98話 獣神決闘 神獣化
――――まずい!
そう思った時にはすでに手遅れだった。
ラライーナが白い光、シィナが黒い光に包まれ、異様な雰囲気が辺りを包み込む。
すぐに火剣を創生して二人の御子に向かい放ったのだが、二人の周りに発生した光が何モノも立ちいる事を許さない壁のようにして俺の攻撃が防がれた。
あきらめずに何度も火剣をだして同じ事を繰り返すが結果は同じ。
レイラもあれがまずいという事を察して、上級魔法を連射する。
しかし俺とレイラの攻撃は全く通じず、その間にも二人の御子の姿が変化していく……
――――神獣化。
二人を分析の能力で見た能力で彼女達を変化させるような能力はこれしかないはずだ。
能力には???となっていたが、おそらくガムロデがやっていた獣化と似たような……いや、それの上位互換にあたる能力だと思うんだが……
とにかくプレッシャーが半端ない。
ただそこにいるだけだというのに嫌な汗が全身を伝うわ、まるで空気が重さを持ったかのように圧力を感じる。
攻撃しても光に阻まれてこちらの攻撃が一切通らない。
これどうしろっていうんだ……
こちらが手をこまねいている間に御子二人に変化が訪れる。
ラライーナは徐々に体が大きくなり、黄色の体毛が白へと変わり、犬歯が顎下まで伸びて行く。
少女のような姿が5メートルくらいの白い虎へと姿を変わる。
禍々しさと神々しさを併せ持ったその姿は中国の神話に出てくる白虎を思わせる姿だった。
シィナも同じように変化があったがこちらは体が大きくなるような事はなく、白い体毛が黒へと変色する。
漆黒を思わせるような黒は全てを飲み込むような……絶望に色をつけるならばこんな色なのではないのかと思わせる。
二人を覆っていた白と黒の光が変化が終わったといわんばかりに消えていく。
俺達は変化中、幾度も攻撃をくわえたのだが、結局二人の変化を止める事が出来なかった。
くそ! 一番無防備な変化中に無敵状態になるとか反則だろ。
世の中そう上手く事が運ぶなんて滅多にないのはわかっているが、少しはこっちの都合に合わせて欲しいものだ。
心の中で悪態吐きながらも変化が終わった二人に対し、臨戦体勢で身構える。
御子二人から発せられる威圧感は健在だが、少しは慣れてきたのか心臓がバクバクするような事はなく、いくらか冷静でいられる。
なんか肌がピリピリするような感じはあるけど、これなら萎縮せずに戦えそうだ。
『シィちゃんは半神獣モードなんだ』
「ん、こっちの方が動きやすい」
『でも獣型のカッコいいよ~』
白虎の姿になったラライーナから発せられる声が獣と少女が同時に放しているかのように二重に聞こえる。
あの白虎から発せられてると思うと違和感が凄いな……
「イチヤ、あまりの光景に呆然とするのもわかるけど、しっかりしてくれ」
「悪い」
「……私も驚いていないといえば嘘になるけどね。それよりも今はあの二人をどう対処するかだ」
レイピアを強く握り締めたレイラが睨みつけるようにして御子二人を見ている。
レイラのいう通り、神獣化したあの二人をどうにかしないといけないんだよな……
さて、どう動くか……相手の能力がわからない状態でむやみに動くのが得策じゃないというのもわかってはいるが、先手必勝という言葉もある。
……ここは仕掛けて少しでも相手の動きを見た方が良いか。
「仕掛けるぞ」
「わかった。ただ深追いだけはしないように」
俺の言葉にレイラ頷きながらも軽い注意を加える。
もちろん深追いする気なんてさらさらない。正直あの虎の姿になったラライーナが怖くないといえば嘘になる。ダンジョンではアレ以上のサイズのモンスターとも戦ったが、モンスターだと思うと怖さもどうにか抑えられたが、なんか獣だとダメだ。猛獣だと思うからいけないんだろうか?
とりあえずあれは猛獣ではなくモンスターと考えよう……うん、少しだけ恐怖心が紛れた。
気持ちを切り替えたところでレイラに目で合図を送り――――二人の御子に向い同時に駆け出した。
俺は駆け出すと同時に火剣を放ち、同じようにしてレイラが魔法名を唱える。
「地揺れ」
初級の地魔法で、地面を揺らす魔法を使い足場が不安定な状態になったラライーナとシィナに俺の飛ばした12本の火剣が二人を襲う。
体勢を崩した二人だったが、シィナの方はラライーナを盾代わりにし、ラライーナは手で火剣を払う。
12本創った火剣が次々に払い落とされていくが、最後の1本だけ軌道をずらし地面へと突き立つと小爆発を起こした。
その衝撃によってラライーナが吹き飛ぶ。
俺の思惑は成功した……だが、それだけで終わるような二人じゃない、これで終わるようだったら神獣化される前に倒せてるからな。
アズウィールを両手で持ち火剣を精製、ラライーナが吹飛んだ方向へ切り込む。
その時レイラが叫ぶようにして俺の名前を呼ぶ。
「イチヤ!」
「え……がっ!」
それはまったく予想してない一撃だった――――いつ爆発から逃れていたのかわからなかったシィナが俺の頭上に振ってくると俺は顔面から地面に激突した。
すぐさまレイラがシィナにレイピアで攻撃したのだが、全ての攻撃を軽々と避けられ体操の選手のようにバク転しながら戻っていく。
顔面と後頭部がかなり痛い……すぐさまヒール丸薬を口に含んで飲み込んだが、顔面を打った時に砂でも入ったのか、口の中がじゃりじゃりする。
もしも追撃がきたら怖いので、すぐさま立ち上がり戦闘体勢へと移行する。
「不意打ち。卑怯」
悠然と立ちながら非難の目を向けるシィナ。
「君は不意打ちというが、これは試合であって審判も開始の合図を告げているんだ。その上で攻撃をしかけるのは卑怯とは呼べないんじゃないか? それとも私達が君たちのように雑談をしていたら何時間でも攻撃をしないで待つのかい?」
質問をするようにシィナがレイラに投げかけると、シィナは何かを考えるように空中に視線を向けたが、すぐにレイラと目を合わせ頭をさげる。
「確かにそのとおり。ごめんなさい」
ラライーナとのやり取りを見ていて傍若無人な印象を受けたけど案外素直だな。
思わず関心したが、考えてみれば今は好機なんじゃないか?
今目の前にはシィナが一人、ラライーナは小爆発で吹き飛ばされた方向から動いていないのが気がかりだが、今なら2対1だ。ここでシィナを倒してしまえば残りはラライーナ1人を2人相手取る事が出来る。能力がわからない以上出来るだけ面倒な事は避ける!
「レイラ!」
俺がレイラの名を呼びシィナへと走ると、意図を察してくれたレイラも俺の後ろをつかず離れずの距離をついてきてくれている。
あと一歩で俺の剣の間合いに入ったところで、ようやく動き出しシィナの体がぶれたかと思うと、次の瞬間には今まであった場所からシィナの姿が掻き消えた。
勢いよく走り、剣を振った瞬間に起こった出来事に自分の攻撃を中断する術を持っていない俺は大きな隙をつくってしまう。
その隙を見逃すシィナではないだろう。
いつのまにか俺の真横へと姿を現し俺のわき腹めがけてナイフを振るった。
普通なら確実に刺されて終わりだろう――――俺も一人だったら確実にやられたと思う。
しかしこの場にはもう一人、頼りになる存在がいる。
その存在が俺の思っていた通りにナイフを受け止めると、ギンッと金属音が鳴り響いた。
すぐさまナイフの軌道をずらし、巧にレイピアを振るいながら二つ目のナイフを地面へと弾く。
レイラのおかげで助かった……でも俺のわき腹付近でやり合うのはやめて欲しかった……心臓に悪すぎる。
それにしても神獣化したからもっと凶悪なくらい身体能力が向上してるかと思ったが、素早さが上がっただけのように感じる。
俺は目でおいきれてないが、レイラは対処出来てるので、俺がサポートに回った方がよさそうだな。
そう思っていたら吹き飛ばしたラライーナの方から咆哮が鳴り響いた。
ヤバイ雰囲気を感じた俺がまだ遠くにいたラライーナに体を向けアズウィールを正眼に構える。
これはシィナに二人がかりって訳にもいかないか……レイラの方が相性が良さそうだし、あっちは任せよう。
本当は二人がかりでさっさと倒した方が楽なのだが、ラライーナを放置するのはまずい気がする。
『ガアアアァァァ!』
突如としてラライーナが口を開き、咆哮と同時に飛んでくる風を圧縮させたような砲弾をふんばりながらアズウィールで受け止め、渾身の力を込めて真っ二つに切り裂く。
俺が砲弾を受け止めている間にもラライーナが迫り、すぐに俺へと肉薄した。
振るわれる巨大な前足が振るわれたので、足に力を込めて後方へと飛び退きなんとかその凶悪な攻撃から逃れる。
シィナと違いラライーナは鈍足だがあの巨体だ…おそらく力が上がっているのだろう。
でも俺の攻撃を軽々と躱すシィナよりはまだましだ。
一歩間違えば抉り殺されてしまいそうだが、今は考えない方が良いだろう……
能力としては、ラライーナが力、たぶん多少すばやくはなっているのか……シィナが図抜けているからわかり辛かったが、たぶんそうだ。後は耐久力も高そう。
シィナは間違いなく早くなっている。瞬速も使われたら俺じゃあ目で追う事も出来ない。たぶん他にも神獣化して能力は上がってるんだろうがよくわからないな。
――――でも、たぶんレイラならどうにかしてくれるだろう。
「レイラ、どうにかしてそいつを足止めしてくれ! こっちはこっちでどうにかするから!」
「足止めか……別にこいつを倒してしまっても問題ないのだろう?」
「――――」
俺は一つ頷き返すだけにした。
そうしてくれるならありがたいんだけど……それフラグだから!
レイラならもしかしたらって思うけど楽観視は出来ない。
正直これは体にかかる負荷がきついので使いたくなかったんだが仕方ない……使わずに済むならそれに越した事はなかったんだけど、相手が相手だしな。
持ってくれよ! 俺の体!
俺は短く深呼吸を繰り返すと意を決して能力を発動させる。
「限界突破!」
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