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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
106/964

見えた?勝利への道標……!

 1.クランハウス-玄関-物陰に潜んでいる


 ドラゴン戦隊……。

 それは、色とりどりのイカれた着ぐるみをメンバーに配布、恥ずかしいとかイカれてるとかいう俺の意見を黙殺した上で集結。

 共に新マップに突入し、メカドラゴンと真面目に戦っているプレイヤーの度肝を抜くという壮大な出オチ計画である。


 しかし一言でメンバー集結と言っても、これがなかなか難しい。

 主な原因は二人だ。

 一人はロリコンとして確固たる地位を築き上げている男。アットムだ。最近では段々知名度が増してきたようで、マップの奥地でからくりサーカスの鳴海兄ちゃんみたいなのが居ると話題になりつつある。見た目はまったく似てないが、凄みというか全生命力を燃やし尽くすような戦いぶりであるらしい。まぁね、俺は先生に言われてアットムと組んでいた時期があるからよく分かる。もうなんか擬音が違う。

 アットムのスケジュールはティナン中心であり、それはヤツの存在意義そのものなので覆すことができない。一人目の問題児はアットムだ。

 そしてもう一人の問題児が、この俺である。ごめんなさいね。せっかくアットムがスケジュールの合間を縫って駆けつけてくれても、俺のデスペナが嵩んで使い物にならなくなっていたりする。本当にごめんなさいね。

 その上、更にトラブルまで重なるともう本当にどうにもならない。トラブルに巻き込まれないためにはどうしたらいいのか。俺は考えた。そして結論を出した。トラブルを持ち込むアホを殺せばいいのだ。


「ペタタマさんはご在宅ですか?」


 そんなことを言ってウチの丸太小屋を訪ねてきた知らない人に、玄関口で赤カブトが対応している。


「えーと。どういったご用件でしょう?」


「これは失礼。私はこういったものです」


「はぁ……。ペタさーん。お客さ、ま……!?」


 名刺らしきものを受け取った赤カブトが振り返って俺を呼ぶ。しかし既に靴箱の横に潜んでいる俺と目が合ってギョッとした。

 硬直した赤カブトに興味を引かれたらしく、客人とやらがそっと丸太小屋の中を覗き込む。

 俺は息を吸った。


「す〜」


 オンドレぁ!


「ッッッお!?」


 ほう。今のを躱すとはな。

 とっさに首を引っ込めて緊急回避した客人に俺は感心した。

 俺はこれまでに数え切れないほどのゴミを始末してきた。そのほとんどが近接職だったが、俺の初撃を躱したヤツは数えるほどしか居ない。

 俺はか弱い生産職だ。脳筋の近接職とまともにやり合って勝てる訳がない。だから俺は、草食動物が健気に生きようとするように先制攻撃に磨きを掛けてきた。

 敵味方の判別を省略した俺のFAは、一級線の戦士にも通用するという自負がある。その俺の一撃を躱すとはな。大したもんだ。トーシローじゃねえな。刺客か。

 俺は靴箱の横からずるりと這い出して本日の刺客に迫る。どこのどいつだ、テメェ。依頼主を吐いて貰うぜ。


「ペタさん! お客様だって言ってるでしょ!」


 ジャム。お前は下がってろ。お前は甘いんだよ。

 客だ? 甘いんだよ。俺なら殺した。ドアを開けた瞬間に殺した。分かるか。俺が刺客だったなら、お前はもう死んでる。


「ペタさん。怒るよ?」


 よく来たな。俺がペタタマだ。上がってくれ。

 俺は客人を歓迎した。

 キャメルっていうのか? 名刺、見たよ。俺は目が良くてね。ちらっとでも視界の端に入ればキッチリ見えるんだ。リアルで同じようにはいかないのがツラいところだ。電車ん中で役立ちそうなんだがな。男は電車の中じゃ一人のハンターになるのさ。視界の端で常に獲物を探してる。飢えてるんだ。愛にな。ああ、名前の話だったな。キャメルか。いい名前だ。キャミーと呼んでも?

 俺はウィットなジョークを交えながらキャメルを居間に誘った。

 居間で待ち構えていたポチョさんが、いきなり凶器を抜いた。


「ほう、ここに来たということはコタタマを突破したか。しかしコタタマは生産職……。私は同じようには行かないぞ。コタタマの敵討ちナリ」


 ポチョさん、落ち着いて。見ての通り俺はぴんぴんしてるよ。四天王ごっこはまた別の機会にしよう?

 しかしポチョは止まらなかった。


「さあ! 回復してやろう! 全力で掛かってくるが良いよ!」


 回復せんでいいから。仕方ねえな。角砂糖を二つやる。二つだぞ。それっ。

 俺は角砂糖を二つ投げた。


「ぱくっぱくっ」


 ポチョは見事に角砂糖を二つ口でキャッチした。よーしよしよしよし! 俺は上手にキャッチできたポチョを撫で回してやった。ご満悦の洋モノをぬいぐるみのように抱きかかえてソファに座る。

 で? 何の用だ?

 テーブルを挟んで向こう側に座ったキャメルに俺はクールに問い掛けた。

 キャメルは興奮している。


「聞きしに勝る爛れぶり……! す、素晴らしい!」


 爛れちゃいねえよ。失礼な女だな。何だってんだ。

 キッチンに引っ込んだ赤カブトが人数分の湯呑みを持ってきて急須でお茶を注ぐ。


「粗茶ですが〜」


「ああ、これはご丁寧に! お構いなく!」


 お約束の遣り取りを交し、お茶を一口啜ってからキャメルはぐっと身を乗り出した。


「ペタタマさん。話というのは他でもありません。クラン【学級新聞】のブログに出演してくれませんか?」


 また面倒臭え女が面倒臭え話を持ち込んできやがったな。

 俺は嘆息した。



 2.出演交渉


 クラン【学級新聞】のキャメル。

 俺は知らないふりをしたが、普通にこのゲームで遊んでたら嫌でも耳に入る名前だ。

 オンゲーはざっくり言うと「人間」を売りにしたゲームなので、様々なプレイスタイルがある。中には、プレイヤーの立場からゲームを宣伝してユーザーを増やすことに生き甲斐を感じるプレイヤーも居る。

 簡単に言えばブン屋だ。

【敗残兵】や【目抜き梟】の生放送に関しても同じことが言えるのだが、宣伝の目的は第一に知って貰うこと。その先にある興味を持って貰うことは、実のところ二の次だ。十人を熱心に勧誘するよりも、千人に知って貰うほうが労力は同じでも大きな見返りを期待できる。

 例えば、スマホをいじってるとウザったいくらいエロい広告が入るだろ。ウザすぎて逆効果なんじゃ?とすら思うだろうが、そんなことはないんだ。本当に逆効果ならわざわざ金掛けて広告しないさ。まぁエロい広告が流れるのは知らない内にエロに興味がありますよと発信しててスマホがエロカスタムされてる所為らしいがな。

【学級新聞】は広告活動をメインに掲げる中堅クランだ。ブログはその一つである。


 キャメルは指で輪っかを作ると、意地汚い笑みを浮かべた。


「ペタタマさんには、いえ、もう言っちゃいますけど。コタタマさんにはね、ヤラシイ話ね、大分コレをね、稼がせて頂いておりまして。へへへ……」


 このクズ女はクラン【学級新聞】が抱える絵描きの一人で、やたらと可愛らしい絵を描くことで知られている。このゲームの画像データは加工することができないので、代わりに絵を描いてブログに掲載するのだ。

 よっぽど山に埋めてやろうかと思ったが、そういう訳にも行かない事情がある。


「先生にもご贔屓にして頂いておりまして、本当に【ふれあい牧場】さんにはね、お世話になっております。ぐふふ……」


 くそっ、殺してえ。だが殺せない。俺の敬愛する先生は【学級新聞】のブログを楽しみにしているようで、たまにコラムを寄稿しているのだ。

 ……で? ブログに出演ってのは何だよ? お前ら、いつも俺に無断で俺の記事を勝手に書いてるじゃねえか。言っとくが、先生と関わりがなかったらお前らとっくに土の下だぞ。先生に感謝しろ。


「ええ、もちろん。感謝しておりますよ。へへへ……」


 それでですね、とキャメルは居住まいを正した。切り替えの早い女だ。


「コタタマさんって、メチャクチャお喋りじゃないですか。女子の長電話ですか?ってくらい、いつもピーチクパーチクお喋りしてますよね」


 そんなことねえよ。俺は無口キャラを目指すなんて企画もあったなと思い出して、ひとまず否定した。

 キャミーさんよ。お前さんは知らないだろうが、俺ぁ普段は大人しいんだぜ。まぁ自分で言うのも何だけどよ、寡黙っつーかクールっつーか。内に情熱を秘めるタイプなんだよ。こうして人前でぺらぺらと喋るのは周りに気を遣ってのことなんでね。そこはやっぱり常にアンテナを張ってる訳よ。例えば、お前なんかは金髪碧眼じゃん? そうすると気を遣うタイプの俺なんかはウチのポチョとカラーリングかぶってるなぁとか思う訳よ。なんだよ、同キャラかよって思う訳。回り回ってのスタンダード西洋かぶれなんだなって思うよ。でも口に出しては言わないのね。そこはやっぱり個人の自由だと思うし、そっちの話を広げてくと俺としてはシルシルりんに触れざるを得ない訳じゃん? シルシルりんって知ってる? ああ、知ってんの? なんで知ってる? 事と次第によっては殺すぞ。まぁいいや。で、話を戻すけど。……ん? ポチョ、どうした?

 腕の中で身じろぎをしたポチョが青い目ん玉でじっと俺を見つめている。よっこらせ。俺はポチョを抱え直して話を続けた。

 まぁそういう訳なんでね。ぺらぺらと口を回すのは俺なりの処世術なんだよ。別に好きで喋ってる訳じゃねえんだ。ただ、まぁ一つだけ言えるのは、


「長いです!」


 うるせえな。最後まで喋らせろ。いいか、キャミー。


「わーわーわー! やだー! 私たちの業界でコタタマさんにインタビューしに行ったらそのまま締め切りブッチしたっていう伝説がっ……!」


 ばか、そりゃ違うよ。俺の知り合いのブン屋でな、どうしても誌面が埋まらねーっていうアホが居たんだよ。で、どれくらい埋まらねーんだよって、俺。そしたら四コマ漫画しか上がってねえって言うからよ。じゃあ四コマ漫画を引き延ばしたらって話になったんだよ。振り向きアクション入れたり、場面の俯瞰図入れたりしてな。そしたら無限に引き延ばせたもんだから、締め切りヤベーって言いながら余裕でブッチしてたんだよ。そしたらあの野郎、まぁメルメルメの野郎だよ。あいつ、誌面にお詫びの文面を載せるっつって、俺と話してたら三日経ってたとか大ボラ吹きやがったんだ。最終的には64コマだったか……。キリがねえってんで無理やり切ったんだが、薄いブラックジャックみてえになったな……。まぁゲームん中で書いたから加工できねえよってことに気付いて最後にまた一悶着あったんだが、それはまた別の話だ。

 そして歴史は繰り返す、か。

 やい、キャミー。ネタがねえなら正直にそう言えよ。四コマは上がってんのか? ん? どうなんだ? 言ってみな。


「四コマとかウチは載せてませんから!」


 何だよ、つまんねえな。せっかく俺のノウハウを伝授してやろうと思ったのによ。

 いやいや、違ぇな。違ぇよ。そうじゃねえ。おい、まったく話が先に進んでねえじゃねえか。これが週刊連載なら俺のベシャリで一話潰れるトコだぞ。ったく、油断も隙もねえな。つまりお前は何を言いたいんだよ?


「ですから! もう……何を言おうとしてたのか忘れたじゃないですかー! 話、長すぎ! 話、長すぎ!」


 キャメルは憤懣遣る方ないとばかりに両手をブンブンと振った。

 キャパ小せえなぁ。それでもブン屋かよ? 俺が喋り好きって話だよ。


「そうでした……。あの、つまりですね。【ふれあい牧場】の皆さんってとても個性的ですから。ブログなんてどうかなって、私はずっと思ってたんですよ」


 ウチはそういうのはやらねえな。ウチの子たちがどう考えてんのかは知らねえが、俺は単純に面倒臭い。先生は、どうかな……。ちょっと想像しにくいけど、ゲームの話してたら最終的に相対性理論とかに行き着きそうだから自重してるんじゃねえかな?

 キャメルは「分かる」と頷いた。


「でしょ? でもね、私は野次馬が大好きですから、四六時中皆さんに張り付いてる訳には行かないんです。けど、この前の生放送……」


 ……ああ、俺の命乞いSPね。俺がちらりと赤カブトを見ると、俺の命乞いを全国ネットで晒した仕掛け人は頬を赤らめてもじもじし始めた。俺は見なかったことにした。視線をキャメルに戻す。

 あれが……どうした? 俺は元気がなくなった。


「いえ……。なんか、ごめんなさい。……あれを見て、なかなか、その、事件性の高い日常生活を送ってらっしゃるな、と」


 事件性が。なるほど。つまり?


「口数少なっ。急に少なくなった……!」


 うるせえな! 放っとけよ! いちいち回りくどいんだよ! スパッと言え!

 俺に一喝されて、キャメルはスパッと赤カブトを指差した。


「【ふれあい牧場】新メンバーのジャムジェムさんにブログを書いて貰おうというのが今回の企画ですっ!」


 赤カブトは首を傾げた。


「ブロ……グ?」


 ウチの熊さんはブログという概念を生まれて初めて耳にしたご様子だが……。

 キャメルの話はこうだ。

 ブログを書くにあたって、最も難しいのが初心者の視点を保つことであるらしい。

 新規ユーザーの赤カブトならばその点は間違いない。何かと世間をお騒がせしているウチのメンバーということで話題性に関しても申し分ない。

 残る問題は技術力ということになる。そこでキャメルの出番という訳だ。

 俺の醜聞を面白おかしく誌面に起こして甘い汁を吸ってきたクズ女が赤カブトをサポートし、ブログを立ち上げる。赤カブトが日々思ったことを書き連ね、ネタに困ったら俺が死ぬ。完璧な計画だ。


「帰れっ!」


 俺はキャメルを丸太小屋から叩き出した。


「絶対にウケますよ〜!」


 うるせえ! ジャム、塩撒いとけ! 塩!

 


 3.翌日


 その翌日の出来事である。

 性懲りもなくウチの丸太小屋に突撃してきたキャメルが開口一番こう言った。


「コタタマさんっ、見ましたか?」


 見てねえよ。まずはスカートの丈を短くしろ。話はそれからだ。


「パンチラではなく!」


 パンチラの話じゃねえの?

 ちっ、妙だとは思ったぜ。俺がパンチラを見逃すとは思えねえしな。

 パンチラの事実はなかったと主張するキャメルに、俺は朝から損をした気分になった。

 どうしてくれるん? せっかく今日はメンバー全員で新マップに行こうって話してたのによぉ。お前、ちょっと責任取ってそこでくるって回れ。俺がスカートの端を摘んでてやるから。

 俺のキレのあるセクハラトークに、キャメルは慌てふためいた様子で俺の卵焼きを奪って食った。


「お下劣か! あっ、美味しっ」


 金取るぞ。何なんだよ。朝から落ち着きのねえ女だな……。

 いいから座れ。立ったまま物食うんじゃねえよ。おい、何言わせてんだ。俺はお前の担任教師か。なんで一緒に朝メシ食う前提で話が進んでるんだよ。いや食わせるけど。

 俺は予備の茶碗にメシをよそった。

 ちゃんとメシ食べてんのか? 朝メシを疎かにしたらコタタママ怒るよ?


「ゴチっす。わあっ、美味しそう! じゃなくて!」


 キャメルはノリツッコミした。浅いなぁ。もうちょっと粘れたんと違うか?


「ええ? 先輩芸人みたいなことを言い始めた……。いえ、そうではなくてですね」


 キャメルはこほんと咳払いして気を取り直した。茶碗を手に取り、俺が差し出した箸をもう片方の手に握る。完全にメシ食いスタイルに移行したキャメルが、テンションを無理やり揺り戻して叫んだ。


「レ氏がっ。あのタコ野郎がドラゴン攻略動画を公式サイトにアップしました! これはっ……プレイヤーへの挑戦状ですよ!」


 そうなん? まぁ話はあとで聞くわ。

 いいからメシ食べ。いつまで経っても食器片付かんでしょ。まったく……。仕方のない子やよ。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 モンスターと戦うゲームです。



 GunS Guilds Online

 


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