなかったのかもしれない。彼らは野郎どもの希望の星だった。

 ……今でもハッキリと思い出せる。現在はムショにブチ込まれてしまっているが、検証チームの元隊長の敗北宣言は希望に満ち溢れていた。手錠を嵌められ、連行されながらもヤツは確かにこう言ったのだ。


 女キャラの服を剥ぎ取る方法は実在する。

 

 メルメルメ……。ヤツが長い投獄生活を終え、シャバに出てきた時、ヤツの身柄を巡って大きな戦争が起きるだろう。それは確定した未来だ。

 だが、今はとにかくニジゲンだ。鍛え上げられたネット仙法を駆使して俺に優しい世界を作り上げようとしているニジゲンさんに借りを返さねばならない。最悪、俺はホモになるかもしれない。それほどまでに強い危機感を覚えている。

 アットム……。本当に頼むぞ。お前だけが頼りだ。俺をしっかりと捕まえていてくれ。


「コタタマは僕のものだよ。他の誰にも譲るつもりはない」


 心強い言葉だ。

 だが、くれぐれも油断はしないようにな。

 そう、JKの野郎が戦える鍛冶屋だっていう話だったな。アットム。お前の言う通りだ。

 ヤツの才能はズバ抜けてる。それはクラフト技能に限った話じゃない。鍛冶の技を戦闘に転用するセンスが高く、何をやらせてもコツを掴むのが早い。いわゆる天才というやつだ。

 鍛冶屋をやってれば分かるのだが、客の注文なんてものはまったく当てにならない。ヤツらは戦闘のプロではあっても鍛冶に関しては素人だからだ。注文通りの物を作っても文句を垂れる。それが客だ。ぶっちゃけた話、初っ端から上手くいく訳ねえって知ってるから失敗の責任を押し付けるために注文を聞いてる。

 では鍛冶屋に全部任せればいいのか? 答えはNOだ。俺らは俺らで現場のことを一から十まで全て把握している訳ではない。聴き取りしようにも限界がある。

 結局のところは武器を打ってみて実際に使って貰い、一つずつ問題点を洗っていくしかないのだ。

 そうだな……。ダーツに似てる。何度か投げて的に近付けていく感覚だ。一投目の感触が手に残ってるから二投目、三投目がちょっとはマシになる。あの感覚だ。

 だが、世界は広い。中には一発目で的に当てるヤツも居る。それがニジゲンだ。

 要は、一流の鍛冶屋になりたいなら戦闘センスも磨く必要があるってことなんだろうな。どんな分野にも同じことが言えるんだろう。俺のような職人タイプは、複雑なことをするのに向いてない。多角的な視点を持たないからだ。

 そればっかりはどうにもならない。経験値稼ぎすらままならないのに、武器持ってダンジョン潜ってモンスターをブッ叩く暇などあろう筈もない。

 ニジゲンというネカマは、まるで金の成る木のようだ。もしも結婚イベントが実装されようものなら、俺はヤツを嫁にするかもしれない。

 だが、そのニジゲンに何かトラブルが発生しているようだ。アットムは俺に事情を説明した。


「あの人、凄い鍛冶屋なんだけど気まぐれっていうか。けれど逆に、だから上手く回ってたっていう面があるじゃない?」


 それは分かる。ニジゲンほどの腕があれば、客なんて放っておいてもあちらから押し寄せるだろう。しかし人格が破綻しているニジゲンのこと。ヤツは気が向いた時にしか武器を打たない。客を選べる立場に居たということだ。


「でも、ここ最近は何だか毒が薄れたみたいでね。以前は断っていたような仕事も引き受けるし、ちょっとオーバーワークなんじゃないかなぁ」


 そういえば、前に俺が愛したこの世界を守るとかキメェこと言ってたな。

 えっ。マジかよ。なんか俺が悪いみたいな流れじゃん。やめろよ。あいつ、何を一人で勝手に自分を追い詰めてるんだよ。結果的に俺の外堀を埋めてるじゃねえか。気付けば無人島で二人きりみたいな危機感を覚える。

 ヤバい。あいつが勝手にやったことと割り切るのは簡単だが、このまま放っておいたら俺がニジゲンのお嫁さんにされてしまいそうで怖い。

 くそっ、やはり俺は間違っていなかった。ニジゲンを早く何とかしないと大変なことになる。

 急ぐぞ、アットム!


 山岳都市に舞い戻った俺とアットムは、相互組合が間借りしている基地に急行した。

 ニジゲンは組合の幹部だ。特定のクランには所属しておらず、組合の基地をヤサにしている。

 俺は斧を担いで基地に踏み込んだ。


「俺だ! JKを出せ!」


 学校の教室のような空間に出た。

 あれ? 組合の基地ってこんな感じだっけ? 俺の知らない間に模様替えしたのか? なあ、アットム……。

 おっと、アットムくんが居ない。あれほど俺をしっかりと捕まえておけと言ったのに。

 まぁね。俺もバカじゃないからさ。何かワープ的なあれが起きたんだなってことは察してる。

 しっかし、ひでぇ面子だな。俺は教室の席に座っている面々を眺めて溜息を吐いた。

 まるで掃き溜めだ。

 見知った顔が多い。どいつもこいつも一級線の凶悪犯じゃねえか。ネフィリアとピエッタも当然のように混じっている。

 凶悪犯どもは教室に入って来た俺を見て、絶望的な表情を浮かべた。


「やっぱり最底辺なんだ……」

「……バンシーさんだけは俺らの下だって信じてたのに」

「いや、俺は信じてる。きっとバンシーさんは性向値カンストしてるんだ。本来であれば俺らとは桁が違うんだよ」


 俺はクズどもにクズ呼ばわりされた。

 仕方ねえな。そんなに死にてえのか。お望み通り首を刎ねてやるよ。

 ぞろりと足を踏み出した俺を、しかしネフィリアがちょいちょいと手招きしている。


「コタタマ。私の隣に座れ」


 嫌だよ。俺はひとまず拒絶してからネフィリアの隣の席に座った。ピエッタとネフィリアに挟まれる形だ。つまり俺はピエッタの隣に座ったことになるな。

 やい、ネフィリア。こりゃあ一体何事だ?


「強制転移だろうな。扉を開けるという行為がトリガーになっているようだ」


 そうそうたるクズメンバーが集まっているようだが、偶然か?


「無意味な質問をするな。見ての通りだ」


 特別クラスか。まさしく掃き溜めという訳だ。そして俺の知る限りにおいて、現在は豚箱で健気に暮らしている筈の連中は見当たらない。牢屋にブチ込まれているクズどもは対象外なのか、あるいは単に扉を開ける機会が少ないので合流できていないのか。

 ……だが腑に落ちねえ。どうしてこの俺がクズどもと一緒くたにされなきゃならねえんだ。

 俺は生まれ変わったんだ。コタタマ時代の前科はカウント外だろう。ペタタマ転生してからやったことといえば、ガムジェムを騙し取ろうとしたのとクソ虫どもと組んでプレイヤーを皆殺しにしたこと。あとはクラン潰しくらいだが、あれはネフィリアに脅されてやっていることなので俺は悪くない。

 くそっ、どうしてなんだ……!

 ピエッタ、教えてくれ……!


「十分すぎるだろ」


 もるるっ……。俺は悲しげに鳴いた。


【警告!】


 あ? 何だよ。


【レイド級ボスモンスター接近!】


 レイド級だと? まさか。いや。

 そのまさかだった。

 教室のドアがガラッと開く。

 のそりと姿を現したのは、モグラさんであった。

 マールマール、なのか?

 すっかりコンパクトになっちまって……。眷属とそう変わらないじゃねえか。


 マールマールさんがぴしゃりとドアを閉めた。のしのしと教壇に上がり、物々しい鳴き声を上げる。

 

 Zooo……


 ガラッとドアが開いた。


「へ?」


 アンパンだ。間抜け顔を晒して、呆然と立ち尽くしている。

 教壇のマールマールさんがアンパンを見る。


「え? え?」


 アンパンは混乱している。

 マールマールさんがのしのしとアンパンに近付き、アンパンの頭を無造作に引っこ抜いた。アンパンは死んだ。

 遅刻したものは問答無用で殺されるようだ。


 教壇に戻ったマールマールさんは、俺たちを睥睨して低く唸った。


 Zoooooo……


 アナウンスが走る。


【Mare-Mareは生徒たちを見下ろし、厳かに言い放った……】


【お前たちは腐ったミカンである、と……】


 言ってねえだろ。勝手に吹き替えすんな。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 担任教師、マールマール。



 GunS Guilds Online


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