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92話 獣神決闘 第三試合開始

「第三試合を執り行うって、確かさっき俺達の不戦敗だって審判が言ってなかったか?」



 俺と委員長がレーシャのところに向かおうとした時に、獣人族の審判に引き止められた末に審判があまりにうざかったから戦績を聞いて大丈夫だと判断した俺は不戦敗を受け入れた。


 なのになぜ第三試合を執り行うなんて話が出てくるんだ? 第三試合が不戦で終わったんだから次は最終試合じゃないのか?


 そんな風に不思議に思って報告をしてきたアルへと視線を向け、一体どうして第三試合が行われる事になったのかの経緯を尋ねる。



「実はさっきイチヤが去った後で、審判と第三試合の参加者っぽい蜥蜴人とかげびと族が第三試合が獣人族側の不戦勝になった事で揉めだしたんだ」



 そういえば去り際にそんなやりとりをしていたな。



「それでその騒動が少しずつ白熱して最終的に御子様? とかいうのが仲裁して第三試合が行われる事になった」

「おい! 端折りすぎだろ! まったく説明になってねぇよ!」

「つっても俺に説明を求めるのがそもそも間違いじゃねぇか? 俺が説明下手な事くらいお前さんなら十分わかってる事じゃねぇか」



 ……確かに、アルがこういった説明が苦手な事はこいつの特訓を受けた俺が良くわかっていた事だ。

 仕方ない。こういう事はやっぱり彼女に頼むのが一番だな。


 アルの説明じゃ要領を得なかったのでレイラに視線を移すと、彼女はやれやれと短いため息をつきながらも俺達への説明を行ってくれた。



「端折ってはいるがアルの言っている事で合っているよ。ただそうだね……詳しく話すと第三試合に出るはずだった蜥蜴人族の男が怒っていたのは獣神決闘が冒涜されたからみたいだね」

「冒涜?」

「ああ。獣人族にとって獣神決闘は神聖な決闘で、それを審判役である人間がどちらかに肩入れする事などあってはならないそうだ。その禁忌ともよべる行為を審判の獣人族はやってしまったようで、蜥蜴人族の男が殴りかかろうとしたところに御子と呼ばていた獣人族が介入。審判役の獣人族は審判役の任を降ろされ、新しい審判役を立てた後、第三試合が執り行われるという事になったんだよ」

「なるほどな。それで第三試合が行われる事になったのか」



 レイラの説明を聞き、第三試合が行われる経緯は理解できた。


 でもわざわざ獣人族にとっては不戦勝で終わった試合結果を取り消してまで試合を行うとは……獣人族は律儀と言うかなんというか……

 こっちとしてはリーディのおかげで1引き分けが一回あるわけで、例え2敗になろうと最終試合であるタッグ戦さえ勝てば2勝2敗1引き分けだ。

 獣神決勝ではこの結果でもタッグ戦での勝利が重要視される為、これで勝ちとなる。

 だから俺としては第三試合をしなくてもいいんだけど、向こうは獣神決闘を神聖なものとして扱っているからないがしろにはしたくないのだろう。



「とりあえず第三試合をやるとして、誰が出るかだな」



 正直第三試合に関してだけ言えば俺としては特に重要視してないので、誰が行っても良いと思っているけど、レベル上げに行く前にアルが玉座の間で言ったようにシャティナさんだけは別だ。

 シャティナさんに関してはこの獣神決闘に参加させるのはまずい。


 レベル上げの際にシャティナさんの実力を知ったのだが、シャティナさんが自分に施している防衛魔法はマジで危険だ。

 本気でシャティナさんを攻撃してくる相手への自動発動型の魔法生物――――ベルカ君のような鳥達なのだが、シャティナさんに危害を加えようものなら烈火の如く怒り、対象が瀕死になろうが攻撃を続ける為殺しかねない……

 獣神決闘において許されるのは重傷までなので、殺してしまった時点でこちらの負けになる為シャティナさんの出場はみんなで話し合った結果、絶対禁止という事になった。


 ホント、シャティナさんだけは敵に回したくないな……っとまぁそれはおいといて。



「アル、レイラ、どうする?」



 みんなの視線が俺に集中する中、そんな風に二人に尋ねると、すぐさま――――アルが立候補の為に手をあげた。



「俺がいくわ」

「アルがいくのか? 別にかまわないけど、理由を聞いても良いか?」



 あまりにもアルが真剣な表情をしている為、何かあるのかと理由を尋ねる。


 もしかしてさっきの蜥蜴人族の男を見て何か思うところでもあったのか?

 俺が見た感じ強そうではあるが、やばそうな感じはしなかったんだが……


 そんな風に思ってアルに理由を聞いたのだが、返ってきたのは呆れるほどにくだらない理由だった。



「さっさと終わらせたい」

「は?」

「俺はさっさと終わらせてこのくっさい臭いから解放されてぇんだよ!」



 アルが言った一言を聞いた俺は、最初何を言われているのかよくわからなかったのでもう一度聞き返すと、鼻をすんすんさせながら嫌そうな顔をする。

 自分の臭いを嗅いで嫌な顔をするアルと同じようにして俺も臭いを嗅いで見ると確かに少し異臭のようなものが鼻をついた。


 確かに少し臭いな……涎が乾いたような臭いがする。


「アル、お前、ベルカ君の口から出てきて洗浄してないのか? シャティナさんなら体を綺麗にするクリニ・ボディを使えるだろ」



 俺はそう言ってシャティナさんに目を向けると、彼女はうふふと笑うだけでアルに洗浄系の魔法をかける素振りが一切なく、俺の言葉にアルがため息を吐く。



「俺もそう思ってシャティナにクリニ・ボディを頼んだんだが「試合が終わるまではそのままで」って言われたんだよ……」

「もしかしてまだ目的地を間違えた事への罰が終わってないってのか?」

「どうやらそうらしい……」



 俺はここに来るまでにアルがベルカ君に咥えられてひどい目にあったと思ったからもう良いと思ってるんだが……ホント、シャティナさんはアルに手厳しいな。



「でもアル……そんな理由で第三試合に立候補して良いのか? 一応この決闘でラズブリッタが滅ぶかどうかが決まるんだぞ」

「んな事わかってるよ。でもな最終試合はイチヤとレイラに任せても大丈夫だって俺は思ってる」



 確信を持って言っているアルの目を見ると、その目には俺達への信頼の色が宿っている。



「しょうがねぇな……いつまでもアルが臭いままだと近寄りたくないし、最終試合は俺とレイラで頑張りますか。レイラもそれで良いか?」

「かまわないよ。正直国の命運をかけた決闘にそんな理由で試合を早めに終わらせたいっていうアルには呆れるがね……」

「うっ……」



 淡々と事実を突きつけるレイラにアルが気まずそうな表情をして顔をそらすが、先程の発言を撤回するつもりはないようだ。

 最後に俺達を信頼しているという感じで締めようとしていたアルだったがその思惑はレイラの無慈悲な言葉によって粉々に砕かれた。





獣神決闘第三試合にアルを出す事に決め、俺達は決闘の場へと到着する。

 決闘の場では既に先程審判と言い争っていた蜥蜴人族の男――――確かガムロデと言ったか――――と羊人族の男が待ち構えていた。



「遅かったやんけ、それでそっちは誰が出るか決めたんか?」

「待たせたようで悪かったな。俺はアルドル、第三試合は俺が出る事になった」

「そうか。我輩はガムロデ。少しは楽しませてくれや……それにしても……くんくん……なんやあんさん少し臭うけど、それで我輩の集中力を乱そうったってそうはいかへんぞ」

「――――」



 何かの作戦だと思ってるのか、それを看破したというように自信満々に告げるガムロデの言葉にアルががっくりと肩を落とす。


 さすがに対戦相手にまで臭いと言われるとは……哀れだなアル……

 おっと、アルに同情している場合ではなかった。



「アル」



 俺は獣神戦争に向かうアルを呼び止め駆け寄ると、アル以外には聞こえないほどの小さな声である事を伝える。



「……わかったか?」

「あぁ、大丈夫だ。それにしてもホントその”能力”便利だよな」

「自分でもそう思うわ。とりあえず伝える事は伝えたから後は頑張れ」

「おう。任せとけ!」



 元気な返事で俺の前に親指を立てニカっと笑うアルを見て、俺は獣神決闘に向かうアルを見送る。


 まぁアルなら伝えなくても大丈夫だろうけど、知っている事は多い方が良いからな。



「もうええんか? だったらさっさと始めよや。こっちは戦いたくてずっとうずうずしてんのや」

「悪ぃな。ちょっとこっちに心配性な奴が一人いて掴まってたんだ。もう焦らしたりしねぇからさっさと始めよう」



 おい馬鹿、聞こえてるぞ。誰が心配性だ。

 ……獣神決闘が終わったら覚えてろよ


 人の好意に対してのあんまりな物言いにイラッときたので、俺はこの獣神決闘が終わってからアルを懲らしめてやろうと決意した。



「え~……では第三試合から審判をさせていただきます羊人族のメータスと申します。お二方、準備はよろしいですかな? では……始め!」



 アルとガムロデが向かい合うと審判役のメータスが確認を取り、二人が頷いたのを見て開始の合図を告げた。

読んでいただきありがとうございます。次の更新は20日の予定となっております。


少しでも面白いと思っていただけましたらブクマ、評価よろしくお願いします。

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