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97話 獣神決闘 拮抗

 レイラの業火インフェルノにより空へと吹き飛ばされたラライーナだったが空中で身を丸めて数回回転すると何事もなかったかのように着地する。

 正直かなりの威力がある魔法なので、これ死んだんじゃないかと思ったのだがどうやら無事のようだ。

 そのままラライーナが後方へと跳躍し、シィナのいる場所へと着地すると、自分の手に息を吹きかける。

 どうやらさっきのインフェルノの熱にやられたのだろう。



「ふー……ふー……ひどいよシィちゃん。信じてたのにぃ……」

「勝手に突っ込んでって信じるも何もない」



 恨めしげな視線を向けられているシィナはめんどくさそうにため息を一つ吐き出した。


 ラライーナはフレンドリーなのにシィナは素っ気無いな。

 雰囲気も正反対な二人が何で一緒に戦っているのか本当に不思議だ。



「イチヤ。今余計な事を考えてるね。思考を巡らせるのも時には重要だけど、今はやめといた方が良い……じゃないと負けるよ」

「悪い……」



 まるで考えている事がわかっているようなレイラの説教に軽く謝罪しておく。

 確かに今は余計な事を考えてる余裕はない。

 正直さっきのはやばかった……レイラに助けてもらってなかったら確実にやられていたな。


 それに創生魔法で作った剣じゃなく、ダンジョンで手に入れたこの黒鋼の剣――アズウィールで挑んで正解だったわ……少し重いが、もしこの剣じゃなかったら深手を負わされて、下手したら気絶してたんじゃないか。


 とりあえずレイラのおかげで仕切りなおす事が出来た。

 ヒール丸薬も即効性の効果の為、もうどこも痛くない。


 向こうもしばらく口喧嘩をしていたようだが、それも終わり、話し合いでもしたのかこちらへと視線を向けている。


 さすがにさっきのは驚いて意表を突かれたけど、もう油断しない。


 アズウィールを正眼に構え、御子二人の一挙手一投足を見逃さないように注視する事にした。

 二人の御子とは結構な距離があるが、さっき分析を見た時にあったシィナの能力の瞬速であればたぶんこの距離なら一瞬で詰められるだろう。

 わずかな時間辺りを静寂が包み込んだのだが、それも少しの間だけだった。

 動いたのは御子達の方。

 二人は同時に踏み込むと俺の予想通りシィナが一瞬にして俺の眼前へと姿を現す。

 シィナは詰めた間合いを生かし、俺へと短剣を振るってきた。

 その短剣を俺のアズウィールで受け止め、すぐさまもう片方のナイフを振るってきたので、ステップを踏んで後方へと避ける。

 だがそこで追撃の手を緩めるほど甘くはなく、こちらへ接近して二撃目三撃目を放ってきていたので、なんとかそれを捌ききった。

 ラライーナの方も俺をターゲットにしていたのだが、レイラが上手く立ち回ってくれて二人同時に相手にするという最悪の展開は回避する。

 全ての攻撃を捌ききった俺は大きく跳躍してシィナとの距離を空ける。

 数合打ち合っただけで額からはつ~っと汗の珠が一筋額から頬を伝ってきたのでそれを軽く拭った。


 あっぶねぇ~、紙一重で躱す事が出来たな。正直ギリギリだったぞ。

 それにしても……今絶対首狙って来てたよな!? あいつ絶対殺す気で来たぞ!

 これ一応殺す事は禁止ってルールなかったか?

 俺も殺す気で剣の鳴動(ソード・クエイク)剣の嘆き(ソード・スフィア)使ったから人の事は言えないけど、これ確実に死人がでるんじゃないだろうか?



「まさか初見で躱されるとは思わなかった。さすが英雄候補」



 先程から無表情のこのシィナという御子の表情に若干の驚きの色が混じる。


 実際、分析スキルがなかったら確実にやられてたんだけどな。


 しばらくレイラとラライーナも打ち合っていたようだが、剣と魔法による波状攻撃を上手く利用したレイラの攻撃に責めあぐねている様子のラライーナもシィナの元へと下がっていった。


 だがその顔は充実している人間が向ける満面の笑顔が張り付いていた。



「最初ははずれかと思ったんだけどにゃぁ。ねぇシィちゃん。そろそろ体も温まってきたし、そろそろ少しだけ本気を出す?」

「ん。その方が良さそう」



 あれで本気じゃなかったのかよ……それも少しだけ本気出すって、まだ全力を隠しているのか……これはこっちも本気を出さないと負ける。絶対に負ける。

 さっきも初手は殺す気でいったんだが、あれを防ぐって事は多少無茶しても大丈夫だろう。


 俺は手を右前に突き出すとその手を左へと移動させた。

 その移動させた先から次々と剣が精製される。

 12本の剣が精製され、それが落ちる事なく俺の前方で浮遊していた。

 創生魔法で剣を創り、風魔法で浮かせているのだ。

 後はこれに――――



火属性付与ファイア・エンチャント!」



 俺が魔法名を唱えた途端、創生魔法で創った剣にシュボッという発火音がして激しく燃え上がる。

 相変わらず凄い熱気だが……これくらいじゃないと通用しないだろう。



「レイラ、援護頼んで良いか?」

「任されたよ、たぶんおもいっきりやっちゃっても大丈夫だと思うから全力でやるといい」



 レイラに援護を頼み了承を得たので思いっきりやってやろう。

 今のところ良いところなしだしな。


 手始めに4本の剣を御子達に飛ばし、それと同時に俺達も走り出す。


 牽制する為の一撃なので当然御子二人には易々と躱されたのだがそれで良い。


 御子お二人が左右に分かれて回避したので、俺はラライーナへと肉薄する。

 アズウィールで袈裟切りに切りかかったが、寸でのところで避けられ薙刀で反撃されてしまう。

 だが、ここで残っていた8本の剣の内の3本をラライーナに打ち込むとさすがに全部は回避出来なかったようで1本は薙刀で打ち落とされたものの2本の剣がラライーナの両腕を掠める。

 顔をしかめるラライーナ。

 火を纏った剣は掠めただけでも傷と火傷でかなりの痛みが襲うだろう。

 ちょっとはまずいと思ってくれたのか、ラライーナが後方へと飛び退く。

 そこに残り5本の熱で解けかかっていた火剣を一斉に放った。


 この火属性を付与した剣なんだが、威力が高いのは熱量が半端ないから解けるせいで、時間制限あるのが難点だな。今度改善方法でも考えてみるか。


 ラライーナが着地する寸前、その一歩手前くらいの位置に2本の剣が突き刺さり小爆発が起こり土埃を巻き上げる。

 土埃の影響でよく見えなかったが、残り3本の剣はまっすぐにラライーナへと向かって飛んでいった。


 これで倒れてくれりゃあ良いんだけど、油断は出来ないな。倒せなくともしばらく動けないくらいになってくれるだけでも良いんだが。


 いつ反撃されても良いように意識だけは残し、再び銅の剣に火属性付与ファイア・エンチャントをかける。

 今度は全方位に24本精製した。


 土埃はまだ舞っていてラライーナが動く様子がなかったので、レイラの方へと目を向けると、俺の後方でレイラがシィナを相手に魔法とレイピアを併用しながら打ち合っている。

 しかし向こうはレイラの方が劣勢のようで少し押されているようだ。



 このままじゃちょっとまずいか。



「レイラ!」



 俺が叫ぶと同時に何をやろうとしているのか悟ったレイラが数合打ちあった後にシィナから大きく距離をとった。

 その瞬間を見逃さず俺は火剣の半分をシィナへと放つ。

 シィナの表情に一瞬驚愕の表情が垣間見えた次の瞬間、12本の剣がシィナの近くで次々と爆発を起こしている間にレイラがすばやくこちらへとやってくる。

 全身にいくつかの切り傷で血を滴らせているレイラが、前もって俺が渡していたヒール丸薬を飲む。

 


「助かったよイチヤ。魔法が利きにくくて難儀していたところだったんだ。……たぶん私と戦っていた方の御子は魔消石というのを持っているんだと思う」



 前もってシャティナさんに魔消石の情報を聞いていたが、ラライーナと戦っていた時にはレイラの魔法は利いていたようだからあいつは魔消石はもっていなかったみたいだ。

 てっきりシィナの方も持ってきていないと思っていたのだが……そうか……シィナの方は魔消石を持っているのか。


 でも何故ラライーナはもっていなかったんだろうか?

 ……いや、今は考えても仕方ないな。


 一応対処法もシャティナさんから教わっている。


 一つは魔消石の効力を上回る威力の魔法を放つ事。

 もう一つが武器に魔力付与エンチャントしての攻撃だ。


 エンチャントの攻撃が何故利くのか聞いたところ、魔法を直接ぶつけるわけではなく武器に魔法を内包する為魔消石の効力が発動しないとかかんとか。

 正直詳しい説明を聞いてもよくわからなかったので、とりあえずエンチャントすれば利かないと言う事だけを理解して練習して覚えさせられた。

 レイラもレイピアにエンチャントしてあるのはずだが、彼女の場合は下級魔法と剣の連携で戦うのが得意な為その下級魔法が利かなくて苦戦したのだろう。



「まだ気配を感じる……たぶんあれでも傷を負わせられたかわからない。悪いんだがイチヤ、残りの火剣をあちらにぶつけてくれ。それに合わせて私も魔法を放つ」



 おいおい……俺の火剣って結構威力があるはずなんだが、あれでも傷を負わせられたかわからないってどんだけ化物なんだよ……



「わかった」



 息を呑みそれだけをレイラに告げて残っている火剣をシィナに向かって全力で放つ。

 一応ラライーナに気をつけつつだ。

 向こうはもう砂埃が治まり小さなクレーターがいくつも組み合わさってる状態でその穴の中心からかすかではあるが気配らしきものを感じるので、ラライーナがあそこにいるのだろう。


 俺の火剣がシィナのいる方向に向かって凄い勢いで飛んでいき、地面に突き刺さると盛大に爆発した。

 先程放った火剣よりも威力が増すように、飛ばす前に魔力を込めなおしたので凄まじい威力となっている。

 その間にレイラ詠唱を始め、その詠唱がどうやら終わったようだ。



大いなる暴風(セル・ストーム)!」



 レイラが魔法名を唱えた途端、火剣によって爆発が起こっている場所に3つの竜巻が発生し、火炎嵐となって半径10メートルぐらいに巻き起こる。

 草木を巻き込みながらぎゅるぎゅると回り続ける火炎嵐。

 その熱波がかなり離れている俺のところにも肌で感じられるほどだ。


 さ……さすがにこれはまずくないか? あのシィナとかいう御子、大丈夫だろうか……?


 俺の額から一滴の汗が頬を伝う。

 思いの他容赦のない一撃に相手が心配になってくる。


 死んでないよな……?



「あはははははは! 凄い凄い凄い!」



 一人焦りを覚えている中で背後から笑い声が聞こえる。


 しまった! レイラの容赦のない攻撃にラライーナに気を配るのを忘れてた!


 慌てて振り返り剣を構える。

 ラライーナが物凄い速度でこちらへと向かってきているがまだ少し距離はあった。


 距離はあるが、火剣を準備するまでの時間はない。このまま迎え撃つしかないか。


 残り10メートルという距離まで来たラライーナを迎え撃つために俺もやつに走り寄り間合いに入ったところで剣を振る。


 しかしその剣を薙刀で軌道を逸らされラライーナに傷をつける事は出来なかった。

 追撃に備えた俺だったが、やつは俺の攻撃を防いだだけで俺の脇をすり抜けるようにしてまっすぐにレイラへと向かっていく。


 まずい! 狙いはレイラか!?

 今のレイラは上級魔法を使い隙が出来ているはずだ。そんな状態でやつの一撃をくらったらひとたまりもない。


 俺は無理やり体勢を変え踵を返した。

 だがラライーナは予想に反してレイラには目もくれず素通りすると、火炎嵐が巻き起こっている場所へと突っ込んで行く。


 あいつ何やってんだ!? まさかシィナを助ける気か!? あそこに突っ込むなんて共倒れになるぞ!


 ラライーナは火炎嵐の前までやってくると、薙刀を構え。



風破ふうは!」



 ――――勢いよく振りぬいた。


 薙刀を振りぬいた瞬間、風切り音が鳴り火炎嵐が何かにぶつかったようにして一部がひしゃげると、ボンッという音がして消滅する。

 同じようにして薙刀を振るうともう一つの火炎嵐も掻き消える。

 残り1つとなった火炎嵐を前にラライーナが石突の部分を地につけ、火炎嵐に中にいるであろう人物に向かって呼びかける。



「シィちゃん~そろそろ出てきなよ~」

「ん、わかった」



 今だ激しく渦巻く火炎嵐の中から、かすかではあるが女の声が聞こえてきた。

 その声には苦痛や苦しさといった辛そうな響きは一切ない。


 いや、俺の火剣にレイラの上級魔法との併せ技だ……さすがに無傷って事はないはずだ。

 そうは思ってもあの声を聞いてしまうと心のどこかで無事な姿を想像してしまう。



「イチヤ!」



 レイラの声でハッとなり、自分がただ立ちつくいているだけの状態だという事に気付く。


 今は向こうの動向よりも自分がするべき事だけを考えろ! 勝つ為だけに思考を巡らせ!

 幸いな事にラライーナはこちらに背を向け一見無防備な状態に見える。


 すぐさま火剣を12本創りだし、ラライーナに向かって全力で放つ。

 レイラも詠唱を終え魔法名を唱え――――ようとした瞬間。


 火炎嵐が内側から膨れ上がるように大きくなり、まるで空気を入れすぎて破裂する風船のように激しい音と共に爆散した。

 それにより俺が飛ばした火剣がこちらへと押し戻され、しだいに威力を失い地に落ち、かなりの距離があるにも関わらず、肌を刺すような熱風と爆散して飛んできた石つぶてなどが襲ってくる。


 腕で顔を覆ってなんとかやりすごそうとするが、火剣の熱量がかなりのものだったのですごく熱い……


 しばらくそうやって熱風や石つぶてに耐え、ようやく治まって来たところで御子の二人がいるであろう方を注視して俺は驚愕した。



「マジかよ……」



 思わずそんな言葉が口から漏れるが、それも仕方がない。

 なぜなら火炎嵐の中心にいたであろうシィナは多少煤けてはいたが、傷ついた様子は一切なかったのだから。

 

 シィナのいる場所を見ると、彼女を中心にしてドーナツ型のクレーターが出来ている。


 一体何をどうすればあんなクレーターが出来るんだよ……


 思わずレイラに視線を送ると彼女も驚いているようだ。



「シィちゃん! 風が熱かったんだけど! 小石が当たって痛かったんだけど!」

「……そんなところにいる方が悪い」

「ぶ~!」



 そんな俺達とは違い、最初からシィナが無事だという事がわかっていたかのように心配する素振りが一切なく、逆に自分が被害にあったと抗議の声を上げたラライーナ。


 一見すると、まるで仲の良い姉妹が喧嘩しているような光景。

 これが日常ならば微笑ましい光景だろうが、この場においては異質過ぎる。



「ねぇねぇ! シィちゃん!」

「なに?」



 ひとしきり姉妹喧嘩の真似事をしていた二人だったが、ラライーナがこちらを一瞥して興奮したようにシィナの名を呼んだ瞬間――――ゾクッと背筋に悪寒が走った。


 これは試合前にラライーナ達から感じたものと同じ……どうしてこんなに身震いするほどの寒気がするんだ……?


 あの時とは違いラライーナはにこやかな表情を浮かべている。

 確かに殺し合いに近い試合をしていて笑顔を浮かべるラライーナも異常だが、それだけでこんな風にはならない。


 まるで生存本能が警鐘をならしているかのように心臓が鼓動が激しく響く。


 そんな俺の心情などわかるはずもなくラライーナが言葉を続ける。



「戦って見た感じ、彼なら使うに値するでしょ? 久しぶりに良いかな?」

「良いと思う。私も使おうと思っていた」



 シィナの言葉を聞き、更にテンションを上げるラライーナ。

 そしてシィナがふっとこちらに顔を向けると、今まで見せた事がないようなこの場でなかったならば見蕩れてしまいそうな笑顔で――――。



「死なないでね」



 その言葉とシィナと目が合った瞬間、先程よりもひときわ大きく俺の心臓が脈動した。

読んでいただきありがとうございます。

次の更新は7日の予定となっております。


少しでも面白いと思っていただけましたらブクマ、評価、よろしくお願いします。

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