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94話 獣神決闘 第三試合後のやり取り

 第三試合が終わり、何故かアルが自分で切り落としたガムロデの部位を回収していた。


 あいつは何をしてるんだ?


 よくわからない行動をしているアルを観察していると、全ての部位を回収し終えたのかガムロデの下へ向かった時にようやくアルが何をしたいのかわかった。

 俺はその意図がわかり、たぶん呼ばれるだろう事を察したのでガムロデの下へと向かう。



「……なんやあんさんら。まだ敗者である我輩に用でもあるんか?」



 負けた事が悔しかった……というような感じではなく、どちらかといえば敗者を笑いに来たのかと言うような感じだな。

 これは下手な事をしないほうが良いんじゃないか?


 そう思い丁度ガムロデの欠損場所にそれぞれの部位を置いたアルと目が合った。



「イチヤ、悪いが頼むわ」

「はぁ……了解」



 俺は軽いため息を吐きやれやれというジェスチャーをした後にヒール丸薬を創り、ガムロデへと差し出す。



「飲め」

「なんやその丸い物体は……?」

「俺が創った薬だ。あんたがアルに切られた部位をすぐに修復してくれる。一応言っておくけど毒とかはもってないからな」

「ふんっ。そんなんなくてもこないな傷、すぐに治したるわ」



 ややぶっきら棒なガムロデの言葉に従い黙って見ていると、さっきのように胸の辺りが膨らみそれが移動している。


 だが、膨らみが切られた場所に移動して傷口の肉が少し膨らんだと思ったらぷちゅっという音がして軽く緑色の血が吹き出ただけで再生する様子は見られない。



「なんでや!? なんで再生せぇへんのや!」



 驚きながらも超再生を繰り返し行っているのだろう。

 何度もガムロデの胸の辺りが膨らんで、切られた箇所に移動しているが結果は変わらない。 


 予想どおりか……


 レベル上げの時にアルが使っていたので、ある程度は予想していたのだが、やはりガムロデの四肢は再生されない。

 アルがダンジョンで手に入れた大剣の効果だ


 封魔の大剣ギルシュエイル

 ミスリル製の大剣。

 大剣に魔力を流す事で切れ味を大幅に向上させ、MPを使う能力の効果を一時的に封印、無効化する。


 レベル上げの際にダンジョンの宝箱にあった超がつくほどのレア武器らしい。


 なぜガムロデも同じミスリル製の武器を使っていたのにいとも容易く破壊する事が出来たのか、それはミスリルの性質による。


 ミスリルというものは魔力をよく通し、通された魔力により切れ味が向上したり、硬くなったりするらしい。

 もちろん魔力を通した状態でも鉄などよりも遥かに頑丈に出来ているのだが、魔力を通した状態と比較すると全然違うそうだ。

 

 この世界の中で獣人族だけが魔力を扱う事は出来ない。


 おまけに大剣の切れ味向上という効果もありあんなにも容易くガムロデの手甲を破壊する事が出来たのだ。


 そしてこの封魔の大剣のもう一つの効果によりガムロデの再生が無効化されているようだ。


 なぜガムロデが獣人族で魔法を使っていないのにこの効果を発揮しているのかと聞かれれば、MPが関係しているんだと思う。


 本来獣人族は魔法が使えないのになんでMPがあるのか?

 たぶんそれは獣人族が魔法を使えない代わりに能力にMPを使用しているのだろう。


 そのMPを使った能力である超再生をギルシュエイルで切られた為に使用したとしても能力が発揮出来なかったと切られた時点で予想していたのだが、どうやら当たっていたようだ。


 現に今、ガムロデが必死に超再生を繰り返しているが再生される素振りが一切しない。


 まぁあの大剣の能力は一時的なものなので、しばらくすれば能力も使用出来るようになるのだが、それまで四肢がない状態なのは不便だろう。


 見ている側にとっても切られた断片が見えるのは気持ち悪いしな。



「そんな必死に治そうとしなくても素直にこれを飲めば修復してくれるんだからさっさと飲んでくれ」

「誰が人族の施しなど!」



 俺が口元までヒール丸薬をもって行くが、首を横に向け頑なに飲もうとしないガムロデ。


 これはどうしたものかと困惑していると、アルがガムロデの目の前までやってきて、彼を見下ろす。



「なぁ……」

「……なんや?」

「獣人族ってのは力こそが全て……とまでは言わねぇけど、勝者の言う事は聞くものなんだよな」

「……それがどうしたんや?」

「俺が勝者でお前が敗者」

「ぐぬっ……」



 自分の事を勝者と指差し、ガムロデを敗者と指を指すアルの行動に、奥歯をかみ締め怒鳴りつけようとしたのか口を開いたガムロデだが、さっきの試合で負けた事実もありすぐに彼の口が閉じられた。

 代わりにうなり声を上げるガムロデにアルが苦笑する。



「だから勝者である俺の言う事の一つくらい聞いても罰は当たらないだろ? 人族からの施しは信用出来ないかもしれねぇけど、悪いがイチヤが手にしている薬を飲んでくれ」

「ぐっ……本来なら絶対拒否するとこなんやけど……勝者であるあんさんに言われたら我輩も拒めんわ」



 アルの言葉に渋い顔をするガムロデだが、獣人族の矜持とでもいうのか、自分が認めた者には従うようで、素直にこちらへと顔を向け口を開く。


 正直俺とアルへの態度の違いに若干の苛立ちを覚える。


 別にそこまでしてこいつにヒール丸薬を飲んで欲しいとは思ってないんだよな。

 どうせしばらくしたらアルの大剣の効果も消えてまた能力を使えるわけだし。


 そうは思ってもアルは無言で俺の方に視線を送っている為、仕方なくガムロデの口へとヒール丸薬を放り込む。


 ガムロデがゴクっと喉をならしヒール丸薬を飲みこむ。


 すると次の瞬間にはアルによって切断された箇所同士が青白い光を放ち、切断面同士が一瞬液状化して混ざり合うと元の形へと戻り、切られた事実などなかったかのように綺麗に修復されていた。



「なんやこれ!? こんなすぐに治せる薬なんか聞いた事あらへんぞ! 上級ポーションでもこんなすぐには治らんし……まさかエリクサーか!?」



 ヒール丸薬の即効性の効果にガムロデが驚いている。


 この薬を体験した人間はみんなそういう反応するよな。


 それにしてもガムロデの口ぶりだとこの世界にもエリクサーが存在するのか、日本では寿命を延ばしたり、傷を完全回復させたり、どんな病気でも治すって設定だったからちょっと……いや、かなり興味がある。


 どうにかして手に入れられないかなぁ。


 今は無理でも帰る手段はまだ見つかってないんだし、機会があれば探してみよう。


 俺はエリクサーに思いを馳せながら踵を返し、委員長がいる場所まで戻ろうとする。



「そこのボウズ、ちょっと待ちや」



 ボウズって俺の事か?


 後ろから声をかけられたので、自分の事かと思い、振り向くとなぜかガムロデが気まずそうな顔で俺を見ている。


 さっきまで敵意むき出しだったのに一体どうしたんだ?


 不思議に思いながらもガムロデの顔を見ているとその重苦しい口がゆっくりと開けられる。



「その……なんだ……あんがとな。正直耐えられない痛みじゃないんやけど、まぁ……助かったわ」



 なんとも言いにくそうではあるが、ガムロデが俺に感謝の言葉を伝えてきた。


 まさか感謝の言葉をかけられるとはな……


 獣人族が人族を憎んでいる事は、獣人族の襲撃の際に嫌と言うほど体感した。


 そんな事があったから感謝されるなんて思ってもいなかったので、ガムロデの言葉に俺は目を丸くする。



「なんや、我輩が感謝する事がそんなにおかしいんか?」

「いや……なんていうか、正直人族を憎んでいるであろう獣人族であるあんたに感謝されるとは思わなかったんだ。気に触ったんならすまん」



 俺がそういうとガムロデがフンッ!と鼻を鳴らす。



「確かに人族はむかつく。同胞を奴隷にしたり我輩達の生活を脅かした事もあったからな」



 憎々しげに語るガムロデに俺は何も言えない。


 この世界の人間でないとは言え、俺も人族だからな。


 個人的な気持ちを語るなら獣人族が人族を憎む気持ちは仕方ないと思っている。


 だってそうだろ?


 今まで人族が獣人族にしてきた行為は決して褒められたものじゃない。


 日本には弱肉強食なんて言葉があるがそんなもんクソくらえだ!


 弱いから不幸になる? ふざけんな!


 弱い奴だって今まで必死に生きてきてんだ。


 弱いからこそ、誰よりも必死に生きようとしているんだ。


 そういった奴らから幸せを奪う権利なんて誰にもないはずだ!


 自分の過去の経験から俺はそう思う。


 そう思っているからこそ、例え関与してなくても人族としてこいつの罵詈雑言を受けようと思っている。


 だが、俺の予想していた言葉はガムロデの口から飛んでくる事はなかった。



「人族に対して我輩は憎いと思っている……けどなそれはそれや。例え人族でも薬をもらってこうして五体満足に動けてるんや。その事に種族がどうとかで感謝出来へんかったら我輩は後で自分で自分を許せなくなる。だから……あんがとな」

「ガムロデ……」

「ガムロデさんや! 我輩の方が年上なんだからちゃんとさん付けせぇや! 人族はそんな礼儀もわからんのかい!」



 急に礼儀がなってないと怒り出すガムロデだったが、どこか照れてる様子が伺えて思わず笑いそうになってしまう。


 そんな俺の態度が気に食わなかったのか再び鼻を鳴らすガムロデ。



「それとな。今はこうして普通に話してるが、次にあったら殺し合うかもしれん敵同士や! よぉ覚えとけ。そっちのあんさんもな!」



 最後に俺とアルにそんな捨て台詞を吐いたガムロデが踵を返し歩き出す。


 ――――そして少し歩いたところで急にガムロデが足を止め、再びこちらに顔を向けてきた。


 一体どうしたんだ?



「……悪いんやけど……さっきの薬もう一粒もらえんやろか……前の試合で負傷したやつにも飲ませてやりたいんや」



 ガムロデが物凄い言い辛そうに俺へとヒール丸薬を求める。


 蜥蜴人族なのであまりよくわからないのだが、これが人族なら間違いなく耳まで真っ赤にしているんだろう。


 それにしても前回の試合で負傷した奴か、たぶんリーディと戦った奴かな。

 リーディが負った怪我はかなりひどかったからそれと引き分けになった相手も相当な傷を負ったんじゃないかと思う。

 まぁ、ヒール丸薬を創るのなんてそんなに手間じゃないんですぐに創ってやるか。



「ほれ」



 創ったヒール丸薬をガムロデに投げ渡すと「……助かる」と短く答えたガムロデは今度こそその場を去っていった。


 俺もガムロデが去っていくのを見届けた後にガムロデとのやりとりに少し顔をにやつかせながら今度こそ委員長の下へと戻っていった。


 獣人将のガムロデか……なんとも締まらない奴だなぁ。

読んでいただきありがとうございます。

次の更新は26日の予定となっております。


少しでも面白いと思っていただけましたらブクマ、評価、よろしくお願いします。

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