93話 獣神決闘 アルドルVSガムロデ
すいません。10時頃を予定してたのですが少し遅れました。
「ガァァアアアアアッ!」
開始と同時にガムロデが天を突き破らんばかりの咆哮をあげると、ガムロデの茶色がかった鱗が夜の海を思わせるような黒色へと変貌していく。
俺が他にはどんな変化が起こっているの注視すると、咆哮をあげている口から舌先が見え、その舌が徐々に伸びていき、今現在20から30センチくらいまで伸びている。
なるほど、たぶんこれが獣化って能力か……
俺は今さっき使った能力『分析』で見たガムロデのステータスを思い出す。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ガムロデ・イグーナ 36歳 獣人族 男性
職業:獣人将
Lv156
HP:18213
MP:838
攻撃力:3821
防御力:9327
STR: 1515
VIT: 2204
DEX: 3673
AGI: 2588
INT: 501
能力:毒爪、爪拳術、超再生、獣化
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺の能力『分析』で確認したのがこんな感じのステータスで、更に獣化について調べるとこんな感じの説明文が出てきていたのだ。
獣化
獣人族のみの能力。種族によって様々だが、その種族の特性を生かした姿へと一時的に変化し、種族によって異なるが、能力が向上する。
一応ガムロデの能力を全部確認はしたが、身体が変化しそうな能力が獣化しかないのでたぶんこれであっているはずだ。
それにしてもこの分析――――説明文を読んだ時にはよくわからなかったんだが、レベル上げの時にアルから自分の能力を全部把握しとけって言われて使ってみたらなんのことはない、よくラノベやネット小説に出てくる鑑定と同じスキルだという事がわかった。
鑑定スキルだとわかった当初はただの「鑑定スキルかよっ!」と憤ったものだが、この鑑定というスキル、ラノベやネット小説によく出てくるだけあってバカに出来ない。
俺が戦いになれていない時の分析に対しての印象は、相手のステータスがわかったところで何の意味があるんだ? と思っていたのだが、実際に相手のステータスや能力を知る事でこちらの戦いの幅が広がるという事をレベル上げをしている最中に実感した。
なので初見の敵に関しては分析を使うようにしている。
今回のアルの相手のガムロデに対しても分析スキルを使い、その情報をアルにも伝えてあるのだが……何故かアルは獣化して一見無防備に見えるガムロデを見ているだけで大剣を構えているが、攻撃を仕掛ける素振りを見せない。
油断しているような感じではないけど、なんでアルの奴攻撃を仕掛けないんだ? 少し距離があるとはいえアルなら一気に縮める事など造作もない事だろうに。
そんな風に思っていると、ガムロデの咆哮が納まり体の変化も終わったようだ。
「あんさん……なんで我輩の獣化中仕掛けてこなかったんや……我輩を舐めてんのか?」
鋭い牙をむき出しにしながら俺と同じような感想に至ったガムロデが睨みつけるように目を細め、アルを見据える。
「別にあんたを舐めてるわけじゃねぇよ。ただ獣人将と戦う機会なんてなかったからな。どうせなら全力で戦ってみたいって思ったんだよ」
「全力で戦ってみたいやと……たかが人族が獣化した獣人族に本気で勝てるとでも思っとるんか? ……あんさんは獣化中っていう我輩が一番無防備な……あんさんが唯一勝てる勝機を逃したんや……その事をあんさんの体に叩き込んで負かしたるわ」
「そいつは楽しみだ」
平然と言い放つアルの言葉を挑発と受け取ったガムロデが歯をむき出しにして怒りの形相を浮かべる。
「ね……ねぇ鏑木君、大丈夫なの?」
「ん? 委員長、大丈夫なのって何がだ?」
委員長が不安そうに近寄って来て、そう尋ねてきたのだが、何をそんなに不安がっているのかわからなかった俺は逆に尋ね返す。
「あのガムロデって人、変身しちゃったわよ、鏑木君達が来る前の試合でも獣人族の人達がああやって変身した後に急に強くなっちゃって……それでジェルドさんは負けちゃったし、リーディさんも大怪我を負ってどうにか引き分けに持ち込んだのに、あの変身を止めなくて大丈夫なのかなって……」
「そう言われてもなぁ……俺達、ジェルドとリーディの試合見てないからそんな事知らなかったしな」
「あ……そうよ……アルドルさんは獣人族が変身する事を知らないのに……試合前にちゃんと伝える必要があったのに……ごめんなさい……私……ホント役立たずで……」
「委員長、落ち込む必要なんてないぞ。ほら、アルを見てみな」
そう言って委員長が目に涙をにじませていたので、俺は普段と変わらぬ声音で顎をしゃくってアルを見るように促すと、おずおずとした様子で委員長がアルへと視線を移し、その顔を見て目を丸くした。
委員長が驚きの表情を浮かべるのも無理はない。
何せ今獣化したガムロデと対峙しているアルは――――笑っているのだから。
まぁ、アルの本質を知らなければ驚くのも無理はないよなぁ。
俺もレベル上げをしに行った時に気付いたのだが、アルは強い敵と相対した時笑みを浮かべる。
そしてその事をアルに聞いてみたら笑っている自覚はないらしく、ただ強い敵と戦う時、気持ちが高揚すると言っていた。
あの時は『お前はどこぞの戦闘民族か!』って突っ込みをいれたくなったぜ。
さすがにこのネタがわかる人間がいなかったから言わなかったがな。
「とりあえずアルなら大丈夫だから心配すんな。もし怪我とかしてもあいつの自業自得だ」
「それはいくらなんでもひどいんじゃない……?」
俺の言い方が気に入らなかったのか、若干委員長の言葉に非難の色が混じっていたが、自分の言った言葉が間違っていると思わなかったので、謝罪の言葉は口にしなかった。
だって、なぁ……
「あいつ、俺が獣人族が変身――――獣化の能力がある事を教えたにも関わらず、ああやって獣化が終わるのを待ってたんだからこれで怪我したとしても自業自得としか言いようがないだろ」
「え!? 鏑木君、獣人族に変身能力がある事を知ってたの!?」
「知ってたというかさっき知った」
「さっき? どういう事?」
不思議そうに俺の方に顔を向ける委員長に自分の能力である分析の事を教え、その能力で獣化について知った俺がその情報をアルに伝えた事も同時に教える。
俺の話を聞いていた委員長は最初はただただ驚きの表情を浮かべていたのだが、話を聞き終える頃にはいつもの委員長の態度に戻り、分析の能力について詳しく聞きたがったので自分のわかる範囲で語って聞かせた。
そして分析について最後まで聞き終えた委員長は俺にジト目を向け「まったく……このチート野郎は……ステータスだけじゃなくそんな能力まで……」となぜか罵られた。
別に俺が故意で手に入れたわけじゃないのに……あまりにも理不尽すぎるだろ……
「俺も自分のチート性能については思うところがあるんで、委員長の言いたい事もわからんではないが――――っと、そろそろ動き出すみたいだぞ」
さっきからお互いに武器を構え隙を伺っていたアルとガムロデだったのだが、じっとしているのが苦手なのか先にガムロデが動き出し、ようやく戦闘が始まった。
ガムロデが左右に軽くステップを踏んだ瞬間、奴の体がぶれ、次の瞬間にはアルの目前まで迫る。
「えっ?」
委員長が何が起こったのかわからないような声を上げる。
一瞬でアルに肉薄したガムロデの動きを目で負いきれなかったのだろう。
他にも周りの騎士達も驚きの表情をしているので、ガムロデの動きを目で追えた人数など数えるほどしかいないはずだ。
そのガムロデが自分の武器である刃のついた手甲でアルへと攻撃を仕掛けた瞬間、みんなの目が見開かれた。
「なっ!?」
それはガムロデも例外ではなく、奴も驚きの表情を貼り付けてすぐさまアルの下から退避した。
――――失った両腕を置き去りにして。
みんなの考えている事はわかる。
一瞬の内にアルへとせまったガムロデが攻撃を仕掛けたはずなのに、どうして仕掛けられたはずのアルが無傷で、仕掛けた側のガムロデの腕が切り落とされているのか考えているのだろう。
見えなかった人間からしたら何が起こったのかわからない状態だ。
といっても見えていた俺からしたらアルは大した事はしていない。
簡単に言えばガムロデが手甲での攻撃を仕掛けた瞬間、それよりも早くアルが剣を振るい奴の腕を切り落としただけというシンプルな結果だ。
「ホント舐めてたわ……まったく隙がなくとも人族が我輩が誇る硬化した体はぶった切られられんと高をくくってつっこんだら……ハハハ、まさか両腕ともぶったぎってくるとは思わんかった」
そう言って愉快そうに両腕をなくしたガムロデが笑う。
切られた腕から緑色の血をドバドバ流しているのだが、ガムロデはまったく気にした様子が見受けられない。
正直絵面的にかなりグロテスクな状態なのだが、早くどうにかしてもらいたいものだ……
委員長も敵のはずのガムロデを心配そうに見ているしな。
そんな事を思ってるとガムロデが体に力を込めたのか、若干胸の辺りが膨らみその膨らんだ箇所が二つに分かれて徐々になくなった両腕のところに移動していく。
膨らみが両腕のところまで移動していくとジュルルルっとストローで空のコップの中身を吸い出すような音をたて、しばらくするとガムロデから噴出していた血液が止まる。
そして血液が止まったかと思うと、切られた箇所の肉がぶくぶくと膨れ上がり次第に元の形へと形成されていった。
うげぇ~……能力に超再生とかあったけど、治す時ってあんなに気持ち悪いもんなのか……正直あまり見たくないな。
隣にいる委員長もさっきまで心配そうに見ていたのに今は手を口に当て、嘔吐きそうになるのをなんとか堪えていた。
「終わったか?」
「……ホントあんさん、我輩を舐めすぎやろ。今やったら確実に我輩をやれたのに手ぇ出す素振りすら見せんで」
アルが平然とそう聞き返すと、ガムロデが侮辱されたといわんばかりに憎しみを込めた目をアルに向けながらも、再生した腕を回したりして感触を確かめている。
「別に舐めてるわけじゃないんだがな……」
「ふんっ! 言いよるやないけ……その自信はどこから出てくんねや? 実力か? それともその良く切れる愛剣か?」
「一応そこそこ戦えると自負しているが俺はそこまで自分の実力を評価してるわけじゃねぇし、この剣もちょっと前に手に入れたもんだし、愛剣と呼べるほどのもんじゃねぇ。さっきのだってこいつの力を引き出してなかったしな」
その言葉を聞いたガムロデが烈火の如く怒りで体を震わせている。
あ~あ……アル……事実とはいえもう少し言い方ってものがあるだろうに……
ほら。獣人族のガムロデさんが大変お怒りではないですか。
「もう容赦しねぇ……あんさんのその澄ました顔をでぐちゃぐちゃにしたるわ」
そう言ってガムロデが腰に提げていた銀色に光り輝く手甲をはめて拳を構える。
「これは我輩自慢のミスリル手甲や、まさか人族相手に使うとは思わんかったけどな。さっきみたいにいくと思うなや」
ふむ……ミスリルの手甲か……少し前の俺だったら異世界の希少金属だって言ってテンション上がってたんだけどな。
「さすがは獣人将と言ったとこだな。そんな希少鉱石で作った武器を所持しているとは恐れ入る……そっちも本気みたいだし、これは俺も本気でいかないと失礼にあたるか」
「なにぶつぶつい言ってんねや! 覚悟は出来てんねやろな」
「ん? あぁ、すまん。大丈夫だ」
相当アルの態度にイラだっていたであろうガムロデが青筋を浮かべているが、アルは柳に風というべき態度で接している。
そんな二人が再びお互いの武器を構え対峙する。
また睨み合いが続くかと思われたが、今度はすぐさま動きがあった。
先程はガムロデが堪えきれないとばかりに仕掛けたが、今度は反対にアルが仕掛ける。
一瞬で対峙していた場所から消えたアルを目で追いきれなかった委員長が「え? え?」とか言いながらアルのいた場所とガムロデの事を首を左右に動かしながら必死で状況を追おうとしている。
俺はアルの動きはかろうじて見えているので、委員長を一瞥した後、わかりきっている結果を見届ける事にした。
アルの姿が消え次にみんながあいつを視認する事が出来たのはガムロデの目前まで迫ったあたりだろう。
だが、ガムロデはアルの動きが見えていたのか、すぐさま右拳を振るって対応する。
「ミスリル手甲――――良い武器だとは思うが……俺の武器との相性としては最悪だ」
アルはそう言ってガムロデの拳に合わせるようにして突きを放つ。
――――大剣と手甲がぶつかり合い、激しい火花を散らすかと思われた瞬間、アルに魔力を込められた大剣によって、ガムロデの手甲がいともたやすく破壊された。
「なんやとっ!?」
驚きの表情を貼り付けたガムロデを手甲を破壊した大剣が無残にも右腕を真っ二つにする。
それだけに留まらず、アルが突き込んでいた大剣を天空へと持ち上げ、今度は左腕を叩き斬った。
再び両腕を失ったガムロデはまた下がろうとしたのだろう。
大きく跳躍し飛び下がろうとするが、アルがそれを許さない。
「ぐぁっ……」
アルが跳躍するガムロデの足を無造作に掴み、地面へと勢いよく叩きつけた。
両腕を大剣で切られても平然としていたガムロデが地面に叩きつけられて苦しそうな声を漏らす。
それで終わるかとおもいきや、今度は両足を切断される。
味方ながら容赦ねぇな……
両足を切断されたガムロデが悔しげな表情を浮かべる。
「殺せ……」
獣人将としての誇りなのか、それだけをアルに告げたガムロデにあいつの大剣が奴の顔に迫る。
――――だが、その大剣はガムロデの首筋に軽く触れるくらいの位置で地面に突き刺さった。
アルの容赦のなさに誰もがガムロデが死んだと思った事だろう。
だが、これが試合だという事はアルもわかっている為それだけに留め、審判へと視線を向ける。
「お~い、審判」
「え……あ、はい! そこまで! 勝負あり! 第三試合、ラズブリッタ王国、アルドルの勝利とする」
今まで息を呑んで試合を見ていた審判がアルに呼ばれた事により我に返るとラズブリッタの勝利を宣言する。
こうして第三試合はアルの勝利で幕をとじた。
読んでいただきありがとうございます。
次の更新は23日の予定となっております。
少しでも面白いと思っていただけましたらブクマ、評価、よろしくお願いします。




