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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
101/977

明日へ

 ギスギスオンライン。

 掲示板などで、このゲームはギスギスオンラインであると言われている。

 タイトルを縮めるとGsGsOnlineになるということも理由の一つなのだが、やはり最たる要因はプレイヤーのガラの悪さであろう。

 非VRとVRMMOの大きな違い。それは生の迫力だ。実のところシステム面においてVRMMOはココが凄いっていう部分はあまりない。もちろん得体の知れない技術が使われているから、技術的に凄いなっていうトコはある。例えばチャンネルなんかがそうだ。強い影響力を持つプレイヤーは全チャンネルをまたいで存在しているというが、一体何をどうすればそうなるのかまるで分からない。

 しかしもっと単純に、収容人数を越えたプレイヤーは別のチャンネルに割り振られるというシステムに目を向けるとどうか。それは、まるで驚くべきことではない。何なら最近のフルオープン型のオンゲーなら標準で搭載されてるくらいだ。このゲームならではの特徴とは言えない。

 つまりVRMMOの特徴は何かと問われたならば、答えは生の迫力なのである。もっと言えば、脅しが絶大な効果を発揮する。その一点に集約されるだろう。


「んだぁーるるるるぁー!」


 人間一人の力などちっぽけなものだ。誰かを守ろうとするなら、自分自身を大きく見せるしかない。


「なんか文句あるんかボケがー! 地の果てまで粘着されたいんか!? 舐めんな三下がー!」


 弱みを見せれば付け込まれる。

 誰かを守るために全力で脅しに掛かれる、この俺こそが新時代のヒーローと言えるだろう。


 マールマールさんとのリベンジマッチが失敗に終わるなり文句を付けてきたアホを俺はブンブンと首を振って威嚇した。ポケットに両手を突っ込み、斜め下から抉り込むようにメンチを切る。


「も、文句って。お、お前の所為で……」


 ひるんだな。アホめ。自分が正しいって思ってるから俺に文句を付けてきたんだろうに、ちょっと脅されたからって自信を失いやがる。だからダメなんだ。

 VRMMOの特徴は脅しが利くことだ。弱さを優しさと勘違いしてお利口ちゃんぶってる内は永遠に真実には辿り着けない。


「俺の所為だ? 俺を誰だと思ってんだ! どサンピンがッ! ペタタマだぞ!? ペタタマだ!?」


 俺はアホの頬をブッ叩いた。

 心苦しいが、先生を守るためである。先生は優しすぎるから、俺がミスをすれば先生の優しさに付け込んでくるアホが必ず現れる。それを未然に防ぐためには、アホを徹底的に叩くしかない。要は見せしめだ。

 悲鳴を上げて地面に転がったアホの腹を俺は蹴り上げた。このボケが! ボケが!

 呻き声を上げるアホに、俺は心を鬼にしてペッと唾を吐き捨てた。

 猛り狂う俺を遠巻きに眺めているアホどもを、俺はぐるりと睨み付けた。


「カスどもが! 結局正しかったのは先生だったじゃねえか! テメェらは誰一人として先生に頭を下げに来なかったな! 俺が動いたから先生は処刑されなかったんだ! テメェらは何もしてねえじゃねえか! なら死んで詫びろ! そんぐらいはできるだろッ! ゴミども! 死ねッ!」


 俺は肩を怒らせて人垣に正面から突っ込んだ。気弱そうなアホに目を付けて、「どけ!」と一喝して突き飛ばす。

 俺の剣幕に気圧され誰一人として動けないようだ。しかしサトゥ氏が出てくると厄介だ。あいつは脅しに引き下がるようなタマじゃない。ここはさっさと離脱するに限る。


「見せもんじゃねえぞ! 散れぇ!」


 俺は全身で怒ってますと表現しながら人垣を掻き分けて包囲を抜けた。ついでに気弱そうなアホを何人か殴りつけておく。

 かくして俺は四面楚歌の状況を独力で打破し生還したのである。

 ああ、すっきりした。やっぱ毒は定期的に吐いておかないとな。ストレスを溜め込むのは身体に良くない。

 クランハウスに戻った俺は、上機嫌で布団に潜って寝た。すやぁ。



 1.クランハウス-居間


 その翌日の出来事である。

 撮影用の機材一式を持ち込んだネカマ六人衆がウチに押し掛けてきた。

 何なん。何なんよ。

 撮影用の機材一式は課金アイテムだ。潤沢な資金源を背景にそれらを複数持ち合わせている六人衆がいつになく俊敏な動きで生放送の準備を進めていく。

 あれよあれよという間にピンマイクを取り付けられてお化粧までされた俺は、赤カブトさんの前に放り出された。一斉にカメラがこちらを向く。

 ちょっ、待てよ。待てって。これ何の騒ぎよ? ジャムジェムさん? どうしたの、それよそ行きの服じゃんね。おめかししちゃってさ。いつもはウチの中だともっと適当なコーデじゃんよ。まぁお前はセンス悪くないから別にいいんだけどさ。


「ペタタマくん」


 あ、はい。


「お友達を騙すのは良くないと思うんです」


 えっ。あ、そういうこと? なるほどね。恒例の命乞いパートですか。

 でもさ、ちょっと待とうよ。早くない? いつもはさ、そろそろオチかなっていうタイミングがあるじゃん。俺、段々慣れてきたからさ、そういうのに敏感になって来たんだよね。こち亀で言ったら2、3ページ目で部長が怒鳴り込んで来たような違和感があるよ? 早くない? 早いよ。あと5、6ページくらい待とうよ。そしたら俺、何とか粘るからさ。5、6ページくらいなら粘れる自信あるから。ね?


 赤カブトさんが剣をすらりと抜いた。


「サトゥさんには私もお世話になりました。ペタタマくんはサトゥさんのお友達ですよね?」


 いやだなぁ。もう完全にパート入ってるじゃん。こういうパターンもあるんだ? 純粋な驚きを感じたわ。しかも何? これ生放送されてんの? 何でそういうことするの? 俺の命乞いで数字取れるの?

 いや、分かった! 分かったって。ジャム、いったん刃物置こう? いったん刃物置こう。それで俺を刺すの? 良くねえって。良くねえ。お茶の間の子供たちがさ、あのお姉ちゃん何してるの?ってなるじゃん? 【敗残兵】の生放送ってそういうレベルなのよ。聞かれた親御さんもこれには苦笑だろ。慌ててチャンネル変えるわ。そういう話。これはそういうレベルの話なんよ。

 待てって! 待てよ。分かった。剣はそのままでいい。持ってていい。俺は妥協したぞ。俺は妥協した。だからお前も俺の話を聞いてくれ。

 あのな、お前はサトゥ氏のことを甘く見てる。いや、お前に限った話じゃねえのかもな。サトゥ氏はな〜、なんていうか常識人ぶるのが上手いんだよ。いかにも人間らしい感情を持ってますよっていう演技が並外れて上手い。でも全然違うよ。世間では俺が悪者みたいに言われてるけど、むしろヤバいのはサトゥ氏の方だからね? 傷付いたふりすれば周りがちやほやしてくれるって理解してるんだよ。あいつの本性は冷徹なマシーンだから。ドローンの方がよっぽど人間らしいよ。

 ままま待て! それ以上近寄るな! ほ、本気で俺を殺すつもりか? カメラ回ってるんだぞ。お前っ、衆人環視の中でそれはマズいだろ! うおっ!?

 俺は赤カブトさんの一撃を危ういところで回避した。

 こ、こいつマジか。マジで俺を殺そうとしやがった……。

 床をゴロゴロと転がって距離を取った俺は、両手を突き出して考え直すよう口をぺらぺらと回した。

 ご、誤解なんだ! 俺はな、サトゥ氏のためを思って悪役を演じたんだよ!


「……そうなの?」


 おっ、効果あり。へへへっ……。何だよ。最初からこうすれば良かったぜ。この路線で攻めれば良かったのか。簡単なことじゃねえか。くくくっ、チョロいぜ。殺人鬼なんざしょせんは社会不適合者だ。刃物振り回して強くなった気でいるアホだぜ。お偉いさんはその間に酒飲んで綺麗なチャンネーとよろしくやってるんだぜ。アホらしくならんのかね? 刺した刺されたってよ、完全に底辺の争いじゃねえか。要は大局観の欠如なんだよな。赤カブトも同じだ。俺を殺したところでどうなるってもんでもあるまいに。

 俺は胸中でしめしめとほくそ笑みながらコクコクと頷いた。

 おうよ。あのな、言ったろ。どの道、マールマールには勝てなかったよ。戦う以前の問題だった。むしろ、あのまま続けてたら近接職と魔法職の関係は取り返しがつかないところまで行ったと思うぞ。そりゃそうだろ。いつ暴走するか分からねえやつらが紛れてるってのに、そいつらに背中を向けろって言われてるんだ。そしてな、このゲームのレイド戦のヤバいところは別にある。レイド級を撃破したところで、近接職に何か恩恵がある訳じゃねえんだ。

 そこよ。実のところ、近接職と魔法職の間にはレイド戦に対する意識のズレがある。レイド級を是が非でも倒したいのは、近接職の連中じゃない。魔法職の連中なんだ。

 この意識のズレってのは厄介だぞ。もちろん長い目で見れば魔法職の強化は必要だ。しかしな、人間ってのはどういう訳か長期的なスパンで物事を見るのが苦手だ。何でか分かるか? 分からねえだろうな。俺も先生の教えを受けなければ深く考えることはなかっただろう。簡単に言うとな、人間の脳みそってのはその場その場の問題を切り抜けるために発達したもんなんだよ。だから長期的な問題を片付ける機能が、実は最初から備わってねえんだ。しかし中にはそういうことができるヤツも居る。それは何故か。積み重ねさ。短期的な問題を一つずつ片付けることができるヤツらなんだ。そこのところを意識できるかどうかなんだよ。物理的にできねえことを無理にやろうとするから、大抵のヤツらは失敗する。人間様を買いかぶってるのさ。

 だが俺は違う。俺は考えたぜ。俺は先生みたいに賢くないからな。

 大切なのは目の前の問題をどれだけ無理なく片付けるかなんだ。要はテトリスさ。どんだけテトリス棒待ちの状態にしたってよ、肝心のテトリス棒が来なければスペースはどんどん埋まっていくんだぜ。多少不格好でも一段、二段を地道に消した方が長続きするんだ。それが長期的な物の見方ってやつさ。

 ジャムジェム。お前は考えたか? あのまま戦い続けたらどうなった? 大切なのは次にどうするかだ。あれは最初から負け戦だった。だったら負け方を考えなきゃいけねえよ。

 だから俺は目を使ったんだ。俺が最大の敗因になってやれば、他の連中はあいつさえ居なければって思うだろ。次に繋げるってのはそういうことなんだよ。無駄に傷口を広げるのは賢い遣り方じゃねえんだ。だろ?


 俺の説得に赤カブトさんは納得してくれたようだ。


「ペタさん。じゃあサトゥさんのために……?」


 そうなんだよ! 分かってくれたか!

 イケる……! かつてない手応えに俺は胸中でガッツポーズを固めた。

 赤カブトは胸の前で剣を抱いてもじもじしている。


「ペタさんって、意外と優しいよね……」


 ふっ、まぁな。

 勝利を確信した俺はすっかり調子に乗って前髪を掻き上げた。

 だが、俺が思う以上に、ウチの子たちの闇は深かったのだ。いつの間にそんなことになっていたのか、俺に知る由はなく。

 ただ、ひょこっと顔を出した劣化ティナンに、赤カブトはまったく意味の分からない提案をした。


「あ、スズキさん。……今日は、スズキさんでいいよ?」


 ん?

 何の話だろう。

 剣の柄をそっと差し出す赤カブトに、スズキは見るからに動揺して両手をパタパタと振った。


「わ、私はそういうのいいって言ったでしょ」


「でも……」


 赤カブトはちらりと俺を見た。


「私、みんなと仲良くしたいなって思ってるから。こ、公平に……」


 何の話をしてる。何だこれは。

 まったく意味が分からない。俺は、サトゥ氏を裏切った訳ではないという話をした。その筈だ。赤カブトはそれに納得した。説得は成功した。その筈なんだ。

 それなのに、赤カブトはスズキに剣を手渡そうとしていて、スズキは剣と俺を交互に見て顔を真っ赤にして俯いている。

 何だこれは。何なんだ。何が起きている。

 スズキがぼそりと呟いた。ちらりと俺を見て、


「い、痛くしないから。ね?」


 俺は逃げた。階段を駆け上がり、部屋に閉じこもる。

 ダメだ。ウチの子たちは頭がおかしい。それはとっくのとうに理解していたことではあるが、俺の知らない内に病状は悪化の一途を辿っていたのだ。

 俺は部屋の窓ガラスを叩き割ると、素早く壁に近寄って隠し扉をくるりと回した。赤カブトの巣穴に身を潜め、息を殺す。

 頭のおかしい女たちは、割れた窓を見て俺が外に逃げたと思うだろう。その間に俺は玄関から脱出する。そのプランで行こう。

 膝を抱えてガタガタと震える俺の目の前で、ゆっくりと壁が回る。くるん。


「!?」


 俺は息を呑んだ。

 隠し扉はバレていた。

 カメラ陣と赤カブトを連れて俺を追ってきたスズキは、胸の前でぎゅっと剣を握りしめ、ぽつりと呟いた。


「コタタマ……。私に殺されるの、イヤ?」


 嫌だよ!

 俺は吠えた。

 そりゃそうだろ! スズキ、何言ってるんだ? 正気に戻れよ! お前、俺の味方だっていつも言ってるじゃねえか! なのに、何だって俺を殺そうとするんだ?


「そ、そういうのとは、ちょっと違くて……」


 違くないよ! 何が違うの? 何で別腹扱いなの? 意味が分からない。まったく意味が分からない!

 淡々とカメラを回しているネカマ六人衆がコメントした。


「ご覧ください。これが人間関係の泥沼の極致です……」

「VRMMOの行き着く先は、まさしく闇。これぞ、どん底の更なる底。どん底の二枚底なりぃ……」


 うるせえ! 黙ってろ部外者が!

 スズキが思い詰めた表情で俺に迫ってくる。


 あっ、アットムー! アットム! 俺を助けてくれー! アットムー! 俺をー!

 俺は床に這いつくばっておいおいと泣いた。

 スズキがしゅんとした。


「や、やっぱり困った時はアットムなんだ……。この前も、アットムに似た女の子を連れてたし……」


 だってアットムくんは頼りになるんだよ! 俺とアットムが組めば無敵なんだ!

 お前らは俺のこと殺そうとするし! アットムくんは俺のこと殺さないもん!

 スズキはパッと笑顔になった。


「そ、そうだよね。アットムはコタタマのこと殺さないもんね。うん」


 だからそれ! それ何なの!?

 殺すことが親愛の表れみたいなさぁ! どう考えてもおかしいでしょ! おかしいのは俺ですか!? 世界ですか!? お前らでしょ! ほら見ろ、ネカマ六人衆がドン引きしてるぞ! こいつらがドン引きするって相当だぞっ!

 やめっ……!

 スズキが俺にのしかかってきた。くそがっ、ちょっと嬉しい! ちょっと嬉しいんだよっ、くそがーっ!

 俺は吠えた。ブンブンと首を振り、少しでも標的を逸らそうと試みる。

 スズキはちんちくりんだが、レベルは俺よりもずっと上だ。キャラクターの体力は見た目に左右されない。どんなにちんちくりんでもレベルが高い方がパワーがある。


「あ、暴れないで。仕方なく。仕方なくだからっ。わ、私は違うからっ。そういうのじゃないからっ」


 そういうのって何なんだよ!


「い、言えないっ。ばかっ」


 何コレ!? コレ何なの!?

 お、俺が一体何をした!? 何をどうしたら一体こうなるの!?

 アットムくん! 助けて! アットムくん!

 あっ、あっ、あっ、アッー!



 2.エッダ海岸(アットムの証言により再現)


 波打ち際を、マーマとメープルの両殿下が楽しそうに駆けている。二人ともスク水だ。

 それを優しく見守るアットムが、ハッとして振り返る。


「コタタマ……?」


 俺の悲鳴が聞こえたような気がしたのだと、アットムはのちに述懐した。

 しかしすぐに首を横に振って、ロリ姉妹に視線を戻す。

 季節は秋に移ろうとしていた。海水浴には肌寒くなってくる季節だ。

 できれば真夏に連れて来たかったが、アットムは決して自身の腕前を過大評価しない。一対一ならそう後れを取ることはないだろうが、単身で襲い掛かってくる敵など居ない。居るとすれば、それは俺くらいなものだろう。

 連想が俺に及び、アットムは苦笑した。


「大丈夫。コタタマは強い男だ」


 だが、この時。その強い男とやらは押し込まれる剣に必死に抗っていたのである……。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 一体どこへ向かっているのか。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
[良い点] 何度読んでもどうしてこうなったか理解が追いつかない
[良い点] ちょっとマジで怖くなってきた…… 人は理解不能なものに恐怖を抱くってことを真から理解した気がする
[一言] 笑い過ぎてお腹苦しい
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